〘427㌻〙
第1章
1 我らの救主なる神と我らの希望󠄇なるキリスト・イエスとの命によりてキリスト・イエスとの使徒となれるパウロ、
2 書を信仰に由りて我が眞實の子たるテモテに贈る。願くは父󠄃なる神および我らの主キリスト・イエスより賜ふ恩惠と憐憫と平󠄃安と、汝に在らんことを。
3 我マケドニヤに徃きしとき汝に勸めし如く、汝なほエペソに留り、或る人々に命じて異なる敎を傳ふることなく、
4 昔話と窮りなき系圖とに心を寄する事なからしめよ。此等のことは信仰に基ける神の經綸の助とならず、反つて議論を生ずるなり。
5 命令の目的は、淸き心と善き良心と僞りなき信仰とより出づる愛にあり。
6 或る人々これらの事より外れて虛しき物語にうつり、
7 律法の敎師たらんと欲して、反つて其の言ふ所󠄃その確證する所󠄃を自ら悟らず。
8 律法は道󠄃理に循ひて之を用ひば善き者なるを我らは知る。
9 律法を用ふる者は律法の、正しき人の爲にあらずして、不法のもの、服󠄃從せぬもの、敬虔ならぬもの、罪あるもの、潔󠄄からぬもの、妄なるもの、父󠄃を《[*]》擊つもの、母を《[*]》擊つもの、人を殺す者、[*或は「殺す」と譯す。]
10 淫行のもの、男色を行ふもの、人を誘拐すもの、僞る者、いつはり誓ふ者の爲、そのほか健全󠄃なる敎に逆󠄃ふ凡ての事のために設けられたるを知るべし。
11 これは我に委ね給ひし幸福なる神の榮光の福音󠄃に循へるなり。
427㌻
12 我に能力を賜ふ我らの主キリスト・イエスに感謝す。
13 われ曩には瀆す者、迫󠄃害󠄅する者、暴行の者なりしに、我を忠實なる者として、この職に任じ給ひたればなり。われ信ぜぬ時に知らずして行ひし故に憐憫を蒙れり。
14 而して我らの主の恩惠は、キリスト・イエスに由れる信仰および愛とともに溢󠄃るるばかり彌增せり。
15 『キリスト・イエス罪人を救はん爲に世に來り給へり』とは、信ずべく正しく受くべき言なり、其の罪人の中にて我は首なり。
16 然るに我が憐憫を蒙りしは、キリスト・イエス我を首に寛容をことごとく顯し、この後、かれを信じて永遠󠄄の生命を受けんとする者の模範となし給はん爲なり。
17 願くは萬世の王、すなはち朽ちず見えざる唯一の神に、世々限りなく尊󠄅貴と榮光とあらん事を、アァメン。
18 わが子テモテよ、汝を指したる凡ての預言に循ひて我この命令を汝に委ぬ。これ汝がその預言により信仰と善き良心とを保ちて、善き戰鬪を戰はん爲なり。〘310㌻〙
19 或人よき良心を棄てて信仰の破船をなせり。
20 その中にヒメナオとアレキサンデルとあり、彼らに瀆すまじきことを學ばせんとて我これをサタンに付せり。
第2章
1 然れば、われ第一に勸む、凡ての人のため、王たち及び凡て權を有つものの爲におのおの願、祈禱、とりなし、感謝せよ。
2 是われら敬虔と謹嚴とを盡して安かに靜に一生を過󠄃さん爲なり。
3 斯くするは美事にして、我らの救主なる神の御意󠄃に適󠄄ふことなり。
4 神は凡ての人の救はれて、眞理を悟るに至らんことを欲し給ふ。
5 それ神は唯一なり、また神と人との間の中保も唯一にして、人なるキリスト・イエス是なり。
428㌻
