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〘234㌻〙

第1章

1 テオピロよ、われさきに前󠄃まへふみをつくりて、おほよそイエスのおこなひはじめをしへはじめたまひしより、 2 その選󠄄えらたまへる使徒しとたちに、聖󠄄せいれいによりてめいじたるのち、げられたまひしいたるまでのことしるせり。 3 イエスは苦難くるしみをうけしのち、おほくのたしかなるあかしをもて、おのれきたることを使徒しとたちにしめし、四十しじふにちあひだ、しばしばかれらにあらはれて、かみくにのことをかたり、 4 またかれとともに《[*]》あつまりゐてめいじたまふ『エルサレムをはなれずして、われよりきし父󠄃ちち約束やくそくて。[*或は「食󠄃し」と譯す。] 5 ヨハネはみづにてバプテスマをほどこししが、なんぢらはならずして聖󠄄せいれいにてバプテスマをほどこされん』

6 弟子でしたちあつまれるときひてふ『しゅよ、イスラエルのくに回復くわいふくたまふはときなるか』 7 イエスひたまふ『ときまた父󠄃ちちおのれの權威けんゐのうちにたまへば、なんぢらのるべきにあらず。 8 れど聖󠄄せいれいなんぢらのうへのぞむとき、なんぢ能力ちからをうけん、しかしてエルサレム、ユダヤ全󠄃國ぜんこく、サマリヤ、およはてにまで證人しょうにんとならん』 9 これのことをいひ終󠄃をはりて、かれらのるがうちにげられたまふ。くもこれをけてえざらしめたり。 10 そののぼりゆきたまふとき、かれてんそゝぎゐたりしに、よ、しろころもたる二人ふたりひとかたはらにちてふ、 11 『ガリラヤの人々ひとびとよ、なにゆゑてんあふぎてつか、なんぢらをはなれててんげられたまひしのイエスは、なんぢらがてんのぼりゆくをたるそのごとまたきたりたまはん』
 234㌻ 
12 ここにかれオリブといふやまよりエルサレムにかへる。このやまはエルサレムに近󠄃ちかく、《[*]》安息あんそくにち道󠄃程みちのりなり。[*約十五町に當る。] 13 すでりてそのとゞまりをる高樓たかどののぼる。ペテロ、ヨハネ、ヤコブおよびアンデレ、ピリポおよびトマス、バルトロマイおよびマタイ、アルパヨのヤコブ、熱心ねっしんたうのシモンおよびヤコブのユダなり。 14 この人々ひとびとはみなをんなたちおよびイエスのははマリヤ、イエスの兄弟きゃうだいたちとともこゝろひとつにして只管ひたすらいのりをつとめゐたり。

15 そのころペテロ、百二十ひゃくにじふめいばかりともあつまりてむれをなせる兄弟きゃうだいたちのなかちてふ、 16兄弟きゃうだいたちよ、イエスをとらふるものどもの手引てびきとなりしユダにつきて、聖󠄄せいれいダビデのくちによりてあらかじめたまひし聖󠄄書せいしょは、かならず成就じゃうじゅせざるをざりしなり。 17 かれわれらのうちかぞへられ、つとめあづかりたればなり。 18 (このひとは、かの不義ふぎあたひをもて地所󠄃ぢしょ、また俯伏うつぶしちて直中たゞなかよりけて臓腑はらわたみなながでたり。〘170㌻〙 19 このことエルサレムに住󠄃すべてのひとられて、その地所󠄃ぢしょ國語くにことばにてアケルダマととなへらる、地所󠄃ぢしょとのなり) 20 それはへんしるして 「かれ住󠄃處すみかてよ、 ひとそのうち住󠄃すまはざれ」とひ、 又󠄂また「そのつとめはほかのひとさせよ」とひたり。 21 ればしゅイエス我等われらのうちに徃來ゆききたまひしあひだ 22 すなはちヨハネのバプテスマよりはじまり、われらをはなれてげられたまひしいたるまで、つねわれらとともりし人々ひとびとのうち一人ひとり、われらとともしゅ復活よみがへり證人しょうにんとなるべきなり』 23 こゝにバルサバととなへられ、またのをユストとばるるヨセフおよびマツテヤの二人ふたりをあげ、 24 -25 いのりてふ『すべてのひとこゝろりたまふしゅよ、ユダおの所󠄃ところかんとてつとめ使徒しとしょくとよりちたれば、そのあとがするに、二人ふたりのうちいづれ選󠄄えらたまふかしめしたまへ』
 235㌻ 
26 かくくじせしにくじはマツテヤにあたりたれば、かれじふいち使徒しとくはへられたり。

第2章

1 五旬節ごじゅんせつの《[*]》となり、かれらみな一處ひとところつどりしに、[*原語「ペンテコステ」] 2 はげしきかぜききたるごときひびき、にはかにてんより起󠄃おこりて、そのする所󠄃ところいへ滿ち、 3 またごときものしたのやうにあらはれ、分󠄃わかれて各人おのおののうへにとゞまる。 4 かれらみな聖󠄄せいれいにて滿みたされ、御靈みたまべしむるままに異邦ことくにことばにてかたりはじむ。

5 とき敬虔けいけんなるユダヤびと天下てんか國々くにぐによりきたりてエルサレムに住󠄃りしが、 6 この音󠄃おとおこりたれば群衆ぐんじゅうあつまりきたり、おのおのおの國語くにことばにて使徒しとたちのかたるをきてさわひ、 7 かつをどろあやしみてふ『よ、このかたものみなガリラヤびとならずや、 8 如何いかにして、我等われらおのおののうまれしくにことばをきくか。 9 我等われらはパルテヤびと、メヂヤびと、エラムびと、またメソポタミヤ、ユダヤ、カパドキヤ、ポント、アジヤ、 10 フルギヤ、パンフリヤ、エジプト、リビヤのクレネに近󠄃ちか地方ちはうなどに住󠄃もの、ロマよりの旅人たびびと――ユダヤびとおよび改宗者かいしゅうしゃ―― 11 クレテびとおよびアラビヤびとなるに、國語くにことばにてかれらがかみおほいなる御業みわざをかたるをかんとは』〘171㌻〙 12 みなおどろき、まどひてたがひふ『これ何事なにごとぞ』 13 あるものどもはあざけりてふ『かれらはあま葡萄酒ぶだうしゅにて滿みたされたり』

14 こゝにペテロじふいち使徒しととともにち、こゑべてふ『ユダヤの人々ひとびとおよびすべてエルサレムに住󠄃めるものよ、なんぢわがことばみみかたむけて、このことれ。 15 いま朝󠄃あさ九時くじなれば、なんぢらのおもふごとくかれらはひたるにあらず、
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16 これは預言者よげんしゃヨエルによりてはれたる所󠄃ところなり。 17かみいひたまはく、すゑいたりて、 れいすべてのひとそゝがん。 なんぢらのむすこむすめ預言よげんし、 なんぢらの若者わかもの幻影まぼろし、 なんぢらの老人としよりゆめるべし。 18 そのいたりて、わがしもべ婢女はしために わがれいそゝがん、かれらは預言よげんすべし。 19 われうへてん不思議ふしぎを、 したしるしあらはさん、 すなはけむりとあるべし。 20 しゅおほいなる顯著いちじるしきのきたる前󠄃まへに、 やみつきかはらん。 21 すべてしゅ御名みなたのものすくはれん」 22 イスラエルの人々ひとびとよ、これらのことばけ。ナザレのイエスは、なんぢらのるごとく、かみかれにりてなんぢらのうちおこなたまひし能力ちからあるわざ不思議ふしぎしるしとをもてなんぢらにあかしたまへるひとなり。 23 このひとかみさだたまひし御旨みむねと、あらかじめたま所󠄃ところとによりてわたされしが、なんぢ不法ふほふひとをもて釘磔はりつけにしてころせり。 24 れどかみ苦難くるしみきてこれよみがへらせたまへり。かれつながれをるべきものならざりしなり。 25 ダビデかれにつきてふ 「われつね前󠄃まへしゅたり、 うごかされぬためみぎいませばなり。 26 このゆゑこゝろたのしみ、したよろこべり、かつわが肉體にくたいもまた望󠄇のぞみうち宿やどらん。 27 なんぢわが靈魂たましひ黄泉よみかず、 なんぢ聖󠄄者しゃうじゃ朽果くちはつることをゆるたまはざればなり。 28 なんぢ生命いのち道󠄃みちわれしめたまへり、 御顏みかほ前󠄃まへにてわれ勸喜よろこび滿みたたまはん」 29 兄弟きゃうだいたちよ、先祖せんぞダビデにきて、われはばからずなんぢらにふをべし、かれにてはうむられ、はか今日こんにちいたるまでわれらのうちにあり。 30 すなはかれ預言者よげんしゃにして、おのれよりづるものをおのれの座位くらゐせしむることを、ちかひをもてかみやくたまひしをり、〘172㌻〙 31 先見せんけんして、キリストの復活よみがへりきてかたり、その黄泉よみかれず、その肉體にくたい朽果くちはてぬことをへるなり。
 237㌻ 
32 かみはこのイエスをよみがへらせたまへり、われらはみなその證人しょうにんなり。 33 イエスはかみみぎげられ、約束やくそく聖󠄄せいれい父󠄃ちちよりけてなんぢらのきゝするのものをそゝたまひしなり。 34 それダビデはてんのぼりしことなし、れどみづかふ 「しゅわがしゅたまふ、 35 われなんぢのてきなんぢ足臺あしだいとなすまではわがみぎせよ」と。 36 ればイスラエルの全󠄃家ぜんかしかるべきなり。なんぢらが十字架じふじかけしのイエスを、かみててしゅとなし、キリストとなしたまへり』

37 人々ひとびとこれをきてこゝろされ、ペテロとほか使徒しとたちとにふ『兄弟きゃうだいたちよ、われなにをなすべきか』 38 ペテロこたふ『なんぢら悔改くいあらためて、おのおのつみゆるしんためにイエス・キリストのによりてバプテスマをけよ、らば聖󠄄せいれい賜物たまものけん。 39 この約束やくそくなんぢらとなんぢらのらとすべての遠󠄄とほものすなはしゅなるわれらのかみたまものとにくなり』 40 このほかなほおほくのことばをもてあかしし、かつすゝめて『このまがれるよりすくいだされよ』とへり。 41 かくてペテロのことば聽納󠄃きゝいれしものはバプテスマをく。この弟子でしくははりたるもの、おほよそさんせんにんなり。 42 かれらは使徒しとたちのをしへけ、交際まじはりをなし、パンを祈禱いのりをなすことを只管ひたすらつとむ。

43 こゝひとみな敬畏おそれしゃうじ、おほくの不思議ふしぎしるしとは使徒しとたちにりておこなはれたり。 44 しんじたるものはみなともりて諸般すべてものともにし、 45 資產しさん所󠄃有もちものとを各人おのおのようしたがひて分󠄃あたへ、 46 日々ひゞこゝろひとつにしてたゆみなくみやり、いへにてパンをさき、勸喜よろこび眞心まごゝろとをもて食󠄃事しょくじをなし、 47 かみ讃美さんびして一般すべてたみよろこばる。かくしゅすくはるるもの日々ひゞかれらのうちくはたまへり。
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第3章

1 ひる三時さんじ、いのりのときにペテロとヨハネとみやのぼりしが、 2 こゝうまれながらの跛者あしなへかかれてきたる。みやひとより施濟ほどこしふために日々ひゞみや美麗うつくしといふもんかるるなり。 3 ペテロとヨハネとのみやらんとするを施濟ほどこしひたれば、〘173㌻〙 4 ペテロ、ヨハネとともめて『われらをよ』とふ。 5 かれなにをかくるならんと、かれらをつめたるに、 6 ペテロふ『きんぎんわれになし、れどわれるものをなんぢあたふ、ナザレのイエス・キリストのによりてあゆめ』 7 すなはみぎりて起󠄃おこししに、あしかふ踝骨くるぶしとたちどころにつよくなりて、 8 躍󠄃をどち、あゆいだして、かつあゆみかつをどり、かみ讃美さんびしつつかれらとともみやれり。 9 たみみなあゆみ、またかみ讃美さんびするをて、 10 かれ前󠄃さき乞食󠄃こつじきにてみや美麗うつくしもんしゐたるをれば、この起󠄃おこりしこときて驚駭おどろき奇異あやしみとにちたり。

11 かくかれがペテロとヨハネとにりすがりるほどに、たみみなはなはだしくをどろきてソロモンのらうとなふるらうせつどふ。 12 ペテロこれをたみこたふ『イスラエルの人々ひとびとよ、なにことあやしむか、なにわれらがおのれ能力ちから敬虔けいけんとによりてひとあゆませしごとく、われらをつむるか。 13 アブラハム、イサク、ヤコブのかみ、われらの先祖せんぞかみは、そのしもべイエスに榮光えいくわうあらしめたまへり。なんぢこのイエスをわたし、ピラトのこれゆるさんとさだめしを、前󠄃まへにていなみたり。 14 なんぢらは、この聖󠄄者しゃうじゃ義人ぎじんいなみて、殺人者ひとごろしゆるさんことをもとめ、 15 生命いのちきみころしたれど、かみはこれを死人しにんうちよりよみがへらせたまへり、われらは證人しょうにんなり。
 239㌻ 
16 かくてその御名みなしんずるにりてその御名みなは、なんぢらのるところるところのひとつよくしたり。イエスによる信仰しんかうなんぢもろもろの前󠄃まへにてかゝ全󠄃癒󠄄ぜんゆさせたり。 17 兄弟きゃうだいよ、われる、なんぢらが、かのことししはらぬにりてなり。なんぢらのつかさたちもまたしかり。 18 れどかみすべての預言者よげんしゃくちをもてキリストの苦難くるしみくべきことをあらかじめたまひしを、くは成就じゃうじゅたまひしなり。 19 ればなんぢつみ消󠄃されんため悔改くいあらためてこゝろてんぜよ。 20 これしゅ御前󠄃みまへより慰安なぐさめとききたり、なんぢらのためあらかじめさだたまへるキリスト・イエスを遣󠄃つかはたまはんとてなり。 21 いにしへよりかみが、その聖󠄄せいなる預言者よげんしゃくちによりて、かたたまひし萬物ばんもつあらたまるときまで、てんかならずイエスをけおくべし。 22 モーセへらく「しゅなるかみは《[*]》なんぢらの兄弟きゃうだいうちよりがごとき預言者よげんしゃ起󠄃おこたまはん。そのかた所󠄃ところのことはなんぢことごとくくべし。[*或は「我を起󠄃したる如く汝らの兄弟の中より預言者を」と譯す。] 23 すべてこの預言者よげんしゃかぬものたみうちよりほろぼつくさるべし」 24 又󠄂またサムエル以來このかたかたりし預言者よげんしゃみなこのときにつきて宣傳のべつたへたり。 25 なんぢらは預言者よげんしゃたちの子孫しそんなり、又󠄂またなんぢらの先祖せんぞたちにかみたまひし契約けいやく子孫しそんなり、すなはかみアブラハムにたまはく「なんぢのすゑによりて諸族しょぞくはみな祝福しくふくせらるべし」〘174㌻〙 26 かみはそのしもべよみがへらせ、まづなんぢらに遣󠄃つかはたまへり、これなんぢ各人おのおのを、そのつみよりびかへして祝福しくふくせんためなり』

