〘391㌻〙
第1章
1 神の御意󠄃によりてキリスト・イエスの使徒となれるパウロ、書をエペソに居る聖󠄄徒、キリストに在りて忠實なる者に贈る。
2 願くは我らの父󠄃なる神および主イエス・キリストより賜ふ恩惠と平󠄃安と汝らに在らんことを。
3 讃むべきかな、我らの主イエス・キリストの父󠄃なる神、かれはキリストに由りて靈のもろもろの祝福をもて天の處にて我らを祝し、
4 御前󠄃にて潔󠄄く《[*]》瑕なからしめん爲に、世の創の前󠄃より我等をキリストの中に選󠄄び、[*或は四の「潔󠄄く」の下を「瑕なく愛にをらしめん爲に」と譯し、五なる「愛をもて」を除く。]
5 御意󠄃のままにイエス・キリストに由り愛をもて己が子となさんことを定め給へり。
6 是その愛しみ給ふ者によりて我らに賜ひたる恩惠の榮光に譽あらん爲なり。
7 我らは彼にありて恩惠の富に隨ひ、その血に賴りて贖罪、すなはち罪の赦を得たり。
8 神は我らに諸般の知慧󠄄と聰明とを與へてその恩惠を充しめ、
9 御意󠄃の奧義を御意󠄃のままに示し給へり。
10 即ち時滿ちて經綸にしたがひ、天に在るもの、地にあるものを悉とくキリストに在りて一つに歸せしめ給ふ。これ自ら定め給ひし所󠄃なり。
11 我らは凡ての事を御意󠄃の思慮のままに行ひたまふ者の御旨によりて預じめ定められ、キリストに在りて神の產業と爲られたり。
12 これ夙くよりキリストに希望󠄇を置きし我らが神の榮光の譽とならん爲なり。
13 汝等もキリストに在りて、眞の言、すなはち汝らの救の福音󠄃をきき、彼を信じて約束の聖󠄄靈にて印せられたり。
391㌻
14 これは我らが受くべき嗣業の保證にして、神に屬けるものの贖はれ、かつ神の榮光に譽あらん爲なり。
15 この故に我も汝らが主イエスに對する信仰と凡ての聖󠄄徒に對する愛とを聞きて、
16 絕えず汝らのために感謝し、わが祈のうちに汝らを憶え、
17 我らの主イエス・キリストの神、榮光の父󠄃、なんぢらに智慧󠄄と默示との靈を與へて、神を知らしめ、
18 汝らの心の眼を明かにし、神の召にかかはる望󠄇と聖󠄄徒にある神の嗣業の榮光の富と、
19 神の大能の勢威の活動によりて信ずる我らに對する能力の極めて大なるとを知らしめ給はんことを願ふ。
20 神はその大能をキリストのうちに働かせて、之を死人の中より甦へらせ、天の所󠄃にて己の右に坐せしめ、
21 もろもろの政治・權威・能力・支配、また啻に此の世のみならず、來らんとする世にも稱ふる凡ての名の上に置き、〘284㌻〙
22 萬の物をその足の下に服󠄃はせ、彼を萬の物の上に首として敎會に與へ給へり。
23 この敎會は彼の體にして《[*]》萬の物をもて萬の物に滿し給ふ者の滿つる所󠄃なり。[*或は「萬の物に在りて萬の物に滿ち給ふ者」と譯す。]
第2章
1 汝ら前󠄃には咎と罪とによりて死にたる者にして、
2 この世の習慣に從ひ、空󠄃中の權を執る宰、すなはち不從順の子らの中に今なほ働く靈の宰にしたがひて步めり。
3 我等もみな前󠄃には彼らの中にをり、肉の慾に從ひて日をおくり肉と心との欲する隨をなし、他の者のごとく生れながら怒の子なりき。
4 されど神は憐憫に富み給ふが故に我らを愛する大なる愛をもて、
392㌻
5 咎によりて死にたる我等をすらキリスト・イエスに由りてキリストと共に活かし(汝らの救はれしは恩惠によれり)
6 共に甦へらせ、共に天の處に坐せしめ給へり。
7 これキリスト・イエスに由りて我らに施したまふ仁慈をもて、其の恩惠の極めて大なる富を、來らんとする後の世々に顯さんとてなり。
8 汝らは恩惠により、信仰によりて救はれたり、是おのれに由るにあらず、神の賜物なり。
9 行爲に由るにあらず、これ誇る者のなからん爲なり。
10 我らは神に造󠄃られたる者にして、神の預じめ備へ給ひし善き業に步むべく、キリスト・イエスの中に造󠄃られたるなり。
11 されば記憶せよ、肉によりては異邦人にして、手にて肉に行ひたるかの割󠄅禮ありと稱ふる者に無割󠄅禮と稱へらるる汝ら、
