〘361㌻〙
第1章
1 神の御意󠄃によりてイエス・キリストの使徒となれるパウロ及び兄弟テモテ、書をコリントに在る神の敎會ならびにアカヤ全󠄃國に在る凡ての聖󠄄徒に贈る。
2 願くは我らの父󠄃なる神および主イエス・キリストより賜ふ恩惠と平󠄃安と汝らに在らんことを。
3 讃むべき哉、われらの主イエス・キリストの父󠄃なる神、即ちもろもろの慈悲の父󠄃、一切の慰安の神、
4 われらを凡ての患難のうちに慰め、我等をして自ら神に慰めらるる慰安をもて、諸般の患難に居る者を慰むることを得しめ給ふ。
5 そはキリストの苦難われらに溢󠄃るる如く、我らの慰安も亦キリストによりて溢󠄃るればなり。
6 我ら或は患難を受くるも汝らの慰安と救とのため、或は慰安を受くるも汝らの慰安の爲にして、その慰安は汝らの中に働きて我らが受くる如き苦難を忍󠄄ぶことを得しむるなり。
7 斯て汝らが苦難に與るごとく、また慰安にも與ることを知れば、汝らに對する我らの望󠄇は堅し。
8 兄弟よ、我らがアジヤにて遭󠄃ひし患難を汝らの知らざるを好まず、即ち壓せらるること甚だしく力耐へがたくして生くる望󠄇を失ひ、
9 心のうちに死を期するに至れり。これ己を賴まずして、死人を甦へらせ給ふ神を賴まん爲なり。
10 神は斯る死より我らを救ひ給へり、また救ひ給はん。我らは後もなほ救ひ給はんことを望󠄇みて神を賴み、
11 汝らも我らの爲に祈をもて助く。これ多くの人の願望󠄇によりて賜はる恩惠を多くの人の感謝するに至らん爲なり。
361㌻
12 われら世に在りて殊に汝らに對し、神の淸淨と眞實とをもて、また肉の智慧󠄄によらず、神の恩惠によりて行ひし事は我らの良心の證する所󠄃にして、我らの誇なり。
13 我らの書き贈ることは、汝らの讀むところ知る所󠄃の他ならず。
14 而して我は汝等のうち或者の旣に知れる如く、我らの主イエスの日に我らが汝らの誇、なんぢらが我らの誇たるを終󠄃まで知らんことを望󠄇む。
15 この確信をもて先づ汝らに到り、再び益を得させ、
16 斯て汝らを經てマケドニアに徃き、マケドニアより更に復なんぢらに到り、而して汝らに送󠄃られてユダヤに徃かんことを定めたり。
17 斯く定めたるは浮きたる事ならんや。わが定むるところ肉によりて定め、然り然り、否々と言ふが如きこと有らんや。〘262㌻〙
18 神は眞實にて在せば、我らが汝らに對する言も、然りまた否と言ふが如きにあらず。
19 我ら即ちパウロ、シルワノ、テモテが汝らの中に傳へたる神の子キリスト・イエスは、然りまた否と言ふが如き者にあらず、然りと言ふことは彼によりて成りたるなり。
20 神の約束は多くありとも、然りと言ふことは彼によりて成りたれば、彼によりてアァメンあり、我ら神に榮光を歸するに至る。
21 汝らと共に我らをキリストに堅くし、且われらに膏を注ぎ給ひし者は神なり。
22 神はまた我らに印し、保證として御靈を我らの心に賜へり。
23 我わが靈魂を賭けて神の證を求む、我がコリントに徃くことの遲きは、汝らを寛うせん爲なり。
24 されど我らは汝らの信仰を掌どる者にあらず、汝らの喜悅を助くる者なり、汝らは信仰によりて立てばなり。
362㌻
第2章
1 われ再び憂をもて汝らに到らじと自ら定めたり。
2 我もし汝らを憂ひしめば、我が憂ひしむる者のほかに誰か我を喜ばせんや。
3 われ前󠄃に此の事を書き贈りしは、我が到らんとき我を喜ばすべきもの、反つて我を憂ひしむる事のなからん爲にして、汝らは皆わが喜悅を喜悅とするを信ずるに因りてなり。
4 われ大なる患難と心の悲哀とにより、多くの淚をもて汝らに書き贈れり。これ汝らを憂ひしめんとにあらず、我が汝らに對する愛の溢󠄃るるばかりなるを知らしめん爲なり。
5 もし憂ひしむる人あらば我を憂ひしむるにあらず、幾許か汝ら衆を憂ひしむるなり。(幾許かと云へるは、われ激しく責むるを好まぬ故なり)
6 斯る人の多數の者より受けたる懲罰は足れり。