第4章

1 かれらたみかたるとき、祭司さいしら・宮守頭みやもりがしらおよびサドカイびと近󠄃ちかづききたりて、 2 そのたみをしへ、又󠄂またイエスのこときて死人しにんうちよりの復活よみがへりぶるをうれひ、 3 をかけてこれとらへしに、はやゆふべになりたれば、くるまで留置場とめおきばれたり。 4 れど、そのことばきたる人々ひとびとうちにもしんぜしものおほくありて、をとこかずおほよそせんにんとなりたり。

 240㌻ 
5 くるつかさ長老ちゃうらう學者がくしゃら、エルサレムにくわいし、 6 だい祭司さいしアンナス、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデルおよだい祭司さいし一族いちぞくみなつどひて、 7 そのなかにかの二人ふたりててふ『如何いかなる能力ちからいかなるによりてことおこなひしぞ』 8 このときペテロ聖󠄄せいれいにて滿みたされ、かれらにふ『たみつかさたちおよ長老ちゃうらうたちよ、 9 われらがめるものになししわざき、その如何いかにしてすくはれしかを今日けふもしたゞさるるならば、 10 なんぢ一同いちどうおよびイスラエルのたみみなれ、このひとすこやかになりてなんぢらの前󠄃まへつは、ナザレのイエス・キリスト、すなはなんぢらが十字架じふじかけ、かみ死人しにんうちよりよみがへらせたまひしものることを。 11 このイエスはなんぢ造󠄃家者いへつくりかろしめられしいしにして、すみ首石おやいしとなりたるなり。 12 ほかものによりてはすくひることなし、あめしたにはわれらのたよりてすくはるべきほかを、ひとたまひしことなければなり』

13 かれらはペテロとヨハネとのおくすることなきを、その無學むがく凡人たゞびとなるをりたれば、これあやしみ、かつそのイエスとともにありしこと認󠄃みとむ。 14 またいやされたるひとこれとともにつをるによりて、さら消󠄃ことばなし。 15 こゝに、めいじてかれらを衆議所󠄃しゅうぎしょより退󠄃しりぞけ、あひともはかりてふ、 16 『この人々ひとびと如何いかにすべきぞ。かれによりて顯著いちじるしきしるしおこなはれしことは、すべてエルサレムに住󠄃ものられ、われこれいなむことあたはねばなり。 17 れど愈々いよいよひろくたみうちひろまらぬやうに、かれらをおびやかしていまよりのちかのによりてたれにもかたことなからしめん』 18 すなはかれらをび、一切いっさいイエスのによりてかたり、またをしへざらんことをめいじたり。 19 ペテロとヨハネとこたへていふ『かみくよりもなんぢらにくは、かみ御前󠄃みまへたゞしきか、なんぢこれさばけ。〘175㌻〙
 241㌻ 
20 われらはしこときしことをかたらざるをず』 21 たみみなりしこときてかみあがめたれば、かれらをばっするによしなく、さらにまたおびやかしてゆるせり。 22 かのしるしによりていやされしひと四十歳しじっさいあまりなりしなり。

23 かれゆるされて、そのとももとにゆき、祭司長さいしちゃう長老ちゃうらうらのひしすべてのことをげたれば、 24 これきてみなこゝろひとつにし、かみむかひ、こゑげてふ『しゅよ、なんぢてんうみなかのあらゆるものとを造󠄃つくたまへり。 25 かつ聖󠄄せいれいによりてなんぢしもべ、われらの先祖せんぞダビデのくちをもて 「なにゆゑ異邦人いはうじんさわち、 たみらは空󠄃むなしきことはかるぞ。 26 わうたちともち、 つかさらはひとつにあつまりて、 しゅおよびのキリストに逆󠄃さからふ」と宣給のたまへり。 27 はたしてヘロデとポンテオ・ピラトとは、異邦人いはうじんおよびイスラエルのたみとともに、なんぢあぶらそそぎたまひし聖󠄄せいなるしもべイエスに逆󠄃さからひてみやこにあつまり、 28 御手みて御旨みむねとにて、るべしとあらかじめさだたまひしことをなせり。 29 しゅよ、いまかれらの脅喝おびやかし御覽みそなはし、しもべらに御言みことばいさゝかもおくすることなくかたらせ、 30 御手みてをのべてほどこさせ、なんぢ聖󠄄せいなるしもべイエスのによりてしるし不思議ふしぎとをおこなはせたまへ』 31 いの終󠄃へしときあつまりをるところふるうごき、みな聖󠄄せいれいにて滿みたされ、おくすることなくかみ御言みことばかたれり。

32 しんじたるものむれは、おなじこゝろおなじおもひとなり、たれ一人ひとりその所󠄃有もちものおのものはず、すべてのものともにせり。 33 かく使徒しとたちはおほいなる能力ちからをもてしゅイエスの復活よみがへりあかしをなし、みなおほいなる恩惠めぐみかうむりたり。 34 かれらのうちには一人ひとりとぼしきものもなかりき。これ地所󠄃ぢしょあるいは家屋いへてるもの、これをり、そのりたるものあたひきたりて、
 242㌻ 
35 使徒しとたちの足下あしもときしを、各人おのおのそのようしたがひて分󠄃あたへられたればなり。

36 こゝにクプロにうまれたるレビびとにて、使徒しとたちにバルナバ(けば慰籍なぐさめ)ととなへらるるヨセフ、 37 はたありしをりてかねちきたり、使徒しとたちの足下あしもとけり。

第5章

1 しかるにアナニヤとひと、そのつまサツピラととも資產しさんり、 2 そのあたひ幾分󠄃いくぶんかくしおき、のこ幾分󠄃いくぶんちきたりて使徒しとたちの足下あしもときしが、つまこれあづかれり。 3 こゝにペテロふ『アナニヤよ、なにゆゑなんぢのこゝろサタンに滿ち、聖󠄄せいれいたいいつはりて、地所󠄃ぢしょあたひ幾分󠄃いくぶんかくしたるぞ。〘176㌻〙 4 りしときなんぢものなり、りてのちなんぢけんうちにあるにあらずや、なにとてかゝることをこゝろくはだてし。なんぢひとたいしてにあらず、かみたいしていつはりしなり』 5 アナニヤこのことばをきき、たふれていきゆ。これをものみなおほいなるおそれいだく。 6 若者わかものどもちてかれつゝみ、かきいだしてはうむれり。

7 おほよさん時間じかんて、そのつまこのりしことらずしてきたりしに、 8 ペテロこれむかひてふ『なんぢらこれほどあたひにてかの地所󠄃ぢしょりしか、われげよ』をんないふ『しかり、これほどなり』 9 ペテロふ『なんぢらなにこゝろあはせてしゅ御靈みたまこゝろみんとせしか、よ、なんぢのをっとはうむりしものあし門口かどぐちにあり、なんぢをもまたかきいだすべし』 10 をんな立刻たちどころにペテロの足下あしもとたふれていきゆ。若者わかものどもきたりて、そのにたるを、これをかきいだしてをっとかたはらにはうむれり。 11 こゝ全󠄃ぜん敎會けうくわいおよびこれのことをものみなおほいなるおそれいだけり。

12 使徒しとたちのによりておほくのしるし不思議ふしぎたみうちおこなはれたり。かれはみなこゝろひとつにして、ソロモンのらうにあり。
 243㌻ 
13 ほかものどもはへて近󠄃ちかづかず、たみかれらをあがめたり。 14 しんずるもの男女なんにょとも增々ますますおほくしゅけり。 15 終󠄃つひには人々ひとびとめるもの大路おほじききたり、寢臺ねだいまたはとこうへにおく。これのうちたれにもせよ、ペテロの過󠄃ぎんとき、そのかげになりとおほはれんとてなり。 16 又󠄂またエルサレムの周󠄃圍まはり町々まちまちよりおほくの人々ひとびとめるものけがれしれいなやまされたるものたづさへきたりてつどひたりしが、みないやされたり。

17 こゝだい祭司さいしおよびこれともなるものすなはちサドカイ人々ひとびと、みなねたみ滿みたされてち、 18 使徒しとたちにをかけてこれ留置場とめおきばる。 19 しかるにしゅ使つかひよるひとやをひらき、かれらをいだしてふ、 20きてみやち、この生命いのちことばをことごとくたみかたれ』 21 かれらこれき、夜明よあけがたみやりてをしふ。だい祭司さいしおよびこれともなるものどもつどひきたりて議會ぎくわいとイスラエルびと元老げんらうとをびあつめ、使徒しとたちをきたらせんとて、ひと牢舍らうや遣󠄃つかはしたり。 22 下役したやくどもきしに、ひとやのうちにかれらのらぬをて、かへりきたりげてふ、 23 『われら牢舍らうやかたぢられて、前󠄃まへ牢番らうばんちたるをしに、ひらきてれば、うちにはたれらざりき』 24 宮守頭みやもりがしらおよび祭司長さいしちゃうら、このことばきて如何いかになりゆくべきかと、まどひいたるに、 25 あるひときたりげてふ『よ、なんぢらのひとやれしひとは、みやちてたみをしるなり』〘177㌻〙 26 こゝ宮守頭みやもりがしら下役したやく伴󠄃ともなひてでゆき、かれらをきたる。されど手暴てあらきことをせざりき、これたみよりいしにてたれんことをおそれたるなり。 27 かれらをきたりて議會ぎくわいなかてたれば、だい祭司さいしひてふ、 28我等われらかのによりてをしふることをかたきんぜしに、よ、なんぢらはをしへをエルサレムに滿みたし、かのひとわれらに負󠄅はせんとす』 29 ペテロおよほか使徒しとたちこたへてふ『ひとしたがはんよりはかみしたがふべきなり。
 244㌻ 
30 われらの先祖せんぞかみはイエスを起󠄃おこたまひしに、なんぢらはこれけてころしたり。 31 かみかれきみとし救主すくひぬしとしておのみぎにあげ、悔改くいあらためつみゆるしとをイスラエルにあたへしめたまふ。 32 われらはこと證人しょうにんなり。かみのおのれにしたがものたま聖󠄄せいれいもまたしかり』

33 かれらこれをききていかり滿ち、使徒しとたちをころさんとおもへり。 34 しかるにパリサイびとにてすべてのたみ尊󠄅たふとばるる敎法けうはふ學者がくしゃガマリエルとふもの、議會ぎくわいなかち、めいじて使徒しとたちをしばらそといださしめ、議員ぎゐんらにむかひてふ、 35 『イスラエルのひとよ、なんぢらが人々ひとびとさんとすることにつきてこゝろせよ。 36 前󠄃さきにチウダ起󠄃おこりて、みづかおほいなりとしょうし、これつきしたがものかず、おほよそひゃくにんなりしが、かれころされ、したがへるものはみなちらされてあとなきにいたれり。 37 そののち戶籍こせき登錄とうろくのときガリラヤのユダ起󠄃おこりておほくのたみさそひ、おのれにしたがはしめしが、かれほろしたがへるものもことごとくちらされたり。 38 ればいまなんぢらにふ、この人々ひとびとよりはなれて、そのすにまかせよ。しその企圖くはだてその所󠄃作しわざひとよりでたらんにはおのづからやぶれん。 39 もしかみよりでたらんにはかれらをやぶることあたはず、おそらくはなんぢかみてきするものとならん』 40 かれその勸吿すゝめにしたがひ、遂󠄅つひ使徒しとたちをいだしてこれむちうち、イエスのによりてかたることをかたきんじてゆるせり。 41 使徒しとたちは御名みなのためにはづかしめらるるに相應ふさはしきものとせられたるをよろこびつつ、議員ぎゐんらの前󠄃まへれり。 42 かく日每ひごとみやまたいへにてをしへをなし、イエスのキリストなること宣傳のべつたへてまざりき。
 245㌻ 

第6章

1 そのころ弟子でしのかずましくははり、ギリシヤことばのユダヤびと、その寡婦󠄃やもめらが日々ひゞ施濟ほどこしもらされたれば、ヘブルことばのユダヤびとたいしてつぶやことあり。 2 こゝ十二じふに使徒しとすべての弟子でしあつめてふ『われらかみことば差措さしおきて、食󠄃卓しょくたくつかふるはよろしからず。 3 れば兄弟きゃうだいよ、なんぢらのうちより御靈みたま智慧󠄄ちゑとにて滿ちたる令聞よききこえあるもの七人しちにん見出みいだせ、それにことつかさどらせん。〘178㌻〙 4 われらはもっぱいのりをなすことと御言みことばつかふることとをつとめん』 5 あつまれるすべてのものこのことばしとし、信仰しんかう聖󠄄せいれいとにて滿ちたるステパノおよびピリポ、プロコロ、ニカノル、テモン、パルメナ、またアンテオケの改宗者かいしゅうしゃニコラオを選󠄄えらびて、 6 使徒しとたちの前󠄃まへてたれば、使徒しとたちいのりてをそのうへけり。

7 かくかみことばますますひろまり、弟子でしかずエルサレムにてはなはおほくなり、祭司さいしうちにも信仰しんかう道󠄃みちしたがへるものおほかりき。

8 さてステパノは恩惠めぐみ能力ちからとにて滿ち、たみうちおほいなる不思議ふしぎしるしとをおこなへり。 9 こゝとなふる《[*]》リベルテンの會堂くわいだうおよびクレネびと、アレキサンデリヤびと、またキリキヤとアジヤとのひとしょ會堂くわいだうより人々ひとびと起󠄃ちてステパノとろんぜしが、[*「自由を得し者」との義なり。] 10 そのかたるところの智慧󠄄ちゑ御靈みたまとにてきすることあたはず。 11 すなはあるものどもをそゝのかして『われらはステパノが、モーセとかみとをけがことばをいふをけり』とはしめ、 12 たみおよび長老ちゃうらう學者がくしゃらを煽動せんどうし、にはかきたりてステパノをとらへ、議會ぎくわいきゆき、 13 僞證者ぎしょうしゃててはしむ『このひとはこの聖󠄄せいなる所󠄃ところ律法おきてとに逆󠄃さからことばかたりてまず、
 246㌻ 
14 すなはち、かのナザレのイエスは所󠄃ところこぼち、かつモーセのつたへしれいふべしと、かれへるをけり』と。 15 こゝ議會ぎくわいしたるものみなそゝぎてステパノをしに、そのかほ御使みつかひかほごとくなりき。