6 彼は己を與へて凡ての人の贖價となり給へり、時至りて證せらる。
7 我これが爲に立てられて宣傳者となり、使徒となり(我は眞を言ひて虛僞を言はず)また信仰と眞とをもて異邦人を敎ふる敎師となれり。
8 これ故に、われ望󠄇む、男は怒らず《[*]》爭はず、何れの處にても潔󠄄き手をあげて祈らんことを。[*或いは「疑はず」と譯す。]
9 また女は恥を知り、愼みて宜しきに合ふ衣にて己を飾󠄃り、編みたる頭髮と金と眞珠と價貴き衣とを飾󠄃とせず、
10 善き業をもて飾󠄃とせんことを。これ神を敬はんと公言する女に適󠄄へる事なり。
11 女は凡てのこと從順にして靜に道󠄃を學ぶべし。
12 われ女の敎ふることと男の上に權を執ることとを許さず、ただ靜にすべし。
13 それアダムは前󠄃に造󠄃られ、エバは後に造󠄃られたり。
14 アダムは惑されず、女は惑されて罪に陷りたるなり。
15 然れど女もし愼みて信仰と愛と潔󠄄とに居らば、子を生むことに因りて救はるべし。
第3章
1 『人もし監督の職を慕はば、これ善き業を願ふなり』とは、信ずべき言なり。
2 それ監督は責むべき所󠄃なく、一人の妻の夫にして自ら制し、愼み、品行正しく、旅人を懇ろに待し、能く敎へ、
3 酒を嗜まず、人を打たず、寛容にし、爭はず、金を貪らず、
4 善く己が家を理め、謹嚴にして子女を從順ならしむる者たるべし。
5 (人もし己が家を理むることを知らずば、爭でか神の敎會を扱ふことを得ん)
6 また新に敎に入りし者ならざるべし、恐らくは傲慢になりて惡魔󠄃と同じ審判󠄄を受くるに至らん。〘311㌻〙
7 外の人にも令聞ある者たるべし、然らずば誹謗と惡魔󠄃の羂とに陷らん。
8 執事もまた同じく謹嚴にして、言を二つにせず、大酒せず、恥づべき利をとらず、
429㌻
9 潔󠄄き良心をもて信仰の奧義を保つものたるべし。
10 先づ彼らを試みて責むべき所󠄃なくば、執事の職に任ずべし。
11 女もまた謹嚴にして人を謗らず、自ら制して凡ての事に忠實なる者たるべし。
12 執事は一人の妻の夫にして子女と己が家とを善く理むる者たるべし。
13 善く執事の職をなす者は良き地位を得、かつキリスト・イエスに於ける信仰につきて大なる勇氣を得るなり。
14 われ速󠄃かに汝に徃かんことを望󠄇めど、今これらの事を書きおくるは、
15 若し遲からんとき人の如何に神の家に行ふべきかを汝に知らしめん爲なり。神の家は活ける神の敎會なり、眞理の柱、眞理の基なり。
16 實に大なるかな、敬虔の奧義 『キリストは肉にて顯され、 靈にて義とせられ、 御使たちに見られ、 もろもろの國人に宣傳へられ、 世に信ぜられ、 榮光のうちに上げられ給へり』
第4章
1 されど御靈あきらかに、或人の後の日に及びて、惑す靈と惡鬼の敎とに心を寄せて、信仰より離れんことを言ひ給ふ。
2 これ虛僞をいふ者の僞善に由りてなり。彼らは良心を燒金にて烙かれ、
3 婚姻するを禁じ、食󠄃を斷つことを命ず。されど食󠄃は神の造󠄃り給へる物にして、信じかつ眞理を知る者の感謝して受くべきものなり。
4 神の造󠄃り給へる物はみな善し、感謝して受くる時は棄つべき物なし。
5 そは神の言と祈とによりて潔󠄄めらるるなり。