7 されば汝ら寧ろ彼を恕し、かつ慰めよ、恐らくは其の人、甚だしき愁に沈まん。
8 この故に我なんぢらの愛を彼に顯さんことを勸む。
9 前󠄃に書き贈りしは、凡ての事につきて汝らが從順なりや否やをも試み知らん爲なり。
10 なんぢら何事にても人を恕さば我も亦これを恕さん、われ恕したる事あらば、汝らの爲にキリストの前󠄃に恕したるなり。
11 これサタンに欺かれざらん爲なり、我等はその詭謀を知らざるにあらず。
12 我キリストの福音󠄃の爲にトロアスに到り、主われに門を開き給ひたれど、
13 我が兄弟テトスに逢はぬによりて心に平󠄃安をえず、彼處の者に別を吿げてマケドニヤに徃けり。
14 感謝すべきかな、神は何時にてもキリストにより、我らを執へて凱旋し、何處にても我等によりて、キリストを知る知識の馨をあらはし給ふ。〘263㌻〙
15 救はるる者にも亡ぶる者にも、我らは神に對してキリストの香ばしき馨なり。
363㌻
16 この人には死よりいづる馨となりて死に至らしめ、かの人には生命より出づる馨となりて生命に至らしむ。誰か此の任に耐へんや。
17 我らは多くの人のごとく神の言を曲げず、眞實により神による者のごとく、神の前󠄃にキリストに在りて語るなり。
第3章
1 我等ふたたび己を薦め始めんや、また或人のごとく人の推薦の書を汝らに齎し、また汝等より受くることを要󠄃せんや。
2 汝らは即ち我らの書にして我らの心に錄され、又󠄂すべての人に知られ、かつ讀まるるなり。
3 汝らは明かに我らの職によりて書かれたるキリストの書なり。而も墨にあらで活ける神の御靈にて錄され、石碑にあらで心の肉碑に錄されたるなり。
4 我らはキリストにより、神に對して斯る確信あり。
5 されど己は何事をも自ら定むるに足らず、定むるに足るは神によるなり。
6 神は我らを新約の役者となるに足らしめ給へり、儀文の役者にあらず、靈の役者なり。そは儀文は殺し、靈は活せばなり。
7 石に彫り書されたる死の法の職にも光榮ありて、イスラエルの子等はその頓て消󠄃ゆべきモーセの顏の光榮を見つめ得ざりし程ならんには、
8 况て靈の職は光榮なからんや。
9 罪を定むる職もし光榮あらんには、况て義とする職は光榮に溢󠄃れざらんや。
10 もと光榮ありし者も更に勝󠄃れる光榮に比ぶれば、光榮なき者となれり。
11 もし消󠄃ゆべき者に光榮ありしならんには、况て永存ふるものに光榮なからんや。
12 我らは斯のごとき希望󠄇を有つゆゑに更に臆せずして言ひ、
13 又󠄂モーセの如くせざるなり。彼は消󠄃ゆべき者の消󠄃えゆくをイスラエルの子らに見せぬために面帕を顏におほひたり。
364㌻
14 然れど彼らの心鈍くなれり。キリストによりて面帕の廢るべきを悟らねば、今日に至るまで舊約を讀む時その面帕なほ存れり。
15 今日に至るまでモーセの書を讀むとき、面帕は彼らの心のうへに置かれたり。
16 然れど主に歸する時、その面帕は取り除かるべし。
17 主は即ち御靈なり、主の御靈のある所󠄃には自由あり。
18 我等はみな面帕なくして鏡に映るごとく、主の榮光を見、榮光より榮光にすすみ、主たる御靈によりて主と同じ像に化するなり。〘264㌻〙
第4章
1 この故に我ら憐憫を蒙りて此の職を受けたれば、落膽せず、
2 恥づべき隱れたる事をすて、惡巧に步まず、神の言をみださず、眞理を顯して神の前󠄃に己を凡ての人の良心に薦むるなり。
3 もし我らの福音󠄃おほはれ居らば、亡ぶる者に覆はれをるなり。
4 この世の神は此等の不信者の心を暗󠄃まして神の像なるキリストの榮光の福音󠄃の光を照さざらしめたり。
5 我らは己の事を宣べず、ただキリスト・イエスの主たる事と我らがイエスのために汝らの僕たる事とを宣ぶ。
6 光、暗󠄃より照り出でよと宣ひし神は、イエス・キリストの顏にある神の榮光を知る知識を輝かしめんために我らの心を照し給へるなり。
7 我等この寶を土の器に有てり、これ優れて大なる能力の我等より出でずして神より出づることの顯れんためなり。