第7章

1 かくだい祭司さいしいふ『これのことはたしてかくごときか』 2 ステパノふ 『兄弟きゃうだいたちおやたちよ、け、われらの先祖せんぞアブラハムいまだカランに住󠄃まずしてなほメソポタミヤにりしとき榮光えいくわうかみあらはれて、 3 「なんぢの土地とち、なんぢの親族しんぞくはなれて、しめさんとするけ」とたまへり。 4 こゝにカルデヤのでてカランに住󠄃みたりしが、その父󠄃ちちにしのち、かみかれ彼處かしこよりなんぢらのいま住󠄃めるうつらしめ、 5 此處ここにてあし蹈立ふみたつるほどをも嗣業しげふあたたまはざりき。しかるに、そのいまなかりしかれかれすゑとに所󠄃有もちものとしてあたへんとやくたまへり。 6 かみまたすゑほかくに寄寓人やどりびととなり、その國人くにびとこれ四百年しひゃくねんのあひだ奴隷どれいとなしてくるしめんことたまへり。 7 かみいひたまふ「われはかれらを奴隷どれいとする國人くにびとさばかん、しかるのちかれそのくにで、このところにてわれつかへん」 8 かみまた割󠄅禮かつれい契約けいやくをアブラハムにあたたまひたれば、イサクをみて八日やうかめにこれ割󠄅禮かつれいおこなへり。イサクはヤコブを、ヤコブは十二じふに先祖せんぞめり。〘179㌻〙 9 先祖せんぞたちヨセフをねたみてエジプトにりしに、かみかれともいまして、 10 すべての患難なやみよりこれすくいだし、エジプトのわうパロの前󠄃まへにて寵愛ちょうあいさせ、また智慧󠄄ちゑあたたまひたれば、パロこれててエジプトとおの全󠄃家ぜんかとのつかさとなせり。 11 ときにエジプトとカナンの全󠄃地ぜんちとに飢󠄄饉ききんありておほいなる患難なやみおこり、われらの先祖せんぞたちかてもとざりしが、 12 ヤコブ、エジプトに穀物こくもつあるをきてわれらの先祖せんぞたちを遣󠄃つかはす。 13 二度ふたゝびめのときヨセフその兄弟きゃうだいたちにられ、ヨセフの氏族しぞくパロにあきらかになれり。 14 ヨセフ遣󠄃つかはしておの父󠄃ちちヤコブとすべての親族しんぞくしちじふにんまねきたれば、
 247㌻ 
15 ヤコブ、エジプトにくだり、彼處かしこにておのれわれらの先祖せんぞたちもにたり。 16 かれシケムに送󠄃おくられ、かつてアブラハムがシケムにてハモルのよりかねをもてきしはかはうむられたり。 17 かくかみのアブラハムにかたたまひし約束やくそくとき近󠄃ちかづくにしたがひて、たみはエジプトにふえひろがり、 18 ヨセフをらぬほかわう、エジプトに起󠄃おこるにおよべり。 19 わう惡計わるだくみをもてわれらの同族やからにあたり、われらの先祖せんぞたちをくるしめて嬰兒みどりご生存いきながらふることなからんやうこれつるにいたらしめたり。 20 そのころモーセうまれていとうるはしくして三月みつきのあひだ父󠄃ちちいへそだてられ、 21 遂󠄅つひてられしを、パロのむすめひきげておのとしてそだてたり。 22 かくてモーセはエジプトびとすべての學術がくじゅつをしへられ、ことばわざとに能力ちからあり。 23 年齡よはひ四十しじふになりたるとき、おのが兄弟きゃうだいたるイスラエルの子孫しそん顧󠄃かへりみるこゝろおこり、 24 一人ひとり害󠄅そこなはるるをこれまもり、エジプトびとちて、虐󠄃しへたげらるるものあたかへせり。 25 かれおのれによりてかみすくひあたへんとたまふことを、兄弟きゃうだいたちさとりしならんとおもひたるに、さとらざりき。 26 翌󠄃日よくじつかれらのあひあらそふところにあらはれて和睦わぼくすゝめてふ「人々ひとびとよ、なんぢらは兄弟きゃうだいなるになんたがひ害󠄅そこなふか」 27 となり害󠄅そこなもの、モーセを押退󠄃おしのけてふ「たれなんぢててわれらのつかさまた審判󠄄さばきひととせしぞ、 28 昨日きのふエジプトびところしたるごとわれをもころさんとするか」 29 このことばにより、モーセのがれてミデアンの寄寓人やどりびととなり、彼處かしこにて二人ふたりまうけたり。 30 四十しじふねんのちシナイやま荒野あらのにて御使みつかひしばほのほのなかにあらはれたれば、 31 モーセこれるところをあやしみ、認󠄃みとめんとして近󠄃ちかづきしとき、しゅこゑあり。いはく、 32われなんぢ先祖せんぞたちのかみすなはちアブラハム、イサク、ヤコブのかみなり」モーセ戰慄ふるひをのゝあへ認󠄃みとむることをず。〘180㌻〙 33 しゅいひたまふ「なんぢのあしくつ脫󠄁げ、なんぢのつところは聖󠄄せいなるなり。
 248㌻ 
34 われエジプトにたみ苦難くるしみ、その歎息なげきをききてこれすくはんためくだれり。いでわれなんぢをエジプトに遣󠄃つかはさん」 35 かれらが「たれが、なんぢててつかさまた審判󠄄さばきひととせしぞ」とひてこばみしのモーセを、かみしばのなかにあらはれたる御使みつかひにより、つかさまた《[*]》救人すくひてとして遣󠄃つかはたまへり。[*或は「贖人」と譯す。] 36 このひとかれらを導󠄃みちびいだし、エジプトのにても、また紅海こうかいおよび四十しじふねんのあひだ荒野あらのにても、不思議ふしぎしるしとをおこなひたり。 37 イスラエルのらに「かみは《[*]》なんぢらの兄弟きゃうだいうちよりがごとき預言者よげんしゃ起󠄃おこたまはん」とひしは、のモーセなり。[*或は「我を起󠄃したる如く汝らの兄弟の中より預言者を」と譯す。] 38 かれはシナイやまにてかたりし御使みつかひおよびわれらの先祖せんぞたちととも荒野あらのなる集會あつまりりてなんぢらにあたへんためける御言みことばさづかりしひとなり。 39 しかるにわれらの先祖せんぞたちはひとしたがふことをこのまず、かへつてこれ押退󠄃おしのけ、そのこゝろエジプトに還󠄃かへりて、 40 アロンにふ「われらにさきだちくべき神々かみがみ造󠄃つくれ、われらをエジプトのより導󠄃みちびいだしし、かのモーセの如何いかになりしかをらざればなり」 41 そのころかれらこうし造󠄃つくり、その偶像ぐうざう犧牲いけにへさゝげておの所󠄃作しわざよろこべり。 42 こゝかみかれらをはなれ、そのてん軍勢ぐんぜいつかふるにまかたまへり。これは預言者よげんしゃたちのふみに 「イスラエルのいへよ、なんぢら 荒野あらのにて四十しじふねんあひだほふりしけもの犧牲いけにへとをわれさゝげしや。 43 なんぢらははいせんとして造󠄃つくれるざう、 すなはちモロクの幕屋まくやかみロンパのほしとをきたり。 われなんぢらをバビロンの彼方かなたうつさん」としるされたるがごとし。 44 われらの先祖せんぞたちは荒野あらのにてあかし幕屋まくやてり、モーセにかたたまひしものの、かれかたしたがひて造󠄃つくれとめいたまひしままなり。 45 われらの先祖せんぞたちはこれぎ、先祖せんぞたちの前󠄃まへよりかみ逐󠄃ひいだしたまひし異邦人いはうじん領地れうちをさめしとき、ヨシユアとともにたづさきたりてダビデのおよべり。 46 ダビデ、かみ前󠄃まへ恩惠めぐみてヤコブのかみのために住󠄃處すみかまうけんともとめたり。
 249㌻ 
47 しかして、そのいへてたるはソロモンなりき。 48 されど至高者いとたかきものにて造󠄃つくれる所󠄃ところ住󠄃たまはず、すなは預言者よげんしゃ 49しゅ宣給のたまはく、てん座位くらゐ足臺あしだいなり。 なんぢわがため如何いかなるいへをかてん、 わが休息やすみのところは何處いづこなるぞ。〘181㌻〙 50 わがすべこれもの造󠄃つくりしにあらずや」とへるがごとし。 51 項强うなじこはくしてこゝろみみとに割󠄅禮かつれいなきものよ、なんぢらはつね聖󠄄せいれい逆󠄃さからふ、その先祖せんぞたちのごとなんぢらもしかり。 52 なんぢらの先祖せんぞたちは預言者よげんしゃのうちのたれをか迫󠄃害󠄅はくがいせざりし。かれらは義人ぎじんきたるをあらかじめげしものころし、なんぢらはいまこの義人ぎじんり、かつころものとなれり。 53 なんぢら、御使みつかひたちのつたへし律法おきてけて、なほこれをまもらざりき』

54 人々ひとびとこれらのことばきてこゝろいかり滿切齒はがみしつつステパノにむかふ。 55 ステパノは聖󠄄せいれいにて滿ち、てんそゝぎ、かみ榮光えいくわうおよびイエスのかみみぎちたまふをふ、 56よ、われてんひらけてひとの、かみみぎたまふをる』 57 こゝかれ大聲おほごゑさけびつつ、みみおほこゝろひとつにしてり、 58 ステパノをまちより逐󠄃ひいだし、いしにててり。證人しょうにんらそのころもをサウロといふ若者わかもの足下あしもとけり。 59 かくかれがステパノをいしにててるとき、ステパノびてふ『しゅイエスよ、れいけたまへ』 60 またひざまづきて大聲おほごゑに『しゅよ、このつみかれらの負󠄅はせたまふな』とよばはる。ひてねむりけり。

第8章

1 サウロはかれころさるるをしとせり。
   そのエルサレムに敎會けうくわいむかひておほいなる迫󠄃害󠄅はくがいおこり、使徒しとたちのほかみなユダヤおよびサマリヤの地方ちはうちらさる。
 250㌻ 
2 敬虔けいけんなる人々ひとびとステパノをはうむり、かれのためにおほいむねてり。 3 サウロは敎會けうくわいをあらし、家々いへいへ男女なんにょ引出ひきいだしてひとやわたせり。

4 こゝちらされたるものども巡󠄃めぐりて御言みことばべしが、 5 ピリポはサマリヤのまちくだりてキリストのことつたふ。 6 群衆ぐんじゅうピリポのおこなしるしきゝして、こゝろひとつにし、つゝしみてかたことどもをけり。 7 これおほくのひとより、これきたるけがれしれい大聲おほごゑさけびてで、また中風ちゅうぶもの跛者あしなへおほいやされたるにる。 8 このゆゑにそのまちおほいなる勸喜よろこびおこれり。

9 こゝにシモンといふひとあり、前󠄃さきにそのまちにて魔󠄃術まじゅつおこなひ、サマリヤびとをどろかしてみづかおほいなるものとなへたり。 10 せうよりだいいたすべてのひとつつしみてこれき『このひとは、いわゆるかみ大能たいのうなり』といふ。 11 かくつつしみてけるは、ひさしきあひだその魔󠄃術まじゅつをどろかされしゆゑなり。〘182㌻〙 12 しかるにピリポが、かみくにとイエス・キリストの御名みなとにきて宣傳のべつたふるを人々ひとびとしんじたれば、男女なんにょともにバプテスマをく。 13 シモンもまたみづからしんじ、バプテスマをけて、つねにピリポとともり、そのおこなしるしと、おほいなる能力ちからとををどろけり。

14 エルサレムに使徒しとたちは、サマリヤびとかみ御言みことばけたりときてペテロとヨハネとを遣󠄃つかはしたれば、 15 かれくだりて人々ひとびと聖󠄄せいれいけんことをいのれり。 16 これしゅイエスのによりてバプテスマをけしのみにて、聖󠄄せいれいいまだ一人ひとりにだにくだらざりしなり。 17 こゝ二人ふたりのものかれらのうへきたれば、みな聖󠄄せいれいけたり。 18 使徒しとたちの按手あんしゅによりて御靈みたまあたへられしをて、シモンかねきたりてふ、 19 『わがくすべてのひと聖󠄄せいれいくるやうに權威けんゐわれにもあたへよ』
 251㌻ 
20 ペテロかれふ『なんぢのぎんなんぢとともにほろぶべし、なんぢかねをもてかみ賜物たまものんとおもへばなり。 21 なんぢはこと關係かゝはりなく干與あづかりなし、なんぢのこゝろかみ前󠄃まへたゞしからず。 22 れば、このあく悔改くいあらためてしゅいのれ、なんぢがこゝろおもひあるひはゆるされん。 23 われなんぢがにが膽汁たんじふ不義ふぎつなぎとにるをるなり』 24 シモンこたへてふ『なんぢらの所󠄃ところのことひとつもわれきたらぬやうなんぢがためにしゅいのれ』

25 かく使徒しとたちはあかしをなし、しゅ御言みことばかたりてのち、サマリヤびとおほくのむら福音󠄃ふくいん宣傳のべつたへつつエルサレムにかへれり。

26 しかるにしゅ使つかひピリポにかたりてふ『なんぢ起󠄃ちて《[*]》みなみむかひエルサレムよりガザにくだ道󠄃みちけ。そこは荒野あらのなり』[*南に向ひ、或は「畫頃」と譯す。] 27 ピリポ起󠄃ちてきたれば、よ、エテオピヤの女王にょわうカンダケの權官けんくわんにして、すべての寳物はうもつつかさどる閹人えんじん、エテオピヤびとあり、禮拜れいはいためにエルサレムにのぼりしが、 28 かへ途󠄃みちすがら馬車ばしゃして預言者よげんしゃイザヤのふみみゐたり。 29 御靈みたまピリポにたまふ『ゆきて馬車ばしゃ近󠄃寄ちかよれ』 30 ピリポはしりて、その預言者よげんしゃイザヤのふみむをきてふ『なんぢむところをさとるか』 31 閹人えんじんいふ『導󠄃みちびものなくば、いかでさとん』しかしてピリポに、りてともせんことを請󠄃ふ。 32 そのむところの聖󠄄書せいしょぶんこれなり 『かれひつじ屠場はふりばくがごとかれ、 羔羊こひつじのそのもののまへにもだすがごとく くちひらかず。〘183㌻〙 33 いやしめられて審判󠄄さばきうばはれたり、 たれかそのさま述󠄃んや。 その生命いのち地上ちじゃうよりられたればなり』 34 閹人えんじんこたへてピリポにふ『預言者よげんしゃたれきてへるぞ、おのれきてか、ひときてか、請󠄃しめせ』
 252㌻ 
35 ピリポくちひらき、この聖󠄄せいはじめとしてイエスの福音󠄃ふくいん宣傳のべつたふ。 36 途󠄃みち進󠄃すゝむるほどみづある所󠄃ところきたりたれば、閹人えんじんいふ『みづあり、がバプテスマをくるになにさはりかある』 37 [なし]《[*]》[*異本「ピリポいふ、汝全󠄃き心にて信ぜばよし。答へていふ、我イエス・キリストを神の子なりと信ず」とあり。] 38 すなはめいじて馬車ばしゃとゞめ、ピリポと閹人えんじん二人ふたりともにみづくだりて、ピリポ閹人えんじんにバプテスマをさづく。 39 かれみづよりあがりしとき、しゅれい、ピリポを取去とりさりたれば、閹人えんじんふたたびかれざりしが、よろこびつつ途󠄃みち進󠄃すゝけり。 40 かくてピリポはアゾトにあらはれ、町々まちまち福音󠄃ふくいん宣傳のべつたへつつカイザリヤにいたれり。

