〘468㌻〙
第1章
1 神および主イエス・キリストの僕ヤコブ、散り居る十二の族の平󠄃安を祈る。
2 わが兄弟よ、なんぢら各樣の試鍊に遭󠄃ふとき、只管これを歡喜とせよ。
3 そは汝らの信仰の驗は、忍󠄄耐を生ずるを知ればなり。
4 忍󠄄耐をして全󠄃き活動をなさしめよ。これ汝らが全󠄃くかつ備りて、缺くる所󠄃なからん爲なり。
5 汝らの中もし智慧󠄄の缺くる者あらば、咎むることなく、また惜む事なく、凡ての人に與ふる神に求むべし、然らば與へられん。
6 但し疑ふことなく、信仰をもて求むべし。疑ふ者は、風に動かされて飜へる海の波のごときなり。
7 斯る人は、主より何物をも受くと思ふな。
8 斯る人は二心にして、凡てその步むところの途󠄃定りなし。
9 卑き兄弟は、おのが高くせられたるを喜べ。
10 富める者は、おのが卑くせられたるを喜べ。そは草の花のごとく、過󠄃ぎゆくべければなり。
11 日出で熱き風吹きて草を枯らせば、花落ちてその麗しき姿ほろぶ。富める者もまた斯のごとく、その途󠄃の半󠄃にして己まづ消󠄃失せん。
468㌻
12 試鍊に耐ふる者は幸福なり、之を善しとせらるる時は、主のおのれを愛する者に約束し給ひし、生命の冠冕を受くべければなり。
13 人誘はるるとき『神われを誘ひたまふ』と言ふな、神は惡に誘はれ給はず、又󠄂みづから人を誘ひ給ふことなし。
14 人の誘はるるは己の慾に引かれて惑さるるなり。
15 慾孕みて罪を生み、罪成りて死を生む。
16 わが愛する兄弟よ、自ら欺くな。
17 凡ての善き賜物と凡ての全󠄃き賜物とは、上より、もろもろの光の父󠄃より降るなり。父󠄃は變ることなく、また回轉の影もなき者なり。
18 その造󠄃り給へる物の中にて我らを初穗のごとき者たらしめんとて、御旨のままに、眞理の言をもて我らを生み給へり。
19 わが愛する兄弟よ、汝らは之を知る。さればおのおの聽くことを速󠄃かにし、語ることを遲くし、怒ることを遲くせよ。
20 人の怒は神の義を行はざればなり。
21 然れば凡ての穢と溢󠄃るる惡とを捨て、柔和をもて其の植ゑられたる所󠄃の、靈魂を救ひ得る言を受けよ。
22 ただ御言を聞くのみにして、己を欺く者とならず、之を行ふ者となれ。
23 それ御言を聞くのみにして、之を行はぬ者は、鏡にて己が生來の顏を見る人に似たり。〘341㌻〙
24 己をうつし見て立ち去れば、直ちにその如何なる姿なりしかを忘る。
25 されど全󠄃き律法、すなはち自由の律法を懇ろに見て離れぬ者は、業を行ふ者にして、聞きて忘るる者にあらず、その行爲によりて幸福ならん。
26 人もし自ら信心ふかき者と思ひて、その舌に轡を著けず、己が心を欺かば、その信心は空󠄃しきなり。
27 父󠄃なる神の前󠄃に潔󠄄くして穢なき信心は、孤兒と寡婦󠄃とをその患難の時に見舞ひ、また自ら守りて世に汚されぬ是なり。
469㌻
第2章
1 わが兄弟よ、榮光の主なる我らの主イエス・キリストに對する信仰を保たんには、人を偏󠄃り視るな。
2 金の指輪をはめ華美なる衣を著たる人、なんぢらの會堂に入りきたり、また粗末なる衣を著たる貧󠄃しき者、いり來らんに、
3 汝等その華美なる衣を著たる人を重んじ視て『なんぢ此の善き處に坐せよ』と言ひ、また貧󠄃しき者に『なんぢ彼處に立つか、又󠄂はわが足下に坐せよ』と言はば、
4 汝らの中にて區別をなし、また惡しき思をもてる審判󠄄人となるに非ずや。[*或は「汝らの心の中に矛盾あり」と譯す。]
5 わが愛する兄弟よ、聽け、神は世の貧󠄃しき者を選󠄄びて信仰に富ませ、神を愛する者に約束し給ひし國の世嗣たらしめ給ひしに非ずや。
6 然るに汝らは貧󠄃しき者を輕んじたり、汝らを虐󠄃げ、また裁判󠄄所󠄃に曵くものは、富める者にあらずや。
7 彼らは汝らの上に稱へらるる尊󠄅き名を汚すものに非ずや。
8 汝等もし聖󠄄書にある『おのれの如く汝の隣を愛すべし』との尊󠄅き律法を全󠄃うせば、その爲すところ善し。
9 されど若し人を偏󠄃り視ば、これ罪を行ふなり。律法、なんぢらを犯罪者と定めん。
10 人、律法全󠄃體を守るとも、その一つに躓かば、是すべてを犯すなり。