8 われら四方より患難を受くれども窮せず、爲ん方つくれども希望󠄇を失はず、
9 責めらるれども棄てられず、倒さるれども亡びず、
10 常にイエスの死を我らの身に負󠄅ふ。これイエスの生命の我らの身にあらはれん爲なり。
365㌻
11 それ我ら生ける者の常にイエスのため死に付さるるは、イエスの生命の我らの死ぬべき肉體にあらはれん爲なり。
12 さらば死は我等のうちに働き、生命は汝等のうちに働くなり。
13 錄して『われ信ずるによりて語れり』とあるごとく、我等にも同じ信仰の靈あり、信ずるに因りて語るなり。
14 これ主イエスを甦へらせ給ひし者の我等をもイエスと共に甦へらせ、汝らと共に立たしめ給ふことを我ら知ればなり。
15 凡ての事は汝らの益なり。これ多くの人によりて御惠の增し加はり、感謝いや增りて神の榮光の顯れん爲なり。
16 この故に我らは落膽せず、我らが外なる人は壞るれども、內なる人は日々に新なり。
17 それ我らが受くる暫くの輕き患難は極めて大なる永遠󠄄の重き光榮を得しむるなり。
18 我らの顧󠄃みる所󠄃は見ゆる者にあらで見えぬ者なればなり。見ゆる者は暫時にして、見えぬ者は永遠󠄄に至るなり。
第5章
1 我らは知る、我らの幕屋なる地上の家壞るれば、神の賜ふ建造󠄃物、すなはち天にある、手にて造󠄃らぬ、永遠󠄄の家あることを。
2 我等はその幕屋にありて歎き、天より賜ふ住󠄃所󠄃をこの上に著んことを切に望󠄇む。
3 之を著るときは裸にてある事なからん。〘265㌻〙
4 我等この幕屋にありて重荷を負󠄅へる如くに歎く、之を脫󠄁がんとにあらで此の上に著んことを欲すればなり。これ死ぬべき者の生命に呑まれん爲なり。
5 我らを此の事に適󠄄ふものとなし、その證として御靈を賜ひし者は神なり。
6 この故に我らは常に心强し、かつ身に居るうちは主より離れ居るを知る、
7 見ゆる所󠄃によらず、信仰によりて步めばなり。
8 斯く心强し、願ふところは寧ろ身を離れて主と偕に居らんことなり。
9 然れば身に居るも身を離るるも、ただ御心に適󠄄はんことを力む。
10 我等はみな必ずキリストの審判󠄄の座の前󠄃にあらはれ、善にもあれ惡にもあれ、各人その身になしたる事に隨ひて報を受くべければなり。
366㌻
11 斯く主の畏るべきを知るによりて人々に説き勸む。われら旣に神に知られたり、亦なんぢらの良心にも知られたりと思ふ。
12 我等は再び己を汝らに薦むるにあらず、ただ我等をもて誇とする機を汝らに與へ、心によらず外貌によりて誇る人々に答ふることを得させんと爲るなり。
13 我等もし心狂へるならば、神の爲なり、心慥ならば、汝らの爲なり。
14 キリストの愛われらに迫󠄃れり。我ら思ふに、一人すべての人に代りて死にたれば、凡ての人すでに死にたるなり。
15 その凡ての人に代りて死に給ひしは、生ける人の最早おのれの爲に生きず、己に代り死にて甦へり給ひし者のために生きん爲なり。
16 されば今より後われ肉によりて人を知るまじ、曾て肉によりてキリストを知りしが、今より後は斯の如くに知ることをせじ。
17 人もしキリストに在らば新に造󠄃られたる者なり、古きは旣に過󠄃ぎ去り、視よ新しくなりたり。
18 これらの事はみな神より出づ、神はキリストによりて我らを己と和がしめ、かつ和がしむる職を我らに授け給へり。
19 即ち神はキリストに在りて世を己と和がしめ、その罪を之に負󠄅はせず、かつ和がしむる言を我らに委ね給へり。
20 されば我等はキリストの使者たり、恰も神の我等によりて汝らを勸め給ふがごとし。我等キリストに代りて願ふ、なんぢら神と和げ。
21 神は罪を知り給はざりし者を我らの代に罪となし給へり、これ我らが彼に在りて神の義となるを得んためなり。
367㌻
第6章
1 我らは神とともに働く者なれば、神の恩惠を汝らが徒らに受けざらんことを更に勸む。
2 (神いひ給ふ 『われ惠の時に汝に聽き、 救の日に汝を助けたり』と。視よ、今は惠のとき、視よ今は救の日なり)〘266㌻〙