第9章

1 サウロはしゅ弟子でしたちにたいして、なほ恐喝おびやかし殺害󠄅せつがいとのみたし、だい祭司さいしにいたりて、 2 ダマスコにあるしょ會堂くわいだうへの添書そへぶみ請󠄃ふ。この道󠄃みちもの見出みいださば、男女なんにょにかかはらずしばりてエルサレムにかんためなり。 3 きてダマスコに近󠄃ちかづきたるとき、たちまてんよりひかりいでて、かれめぐてらしたれば、 4 かれたふれて『サウロ、サウロ、なにわれ迫󠄃害󠄅はくがいするか』といふこゑをきく。 5 かれいふ『しゅよ、なんぢはたれぞ』こたへたまふ『われはなんぢ迫󠄃害󠄅はくがいするイエスなり。 6 起󠄃きてまちれ、さらばなんぢなすべきことげらるべし』 7 同行どうかう人々ひとびとものふことあたはずしてちたりしが、こゑけどもたれをもざりき。 8 サウロより起󠄃きてをあけたれどなにえざれば、ひとそのをひきてダマスコに導󠄃みちびきゆきしに、 9 三日みっかのあひだえず、また飮食󠄃のみくひせざりき。

10 さてダマスコにアナニヤといふ一人ひとり弟子でしあり、幻影まぼろしのうちにしゅいひたまふ『アナニヤよ』こたふ『しゅよ、われここにり』 11 しゅいひたまふ『起󠄃きてすぐといふちまたにゆき、ユダのいへにてサウロといふタルソびと尋󠄃たづねよ。よ、かれいのりをるなり。
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12 又󠄂またアナニアといふひときたりてふたゝゆることをしめんために、おのがうへにくをたり』 13 アナニヤこたふ『しゅよ、われおほくのひとよりひときてきしに、かれがエルサレムにてなんぢ聖󠄄徒せいと害󠄅がいくはへしこと如何いかばかりぞや。〘184㌻〙 14 また此處ここにてもすべなんぢ御名みなをよぶものしばけん祭司長さいしちゃうらよりけをるなり』 15 しゅいひたまふ『け、このひと異邦人いはうじんわうたち・イスラエルの子孫しそんのまへにちゆく選󠄄えらびうつはなり。 16 われかれにのために如何いかおほくの苦難くるしみくるかをしめさん』 17 こゝにアナニヤきていへにいり、かれうへをおきてふ『兄弟きゃうだいサウロよ、しゅすなはなんぢきた途󠄃みちにてあらはたまひしイエス、われを遣󠄃つかはたまへり。なんぢがふたゝることを、かつ聖󠄄せいれいにて滿みたされんためなり』 18 たゞちにかれよりうろこのごときものちてることを、すなはち起󠄃きてバプテスマをけ、 19 かつ食󠄃事しょくじしてちからづきたり。
   サウロは數日すにちあひだダマスコの弟子でしたちとともにをり、
20 たゞちにしょ會堂くわいだうにて、イエスのかみなることをべたり。 21 ものみなをどろきてふ『こはエルサレムにてをよぶもの害󠄅そこなひしひとならずや、又󠄂またここにきたりしもこれしばりて祭司長さいしちゃうらのもときゆかんがためならずや』 22 サウロますます能力ちからくははり、イエスのキリストなることを論證ろんしょうして、ダマスコに住󠄃むユダヤびとせたり。

23 ることひさしくしてのち、ユダヤびとかれをころさんとあひはかりたれど、 24 その計畧はかりごとサウロにらる。かくかれらはサウロをころさんとてひるよるまちもんまもりしに、 25 その弟子でし夜中やちゅうかれをかごにて石垣いしがきよりおろせり。

 254㌻ 
26 こゝにサウロ、エルサレムにいたりて弟子でしたちのうちつらならんとすれど、みなかれが弟子でしたるをしんぜずしておそれたり。 27 しかるにバルナバかれ迎󠄃むかへて使徒しとたちのもと伴󠄃ともなひゆき、その途󠄃みちにてしゅしこと、しゅこれものたまひしこと、又󠄂またダマスコにてイエスののためにおくせずかたりしことなどを具󠄄つぶさぐ。 28 こゝにサウロはエルサレムにて弟子でしたちととも出入いでいりし、 29 しゅ御名みなのためにおくせずかたり、又󠄂またギリシヤことばのユダヤびとと、かつかたり、かつろんじたれば、かれこれをころさんとはかりしに、 30 兄弟きゃうだいたちりてかれをカイザリヤに伴󠄃ともなくだり、タルソにかしめたり。

31 かくてユダヤ、ガリラヤおよびサマリヤを通󠄃つうじて、敎會けうくわい平󠄃安へいあん、ややに堅立けんりつし、しゅおそれてあゆみ、聖󠄄せいれい祐助たすけによりて人數にんずいやせり。

32 ペテロはあまね四方しはうをめぐりてルダに住󠄃聖󠄄徒せいともとにいたり、 33 彼處かしこにてアイネヤといふひと中風ちゅうぶわづらひてはちねんのあひだとこるに遇󠄃ふ。 34 かくてペテロこれに『アイネヤよ、イエス・キリストなんぢいやしたまふ、起󠄃きてとこをさめよ』とひたれば、たゞちに起󠄃きたり。〘185㌻〙 35 こゝにルダおよびサロンに住󠄃ものみなこれしゅ歸依きえせり。

36 ヨツパにタビタとをんな弟子でしあり、そのやくすれば《[*]》ドルカスなり。をんなは、ひたすらわざ施濟ほどこしとをなせり。[*「かもしか」の意󠄃。] 37 かれそのころみてにたれば、これあらひて高樓たかどのく。 38 ルダはヨツパに近󠄃ちかければ、弟子でしたちペテロの彼處かしこるをきて二人ふたりもの遣󠄃つかはし『ためらはでわれらにきたれ』と請󠄃はしむ。 39 ペテロ起󠄃ちてともにき、遂󠄅つひいたれば、かれ高樓たかどの伴󠄃れてのぼりしに、寡婦󠄃やもめらみなこれをかこみてきつつ、ドルカスがともりしほどにつくりし下衣したぎ上衣うはぎせたり。 40 ペテロかれをみなそといだし、ひざまづきていのりしのち、ふりかへり屍體しかばねむかひて『タビタ、起󠄃きよ』とひたれば、かれひらき、ペテロを起󠄃反おきかへれり。
 255㌻ 
41 ペテロをあたへ、起󠄃おこして聖󠄄徒せいと寡婦󠄃やもめとをび、タビタをきたるままにてす。 42 このことヨツパぢゅうられたれば、おほくのひとしゅしんじたり。 43 ペテロ皮工かはなめしシモンのいへにありてひさしくヨツパにとゞまれり。

第10章

1 ここにカイザリヤにコルネリオといふひとあり、イタリヤたいとなふる軍隊ぐんたい百卒長ひゃくそつちゃうなるが、 2 敬虔けいけんにして全󠄃家族ぜんかぞくとともにかみおそれ、かつたみおほくの施濟ほどこしをなし、つねかみいのれり。 3 ある午後ごご三時さんじごろ幻影まぼろしのうちにかみ使つかひきたりて『コルネリオよ』とふをあきらかにたれば、 4 これをそそぎおそれてふ『しゅよ、何事なにごとぞ』御使みつかひいふ『なんぢのいのり施濟ほどこしとは、かみ前󠄃まへのぼりて記念きねんとせらる。 5 いまヨツパにひと遣󠄃つかはしてペテロととなふるシモンをまねけ、 6 かれ皮工かはなめしシモンのいへ宿やどる。そのいへ海邊うみべにあり』 7 かたれる御使みつかひりしのち、コルネリオおのしもべ二人ふたり從卒中じゅうそつちゅう敬虔けいけんなるもの一人ひとりとをび、 8 すべてのことげてヨツパに遣󠄃つかはせり。

9 くるかれらなほ途󠄃中とちゅうにあり、すでまち近󠄃ちかづかんとするころほひ、ペテロいのらんとてうへのぼる、ときひる十二じふにごろなりき。 10 飢󠄄ゑて物欲ものほしくなり、ひと食󠄃しょく調ととのふるほどにわれわすれし心地ここちして、 11 てんひらけ、うつはのくだるをる、おほいなるぬののごときものにして、四隅よすみもておろされたり。 12 そのなかには諸種もろもろよつあしのもの、ふもの、空󠄃そらとりあり。 13 またこゑありてふ『ペテロ、て、ほふりて食󠄃しょくせよ』 14 ペテロふ『しゅよ、からじ、われいまだ潔󠄄きよからぬものけがれたるもの食󠄃しょくせしことなし』〘186㌻〙 15 こゑふたゝびありてふ『かみ潔󠄄きよたまひしものを、なんぢ潔󠄄きよからずとすな』
 256㌻ 
16 かくのごときこと三度みたびにして、うつはただちにてんげられたり。

17 ペテロその幻影まぼろしなに意󠄃なるか、こゝろまどふほどに、よ、コルネリオより遣󠄃つかはされたるひと、シモンのいへ尋󠄃たづねてもん前󠄃まへち、 18 おとなひて、ペテロととなふるシモンの此處ここ宿やどるかをふ。 19 ペテロなほ幻影まぼろしきて打案うちあんじゐたるに、御靈みたまいひたまふ『よ、三人さんにんなんぢを尋󠄃たづぬ。 20 起󠄃ちてくだうたがはずしてともけ、かれらを遣󠄃つかはしたるはわれなり』 21 ペテロくだりて、かのひとたちにふ『よ、われなんぢらの尋󠄃たづぬるものなり、なにゆゑありてきたるか』 22 かれらふ『義人ぎじんにしてかみおそれ、ユダヤの國人くにびとうち令聞よききこえある百卒長ひゃくそつちゃうコルネリオ、聖󠄄せいなる御使みつかひより、なんぢいへまねきて、そのかたることをけとのつげけたり』 23 ここにペテロかれらを迎󠄃むかれて宿やどらす。
   くるたちてかれらとともでゆきしが、ヨツパの兄弟きゃうだい數人すにんともにけり。
24 くるカイザリヤにりしとき、コルネリオは親族しんぞくおよびしたしき朋友ほういうあつめてかれらをちゐたり。 25 ペテロきたれば、コルネリオこれ迎󠄃むかへ、その足下あしもとしてはいす。 26 ペテロかれ起󠄃おこしてふ『て、われひとなり』 27 かくてあひかたりつつうちり、おほくのひとあつまれるをて、ペテロこれふ、 28 『なんぢらのごとく、ユダヤびとたるものほか國人くにびとまじはりまた近󠄃ちかづくことは、律法おきて適󠄄かなはぬ所󠄃ところなり、れどかみは、なにひとをもけがれたるもの潔󠄄きよからぬものふまじきことをわれしめしたまへり。 29 このゆゑに、われまねかるるや躊躇ためらはずしてきたれり。ればふ、なんぢらはなにゆゑわれをまねきしか』 30 コルネリオふ『われ四日よっか前󠄃まへいへにて午後ごご三時さんじいのりをなし、時刻じこくいたりしに、よ、かゞやころもたるひと、わが前󠄃まへちて、 31 「コルネリオよ、なんぢいのりかれ、なんぢの施濟ほどこしかみ前󠄃まへおぼえられたり。 32 ひとをヨツパに送󠄃おくりてペテロととなふるシモンをまねけ、かれは海邊うみべなる皮工かはなめしシモンのいへ宿やどるなり」とへり。
 257㌻ 
33 われ速󠄃すみやかにひとなんぢ遣󠄃つかはしたるに、なんぢきたれるはかたじけなし。いま我等われらはみな、しゅなんぢめいたまひしすべてのことをかんとて、かみ前󠄃まへり』 34 ペテロくちひらきてふ、
   『われいままことにる、かみ偏󠄃かたよることをせず、
35 いづれのくにひとにてもかみうやまひてをおこなふものたまふことを。 36 かみはイエス・キリスト(これ萬民ばんみんしゅ)によりて平󠄃和へいわ福音󠄃ふくいんをのべ、イスラエルの子孫しそんことばをおくりたまへり。〘187㌻〙 37 すなはちヨハネのつたへしバプテスマののち、ガリラヤよりはじまり、ユダヤ全󠄃國ぜんこくひろまりしことばなるはなんぢらの所󠄃ところなり。 38 これはかみ聖󠄄せいれい能力ちからとをそゝたまひしナザレのイエスのことにして、かれあまねくめぐりてことをおこなひ、すべ惡魔󠄃あくませいせらるるものいやせり、かみこれとともいましたればなり。 39 我等われらはユダヤのおよびエルサレムにて、イエスのおこなたまひし諸般もろもろのことの證人しょうにんなり、人々ひとびとかれにかけてころせり。 40 かみこれ三日みっかめによみがへらせ、かつあきらかにあらはしたまへり。 41 れどすべてのたみにはあらで、かみあらかじめ選󠄄えらたまへる證人しょうにんすなはちイエスの死人しにんうちよりよみがへりたまひしのち、これととも飮食󠄃のみくひせしわれらにあらはたまひしなり。 42 イエスはおのれけるものにたるものとの審判󠄄さばきぬしに、かみよりさだめられしをあかしすることと、たみどもに宣傳のべつたふることとをわれらにめいたまふ。 43 かれにつきては預言者よげんしゃたちもみな、おほよそかれしんずるものの、そのによりてつみゆるしべきことをあかしす』

44 ペテロなほこれらのことばかたりをるうちに、聖󠄄せいれい御言みことばをきくすべてのものくだりたまふ。 45 ペテロとともきたりし割󠄅禮かつれいある信者しんじゃは、異邦人いはうじんにも聖󠄄せいれい賜物たまもののそそがれしにをどろけり。 46 そはかれらが異言いげんをかたり、かみあがむるをきたるにる。
 258㌻ 
47 ここにペテロこたへてふ『この人々ひとびとわれらのごと聖󠄄せいれいをうけたれば、たれみづきんじてのバプテスマをくることをこばんや』 48 遂󠄅つひにイエス・キリストの御名みなによりてバプテスマをさづけられんことをめいじたり。ここにかれらペテロに數日すにちとどまらんことを請󠄃へり。