12 曩にはキリストなく、イスラエルの民籍に遠󠄄く、約束に屬する諸般の契󠄅約に與りなく、世に在りて希望󠄇なく、神なき者なりき。
13 されど前󠄃に遠󠄄かりし汝ら今キリスト・イエスに在りて、キリストの血によりて近󠄃づくことを得たり。
14 -15 彼は我らの平󠄃和にして己が肉により、樣々の誡命の規より成る律法を廢して二つのものを一つとなし、怨なる隔の中籬を毀ち給へり。これは二つのものを己に於て一つの新しき人に造󠄃りて平󠄃和をなし、
16 十字架によりて怨を滅し、また之によりて二つのものを一つの體となして神と和がしめん爲なり。
17 かつ來りて、遠󠄄かりし汝等にも平󠄃和を宣べ、近󠄃きものにも平󠄃和を宣べ給へり。
18 そはキリストによりて我ら二つのもの一つ御靈にありて父󠄃に近󠄃づくことを得たればなり。
19 然れば汝等はもはや、旅人また寄寓人にあらず、聖󠄄徒と同じ國人また神の家族なり。〘285㌻〙
393㌻
20 汝らは使徒と預言者との基の上に建てられたる者にして、キリスト・イエス自らその隅の首石たり。
21 おのおのの建造󠄃物、かれに在りて建て合せられ、彌增に聖󠄄なる宮、主のうちに成るなり。
22 汝等もキリストに在りて共に建てられ、御靈によりて神の御住󠄃となるなり。
第3章
1 この故に汝ら異邦人のためにキリスト・イエスの囚人となれる我パウロ――
2 汝等のために我に賜ひたる神の恩惠の經綸は汝ら聞きしならん、
3 即ち我まへに簡單に書きおくりし如く、この奧義は默示にて我に示されたり。
4 汝等これを讀みてキリストの奧義にかかはる我が悟を知ることを得べし。
5 この奧義は今御靈によりて聖󠄄使徒と聖󠄄預言者とに顯されし如くに、前󠄃代には人の子らに示されざりき。
6 即ち異邦人が福音󠄃によりキリスト・イエスに在りて共に世嗣となり、共に一體となり、共に約束に與る者となる事なり。
7 我はその福音󠄃の役者とせらる。これ神の能力の活動に隨ひて我に賜ふ惠の賜物によるなり。
8 我は凡ての聖󠄄徒のうちの最小き者よりも小き者なるに、キリストの測るべからざる富を異邦人に傳へ、
9 また萬物を造󠄃り給ひし神のうちに世々隱れたる奧義の經綸の如何なるもの乎をあらはす恩惠を賜はりたり。
10 いま敎會によりて神の豐なる知慧󠄄を天の處にある政治と權威とに知らしめん爲なり。
11 これは永遠󠄄より我らの主キリスト・イエスの中に、神の定め給ひし御旨によるなり。
12 我らは彼に在りて彼を信ずる信仰により、臆せず疑はずして神に近󠄃づくことを得るなり。
13 されば汝らに請󠄃ふ、わが汝等のために受くる患難に就きて落膽すな、是なんぢらの譽なり。
394㌻
14 -15 この故に我は天と地とに在る《[*]》諸族の名の起󠄃るところの父󠄃に跪づきて願ふ。[*或は「全󠄃家」と譯す。]
16 父󠄃その榮光の富にしたがひて、御靈により力をもて汝らの內なる人を强くし、
17 信仰によりてキリストを汝らの心に住󠄃はせ、汝らをして愛に根ざし、愛を基とし、
18 凡ての聖󠄄徒とともにキリストの愛の廣さ・長さ・高さ・深さの如何許なるかを悟り、
19 その測り知る可からざる愛を知ることを得しめ、凡て神に滿てる者を汝らに滿しめ給はん事を。
20 願くは我らの中にはたらく能力に隨ひて、我らの凡て求むる所󠄃、すべて思ふ所󠄃よりも甚く勝󠄃る事をなし得る者に、
21 榮光世々限りなく敎會によりて、又󠄂キリスト・イエスによりて在らんことを、アァメン。〘286㌻〙
第4章
1 されば主に在りて囚人たる我なんぢらに勸む。汝ら召されたる召に適󠄄ひて步み、
2 事每に謙󠄃遜と柔和と寛容とを用ひ、愛をもて互に忍󠄄び、
3 平󠄃和の繋のうちに勉めて御靈の賜ふ一致を守れ。
4 體は一つ、御靈は一つなり。汝らが召にかかはる一つ望󠄇をもて召されたるが如し。
5 主は一つ、信仰は一つ、バプテスマは一つ、
6 凡ての者の父󠄃なる神は一つなり。神は凡てのものの上に在し、凡てのものを貫き、凡てのものの內に在したまふ。