3 我等この職の謗られぬ爲に何事にも人を躓かせず。
4 反つて凡ての事において神の役者のごとく己をあらはす、即ち患難にも、窮乏にも、苦難にも、
5 打たるるにも、獄に入るにも、騷擾にも、勞動にも、眠らぬにも、斷食󠄃にも、大なる忍󠄄耐を用ひ、
6 また廉潔󠄄と知識と寛容と仁慈と聖󠄄靈と虛僞なき愛と、
7 眞の言と神の能力と左右に持ちたる義の武器とにより、
8 また光榮と恥辱と惡名と美名とによりて表す。我らは人を惑す者の如くなれども眞、
9 人に知られぬ者の如くなれども人に知られ、死なんとする者の如くなれども、視よ、生ける者、懲さるる者の如くなれども殺されず、
10 憂ふる者の如くなれども常に喜び、貧󠄃しき者の如くなれども多くの人を富ませ、何も有たぬ者の如くなれども凡ての物を有てり。
11 コリント人よ、我らの口は汝らに向ひて開け、我らの心は廣くなれり。
12 汝らの狹くせらるるは、我らに因るにあらず、反つて己が心に因るなり。
13 汝らも心を廣くして我に報をせよ。(我わが子に對する如く言ふなり)
14 不信者と軛を同じうすな、釣合はぬなり、義と不義と何の干與かあらん、光と暗󠄃と何の交際かあらん。
15 キリストとベリアルと何の調和かあらん、信者と不信者と何の關係かあらん。
16 神の宮と偶像と何の一致かあらん、我らは活ける神の宮なり、即ち神の言ひ給ひしが如し。曰く 『われ彼らの中に住󠄃み、また步まん。 我かれらの神となり、 彼等わが民とならん』と。
368㌻
17 この故に 『主いひ給ふ、 「汝等かれらの中より出で、之を離れ、 穢れたる者に觸るなかれ」と。 さらば我なんぢらを受け、
18 われ汝らの父󠄃となり、 汝等わが息子・娘とならんと、全󠄃能の主いひ給ふ』とあるなり。
第7章
1 されば愛する者よ、我ら斯る約束を得たれば、肉と靈との汚穢より全󠄃く己を潔󠄄め、神を畏れてその淸潔󠄄を成就すべし。
〘267㌻〙
2 我らを受け容れよ、われら誰にも不義をなしし事なく、誰をも害󠄅ひし事なく、誰をも掠めし事なし。
3 わが斯く言ふは、汝らを咎めんとにあらず、そは我が旣に言へる如く、汝らは我らの心にありて共に死に、共に生くればなり。
4 我なんぢらを信ずること大なり、また汝等をもて誇とすること大なり、我は慰安にみち、凡ての患難の中にも喜悅あふるるなり。
5 マケドニヤに到りしとき、我らの身はなほ聊かも平󠄃安を得ずして樣々の患難に遭󠄃ひ、外には分󠄃爭、內には恐懼ありき。
6 然れど哀なる者を慰むる神は、テトスの來るによりて我らを慰め給へり。
7 唯その來るに因りてのみならず、彼が汝らによりて得たる慰安をもて慰め給へり。即ち汝らの我を慕ふこと、歎くこと、我に對して熱心なることを我らに吿ぐるによりて我ますます喜べり。
8 われ書をもて汝らを憂ひしめたれども悔いず、その書の汝らを暫く憂ひしめしを見て、前󠄃には悔いたれども今は喜ぶ。
9 わが喜ぶは汝らの憂ひしが故にあらず、憂ひて悔改に至りし故なり。汝らは神に從ひて憂ひたれば、我等より聊かも損を受けざりき。
369㌻
10 それ神にしたがふ憂は、悔なきの救を得るの悔改を生じ、世の憂は死を生ず。
11 視よ、汝らが神に從ひて憂ひしことは、如何許の奮勵・辯明・憤激・恐懼・愛慕・熱心・罪を責むる心などを汝らの中に生じたりしかを。汝等かの事に就きては全󠄃く潔󠄄きことを表せり。
12 されば前󠄃に書を汝らに書き贈りしも、不義をなしたる人の爲にあらず、また不義を受けたる人の爲にあらず、我らに對する汝らの奮勵の、神の前󠄃にて汝らに顯れん爲なり。
13 この故に我らは慰安を得たり。慰安を得たる上にテトスの喜悅によりて更に喜べり。そは彼の心なんぢら一同によりて安んぜられたればなり。
14 われ曩に彼の前󠄃に汝らに就きて誇りたれど恥づることなし、我らが汝らに語りし事のみな誠實なりし如く、テトスの前󠄃に誇りし事もまた誠實となれり。