第11章

1 使徒しとたちおよびユダヤに兄弟きゃうだいたちは、異邦人いはうじんかみことばけたりとく。 2 かくてペテロのエルサレムにのぼりしとき、割󠄅禮かつれいあるものどもかれなじりてふ、 3 『なんぢ割󠄅禮かつれいなきものうちりてこれとも食󠄃しょくせり』 4 ペテロりしことついでたゞしくいだしてふ、 5 『われヨツパのまちにていのるとき、われわすれし心地ここちし、幻影まぼろしにてうつはのくだるをる、おほいなるぬののごときものにして、四隅よすみもててんよりおろされもとにきたる。 6 われめてこれるに、よつあしのもの、けものふもの、空󠄃そらとりたり。 7 また「ペテロ、て、ほふりて食󠄃しょくせよ」といふこゑけり。 8 われいふ「しゅよ、からじ、潔󠄄きよからぬものけがれたるものは、かつくちりしことなし」 9 ふたゝてんよりこゑありてこたふ「かみ潔󠄄きよたまひしものを、なんぢ潔󠄄きよからずとな」〘188㌻〙 10 かくのごときこと三度みたびにして、終󠄃つひにはみなてん引上ひきあげられたり。 11 よ、三人さんにんものカイザリヤよりわれ遣󠄃つかはされて、はやわれらのいへ前󠄃まへてり。 12 御靈みたまわれに、うたがはずしてかれらとともくことをたまひたれば、ろくにん兄弟きゃうだいわれとともにきて、かのひといへれり。 13 かれはおのがいへ御使みつかひちて「ひとをヨツパに遣󠄃つかはし、ペテロととなふるシモンをまねけ、 14 そのひと、なんぢとなんぢ全󠄃家族ぜんかぞくとのすくはるべきことばかたらん」とふを、しことをわれらにげたり。 15 ここに、われかたづるや、聖󠄄せいれいかれらのうへくだりたまふ、はじわれらのうへくだりしごとし。 16 われしゅかつて「ヨハネはみづにてバプテスマをほどこししが、なんぢらは聖󠄄せいれいにてバプテスマをほどこされん」と宣給のたまひし御言みことばおもいだせり。
 259㌻ 
17 かみわれらがしゅイエス・キリストをしんぜしときにたまひしとおな賜物たまものかれらにもたまひたるに、われなにものなればかみはばん』 18 人々ひとびとこれをきて默然もくねんたりしが、やがかみあがめてふ『さればかみ異邦人いはうじんにも生命いのちさする悔改くいあらためあたたまひしなり』

19 かくてステパノによりて起󠄃おこりし迫󠄃害󠄅はくがいのためにちらされたるものども、ピニケ、クブロ、アンテオケまでいたり、ただユダヤびとにのみ御言みことばかたりたるに、 20 そのうちにクブロおよびクレネのひと數人すにんありて、アンテオケにきたりしとき、ギリシヤびとにもかたりてしゅイエスの福音󠄃ふくいん宣傳のべつたふ。 21 しゅかれらとともにありたれば、數多あまたひとしんじてしゅ歸依きえせり。 22 このことエルサレムに敎會けうくわいきこえたれば、バルナバをアンテオケに遣󠄃つかはす。 23 かれきたりて、かみ恩惠めぐみてよろこび、かれに、みなこゝろかたくしてしゅにをらんことをすゝむ。 24 かれ聖󠄄せいれい信仰しんかうとにて滿ちたるひとなればなり。ここにおほくの人々ひとびとしゅくははりたり。 25 かくてバルナバはサウロを尋󠄃たづねんとてタルソにき、 26 かれひてアンテオケに伴󠄃ともなひきたり、二人ふたりともに一年いちねんあひだかしこの敎會けうくわい集會あつまりでておほくのひとをしふ。弟子でしたちのキリステアンととなへらるることはアンテオケよりはじまれり。

27 そのころエルサレムより預言者よげんしゃたちアンテオケにくだる。 28 そのうち一人ひとりアガボとふもの起󠄃ちて、おほいなる飢󠄄饉ききん全󠄃世界ぜんせかいにあるべきことを御靈みたまによりてしめせるが、はたしてクラウデオのとき起󠄃おこれり。 29 ここに弟子でしたち各々おのおのちからおうじてユダヤに住󠄃兄弟きゃうだいたちに扶助たすけをおくらんことをさだめ、 30 遂󠄅つひこれをおこなひ、バルナバおよびサウロのたくして長老ちゃうらうたちにおくれり。〘189㌻〙
 260㌻ 

第12章

1 そのころヘロデわう敎會けうくわいのうちのあるひとどもをくるしめんとてくだし、 2 つるぎをもてヨハネの兄弟きゃうだいヤコブをころせり。 3 このことユダヤびとこゝろ適󠄄かなひたるをてまたペテロをもとらふ、ころ除酵祭じょかうさいときなりき。 4 すでにりてひとやれ、過󠄃越すぎこしのちたみのまへにいださんとの心構こゝろがまへにて、四人よにん一組ひとくみなる四組よくみ兵卒へいそつわたしてこれまもらせたり。 5 かくてペテロはひとやのなかにとらはれ、敎會けうくわい熱心ねっしんかれのためにかみいのりをなせり。 6 ヘロデこれをいださんとする前󠄃まへ、ペテロはふたつのくさりにてつながれ、二人ふたり兵卒へいそつのあひだにねむり、番兵ばんぺいらは門口かどぐちにゐてひとやまもりたるに、 7 よ、しゅ使つかひペテロのかたはらにちて、光明ひかり室內しつないにかがやく。御使みつかひかれのわきをたたき、さましていふ『起󠄃きよ』かくてくさりそのよりちたり。 8 御使みつかひいふ『おびをしめ、くつをはけ』かれそのごとたれば、又󠄂またいふ『上衣うはぎをまとひてわれしたがへ』 9 ペテロでてしたがひしが、御使みつかひのすることまことなるをらず、幻影まぼろしるならんとおもふ。 10 かくて第一だいいち第二だいに警固かため過󠄃ぎてまちるところのてつもんいたれば、もんおのづからかれのためにひらけ、あひともにいでてひとつのちまた過󠄃ぎしときただちに御使みつかひはなれたり。 11 ペテロわれかへりてふ『われいままことにる、しゅその使つかひ遣󠄃つかはしてヘロデの、およびユダヤのたみすべおもまうけしことより、われすくいだたまひしを』 12 さとりてマルコととなふるヨハネのははマリヤのいへきしが、其處そこには數多あまたのものあつまりていのりゐたり。 13 ペテロもんたゝきたれば、ロダといふ婢女はしためききにできたり、 14 ペテロのこゑなるをりて勸喜よろこびのあまりにかどけずしてはしり、ペテロのかど前󠄃まへてることをげたれば、 15 かれら『なんぢはくるへり』とふ。れどロダはそれなりと言張いひはる。かれらふ『それはペテロの御使みつかひならん』
 261㌻ 
16 しかるにペテロなほたゝきてまざれば、かれらもんをひらきこれおどろけり。 17 かれうごかして人々ひとびとしづめ、しゅおのれひとやより導󠄃みちびきいだしたまひしことを具󠄄つぶさかたり『これをヤコブと兄弟きゃうだいたちとにげよ』とひてほかところけり。 18 夜明よあけになりてペテロは如何いかにせしとて兵卒へいそつうちさわぎ一方ひとかたならず。 19 ヘロデこれもとむれど見出みいださず、遂󠄅つひ守卒しゅそつただして死罪しざいめいじ、しかしてユダヤよりカイザリヤにくだりてとゞまれり。

20 さてヘロデ、ツロとシドンとの人々ひとびといたいかりたれば、たみどもこゝろひとつにしてかれもとにいたり、わう內侍ないじしんブラストにりて和諧やはらぎもとむ。かれらの地方ちはうわうくにより食󠄃品しょくひんるにりてなり。〘190㌻〙 21 ヘロデさだめたるおよびてわう服󠄃ふく高座かうざしてことべたれば、 22 集民しふみんよばはりて『これかみこゑなり、ひとこゑにあらず』とふ。 23 ヘロデかみ榮光えいくわうせぬにりて、しゅ使つかひたちどころにかれちたれば、むしまれていきえたり。

24 かくしゅ御言みことばいよいよ增々ますますひろまる。

25 バルナバ、サウロはその職務つとめはたし、マルコととなふるヨハネを伴󠄃ともなひてエルサレムよりかへれり。

第13章

1 アンテオケの敎會けうくわいにバルナバ、ニゲルととなふるシメオン、クレネびとルキオ、國守こくしゅヘロデの乳󠄃兄弟きゃうだいマナエンおよびサウロなどいふ預言者よげんしゃ敎師けうしとあり。 2 かれらがしゅつか斷食󠄃だんじきしたるとき聖󠄄せいれいいひたまふ『わがしておこなはせんとするわざためにバルナバとサウロとを選󠄄えらわかて』 3 こゝかれ斷食󠄃だんじきし、いのりて、二人ふたりうへきてかしむ。

 262㌻ 
4 この二人ふたり聖󠄄せいれい遣󠄃つかはされてセルキヤにくだり、彼處かしこよりふねにてクプロにわたり、 5 サラミスにきてユダヤびとしょ會堂くわいだうにてかみことば宣傳のべつたへ、またヨハネを助人たすけてとして伴󠄃ともなふ。 6 あまねくこのしまきてパポスにいたり、バルイエスといふユダヤびとにてにせ預言者よげんしゃたる魔󠄃術まじゅつしゃ遇󠄃ふ。 7 かれ地方ちはう總督そうとくなる慧󠄄さとひとセルギオ・パウロとともにありき。總督そうとくはバルナバとサウロとをまねかみことばかんとしたるに、 8 かの魔󠄃術まじゅつしゃエルマ(このけば魔󠄃術まじゅつしゃ二人ふたりてきたいして總督そうとく信仰しんかう道󠄃みちよりはなれしめんとせり。 9 サウロ又󠄂またはパウロ、聖󠄄せいれい滿みたされ、かれめてふ、 10 『ああらゆる詭計たばかり奸惡かんあくとにて滿ちたるもの惡魔󠄃あくま、すべてのてきよ、なんぢしゅなほ道󠄃みちげてまぬか。 11 よ、いましゅ御手みてなんぢのうへにあり、なんぢ盲目めしひとなりてしばらざるべし』かくて立刻たちどころかすみやみと、そのおほひたれば、さぐまはりて導󠄃みちびきくるるものもとむ。 12 こゝ總督そうとくこのりしことて、しゅをしへをどろきてしんじたり。

13 さてパウロおよこれ伴󠄃ともな人々ひとびと、パポスより船出ふなでしてパンフリヤのペルガにいたり、ヨハネははなれてエルサレムにかへれり。 14 かれらはペルガより進󠄃すゝきてピシデヤのアンテオケにいたり、安息あんそくにち會堂くわいだうりてせり。 15 律法おきておよび預言者よげんしゃふみ朗讀らうどくありしのち、會堂くわいだうつかさたちひとかれらに遣󠄃つかはし『兄弟きゃうだいたちよ、もしたみすゝめことばあらばへ』とはしめたれば、 16 パウロ起󠄃ちてうごかしてふ、
   『イスラエルの人々ひとびとおよびかみおそるるものよ、け。〘191㌻〙
 263㌻ 
17 このイスラエルのたみかみは、われらの先祖せんぞ選󠄄えらび、そのエジプトの寄寓やどりせしとき、わがたみをおこし、つよ御腕みうでにてこれ導󠄃みちびきいだし、 18 おほよ四十しじふねんのあひだ、荒野あらのにて、かれらの《[*]》所󠄃作しわざ忍󠄄しのび、[*異本「を養󠄄ひ育て」とあり。] 19 カナンのにてなゝつの民族みんぞくをほろぼし、そのかれらにがしめて、 20 おほよひゃくじふねんたり。ののち、預言者よげんしゃサムエルの時代じだいまで審判󠄄さばきひとたまひしを、 21 のちいたりてかれわうもとめたれば、かみこれにキスのサウロとふベニヤミンのやからひと四十しじふねんのあひだたまひ、 22 これ退󠄃しりぞけてのち、ダビデをげてわうとなし、かつこれをあかしして「われエッサイのダビデといふこゝろ適󠄄かなもの見出みいだせり、かれわが意󠄃こゝろをことごとくおこなはん」と宣給のたまへり。 23 かみ約束やくそくしたがひてひとすゑよりイスラエルのため救主すくひぬしイエスをおこたまひしが、 24 そのきた前󠄃まへにヨハネあらかじめイスラエルのすべてのたみ悔改くいあらためのバプテスマを宣傳のべつたへたり。 25 かくてヨハネおのはしるべき道󠄃程みちのり終󠄃へんとするとき「なんぢらわれたれおもふか、われはかのひとにあらず、われおくれてきたものあり、われはそのくつひもくにもらず」とへり。 26 兄弟きゃうだいたち、アブラハムの血統ちすぢおよなんぢのうちかみおそるるものよ、このすくひことばわれらにおくられたり。 27 それエルサレムに住󠄃めるものおよびつかさらは、かれをも安息あんそくにちごとにむところの預言者よげんしゃたちのことばをもらず、かれつみなひて預言よげん成就じゃうじゅせしめたり。 28 そのあたるべきゆゑざりしかどピラトにころさんことをもとめ、 29 かれにつきてしるされたることをことごとくしをへかれよりおろしてはか納󠄃をさめたり。 30 されどかみかれ死人しにんうちよりよみがへらせたまへり。 31 かくてイエスはおのれともにガリラヤよりエルサレムにのぼりしものおほくののあひだあらはたまへり。その人々ひとびといまたみ前󠄃まへにイエスの證人しょうにんたるなり。
 264㌻ 
32 われらも先祖せんぞたちがあたへられし約束やくそくにつきてよろこばしき音󠄃信おとづれなんぢらにぐ、 33 かみはイエスをよみがへらせて、その約束やくそくわれらの子孫しそん成就じゃうじゅしたまへり。すなは第二だいにへんに「なんぢはなり、われ今日けふなんぢをめり」としるされたるがごとし。 34 また朽腐くされせざるさまかれ死人しにんうちよりよみがへらせたまひしこときては、宣給のたまへり。いはく「われダビデにやくせしかた聖󠄄せいなる恩惠めぐみなんぢらにあたへん」 35 そはほかへんに「なんぢはなんぢ聖󠄄者しゃうじゃ朽腐くされせざらしむべし」とへり。 36 それダビデは、そのにてかみ御旨みむねおこなひ、終󠄃つひねむりて先祖せんぞたちとともかれ、かつ朽腐くされしたり。 37 れどかみよみがへらせたまひしもの朽腐くされせざりき。〘192㌻〙 38 このゆゑ兄弟きゃうだいたちよ、なんぢれ。このひとによりてつみゆるしのなんぢらにつたへらるることを。 39 なんぢらモーセの律法おきてによりてとせられざりしすべてのことも、しんずるものみなこのひとによりてとせらるることを。 40 ればなんぢこゝろせよ、おそらくは預言者よげんしゃたちのふみひたることきたらん、 41 いはく 「あなどるものよ、なんぢらよ、 おどろけ、ほろびよ、 われなんぢらのひとつのことおこなはん。 これをなんぢらに具󠄄つぶさぐるものありとも しんぜざるほどことなり」』

42 かれらが會堂くわいだうづるとき、人々ひとびとこれらのことばつぎ安息あんそくにちにもかたらんことを請󠄃ふ。 43 集會あつまりさんぜしのちユダヤびとおよび敬虔けいけんなる改宗者かいしゅうしゃおほくパウロとバルナバとにしたがきたれば、かれらにかたりてかみ恩惠めぐみとゞまらんことをすゝめたり。