11 それ『姦淫する勿れ』と宣ひし者、また『殺す勿れ』と宣給ひたれば、なんぢ姦淫せずとも、若し人を殺さば律法を破る者となるなり、
12 なんぢら自由の律法によりて審かれんとする者のごとく語り、かつ行ふべし。
13 憐憫を行はぬ者は、憐憫なき審判󠄄を受けん、憐憫は審判󠄄にむかひて勝󠄃ち誇るなり。
14 わが兄弟よ、人みづから信仰ありと言ひて、もし行爲なくば何の益かあらん、斯る信仰は彼を救ひ得んや。
470㌻
15 もし兄弟或は姉妹、裸體にて日用の食󠄃物に乏しからんとき、
16 汝等のうち或人これに『安らかにして徃け、溫かなれ、飽󠄄くことを得よ』といひて、體に無くてならぬ物を與へずば、何の益かあらん。〘342㌻〙
17 斯くのごとく信仰もし行爲なくば、死にたる者なり。
18 人もまた言はん『なんぢ信仰あり、われ行爲あり、汝の行爲なき信仰を我に示せ、我わが行爲によりて信仰を汝に示さん』と。
19 なんぢ神は唯一なりと信ずるか、かく信ずるは善し、惡鬼も亦信じて慄けり。
20 ああ虛しき人よ、なんぢ行爲なき信仰の徒然なるを知らんと欲するか。
21 我らの父󠄃アブラハムはその子イサクを祭壇に献げしとき、行爲によりて義とせられたるに非ずや。
22 なんぢ見るべし、その信仰、行爲と共にはたらき、行爲によりて全󠄃うせられたるを。
23 またアブラハム神を信じ、その信仰を義と認󠄃められたりと云へる聖󠄄書は成就し、かつ彼は神の友と稱へられたり。
24 かく人の義とせらるるは、ただ信仰のみに由らずして行爲に由ることは、汝らの見る所󠄃なり。
25 また遊󠄃女ラハブも使者を受け、これを他の途󠄃より去らせたるとき、行爲によりて義とせられたるに非ずや。
26 靈魂なき體の死にたる者なるが如く、行爲なき信仰も死にたるものなり。
第3章
1 わが兄弟よ、なんぢら多く敎師となるな。敎師たる我らの更に嚴しき審判󠄄を受くることを、汝ら知ればなり。
2 我らは皆しばしば躓く者なり、人もし言に蹉跌なくば、これ全󠄃き人にして全󠄃身に轡を著け得るなり。
3 われら馬を己に馴はせんために轡をその口に置くときは、その全󠄃身を馭し得るなり。
4 また船を見よ、その形は大く、かつ激しき風に追󠄃はるるとも、最小き舵にて舵人の欲するままに運󠄃すなり。
471㌻
5 斯のごとく舌もまた小きものなれど、その誇るところ大なり。視よ、いかに小き火の、いかに大なる林を燃すかを。
6 舌は火なり、不義の世界なり、舌は我らの肢體の中にて、全󠄃身を汚し、また地獄より燃え出でて一生の車輪を燃すものなり。
7 獸・鳥・匍ふもの・海にあるもの等、さまざまの種類みな制せらる、旣に人に制せられたり。
8 されど誰も舌を制すること能はず、舌は動きて止まぬ惡にして死の毒の滿つるものなり。
9 われら之をもて主たる父󠄃を讃め、また之をもて神に象りて造󠄃られたる人を詛ふ。
10 讃美と呪詛と同じ口より出づ。わが兄弟よ、斯る事はあるべきにあらず。
11 泉は同じ穴󠄄より甘き水と苦き水とを出さんや。
12 わが兄弟よ、無花果の樹、オリブの實を結び、葡萄の樹、無花果の實を結ぶことを得んや。斯のごとく鹽水は甘き水を出すこと能はず。
〘343㌻〙
13 汝等のうち智くして慧󠄄き者は誰なるか、その人は善き行狀により柔和なる智慧󠄄をもて行爲を顯すべし。
14 されど汝等もし心のうちに苦き妬と黨派心とを懷かば、誇るな、眞理に悖りて僞るな。
15 斯る智慧󠄄は上より下るにあらず、地に屬し、情󠄃慾に屬し、惡鬼に屬するものなり。
16 妬と黨派心とある所󠄃には亂と各樣の惡しき業とあればなり。
17 されど上よりの智慧󠄄は第一に潔󠄄よく、次に平󠄃和・寛容・溫順また憐憫と善き果とに滿ち、人を偏󠄃り視ず、虛僞なきものなり。
18 義の果は平󠄃和をおこなふ者の平󠄃和をもて播くに因るなり。
第4章
1 汝等のうちの戰爭は何處よりか、分󠄃爭は何處よりか、汝らの肢體のうちに戰ふ慾より來るにあらずや。
2 汝ら貪れども得ず、殺すことをなし、妬むことを爲れども得ること能はず、汝らは爭ひ、また戰す。汝らの得ざるは求めざるに因りてなり。