15 彼は汝等みな從順にして畏れ戰き、己を迎󠄃へしことを思ひ出して、心を汝らに寄すること增々深し。
16 われ凡ての事に汝らに就きて心强きを喜ぶ。
第8章
1 兄弟よ、我らマケドニヤの諸敎會に賜ひたる神の恩惠を汝らに知らす。
2 即ち患難の大なる試練のうちに彼らの喜悅あふれ、又󠄂その甚だしき貧󠄃窮は吝みなく施す富の溢󠄃るるに至れり。〘268㌻〙
3 -4 われ證す、彼らは聖󠄄徒に事ふることに與る惠を切に我らに請󠄃ひ求め、みづから進󠄃みて力に應じ、否これに過󠄃ぎて施濟をなせり。
5 我らの望󠄇のほかに先づ己を主にささげ、神の御意󠄃によりて我らにも身を委ねたり。
6 されば我らはテトスが前󠄃に此の慈惠のことを汝らの中に始めたれば、又󠄂これを成就せんことを勸めたり。
7 汝等もろもろの事、すなはち信仰に、言に、知識に、凡ての奮勵に、また我らに對する愛に富めるごとく、此の慈惠にも富むべし。
8 われ斯く言ふは汝らに命ずるにあらず、ただ他の人の奮勵によりて、汝らの愛の眞實を試みん爲なり。
370㌻
9 汝らは我らの主イエス・キリストの恩惠を知る。即ち富める者にて在したれど、汝等のために貧󠄃しき者となり給へり。これ汝らが彼の貧󠄃窮によりて富める者とならん爲なり。
10 施濟のことに就きて我ただ意󠄃見を述󠄃ぶ、これは汝らの益なり。汝らは此の事をただに一年前󠄃より人に先だちて行ひしのみならず、又󠄂これを願い始めし事なれば、
11 今これを成し遂󠄅げよ、汝らが心より願ひしごとく、所󠄃有に應じて成遂󠄅げよ。
12 人もし志望󠄇あらば其の有たぬ所󠄃に由るにあらず、其の有つ所󠄃に由りて嘉納󠄃せらるるなり。
13 これ他の人を安くして汝らを苦しめんとにあらず、均しくせんと爲るなり。
14 即ち今なんぢらの餘るところは彼らの足らざるを補ひ、後また彼らの餘る所󠄃は汝らの足らざるを補ひて均しくなるに至らんためなり。
15 錄して『多く集めし者にも餘る所󠄃なく、少く集めし者にも足らざる所󠄃なかりき』とあるが如し。
16 汝らに對する同じ熱心をテトスの心にも賜へる神に感謝す。
17 彼はただに勸を容れしのみならず、甚だ熱心にして、自ら進󠄃んで汝らに徃くなり。
18 我等また彼とともに一人の兄弟を遣󠄃す。この人は福音󠄃をもて諸敎會のうちに譽を得たる上に、
19 主の榮光と我らの志望󠄇とを顯さんがために掌どれる此の慈惠に就きて諸敎會より我らの道󠄃伴󠄃として選󠄄ばれたる者なり。
20 彼を遣󠄃すは此の大なる醵金を掌どるに人に咎めらるる事を避󠄃けんためなり。
21 そは主の前󠄃のみならず、人の前󠄃にも善からんことを慮ぱかりてなり。
22 また一人の兄弟を彼らと共につかはす、我らは多くの事につきて屡次かれの熱心なるを認󠄃めたり。而して今は彼が汝らを深く信ずるに因りて、その熱心の更に加はるを認󠄃む。
371㌻
23 テトスのことを言へば我が友なり、汝らに對して我が同勞者なり。この兄弟たちの事をいへば彼らは諸敎會の使なり、キリストの榮光なり。〘269㌻〙
24 されば汝らの愛と我らが汝らに就きて誇れる事との證を諸敎會の前󠄃にて彼らに顯せ。
第9章
1 聖󠄄徒に施すことに就きては汝らに書きおくるに及ばず、
2 我なんぢらの志望󠄇あるを知ればなり。その志望󠄇につき汝らの事をマケドニヤ人に誇りて、アカヤは旣に一年前󠄃に準備をなせりと云へり。斯て汝らの熱心は多くの人を勵ましたり。
3 然れど、われ兄弟たちを遣󠄃すは、我が言ひしごとく汝らに準備をなさしめ、之につきて我らの誇りし事の空󠄃しくならざらん爲なり。
4 もしマケドニヤ人、われと共に來りて汝らの準備なきを見ば、汝らは言ふに及ばず、我らも確信せしによりて恐らくは恥を受けん。
5 この故に兄弟たちを勸めて、先づ汝らに徃かしめ、曩に汝らが約束したる慈惠を吝むが如くせずして、惠む心より爲んために預じめ調へしむるは、必要󠄃のことと思へり。