44 つぎ安息あんそくにちにはかみことばかんとてほとんまちこぞりてあつまりたり。 45 れどユダヤびとはその群衆ぐんじゅうねたみ滿みたされ、パウロのかたることに逆󠄃さからひてのゝしれり。 46 パウロとバルナバとはおくせずしてふ『かみことばなんぢらにかたるべかりしを、なんぢこれをしりぞけておのれ永遠󠄄とこしへ生命いのち相應ふさはしからぬものみづかさだむるによりて、よ、われてんじて異邦人いはうじんむかはん。
 265㌻ 
47 それしゅわれらにめいたまへり。いはく 「われなんぢてて異邦人いはうじんひかりとせり。 はてにまですくひとならしめんためなり」』 48 異邦人いはうじんこれきてよろこび、しゅことばをあがめ、又󠄂またとこしへの生命いのちさだめられたるものはみなしんじ、 49 しゅことばこのあまねひろまりたり。 50 しかるにユダヤびとら、敬虔けいけんなる貴女きぢょたちおよまち重立おもだちたる人々ひとびとそゝのかして、パウロとバルナバとに迫󠄃害󠄅はくがいをくはへ、遂󠄅つひかれらをさかひより逐󠄃いだせり。 51 二人ふたりかれらにむかひてあしちりをはらひ、イコニオムにく。 52 弟子でしたちは喜悅よろこび聖󠄄せいれいとにて滿みたされたり。

第14章

1 二人ふたりはイコニオムにてあひともにユダヤびと會堂くわいだうりてかたりたれば、これりてユダヤびとおよびギリシヤびとあまたしんじたり。 2 しかるにしたがはぬユダヤびと異邦人いはうじんそゝのかし、兄弟きゃうだいたちにたいして惡意󠄃あくいいだかしむ。 3 二人ふたりひさしくとゞまり、しゅによりておくせずしてかたり、しゅかれらのにより、しるし不思議ふしぎとをおこなひてめぐみ御言みことばあかししたまふ。 4 こゝまち人々ひとびとあひ分󠄃わかれてあるものはユダヤびとくみし、あるもの使徒しとたちにくみせり。〘193㌻〙 5 異邦人いはうじん、ユダヤびとおよびつかさあひとも使徒しとたちをはづかしめ、いしにてたんとくはだてしに、 6 かれさとりてルカオニヤのまちなるルステラ、デルベおよびそのあたりにのがれ、 7 彼處かしこにて福音󠄃ふくいん宣傳のべつたふ。

8 ルステラにあし弱󠄃よわひとありてしゐたり、うまれながらの跛者あしなへにてかつあゆみたることなし。 9 このひとパウロのかたるをきゐたるが、パウロこれをとめ、すくはるべき信仰しんかうあるをて、 10 大聲おほごゑに『なんぢのあしにて眞直ますぐ起󠄃て』とひたれば、かれ躍󠄃をどあがりてあゆめり。
 266㌻ 
11 群衆ぐんじゅう、パウロのししことをこゑげ、ルカオニヤの國語くにことばにて『かみたちひとかたちをかりてわれらにくだたまへり』とひ、 12 バルナバをゼウスととなへ、パウロをむねかたひとなるゆゑにヘルメスととなふ。 13 しかしてまちそとなるゼウスのみや祭司さいし數匹すひきうしはな飾󠄃かざりとをもん前󠄃まへたづさへきたりて群衆ぐんじゅうとともに犧牲いけにへさゝげんとせり。 14 使徒しとたち、すなはちバルナバとパウロとこれきておのころもをさき群衆ぐんじゅうのなかにり、 15 よばはりてふ『人々ひとびとよ、なんぞかゝことをなすか、われらもなんぢらとおな情󠄃じゃうてるひとなり、なんぢらに福音󠄃ふくいんべてかゝむなしきものよりはなれ、てんうみとそのなかにあるらゆるものとを造󠄃つくたまひしけるかみかへらしめんとるなり。 16 過󠄃ぎし時代じだいにはかみ、すべての國人くにびとおの道󠄃々みちみちあゆむにまかたまひしかど、 17 また自己みづからあかしたまはざりしことなし。すなはことをなし、てんよりあめたまひ、豐穰みのりときをあたへ、食󠄃物しょくもつ勸喜よろこびとをもてなんぢらのこゝろ滿らはせたまひしなり』 18 ひてからうじて群衆ぐんじゅうおのれらに犧牲いけにへさゝげんとするをとゞめたり。

19 しかるに數人すにんのユダヤびと、アンテオケおよびイコニオムよりきたり、群衆ぐんじゅうすゝめ、しかしてパウロをいしにてち、すでにたりとおもひてまちそといだせり。 20 弟子でしたちこれたちかこみゐたるに、パウロ起󠄃きてまちる。くるバルナバとともにデルベにき、 21 そのまち福音󠄃ふくいん宣傳のべつたへ、おほくのひと弟子でしとしてのち、ルステラ、イコニオム、アンテオケに還󠄃かへり、 22 弟子でしたちのこゝろかたうし信仰しんかうとゞまらんことをすゝめ、またわれらがおほくの艱難なやみかみくにるべきことををしふ。 23 また敎會けうくわいごと長老ちゃうらうをえらび、斷食󠄃だんじきしていのり、弟子でしたちをしんずる所󠄃ところしゅゆだぬ。
 267㌻ 
24 かくてピシデヤをてパンフリヤにいたり、 25 ペルガにて御言みことばかたりてのちアタリヤにくだり、 26 彼處かしこより船出ふなでして、そのてたるつとめのためにかみめぐみみにゆだねられしところなるアンテオケにけり。〘194㌻〙 27 すでいたりて敎會けうくわい人々ひとびとあつめたれば、かみおのれらとともいましてたまひしすべてのことならび信仰しんかうもん異邦人いはうじんにひらきたまひしことを述󠄃ぶ。 28 かくひさしくとゞまりて弟子でしたちとともにゐたり。

第15章

1 人々ひとびとユダヤよりくだりて兄弟きゃうだいたちに『なんぢらモーセのれい遵󠄅したがひて割󠄅禮かつれいけずばすくはるるをず』とをしふ。 2 こゝかれらとパウロおよびバルナバとのあひだに、おほいなる紛爭あらそひ議論ぎろん起󠄃おこりたれば、兄弟きゃうだいたちはパウロ、バルナバおよびそのうち數人すにんをエルサレムにのぼらせ、問題もんだいにつきて使徒しと長老ちゃうらうたちにはしめんとさだむ。 3 かれら敎會けうくわい人々ひとびと送󠄃おくられて、ピニケおよびサマリヤを異邦人いはうじん改宗かいしゅうせしことを具󠄄つぶさげて、すべての兄弟きゃうだいおほいなる喜悅よろこびさせたり。 4 エルサレムにいたり、敎會けうくわい使徒しと長老ちゃうらうとに迎󠄃むかへられ、かみおのれらとともいましてたまひしすべてのこと述󠄃べたるに、 5 信者しんじゃとなりたるパリサイある人々ひとびとちて『異邦人いはうじんにも割󠄅禮かつれいほどこし、モーセの律法おきてまもることをめいぜざるからず』とふ。

6 こゝ使徒しと長老ちゃうらうたちことにつきて協議けふぎせんとてあつまる。 7 おほくの議論ぎろんありしのち、ペテロ起󠄃ちてふ 『兄弟きゃうだいたちよ、なんぢらのるごとく、ひさしき前󠄃まへかみは、なんぢらのうちよりわれ選󠄄えらび、わがくちより異邦人いはうじん福音󠄃ふくいんことばかせ、これしんぜしめんとしたまへり。 8 ひとこゝろりたまふかみは、われらとおなじく、かれにも聖󠄄せいれいあたへてあかしをなし、
 268㌻ 
9 かつ信仰しんかうによりてかれらのこゝろをきよめ、われらとかれらとのあひだへだてたまはざりき。 10 しかるになにかみこゝろみて弟子でしたちのくびわれらの先祖せんぞわれらも負󠄅あたはざりしくびきをかけんとするか。 11 しからず、われらのすくはるるもかれらとひとしくしゅイエスの恩惠めぐみることをわれらはしんず』

12 こゝ會衆くわいしゅうみなもくして、バルナバとパウロとのおのれによりてかみ異邦人いはうじんのうちにたまひしおほくのしるし不思議ふしぎとを述󠄃ぶるをく。 13 かれらのかた終󠄃へしのち、ヤコブこたへてふ 『兄弟きゃうだいたちよ、われけ、 14 シメオンすでかみはじめて異邦人いはうじん顧󠄃かへりみ、そのうちより御名みな負󠄅ふべきたみたまひしことを述󠄃べしが、 15 預言者よげんしゃたちのことばもこれとへり。 16 しるして 「こののちわれかへりて、 たふれたるダビデの幕屋まくやふたゝ造󠄃つくり、 そのくづれし所󠄃ところふたゝ造󠄃つくり、 しかしてこれてん。〘195㌻〙 17 これ殘餘のこり人々ひとびとしゅ尋󠄃たづもとめ、 すべをもてとなへらるる異邦人いはうじんも またしかせんためなり。 18 いにしへよりこれのことをらしめたましゅ、 これをたまふ」とあるがごとし。 19 これによりてわれ判󠄄斷はんだんす、異邦人いはうじんうちよりかみ歸依きえするひとわづらはすべきにあらず。 20 ただおくりて、偶像ぐうざうけがされたるもの淫行いんかう絞殺しめころしたるものとを避󠄃けしむべし。 21 むかしより、いづれのまちにもモーセをぶるものありて安息あんそくにちごとしょ會堂くわいだうにてそのふみめばなり』

22 こゝ使徒しと長老ちゃうらうたちおよ全󠄃ぜん敎會けうくわいは、そのうちよりひと選󠄄えらびてパウロ、バルナバとともにアンテオケに送󠄃おくることをしとせり。選󠄄えらばれたるは、バルサバととなふるユダとシラスとにて、兄弟きゃうだいたちのうち重立おもだちたるものなり。 23 これたくしたるふみにいふ『使徒しとおよび長老ちゃうらうたる兄弟きゃうだいら、アンテオケ、シリヤ、キリキヤに異邦人いはうじん兄弟きゃうだいたちの平󠄃安へいあんいのる。
 269㌻ 
24 我等われらのうちの人々ひとびとわれらがめいじもせぬに、ことばをもてなんぢらをわづらはし、なんぢらのこゝろみだしたりときたれば、 25 われこゝろひとつにしてひと選󠄄えらびて、 26 われらのしゅイエス・キリストののために生命いのちをしまざりしものなる、われらのあいするバルナバ、パウロとともなんぢらに遣󠄃つかはすことをしとせり。 27 これによりてわれらユダとシラスとを遣󠄃つかはす、かれらもくちづからこれのことを述󠄃べん。 28 聖󠄄せいれいわれらとは肝要󠄃かんえうなるもののほかなにをもなんぢらに負󠄅はせぬをしとするなり。 29 すなは偶像ぐうざうさゝげたるもの絞殺しめころしたるもの淫行いんかうとを避󠄃くべきことなり、なんぢこれをつゝしまばし。なんぢらすこやかなれ』

30 かれらわかれげてアンテオケにくだり、人々ひとびとあつめてふみわたす。 31 人々ひとびとこれを慰安なぐさめよろこべり。 32 ユダもシラスもまた預言者よげんしゃなれば、おほくのことばをもて兄弟きゃうだいたちをすゝめてかれらをかたうし、 33 しばらとゞまりてのち、兄弟きゃうだいたちに平󠄃安へいあんしくせられ、わかれげて、おのれらを遣󠄃つかはししものかへれり。 34 [なし]《[*]》[*異本「シラスはそこに留るをよしとせり」の句あり。] 35 かくてパウロとバルナバとはなほアンテオケにとゞまりておほくのひととともにしゅ御言みことばをしへ、かつ宣傳のべつたへたり。

36 數日すにちのちパウロはバルナバにふ『いざわれさきしゅ御言みことばつたへしすべてのまちにまたきて兄弟きゃうだいたちをひ、その安否あんぴ尋󠄃たづねん』 37 バルナバはマルコととなふるヨハネを伴󠄃ともなはんと望󠄇のぞみ、 38 パウロはかれかつてパンフリヤよりはなりて勤勞はたらきのためにともかざりしをもて伴󠄃ともなふはよろしからずとおもひ、〘196㌻〙 39 はげしき爭論あらそひとなりて遂󠄅つひ二人ふたりあひわかれ、バルナバはマルコを伴󠄃ともなひ、ふねにてクプロにわたり、 40 パウロはシラスを選󠄄えらび、兄弟きゃうだいたちよりしゅ恩惠めぐみゆだねられてち、 41 シリヤ、キリキヤをしょ敎會けうくわいかたうせり。
 270㌻ 

第16章

1 かくてパウロ、デルベとルステラとにいたりたるに、よ、彼處かしこにテモテと弟子でしあり、そのはは信者しんじゃなるユダヤびとにて、父󠄃ちちはギリシヤびとなり。 2 かれはルステラ、イコニオムの兄弟きゃうだいたちのうち令聞よききこえあるものなり。 3 パウロかれのともつことをほっしたれば、そのあたりるユダヤびとのためにこれ割󠄅禮かつれいおこなへり、その父󠄃ちちのギリシヤびとたるをすべてのひとゆゑなり。 4 かく町々まちまちゆきて、エルサレムに使徒しと長老ちゃうらうたちのさだめしのりまもらせんとて、これ人々ひとびとさづけたり。 5 こゝしょ敎會けうくわいはその信仰しんかうかたうせられ、人員ひとかず日每ひごとにいやせり。

6 かれらアジヤにて御言みことばかたることを聖󠄄せいれいきんぜられたれば、フルギヤおよびガラテヤのゆきて、 7 ムシヤに近󠄃ちかづき、ビテニヤにかんとこゝろみたれど、イエスの御靈みたまゆるたまはず、 8 遂󠄅つひにムシヤを過󠄃ぎてトロアスにくだれり。 9 パウロよる幻影まぼろしたるに、一人ひとりのマケドニヤびとあり、ちておのれまねき『マケドニヤにわたりてわれらをたすけよ』とふ。 10 パウロこの幻影まぼろしたれば、われらはかみのマケドニヤびと福音󠄃ふくいん宣傳のべつたへしむるためわれらをたまふこととおもさだめて、たゞちにマケドニヤにおもむかんとり。

11 さてトロアスより船出ふなでして眞直ますぐにはせてサモトラケにいたり、つぎネアポリスにつき、 12 彼處かしこよりピリピにゆく。ここはマケドニヤのうちにて、このあたり第一だいいちまちにして殖民地しょくみんちなり、われら數日すにちあひだこのまちとゞまる。 13 安息あんそくにちまちもんでて祈場いのりばあらんとおもはるるかはのほとりにき、其處そこして、あつまれるをんなたちにかたりたれば、 14 テアテラのまちむらさきぬの商人あきうどにしてかみうやまふルデヤとをんなききりしが、しゅそのこゝろをひらきつゝしみてパウロのかたことばをきかしめたまふ。
 271㌻ 
15 かれおのれ家族かぞくもバプテスマをけてのち、われらにすゝめてふ『なんぢらわれしゅ信者しんじゃなりとせば、いへきたりてとゞまれ』ひてわれらをとゞめたり。

16 われら祈場いのりば途󠄃中とちゅう卜筮うらなひれいつかれて卜筮うらなひをなし、主人しゅじんらにおほくのさする婢女はしため、われらに遇󠄃ふ。 17 かれはパウロおよわれらののちしたがひつつさけびてふ『このひとたちは至高いとたかかみしもべにてなんぢらにすくひ道󠄃みちをしふるものなり』〘197㌻〙 18 幾日いくひくするをパウロうれひて振反ふりかへり、そのれいふ『イエス・キリストのによりてなんぢに、このをんなよりでんことめいず』れいただちにでたり。