7 我等はキリストの賜物の量に隨ひて、おのおの恩惠を賜はりたり。
8 されば云へることあり 『かれ高き處に昇りしとき、多くの虜をひきゐ、人々に賜物を賜へり』と。
9 旣に昇りしと云へば、まづ地の低き處まで降りしにあらずや。
10 降りし者は即ち萬の物に滿たん爲に、もろもろの天の上に昇りし者なり。
11 彼は或人を使徒とし、或人を預言者とし、或人を傳道󠄃者とし、或人を牧師・敎師として與へ給へり。
12 これ聖󠄄徒を全󠄃うして職を行はせ、キリストの體を建て、
395㌻
13 我等をしてみな信仰と神の子を知る知識とに一致せしめ、全󠄃き人、すなはちキリストの滿足れるほどに至らせ、
14 また我等はもはや幼童ならず、人の欺騙と誘惑の術たる惡巧とより起󠄃る樣々の敎の風に吹きまはされず、
15 ただ愛をもて眞を保ち、育ちて凡てのこと、首なるキリストに達󠄃せん爲なり。
16 彼を本とし全󠄃身は凡ての節󠄄々の助にて整ひ、かつ聯り、肢體おのおの量に應じて働くにより、その體成長し、自ら愛によりて建てらるるなり。
17 されば我これを言ひ、主に在りて證す、なんぢら今よりのち異邦人のその心の虛無に任せて步むが如く步むな。
18 彼らは念暗󠄃くなりて其の內なる無知により、心の頑固によりて神の生命に遠󠄄ざかり、
19 恥を知らず、放縱に凡ての汚穢を行はんとて己を好色に付せり。
20 されど汝らは斯の如くならん爲にキリストを學べるにあらず。
21 汝らは彼に聞き、彼に在りてイエスにある眞理に循ひて敎へられしならん。
22 即ち汝ら誘惑の慾のために亡ぶべき前󠄃の動作に屬ける舊き人を脫󠄁ぎすて、
23 心の靈を新にし、
24 眞理より出づる義と聖󠄄とにて、神に象り造󠄃られたる新しき人を著るべきことなり。
〘287㌻〙
25 されば虛僞をすてて各自その隣に實をかたれ、我ら互に肢なればなり。
26 汝ら怒るとも罪を犯すな、憤恚を日の入るまで續くな。
27 惡魔󠄃に機會を得さすな。
28 盜する者は今よりのち盜すな、寧ろ貧󠄃しき者に分󠄃け與へ得るために手づから働きて善き業をなせ。
396㌻
29 惡しき言を一切なんぢらの口より出すな、ただ時に隨ひて人の德を建つべき善き言を出して聽く者に益を得させよ。
30 神の聖󠄄靈を憂ひしむな、汝らは贖罪の日のために聖󠄄靈にて印せられたるなり。
31 凡ての苦・憤恚・怒・喧噪・誹謗、および凡ての惡意󠄃を汝等より棄てよ。
32 互に仁慈と憐憫とあれ、キリストに在りて神の汝らを赦し給ひしごとく汝らも互に赦せ。
第5章
1 されば汝ら愛せらるる子供のごとく、神に效ふ者となれ。
2 又󠄂キリストの汝らを愛し、我らのために己を馨しき香の献物とし犧牲として、神に献げ給ひし如く愛の中をあゆめ。
3 聖󠄄徒たるに適󠄄ふごとく、淫行、もろもろの汚穢、また慳貪を汝らの間にて稱ふる事だに爲な。
4 また恥づべき言・愚なる話・戯言を言ふな、これ宜しからぬ事なり、寧ろ感謝せよ。
5 凡て淫行のもの、汚れたるもの、貪るもの、即ち偶像を拜む者等のキリストと神との國の世嗣たることを得ざるは、汝らの確く知る所󠄃なり。
6 汝ら人の虛しき言に欺かるな、神の怒はこれらの事によりて不從順の子らに及ぶなり。
7 この故に彼らに與する者となるな。
8 汝ら舊は闇なりしが、今は主に在りて光となれり、光の子供のごとく步め。
9 (光の結ぶ實はもろもろの善と正義と誠實となり)
10 主の喜び給ふところの如何なるかを辨へ知れ。
11 實を結ばぬ暗󠄃き業に與する事なく反つて之を責めよ。
12 彼らが隱れて行ふことは之を言ふだに恥づべき事なり。
13 凡て斯る事は責めらるるとき、光にて顯さる、顯さるる者はみな光となるなり。
14 この故に言ひ給ふ 『眠れる者よ、起󠄃きよ、死人の中より立ち上れ。 然らばキリスト汝を照し給はん』
397㌻
15 されば愼みてその步むところに心せよ、智からぬ者の如くせず、智き者の如くし、