6 それ少く播く者は少く刈り、多く播く者は多く刈るべし。
7 おのおの吝むことなく、强ひてすることなく、その心に定めし如くせよ。神は喜びて與ふる人を愛し給へばなり。
8 神は汝等をして常に凡ての物に足らざることなく、凡ての善き業に溢󠄃れしめんために、凡ての恩惠を溢󠄃るるばかり與ふることを得給ふなり。
9 錄して 『彼は散して貧󠄃しき者に與へたり。 その正義は永遠󠄄に存らん』とある如し。
10 播く人に種と食󠄃するパンとを與ふる者は、汝らにも種をあたへ、且これを殖し、また汝らの義の果を增し給ふべし。
11 汝らは一切に富みて吝みなく施すことを得、かくて我らの事により人々、神に感謝するに至るなり。
372㌻
12 此の施濟の務は、ただに聖󠄄徒の窮乏を補ふのみならず、充ち溢󠄃れて神に對する感謝を多からしむ。
13 即ち彼らは此の務を證據として、汝らがキリストの福音󠄃に對する言明に順ふことと、彼らにも凡ての人にも吝みなく施すこととに就きて、神に榮光を歸し、
14 かつ神の汝らに給ひし優れたる恩惠により、汝らを慕ひて汝等のために祈らん。
15 言ひ盡しがたき神の賜物につきて感謝す。
第10章
1 汝らに對し面前󠄃にては謙󠄃だり、離れゐては勇ましき我パウロ、自らキリストの柔和と寛容とをもて汝らに勸む。
2 我らを肉に從ひて步むごとく思ふ者あれば、斯る者に對しては雄々しく爲んと思へど、願ふ所󠄃は我が汝らに逢ふとき斯く勇ましく爲ざらん事なり。〘270㌻〙
3 我らは肉にありて步めども、肉に從ひて戰はず。
4 それ我らの戰爭の武器は肉に屬するにあらず、神の前󠄃には城砦を破るほどの能力あり、我等はもろもろの論説を破り、
5 神の示敎に逆󠄃ひて建てたる凡ての櫓を毀ち、凡ての念を虜にしてキリストに服󠄃はしむ。
6 且なんぢらの從順の全󠄃くならん時、すべての不從順を罰せんと覺悟せり。
7 汝らは外貌のみを見る、若し人みづからキリストに屬する者と信ぜば、己がキリストに屬する如く、我らも亦キリストに屬する者なることを更に考ふべし。
8 假令われ汝らを破る爲ならずして建つる爲に、主が我らに賜ひたる權威につきて誇ること稍過󠄃ぐとも恥とはならじ。
9 われ書をもて汝らを嚇すと思はざれ。
10 彼らは言ふ『その書は重く、かつ强し、その逢ふときの容貌は弱󠄃く、言は鄙し』と。
373㌻
11 斯のごとき人は思ふべし。我らが離れをる時おくる書の言のごとく、逢ふときの行爲も亦然るを。
12 我らは己を譽むる人と敢て竝び、また較ぶる事をせず、彼らは己によりて己を度り、己をもて己に較ぶれば智なき者なり。
13 我らは範圍を踰えて誇らず。神の我らに分󠄃ち賜ひたる範圍にしたがひて誇らん。その範圍は汝らに及べり。
14 汝らに及ばぬ者のごとく範圍を踰えて身を延すに非ず、キリストの福音󠄃を傳へて汝らにまで到れるなり。
15 我らは己が範圍を踰えて他の人の勞を誇らず、唯なんぢらの信仰の彌增すにより我らの範圍に循ひて汝らのうちに更に大ならんことを望󠄇む。
16 これ他の人の範圍に旣に備りたるものを誇らず、汝らを踰えて外の處に福音󠄃を宣傳へん爲なり。
17 誇る者は主によりて誇るべし。
18 そは是とせらるるは己を譽むる者にあらず、主の譽め給ふ者なればなり。
第11章
1 願くは汝等わが少しの愚を忍󠄄ばんことを。《[*]》請󠄃ふ我を忍󠄄べ。[*或は「もとより汝らは我を忍󠄄ぶなり」と譯す。]
2 われ神の熱心をもて汝らを慕ふ、われ汝らを潔󠄄き處女として一人の夫なるキリストに獻げんとて、之に許嫁したればなり。
3 されど我が恐るるは、蛇の惡巧によりてエバの惑されし如く、汝らの心害󠄅はれてキリストに對する眞心と貞操とを失はん事なり。
4 もし人きたりて我らの未だ宣べざる他のイエスを宣ぶる時、また汝らが未だ受けざる他の靈を受け、未だ受け容れざる他の福音󠄃を受くるときは汝ら能く之を忍󠄄ばん。
5 我は何事にも、かの大使徒たちに劣らずと思ふ。〘271㌻〙