6 汝もし此等のことを兄弟に敎へば、信仰と汝の從ひたる善き敎との言にて養󠄄はるる所󠄃のキリスト・イエスの良き役者たるべし。
430㌻
7 されど妄なる談と老いたる女の昔話とを捨てよ、また自ら敬虔を修行せよ。
8 體の修行も聊かは益あれど、敬虔は今の生命と後の生命との約束を保ちて凡の事に益あり。
9 これ信ずべく、正しく受くべき言なり。
10 我らは之がために勞し、かつ苦心す、そは我ら凡ての人、殊に信ずる者の救主なる活ける神に望󠄇を置けばなり。
11 汝これらの事を命じ、かつ敎へよ。
12 なんぢ年若きをもて人に輕んぜらるな、反つて言にも、行狀にも、愛にも、信仰にも、潔󠄄にも、信者の模範となれ。〘312㌻〙
13 わが到るまで、讀むこと勸むること敎ふる事に心を用ひよ。
14 なんぢ長老たちの按手を受け、預言によりて賜はりたる賜物を等閑にすな。
15 なんぢ心を傾けて此等のことを專ら務めよ。汝の進󠄃步の明かならん爲なり。
16 なんぢ己とおのれの敎とを愼みて此等のことに怠るな、斯くなして己と聽く者とを救ふべし。
第5章
1 老人を譴責すな、反つて之を父󠄃のごとく勸め、若き人を兄弟の如くに、
2 老いたる女を母の如くに勸め、若き女を姉妹の如くに全󠄃き貞潔󠄄をもて勸めよ。
3 寡婦󠄃のうちの眞の寡婦󠄃を敬へ。
4 されど寡婦󠄃に子もしくは孫あらば、彼ら先づ己の家に孝を行ひて親に恩を報ゆることを學ぶべし。これ神の御意󠄃にかなふ事なり。
5 眞の寡婦󠄃にして獨殘りたる者は望󠄇を神におきて、夜も晝も絕えず願と祈とを爲す。
6 されど佚樂を放恣にする寡婦󠄃は生けりと雖も死にたる者なり。
7 これらの事を命じて彼らに責むべき所󠄃なからしめよ。
8 人もし其の親族、殊に己が家族を顧󠄃みずば、信仰を棄てたる者にて不信者よりも更に惡しきなり。
431㌻
9 六十歳以下の寡婦󠄃は寡婦󠄃の籍に記すべからず、記すべきは一人の夫の妻たりし者にして、
10 善き業の聲聞あり、或は子女をそだて、或は旅人を宿し、或は聖󠄄徒の足を洗ひ、或は惱める者を助くる等、もろもろの善き業に從ひし者たるべし。
11 若き寡婦󠄃は籍に記すな、彼らキリストに背きて心亂るる時は嫁ぐことを欲し、
12 初の誓約を棄つるに因りて批難を受くべければなり。
13 彼等はまた懶惰に流れて家々を遊󠄃びめぐる、啻に懶惰なるのみならず、言多くして徒事にたづさはり、言ふまじき事を言ふ。
14 されば若き寡婦󠄃は嫁ぎて子を生み、家を理めて敵に少しにても謗るべき機を與へざらんことを我は欲す。
15 彼らの中には旣に迷󠄃ひてサタンに從ひたる者あり。
16 信者たる女もし其の家に寡婦󠄃あらば自ら之を助けて敎會を煩はすな。これ眞の寡婦󠄃を敎會の助けん爲なり。
17 善く治むる長老、殊に言と敎とをもて勞する長老を一層尊󠄅ぶべき者とせよ。
18 聖󠄄書に『穀物を碾す牛に口籠を繋くべからず』また『勞動人のその價を得るは相應しきなり』と云へばなり。
19 長老に對する訴訟は二三人の證人なくば受くべからず。
20 罪を犯せる者をば衆の前󠄃にて責めよ、これ他の人をも懼れしめんためなり。〘313㌻〙