16 また機會をうかがへ、そは時惡しければなり。
17 この故に愚とならず、主の御意󠄃の如何を悟れ。
18 酒に醉ふな、放蕩はその中にあり、寧ろ御靈にて滿され、
19 詩と讃美と靈の歌とをもて語り合ひ、また主に向ひて心より且うたひ、かつ讃美せよ。〘288㌻〙
20 凡ての事に就きて常に我らの主イエス・キリストの名によりて父󠄃なる神に感謝し、
21 キリストを畏みて互に服󠄃へ。
22 妻たる者よ、主に服󠄃ふごとく己の夫に服󠄃へ。
23 キリストは自ら體の救主にして敎會の首なるごとく、夫は妻の首なればなり。
24 敎會のキリストに服󠄃ふごとく、妻も凡てのこと夫に服󠄃へ。
25 夫たる者よ、キリストの敎會を愛し、之がために己を捨て給ひしごとく汝らも妻を愛せよ。
26 キリストの己を捨て給ひしは、水の洗をもて言によりて敎會を潔󠄄め、これを聖󠄄なる者として、
27 汚點なく皺なく、凡て斯のごとき類なく、潔󠄄き瑕なき尊󠄅き敎會を、おのれの前󠄃に建てん爲なり。
28 斯のごとく夫はその妻を己の體のごとく愛すべし。妻を愛するは己を愛するなり。
29 己の身を憎む者は曾てあることなし、皆これを育て養󠄄ふ、キリストの敎會に於けるも亦かくの如し。
30 我らは彼の體の肢なり、
31 『この故に人は父󠄃母を離れ、その妻に合ひて二人のもの一體となるべし』
32 この奧義は大なり、わが言ふ所󠄃はキリストと敎會とを指せるなり。
33 汝等おのおの己のごとく其の妻を愛せよ、妻も亦その夫を敬ふべし。
398㌻
第6章
1 子たる者よ、なんぢら主にありて兩親に順へ、これ正しき事なり。
2 『なんぢの父󠄃母を敬へ(これ約束を加へたる誡命の首なり)
3 さらばなんぢ幸福を得、また地の上に壽長からん』
4 父󠄃たる者よ、汝らの子供を怒らすな、ただ主の薫陶と訓戒とをもて育てよ。
5 僕たる者よ、キリストに從ふごとく畏れをののき、眞心をもて肉につける主人に從へ。
6 人を喜ばする者の如く、ただ目の前󠄃の事のみを勤めず、キリストの僕のごとく心より神の御旨をおこなひ、
7 人に事ふる如くせず、主に事ふるごとく快くつかへよ。
8 そは奴隷にもあれ、自主にもあれ、各自おこなふ善き業によりて主より其の報を受くることを汝ら知ればなり。
9 主人たる者よ、汝らも僕に對し斯く行ひて威嚇を止めよ、そは彼らと汝らとの主は天に在して偏󠄃り視たまふことなきを汝ら知ればなり。
10 終󠄃に言はん、汝ら主にありて其の大能の勢威に賴りて强かれ。
11 惡魔󠄃の術に向ひて立ち得んために、神の武具󠄄をもて鎧ふべし。
12 我らは血肉と戰ふにあらず、政治・權威、この世の暗󠄃黑を掌どるもの、天の處にある惡の靈と戰ふなり。
13 この故に神の武具󠄄を執れ、汝ら惡しき日に遭󠄃ひて仇に立ちむかひ、凡ての事を成就して立ち得んためなり。〘289㌻〙
14 汝ら立つに誠を帶として腰に結び、正義を胸當として胸に當て、
15 平󠄃和の福音󠄃の備を靴として足に穿け。
16 この他なほ信仰の盾を執れ、之をもて惡しき者の凡ての火矢を消󠄃すことを得ん。
17 また救の冑および御靈の劍、すなはち神の言を執れ。
399㌻
18 常にさまざまの祈と願とをなし、御靈によりて祈り、また目を覺して凡ての聖󠄄徒のためにも願ひて倦まざれ。
19 又󠄂わが口を開くとき、言を賜はり、憚らずして福音󠄃の奧義を示し、
20 語るべき所󠄃を憚らず語り得るように、我がためにも祈れ、我はこの福音󠄃のために使者となりて鎖に繋がれたり。
21 愛する兄弟、主に在りて忠實なる役者テキコ、我が情󠄃况、わが爲す所󠄃のことを具󠄄に汝らに知らせん。
22 われ彼を遣󠄃すは、我が事を汝らに知らせて、汝らの心を慰めしめん爲なり。
23 願くは父󠄃なる神および主イエス・キリストより賜ふ平󠄃安と信仰に伴󠄃へる愛と、兄弟たちに在らんことを。
24 願くは朽ちぬ愛をもて我らの主イエス・キリストを愛する凡ての者に御惠あらんことを。〘290㌻〙
400㌻