6 われ言に拙けれども知識には然らず、凡ての事にて全󠄃く之を汝らに顯せり。
7 われ汝らを高うせんために自己を卑うし、價なくして神の福音󠄃を傳へたるは罪なりや。
374㌻
8 我は他の敎會より奪ひ取り、その俸給をもて汝らに事へたり。
9 又󠄂なんぢらの中に在りて乏しかりしとき、誰をも煩はさず、マケドニヤより來りし兄弟たち我が窮乏を補へり。斯く凡ての事に汝らを煩はすまじと愼みたるが、此の後もなほ愼まん。
10 我に在るキリストの誠實によりて言ふ、我この誇をアカヤの地方にて阻まるる事あらじ。
11 これ何故ぞ、汝らを愛せぬに因るか、神は知りたまふ。
12 我わが行ふ所󠄃をなほ行はん、これ機會をうかがふ者の機會を斷ち、彼等をしてその誇る所󠄃につき我らの如くならしめん爲なり。
13 斯の如きは僞使徒また詭計の勞動人にして、己をキリストの使徒に扮へる者どもなり。
14 これ珍しき事にあらず、サタンも己を光の御使に扮へば、
15 その役者らが義の役者のごとく扮ふは大事にはあらず、彼等の終󠄃局はその業に適󠄄ふべし。
16 われ復いはん、誰も我を愚と思ふな。もし然おもふとも、少しく誇る機を我にも得させん爲に愚なる者として受容れよ。
17 今いふ所󠄃は主によりて言ふにあらず、愚なる者として大膽に誇りて言ふなり
18 多くの人、肉によりて誇れば我も誇るべし。
19 汝らは智き者なれば喜びて愚なる者を忍󠄄ぶなり。
20 人もし汝らを奴隷とすとも、食󠄃ひ盡すとも、掠めとるとも、驕るとも、顏を打つとも、汝らは之を忍󠄄ぶ。
21 われ恥ぢて言ふ、我らは弱󠄃き者の如くなりき。されど人の雄々しき所󠄃は我もまた雄々し、われ愚にも斯く言ふなり。
22 彼らヘブル人なるか、我も然り、彼らイスラエル人なるか、我も然り、彼らアブラハムの裔なるか、我も然り。
23 彼らキリストの役者なるか、われ狂へる如く言ふ、我はなほ勝󠄃れり。わが勞は更におほく、獄に入れられしこと更に多く、鞭うたれしこと更に夥だしく、死に瀕みたりしこと屡次なりき。
375㌻
24 ユダヤ人より四十に一つ足らぬ鞭を受けしこと五度、
25 笞にて打たれしこと三たび、石にて打たれしこと一たび、破船に遭󠄃ひしこと三度にして一晝夜、海にありき。
26 しばしば旅行して河の難、盜賊の難、同族の難、異邦人の難、市中の難、荒野の難、海上の難、僞兄弟の難にあひ、
27 勞し、苦しみ、しばしば眠らず、飢󠄄ゑ渇き、しばしば斷食󠄃し、凍え、裸なりき。〘272㌻〙
28 ここに擧げざる事もあるに、なほ日々われに迫󠄃る諸敎會の心勞あり。
29 誰か弱󠄃りて我弱󠄃らざらんや、誰か躓きて我燃えざらんや。
30 もし誇るべくは、我が弱󠄃き所󠄃につきて誇らん。
31 永遠󠄄に讃むべき者、すなはち主イエスの神また父󠄃は、我が僞らざるを知り給ふ。
32 ダマスコにてアレタ王の下にある總督われを捕へんとてダマスコ人の町を守りたれば、
33 我は籠にて窓より石垣傳ひに縋り下されて其の手を脫󠄁れたり。
第12章
1 わが誇るは益なしと雖も止むを得ざるなり、茲に主の顯示と默示とに及ばん。
2 我はキリストにある一人の人を知る。この人、十四年前󠄃に第三の天にまで取り去られたり(肉體にてか、われ知らず、肉體を離れてか、われ知らず、神しり給ふ)
3 われ斯のごとき人を知る(肉體にてか、肉體の外にてか、われ知らず、神しり給ふ)
4 かれパラダイスに取去られて言ひ得ざる言、人の語るまじき言を聞けり。
5 われ斯のごとき人のために誇らん、然れど我が爲には弱󠄃き事のほか誇るまじ。
6 もし自ら誇るとも我が言ふところ誠實なれば、愚なる者とならじ。然れど之を罷めん。恐らくは人の我を見、われに聞くところに過󠄃ぎて我を思ふことあらん。
376㌻
7 我は我が蒙りたる默示の鴻大なるによりて高ぶることの莫らんために肉體に一つの刺を與へらる、即ち高ぶること莫らん爲に我を擊つサタンの使なり。
8 われ之がために三度まで之を去らしめ給はんことを主に求めたるに、