21 われ神とキリスト・イエスと選󠄄ばれたる御使たちとの前󠄃にて嚴かに汝に命ず、何事をも偏󠄃り行はず、偏󠄃頗なく此等のことを守れ、
22 輕々しく人に手を按くな、人の罪に與るな、自ら守りて潔󠄄くせよ。
23 今よりのち水のみを飮まず、胃のため、又󠄂しばしば病に罹る故に、少しく葡萄酒を用ひよ。
24 或人の罪は明かにして先だちて審判󠄄に徃き、或人の罪は後にしたがふ。
432㌻
25 斯のごとく善き業も明かなり、然らざる者も遂󠄅には隱るること能はず。
第6章
1 おほよそ軛の下にありて奴隷たる者は、おのれの主人を全󠄃く尊󠄅ぶべき者とすべし。これ神の名と敎との譏られざらん爲なり。
2 信者たる主人を有てる者は、その兄弟なるに因りて之を輕んぜず、反つて彌增々これに事ふべし。その益を受くる主人は信者にして愛せらるる者なればなり。
汝これらの事を敎へ、かつ勸めよ。
3 もし異なる敎を傳へて健全󠄃なる言、すなはち我らの主イエス・キリストの言と敬虔にかなふ敎とを肯はぬ者あらば、
4 その人は傲慢にして何をも知らず、ただ議論と言爭とにのみ耽るなり、之によりて嫉妬・爭鬪・誹謗・惡しき念おこり、
5 また心腐りて眞理をはなれ、敬虔を利益の道󠄃とおもふ者の爭論おこるなり。
6 然れど足ることを知りて敬虔を守る者は、大なる利益を得るなり。
7 我らは何をも携へて世に來らず、また何をも携へて世を去ること能はざればなり。
8 ただ衣食󠄃あらば足れりとせん。
9 然れど富まんと欲する者は、誘惑と羂また人を滅亡と沈淪とに溺す愚にして害󠄅ある各樣の慾に陷るなり。
10 それ金を愛するは諸般の惡しき事の根なり、或る人々これを慕ひて信仰より迷󠄃ひ、さまざまの痛をもて自ら己を刺しとほせり。
11 神の人よ、なんぢは此等のことを避󠄃けて、義と敬虔と信仰と愛と忍󠄄耐と柔和とを追󠄃求め、
12 信仰の善き戰鬪をたたかへ、永遠󠄄の生命をとらへよ。汝これが爲に召を蒙り、また多くの證人の前󠄃にて善き言明をなせり。
13 われ凡ての物を生かしたまふ神のまへ、及びポンテオ・ピラトに向ひて善き言明をなし給ひしキリスト・イエスの前󠄃にて汝に命ず。
433㌻
14 汝われらの主イエス・キリストの現れたまふ時まで、汚點なく、責むべき所󠄃なく、誡命を守れ。
15 時いたらば幸福なる唯一の君主、もろもろの王の王、もろもろの主の主、これを顯し給はん。
16 主は唯ひとり不死を保ち、近󠄃づきがたき光に住󠄃み、人の未だ見ず、また見ること能はぬ者なり、願くは尊󠄅貴と限りなき權力と彼にあらんことを、アァメン。
〘314㌻〙
17 汝この世の富める者に命ぜよ。高ぶりたる思をもたず、定めなき富を恃ずして、唯われらを樂ませんとて萬の物を豐に賜ふ神に依賴み、
18 善をおこなひ、善き業に富み、惜みなく施し、分󠄃け與ふることを喜び、
19 斯て己のために善き基を蓄へ、未來の備をなして眞の生命を捉ふることを爲よと。
20 テモテよ、なんぢ委ねられたる事を守り、妄なる虛しき物語また僞りて知識と稱ふる反對論を避󠄃けよ。
21 或る人々この知識を裝ひて信仰より外れたり。
願はくは御惠、なんぢと偕に在らんことを。〘315㌻〙
434㌻