472㌻
3 汝ら求めてなほ受けざるは、慾のために費さんとて妄に求むるが故なり。
4 姦淫をおこなふ者よ、世の友となるは、神に敵するなるを知らぬか、誰にても世の友とならんと欲する者は、己を神の敵とするなり。
5 聖󠄄書に『神は我らの衷に住󠄃ませ給ひし靈を、妬むほどに慕ひたまふ』と云へるを虛しきことと汝ら思ふか。
6 神は更に大なる恩惠を賜ふ。されば言ふ『神は高ぶる者を拒ぎ、謙󠄃だる者に恩惠を與へ給ふ』と。
7 この故に汝ら神に服󠄃へ、惡魔󠄃に立ち向へ、さらば彼なんぢらを逃󠄄げ去らん。
8 神に近󠄃づけ、さらば神なんぢらに近󠄃づき給はん。罪人よ、手を淨めよ、二心の者よ、心を潔󠄄よくせよ。
9 なんぢら惱め、悲しめ、泣け、なんぢらの笑を悲歎に、なんぢらの歡喜を憂に易へよ。
10 主の前󠄃に己を卑うせよ、然らば主なんぢらを高うし給はん。
11 兄弟よ、互に謗るな。兄弟を謗る者、兄弟を審く者は、これ律法を誹り、律法を審くなり。汝もし律法を審かば、律法をおこなふ者にあらずして審判󠄄人なり。
12 立法者また審判󠄄者は唯一人にして、救ふことをも滅ぼすことをも爲し得るなり。なんぢ誰なれば隣を審くか。
13 聽け『われら今日もしくは明日それがしの町に徃きて、一年の間かしこに留り、賣買して利を得ん』と言ふ者よ、
14 汝らは明日のことを知らず、汝らの生命は何ぞ、暫く現れて遂󠄅に消󠄃ゆる霧なり。
15 汝等その言ふところに易へて『主の御意󠄃ならば、我ら活きて此のこと或は彼のことを爲さん』と言ふべきなり。〘344㌻〙
16 然れど今なんぢらは高ぶりて誇る、斯のごとき誇はみな惡しきなり。
473㌻
17 人善を行ふことを知りて、之を行はぬは罪なり。
第5章
1 聽け、富める者よ、なんぢらの上に來らんとする艱難のために泣きさけべ。
2 汝らの財は朽ち、汝らの衣は蠧み、
3 汝らの金銀は錆びたり。この錆、なんぢらに對ひて證をなし、かつ火のごとく汝らの肉を蝕はん。汝等この末の世に在りてなほ財を蓄へたり。
4 視よ、汝等がその畑を刈り入れたる勞動人に拂はざりし値は叫び、その刈りし者の呼聲は萬軍の主の耳に入れり。
5 汝らは地にて奢り、樂しみ、屠らるる日に在りて尙おのが心を飽󠄄せり。
6 汝らは正しき者を罪に定め、且これを殺せり、彼は汝らに抵抗することなし。
7 兄弟よ、主の來り給ふまで耐忍󠄄べ。視よ、農夫は地の貴き實を、前󠄃と後との雨を得るまで耐忍󠄄びて待つなり。
8 汝らも耐忍󠄄べ、なんぢらの心を堅うせよ。主の來り給ふこと近󠄃づきたればなり。
9 兄弟よ、互に怨言をいふな、恐らくは審かれん。視よ、審判󠄄主、門の前󠄃に立ちたまふ。
10 兄弟よ、主の名によりて語りし預言者たちを苦難と耐忍󠄄との模範とせよ。
11 視よ、我らは忍󠄄ぶ者を幸福なりと思ふ。なんぢらヨブの忍󠄄耐を聞けり、主の彼に成し給ひし果を見たり、即ち主は慈悲ふかく、かつ憐憫あるものなり。
12 わが兄弟よ、何事よりも先づ誓ふな、或は天、あるひは地、あるひは其の他のものを指して誓ふな。只なんぢら然りは然り否は否とせよ、罪に定めらるる事なからん爲なり。
13 汝等のうち苦しむ者あるか、その人、祈せよ。喜ぶ者あるか、その人、讃美せよ。
14 汝等のうち病める者あるか、その人、敎會の長老たちを招け。彼らは主の名により其の人に油をぬりて祈るべし。
474㌻
15 さらば信仰の祈は病める者を救はん、主かれを起󠄃し給はん、もし罪を犯しし事あらば赦されん。
16 この故に互に罪を言ひ表し、かつ癒󠄄されんために相互に祈れ、正しき人の祈ははたらきて大なる力あり。
17 エリヤは我らと同じ情󠄃をもてる人なるに、雨降らざることを切に祈りしかば、三年六个月のあひだ地に雨降らざりき。
18 斯て再び祈りたれば、天雨を降らし、地その果を生ぜり。
〘345㌻〙
19 わが兄弟よ、汝等のうち眞理より迷󠄃ふ者あらんに、誰か之を引回さば、
20 その人は知れ、罪人をその迷󠄃へる道󠄃より引回す者は、かれの靈魂を死より救ひ、多くの罪を掩ふことを。〘346㌻〙
475㌻