9 言ひたまふ『わが恩惠なんぢに足れり、わが能力は弱󠄃きうちに全󠄃うせらるればなり』然ればキリストの能力の我を庇はんために、寧ろ大に喜びて我が微弱󠄃を誇らん。
10 この故に我はキリストの爲に微弱󠄃・恥辱・艱難・迫󠄃害󠄅・苦難に遭󠄃ふことを喜ぶ、そは我よわき時に强ければなり。
11 われ汝らに强ひられて愚になれり、我は汝らに譽めらるべかりしなり。我は數ふるに足らぬ者なれども、何事にもかの大使徒たちに劣らざりしなり。
12 我は徴と不思議と能力ある業とを行ひ、大なる忍󠄄耐を用ひて汝等のうちに使徒の徴をなせり。
13 なんぢら他の敎會に何の劣る所󠄃かある、唯わが汝らを煩はさざりし事のみならずや、此の不義は請󠄃ふ我に恕せ。
14 視よ、茲に三度なんぢらに到らんとして準備したれど、尙なんぢらを煩はすまじ。我は汝らの所󠄃有を求めず、ただ汝らを求む。それ子は親のために貯ふべきにあらず、親は子のために貯ふべきなり。〘273㌻〙
15 我は大に喜びて汝らの靈魂のために物を費し、また身をも費さん。我なんぢらを多く愛するによりて汝ら我を少く愛するか。
16 或人いはん、我なんぢらを煩はさざりしも、狡猾にして詭計をもて取りしなりと。
17 然れど我なんぢらに遣󠄃しし者のうちの誰によりて汝らを掠めしや。
377㌻
18 我テトスを勸めて汝らに遣󠄃し、これと共にかの兄弟を遣󠄃せり、テトスは汝らを掠めしや。我らは同じ御靈によりて步み、同じ足跡を蹈みしにあらずや。
19 汝らは夙くより我等なんぢらに對して辯明すと思ひしならん。されど我らはキリストに在りて神の前󠄃にて語る。愛する者よ、これ皆なんぢらの德を建てん爲なり。
20 わが到りて汝らを見ん時、わが望󠄇の如くならず、汝らが我を見んとき、亦なんぢらの望󠄇の如くならざらんことを恐れ、かつ分󠄃爭・嫉妬・憤恚・徒黨・誹謗・讒言・驕傲・騷亂などの有らんことを恐る。
21 また重ねて到らん時、わが神われを汝等のまへにて辱しめ、且おほくの人の、前󠄃に罪を犯して行ひし不潔󠄄と姦淫と好色とを悔改めざるを悲しましめ給ふことあらん乎と恐る。
第13章
1 今われ三度なんぢらに到らんとす、二三の證人の口によりて凡てのこと慥めらるべし。
2 われ旣に吿げたれど、今離れをりて、二度なんぢらに逢ひし時のごとく、前󠄃に罪を犯したる者とその他の凡ての人々とに預じめ吿ぐ、われ復いたらば決して宥さじ。
3 汝らはキリストの我にありて語りたまふ證據を求むればなり。キリストは汝らに對ひて弱󠄃からず、汝等のうちに强し。
4 微弱󠄃によりて十字架に釘けられ給ひたれど、神の能力によりて生き給へばなり。我らもキリストに在りて弱󠄃き者なれど、汝らに向ふ神の能力によりて彼と共に生きん。
5 なんぢら信仰に居るや否や、自ら試み、自ら驗しみよ。汝らみづから知らざらんや、若し棄てらるる者ならずば、イエス・キリストの汝らの中に在す事を、
6 我は我らの棄てらるる者ならぬを汝らの知らんことを望󠄇む。
378㌻
7 我らは汝らの少しにても惡を行はざらんことを神に祈る。これ我らの是とせらるるを顯さん爲にあらず、縱われらは棄てらるる者の如くなるとも、汝らの善を行はん爲なり。
8 我らは眞理に逆󠄃ひて能力なく、眞理のためには能力あり。
9 われら弱󠄃くして汝らの强きことを喜ぶ、また之に就きて祈るは汝らの全󠄃くならん事なり。〘274㌻〙
10 われ離れ居りて此等のことを書き贈るは、汝らに逢ふとき、主の破る爲ならずして建つる爲に我に賜ひたる權威に隨ひて嚴しくせざらん爲なり。
11 終󠄃に言はん、兄弟よ、汝ら喜べ、全󠄃くなれ、慰安を受けよ、心を一つにせよ、睦み親しめ、然らば愛と平󠄃和との神なんぢらと偕に在さん。
12 潔󠄄き接吻をもて相互に安否を問へ、凡ての聖󠄄徒なんぢらに安否を問ふ。
13 願くは主イエス・キリストの恩惠・神の愛・聖󠄄靈の交感、なんぢら凡ての者と偕にあらんことを。〘275㌻〙
379㌻