19 しかるにこのをんな主人しゅじん望󠄇のぞみのなくなりたるをてパウロとシラスとをとらへ、市場いちばきてつかさたちにき、 20 これ上役うはやくらにいだしてふ『この人々ひとびとはユダヤびとにてわれらのまちいたさわがし、 21 われらロマびとたるものくまじく、おこなふまじき習慣ならはしつたふるなり』 22 群衆ぐんじゅうひとしく起󠄃おこちたれば、上役うはやくめいじてころもぎ、かつしもとにてたしむ。 23 おほちてのちひとやれ、獄守ひとやもりかたまもるべきことをめいず。 24 獄守ひとやもりこの命令めいれいけて二人ふたりおくひとやれ、かせにてそのあしきたり。 25 夜半󠄃よなかごろパウロとシラスといのりてかみ讃美さんびする囚人めしうどきゐたるに、 26 にはかおほいなる地震ぢしんおこりて牢舍らうやもとゐふるひうごき、そのたちどころにみなひらけ、すべての囚人めしうど縲絏なはめとけたり。 27 獄守ひとやもりさめひとやひらけたるをて、囚人めしうどにげれりとおもひ、かたなきて自殺じさつせんとしたるに、 28 パウロ大聲おほごゑよばはりてふ『みづから害󠄅そこなふな、われみなここにり』 29 獄守ひとやもり燈火ともしびもとめ、りてをのゝきつつパウロとシラスとの前󠄃まへ平󠄃伏ひれふし、 30 これいだしてふ『きみたちよ、われすくはれんためなにをなすべきか』 31 二人ふたりふ『しゅイエスをしんぜよ、らばなんぢなんぢ家族かぞくすくはれん』
 272㌻ 
32 かくかみことば獄守ひとやもりとそのいへすべての人々ひとびとかたれり。 33 この即時そくじ獄守ひとやもりかれらを引取ひきとりて、その打傷うちきずあらひ、遂󠄅つひおのれおのれぞくするものもみなたゞちにバプテスマをけ、 34 かつ二人ふたり自宅じたく伴󠄃ともなひて食󠄃事しょくじをそなへ、全󠄃家ぜんかとともにかみしんじてよろこべり。

35 夜明よあけになりて上役うはやくらは警吏けいりどもを遣󠄃つかはして『かの人々ひとびとゆるせ』とはせたれば、 36 獄守ひとやもりこれらのことばをパウロにげてふ『上役うはやくひと遣󠄃つかはしてなんぢらをゆるさんとす。ればいまいでてやすらかにけ』 37 ここにパウロ警吏けいりふ『われらはロマびとたるにつみさだめずして公然おほやけむちうち、ひとやれたり。しかるにいまひそかにわれらをいださんとるか。しかるべからず、かれみづからきたりてわれらをいだすべし』 38 警吏けいりこれらのことば上役うはやくげたれば、のロマびとたるをきておそれ、 39 きたなだめて二人ふたりいだし、かつまちらんことを請󠄃ふ。 40 二人ふたりひとやでてルデヤのいへり、兄弟きゃうだいたちにひ、すゝめをなしてけり。〘198㌻〙

第17章

1 かくてアムピポリスおよびアポロニヤをてテサロニケにいたる。此處ここにユダヤびと會堂くわいだうありたれば、 2 パウロはれいのごとくかれらのうちり、つの安息あんそくにちにわたり、聖󠄄書せいしょもとづきてろんじ、かつあかして、 3 キリストのかなら苦難くるしみをうけ、死人しにんうちよりよみがへるべきことを述󠄃べ『わがなんぢらにつたふるのイエスはキリストなり』とあかしせり。 4 そのうちのある人々ひとびとおよび敬虔けいけんなる數多あまたのギリシヤびと、またおほくの重立おもだちたるをんなしんじてパウロとシラスとにしたがへり。 5 こゝにユダヤびとねたみ起󠄃おこしていち無賴者あぶれものをかたらひ、群衆ぐんじゅうあつめてまちさわがし、又󠄂またふたりを集民しふみん前󠄃まへいださんとしてヤソンのいへかこみしが、 6 見出みいださざれば、ヤソンと數人すにん兄弟きゃうだいとをまちつかさたちの前󠄃まへききたりよばはりてふ『天下てんか顚覆くつがへしたるものども此處ここにまできたれるを、
 273㌻ 
7 ヤソン迎󠄃むかれたり。この曹輩ともがらみなカイザルの詔勅みことのりにそむきほかにイエスとわうありとふ』 8 これをききて群衆ぐんじゅうまちつかさたちとこゝろさわがし、 9 保證ほしょうりてヤソンとほか人々ひとびととをゆるせり。

10 兄弟きゃうだいたちたゞちによるにパウロとシラスとをベレヤに送󠄃おくりいだす。二人ふたり彼處かしこにつきてユダヤびと會堂くわいだうにいたる。 11 此處ここ人々ひとびとはテサロニケにひとよりも善良ぜんりゃうにしてこゝろより御言みことばをうけ、このことまさしくしかるかしからぬか日々ひゞ聖󠄄書せいしょをしらぶ。 12 このゆゑにそのうちおほくのものしんじたり、又󠄂またギリシヤの貴女きぢょ男子だんしにしてしんじたるものすくなからざりき。 13 しかるにテサロニケのユダヤびとらパウロがベレヤにもかみことばつたふることをきたれば、此處ここにもきたりて群衆ぐんじゅううごかし、かつさわがしたり。 14 こゝ兄弟きゃうだいたちたゞちにパウロを送󠄃おくいだして海邊うみべかしめ、シラスとテモテとはなほベレヤにとゞまれり。 15 パウロを導󠄃みちびける人々ひとびとはアテネまで伴󠄃ともなき、パウロよりシラスとテモテとに、われきたれとのめいけてれり。

16 パウロ、アテネにてかれらをちをるほどに、まち偶像ぐうざう滿ちたるをて、そのこゝろ憤慨いきどほりいだく。 17 されば會堂くわいだうにてはユダヤびとおよび敬虔けいけんなる人々ひとびとろんじ、市場いちばにては日々ひゞふところのものろんじたり。 18 かくてエピクロスならびにストア哲學者てつがくしゃ數人すにんこれとろんじあひ、あるものらはふ『このさへづものなにをはんとするか』あるものらはふ『かれはことなる神々かみがみつたふるものごとし』これはパウロがイエスと復活よみがへりとをべたるゆゑなり。 19 遂󠄅つひにパウロを《[*]》アレオパゴスにきてふ『なんぢがかたるこのあたらしきをしへ如何いかなるものなるを、われべきか。[*「アレオの山」の意󠄃。]〘199㌻〙 20 なんぢことなることわれらのみみるるがゆゑに、われらその何事なにごとたるをらんとおもふなり』
 274㌻ 
21 アテネびとも、彼處かしこ住󠄃旅人たびびとも、みなただあたらしきことあるひかたり、あるひきてのみ送󠄃おくりゐたり。 22 パウロ、アレオパゴスのなかちて
   『アテネびとよ、われすべてのこときてなんぢらが神々かみがみうやまこゝろあつきをる。
23 われなんぢらがをがむものをつつ道󠄃みち過󠄃ぐるほどに「らざるかみに」としるしたるひとつの祭壇さいだん見出みいだしたり。ればわれなんぢらがらずしてをが所󠄃ところのものをなんぢらにしめさん。 24 世界せかいとそのなかのあらゆるものとを造󠄃つくたまひしかみは、てんしゅにましませば、にて造󠄃つくれるみや住󠄃たまはず。 25 みづからすべてのひと生命いのちいきよろづものとをあたたまへば、ものとぼしき所󠄃ところあるがごとく、ひとにてつかふることを要󠄃えうたまはず。 26 一人ひとりよりして諸種もろもろ國人くにびと造󠄃つくりいだし、これ全󠄃面ぜんめん住󠄃ましめ、時期ときかぎり住󠄃居すまひさかひとをさだたまへり。 27 これひとをしてかみ尋󠄃たづねしめ、あるひさぐりていだことあらしめんためなり。されどかみ我等われらおのおのをはなたまふこと遠󠄄とほからず、 28 われらはかみうちき、うごきまたるなり。なんぢらの詩人しじんうちあるものどもも「われらは又󠄂またそのすゑなり」とへるごとし。 29 かくかみすゑなれば、かみきんぎんいしなどひとわざ思考かんがへとにてきざめるものひとしくおもふべきにあらず。 30 かみかゝ無知むち時代じだい過󠄃すごしにたまひしが、いま何處いづこにてもすべてのひと悔改くいあらたむべきことをげたまふ。 31 さきたまひし一人ひとりによりてをもて世界せかいさばかんためにをさだめ、かれ死人しにんうちよりよみがへらせて保證ほしょう萬人ばんにんあたたまへり』

32 人々ひとびと死人しにん復活よみがへりをききて、あるもの嘲笑あざわらひしが、あるものは『われらまたこのことなんぢかん』とへり。 33 こゝにパウロ人々ひとびとのなかをる。 34 されどかれ附隨つきしたがひてしんじたるもの數人すにんあり。うちにアレオパゴスの裁判󠄄人さいばんにんデオヌシオおよびダマリスとづくるをんなあり、なほそのほかにもありき。
 275㌻ 

第18章

1 こののちパウロ、アテネをはなれてコリントにいたり、 2 アクラとふポントにうまれたるユダヤびと遇󠄃ふ。クラウデオ、ユダヤびとにことごとくロマを退󠄃しりぞくべきめいくだしたるによりて、近󠄃頃ちかごろそのつまプリスキラとともにイタリヤよりきたりしものなり。 3 パウロもといたりしに、同業どうげふなりしかばともりてわざをなせり。かれらのわざ幕屋まくや製造󠄃つくりなり。 4 かく安息あんそくにちごと會堂くわいだうにてろんじ、ユダヤびととギリシヤびととをすゝむ。
〘200㌻〙
5 シラスとテモテとマケドニヤよりきたりてのちはパウロもっぱ御言みことばぶることにつとめ、イエスのキリストたることをユダヤびとあかしせり。 6 しかるに、かれこれ逆󠄃さからひ、かつのゝしりたれば、パウロころもはらひてふ『なんぢらのなんぢらのかうべすべし、われ潔󠄄いさぎよし、いまより異邦人いはうじんかん』 7 遂󠄅つひ此處ここりてかみうやまふテテオ・ユストとひといへいたる。このいへ會堂くわいだうとなれり。 8 會堂くわいだうつかさクリスポその家族かぞく一同いちどうともしゅしんじ、またおほくのコリントびときてしんじ、かつバプテスマをけたり。 9 しゅよるまぼろしのうちにパウロにたまふ『おそるな、かたれ、もくすな、 10 われなんぢとともにあり、たれなんぢめて害󠄅そこなものなからん。まちにはおほくのたみあり』 11 かくてパウロ一年いちねん六个月ろくかげつここにとゞまりてかみことばをしへたり。

12 ガリオ、アカヤの總督そうとくたるとき、ユダヤびとこゝろひとつにしてパウロをめ、審判󠄄さばききゆき、 13 『このひと律法おきてにかなはぬ仕方しかたにてかみをがむことをひとすゝむ』とひたれば、 14 パウロくちひらかんとせしに、ガリオ、ユダヤびとふ『ユダヤびとよ、不正ふせいまたは奸惡かんあくことならば、なんぢらにくは道󠄃理ことわりなれど、
 276㌻ 
15 もしことばあるひはなんぢらの律法おきてにかかはる問題もんだいならば、なんぢみづからをさむべし。われかかること審判󠄄さばきひととなるをこのまず』 16 かくかれらを審判󠄄さばきより逐󠄃ひいだす。 17 こゝ人々ひとびとみな會堂くわいだうつかさソステネをとらへ、審判󠄄さばき前󠄃まへにてたゝきたり。ガリオはすべこれらのこと意󠄃とせざりき。

18 パウロなほひさしくとゞまりてのち、兄弟きゃうだいたちにわかれげ、プリスキラとアクラとを伴󠄃ともなひ、シリヤにむかひて船出ふなです。はやくより誓願せいぐわんありたれば、ケンクレヤにてかみれり。 19 かくてエペソにき、其處そこにこの二人ふたりとゞめおき、みづからは會堂くわいだうりてユダヤびとろんず。 20 人々ひとびとかれにいましばららんことを請󠄃ひたれど、がへんぜずして、 21 わかれげ『かみ御意󠄃みこゝろならばまたなんぢらに返󠄄かへらん』とひてエペソより船出ふなでし、 22 カイザリヤにつき、しかしてエルサレムにのぼり、敎會けうくわい安否あんぴひてアンテオケにくだり、 23 此處ここしばらとゞまりてのちまたりてガラテヤ、フルギヤの次々つぎつぎすべての弟子でしかたうせり。

24 ときにアレキサンデリヤうまれのユダヤびとにて聖󠄄書せいしょ通󠄃達󠄃つうたつしたるアポロと能辯のうべんなるものエペソにくだる。 25 このひとさきしゅ道󠄃みちをしへられ、ただヨハネのバプテスマをるのみなれど、熱心ねっしんにして詳細つまびらかにイエスのことかたり、かつをしへたり。〘201㌻〙 26 かれ會堂くわいだうにておくせずしてかたはじめしを、プリスキラとアクラときゐてこれ迎󠄃むかれ、なほも詳細つまびらかかみ道󠄃みちあかせり。 27 アポロ遂󠄅つひにアカヤにわたらんとたれば、兄弟きゃうだいたちこれはげまし、かつ弟子でしたちにかれるるやうにおくれり。かれかしこにき、すで恩惠めぐみによりてしんじたるものおほくのえきあたふ。
 277㌻ 
28 すなは聖󠄄書せいしょもとづき、イエスのキリストたることしめして、激甚ていたくかつ公然おほやけにユダヤびとせたるなり。

第19章

1 かくてアポロ、コリントにりしとき、パウロひがし地方ちはうてエペソにいたり、ある弟子でしたちにひて、 2 『なんぢら信者しんじゃとなりしとき聖󠄄せいれいけしか』とひたれば、かれいふ『いな、われらは聖󠄄せいれいることすらかず』 3 パウロふ『さればなにによりてバプテスマをけしか』かれいふ『ヨハネのバプテスマなり』 4 パウロふ『ヨハネは悔改くいあらためのバプテスマをさづけておのれおくれてきたるもの(すなはちイエス)をしんずべきことをたみへるなり』 5 かれこれをきてしゅイエスのによりてバプテスマをく。 6 パウロかれらのうへきしとき、聖󠄄せいれいそのうへ望󠄇のぞみたれば、かれ異言いげんかたり、かつ預言よげんせり。 7 この人々ひとびとすべ十二じふににんほどなり。

8 こゝにパウロ會堂くわいだうりて、三个月さんかげつのあひだおくせずしてかみくにきてろんじ、かつすゝめたり。 9 しかるにあるものども頑固かたくなになりてしたがはず、會衆くわいしゅう前󠄃まへかみ道󠄃みちそしりたれば、パウロかれらをはなれ、弟子でしたちをも退󠄃しりぞかしめ、日每ひごとにツラノの會堂かうだうにてろんず。 10 かくすること二年にねんあひだなりしかば、アジヤに住󠄃ものは、ユダヤびともギリシヤびともみなしゅことばけり。 11 しかしてかみはパウロのによりて尋󠄃常よのつねならぬ能力ちからあるわざおこなひたまふ。 12 すなは人々ひとびとかれのよりあるひ手拭てぬぐひあるひは前󠄃垂まへだれをとりてめるものくれば、やまひあくれいでたり。 13 こゝ諸國しょこく遍󠄃歷へんれき咒文じゅもんなるユダヤびと數人すにんあり、こゝろみにあくれいかれたるものたいして、しゅイエスのび『われパウロのぶるイエスによりて、なんぢらにめいず』とへり。 14 かくなせるものうちに、ユダヤの祭司長さいしちゃうスケワの七人しちにんもありき。 15 あくれいこたへてふ『われイエスをり、又󠄂またパウロをる。れどなんぢらはたれぞ』
 278㌻ 
16 かくあくれいりたるひと、かれらにびかかりて二人ふたり勝󠄃ち、これを打拉うちひしぎたれば、かれ裸體はだかになりきずけてそのいへ逃󠄄でたり。 17 ことエペソに住󠄃すべてのユダヤびととギリシヤびととにれたれば、おそれかれら一同いちどうのあひだにしゃうじ、しゅイエスのあがめらる。〘202㌻〙 18 信者しんじゃとなりしものおほくきたり、懴悔ざんげしてみづからの行爲おこなひぐ。 19 また魔󠄃術まじゅつおこなひしおほくのものども、その書物しょもつちきたり、衆人しゅうじん前󠄃まへにてきたるが、あたひかぞふればぎんまんほどなりき。 20 しゅことばおほいひろまりて權力ちからしことかくごとし。

21 これことのありしのちパウロ、マケドニヤ、アカヤをてエルサレムにかんとこゝろさだめてふ『われ彼處かしこいたりてのちかならずロマをもるべし』 22 かくおのれつかふるものうちにてテモテとエラストとの二人ふたりをマケドニヤに遣󠄃つかはし、自己みづからはアジヤにしばらとゞまる。

23 そのころこの道󠄃みちきて一方ひとかたならぬ騷擾さわぎおこれり。 24 デメテリオとぎん細工人さいくにんありしが、アルテミスのぎん小宮こみや造󠄃つくりて細工人さいくにんらにおほくのげふさせたり。 25 それらのものおよびおなたぐひ職業しょくげふしゃあつめてふ『人々ひとびとよ、われらがげふりて利益りえきることは、なんぢらの所󠄃ところなり。 26 しかるに、かのパウロはにて造󠄃つくれるものかみにあらずとひて、たゞにエペソのみならず、ほとん全󠄃ぜんアジヤにわたり、おほくの人々ひとびとすゝめてまどはしたり、これまたなんぢらのきゝする所󠄃ところなり。 27 かくてはたゞわれらの職業しょくげふかろしめらるるおそれあるのみならず、また大女神おほめがみアルテミスのみやなみせられ、全󠄃ぜんアジヤ全󠄃世界ぜんせかいのをがむ大女神おほめがみ稜威みいつほろぶるにいたらん』 28 かれこれをきて憤恚いきどほり滿みたされ、さけびてふ『おほいなるかな、エペソびとのアルテミス』
 279㌻ 
29 かくまちこぞりてさわち、人々ひとびとパウロの同行どうかうしゃなるマケドニヤびとガイオとアリスタルコとをとらへ、こゝろひとつにして劇場げきじゃう押入おしいりたり。 30 パウロ集民しふみんのなかにらんとたれど、弟子でしたちゆるさず。 31 又󠄂またアジヤのまつりつかさのうちのあるものどももかれしたしかりしかば、ひと遣󠄃つかはして劇場げきじゃうらぬやうにとすゝめたり。 32 ここに會衆くわいしゅうおほいにみだれ、大方おほかたはそのなにのためにあつまりたるかをらずして、あるものはこのことを、あるものはかのことさけびたり。 33 遂󠄅つひ群衆ぐんじゅうあるものども、ユダヤびといだしたるアレキサンデルにすゝめたれば、かれうごかして集民しふみん辯明べんめいをなさんとすれど、 34 のユダヤびとたるをり、みな同音󠄃どうおんに『おほいなるかな、エペソびとのアルテミス』とよばはりて時間じかんばかりにおよぶ。 35 とき書記役しゅきやく群衆ぐんじゅうしづめおきてふ『さてエペソびとよ、たれかエペソのまち大女神おほめがみアルテミスおよてんよりくだりしざう宮守みやもりなることをらざるものあらんや。 36 これは消󠄃かたきことなれば、なんぢしづかなるべし、みだりなることすべからず。 37 この人々ひとびとみやものぬすものにあらず、われらの女神めがみそしものにもあらず、しかるになんぢこれきたれり。〘203㌻〙 38 もしデメテリオおよともにをる細工人さいくにんら、ひときてうったふべきことあらば、裁判󠄄さいばんあり、かつつかさあり、かれおのおのうったふべし。 39 もし又󠄂またほかのことにつきてする所󠄃ところあらば正式せいしき議會ぎくわいにてけっすべし。 40 われ今日けふ騷擾さわぎにつきてはなに理由りいうもなきによりとがくるおそれあり。この會合くわいがふにつきてひひらくことあたはねばなり』 41 ひて集會あつまりさんじたり。

第20章

1 騷亂さうらんのやみしのち、パウロ弟子でしたちをまねきてすゝめをなし、これわかれげ、マケドニヤにかんとてつ。 2 しかして、かの地方ちはう巡󠄃めぐおほくのことばをもて弟子でしたちをすゝめしのち、ギリシヤにいたる。 3 そこにとゞまること三个月さんかげつにしてシリヤにむかひて船出ふなでせんとするとき、おのれを害󠄅そこなはんとするユダヤびとらの計略はかりごと遭󠄃ひたれば、マケドニヤをかへらんとこゝろさだむ。
 280㌻ 
4 これ伴󠄃ともなへる人々ひとびとはベレヤびとにしてプロのなるソパテロ、テサロニケびとアリスタルコおよびセクンド、デルベびとガイオおよびテモテ、アジヤびとテキコおよびトロピモなり。 5 かれらはさきちゆき、トロアスにてわれらをてり。 6 われらは除酵祭ぢょかうさいのち、ピリピより船出ふなでし、五日いつかにしてトロアスにき、かれらのもといたりて七日なぬかのあひだとゞまれり。

7 一週󠄃ひとまはりはじめわれらパンをかんとてあつまりしが、パウロ明日あすいでたんとてかれとかたり、夜半󠄃よなかまでかたつゞけたり。 8 あつまりたる高樓たかどのにはおほくの燈火ともしびありき。 9 こゝにユテコといふ若者わかものまどりてしゐたるが、いた眠氣ねむけざすほどに、パウロのかたること愈々いよいよひさしくなりたれば、遂󠄅つひ熟睡じゅくすゐして三階さんがいよりつ。これをたす起󠄃おこしたるに、はやにたり。 10 パウロりてうへし、かきいだきてふ『なんぢらさわぐな、生命いのちはなほうちにあり』 11 すなはまたのぼりてパンをき、食󠄃しょくしてのちひさしくかたりあひ、夜明よあけいた遂󠄅つひでたてり。 12 人々ひとびとかの若者わかものきたるをれきたり、いた慰藉なぐさめたり。

13 かくわれらはさきちてふねり、アソスにてパウロをせんとして彼處かしこ船出ふなでせり。かれ徒步かちにてかんとてかくさだめたるなり。 14 われらアソスにてパウロを迎󠄃むかへ、これをせてミテレネにわたり、 15 また彼處かしこより船出ふなでして翌󠄃日よくじつキヨスの彼方かなたにいたり、つぎサモスにり、そのつぎミレトにく。 16 パウロ、アジヤにてときつひやさぬためにエペソにはふねせずして過󠄃ぐることにさだめしなり。これはるべく五旬節ごじゅんせつエルサレムにることをんとて急󠄃いそぎしにる。
〘204㌻〙
 281㌻ 
17 しかしてパウロ、ミレトよりひとをエペソに遣󠄃つかはし、敎會けうくわい長老ちゃうらうたちをびて、 18 そのきたりしとき、かれらにふ 『わがアジヤにきたりしはじめより如何いかなるさまにてつねなんぢらとともりしかは、なんぢらの所󠄃ところなり。 19 すなは謙󠄃遜けんそんかぎりをつくし、なみだながし、ユダヤびと計略はかりごとによりて迫󠄃せま艱難かんなんへてしゅにつかへ、 20 えきとなることなにくれとなくはゞからずしてげ、公然おほやけにても家々いへいへにてもなんぢらををしへ、 21 ユダヤびとにもギリシヤびとにも、かみたいして悔改くいあらため、われらのしゅイエスにたいして信仰しんかうすべきことをあかしせり。 22 よ、いまわれはこゝろからめられて、エルサレムにく。彼處かしこにて如何いかなることわれおよぶかをらず。 23 ただ聖󠄄せいれいいづれのまちにてもわれあかしして縲絏なはめ患難なやみわれてりとげたまふ。 24 れどわれわがはしるべき道󠄃程みちのりしゅイエスよりけしつとめ、すなはちかみめぐみ福音󠄃ふくいんあかしすることとをはたさんためにはもとより生命いのちをもおもんぜざるなり。 25 よ、いまわれはる、前󠄃さきなんぢらのうち巡󠄃めぐりて御國みくに宣傳のべつたへしかほなんぢみなふたたびざるべきを。 26 このゆゑに、われ今日けふなんぢらにあかしす、われはすべてのひとにつきて潔󠄄いさぎよし。 27 われはゞからずしてかみ御旨みむねをことごとくなんぢらにげしなり。 28 なんぢみづからこゝろせよ、又󠄂またすべてのむれこゝろせよ、聖󠄄せいれいなんぢむれのなかにてて監督かんとくとなし、かみおのれをもてたまひし敎會けうくわいぼくせしめたまふ。 29 われる、わがるのちあら豺狼おほかみなんぢらのうちりきたりてむれをしまず、 30 又󠄂またなんぢらのうちよりも、弟子でしたちをおのかたれんとて、まがれることをかたるもの起󠄃おこらん。 31 さればなんぢさましをれ。三年さんねんあひだわがよるひるやすまず、なみだをもてなんぢおのおのを訓戒くんかいせしことをおぼえよ。 32 われいまなんぢらを、しゅおよびめぐみ御言みことばゆだぬ。御言みことばなんぢらのとくて、すべての潔󠄄きよめられたるものとともに嗣業しげふけしめるなり。
 282㌻ 
33 われひときんぎん衣服󠄃ころもむさぼりしことなし。 34 この必要󠄃ひつえうそなへ、またわれともなるものそなへしことをなんぢみづからる。 35 われすべてのことおいれいしめせり、すなはなんぢらもはたらきて、弱󠄃よわものたすけ、またしゅイエスのみづかたまひし「あたふるはくるよりも幸福さいはひなり」との御言みことば記憶きおくすべきなり』

36 ひてのち、パウロひざまづきて一同いちどうとともにいのれり。〘205㌻〙 37 みなおほいなげきパウロのくびいだきて接吻くちつけし、 38 そのふたたびかほざるべしとひしことばによりてことうれひ、遂󠄅つひかれふねまで送󠄃おくりゆけり。

第21章

1 ここにわれ人々ひとびとわかれて船出ふなでをなし、眞直ますぐにはせてコスにいたり、つぎロドスにつき、彼處かしこよりパタラにわたる。 2 ところにてピニケにゆくふね遇󠄃ひ、これにりて船出ふなです。 3 クプロを望󠄇のぞみ、これひだりにして過󠄃ぎ、シリヤにむかひて進󠄃すゝみ、ツロにきたり、此處ここにて船荷ふなにおろさんとすればなり。 4 かく弟子でしたちに尋󠄃たづひて七日なぬかとゞまれり。かれら御靈みたまによりてパウロに、エルサレムにのぼるまじきことへり。 5 しかるにわれ七日なぬか終󠄃をはりてのち、いでて旅立たびだちたれば、かれみなつまとともにまちそとまで送󠄃おくりきたり、諸共もろとも濱邊はまべひざまづきていのり、 6 相互かたみわかれげてわれらはふねり、かれらはいへかへれり。

7 ツロをいでトレマイにいたりて船路ふなぢつきたり。此處ここにて兄弟きゃうだいたちの安否あんぴひ、かれらのもと一日いちにちとゞまり、 8 くるここをりてカイザリヤにいたり、傳道󠄃者でんだうしゃピリポのいへりてとゞまる、かれはかの七人しちにん一人ひとりなり。 9 このひと預言よげんする四人よにんむすめありて、處女をとめなりき。
 283㌻ 
10 われ數日すにちとゞまるうちに、アガボと預言者よげんしゃ、ユダヤよりくだり、 11 われらのもときたりてパウロのおびをとり、おのあしとをしばりてふ『聖󠄄せいれいかくたまふ「エルサレムにて、ユダヤびと、このおびぬしかくごとしばりて異邦人いはうじんわたさん」と』 12 われらこれきて人々ひとびととともにパウロに、エルサレムにのぼらざらんことをすゝむ。 13 そのときパウロこたふ『なんぢらなになげきてこゝろくじくか、われエルサレムにて、しゅイエスののために、たゞしばらるるのみかは、ぬることをも覺悟かくごせり』 14 われらの勸吿すゝめ納󠄃れるによりて『しゅ御意󠄃みこゝろごとくなれかし』とひてむ。

15 こののちわれら行李かうりとゝのへてエルサレムにのぼる。 16 カイザリヤに弟子でし數人すにん、ともにき、われらの宿やどらんとするクプロびとマナソンといふふる弟子でしのもとに案內あんないしたり。

17 エルサレムにいたりたれば、兄弟きゃうだいたちよろこびてわれらを迎󠄃むかへたり。 18 翌󠄃日よくじつパウロわれらとともにヤコブのもときしに、長老ちゃうらうたちみなあつまりたり。 19 パウロその安否あんぴひてのち、おのが勤勞つとめによりて異邦人いはうじんのうちに、かみおこなたまひしことを、一々いちいちげたれば、 20 かれきてかみあがめ、またパウロにふ『兄弟きゃうだいよ、なんぢのるごとく、ユダヤびとのうち、信者しんじゃとなりたるもの數萬人すまんにんあり、みな律法おきてたいして熱心ねっしんなるものなり。〘206㌻〙 21 かれらは、なんぢ異邦人いはうじんのうちにすべてのユダヤびとむかひて、そのらに割󠄅禮かつれいほどこすな、習慣ならはししたがふなとひて、モーセに遠󠄄とほざかることををしふとけり。 22 如何いかにすべきか、かれらはかならなんぢきたりたるをかん。 23 さればなんぢわれらのごとくせよ、われらのうち誓願せいぐわんあるもの四人よにんあり、 24 なんぢかれらとみてこれとともに潔󠄄きよめをなし、かれのためにつひえいだしてかみらしめよ。さらば人々ひとびとみななんぢにつきてきたることの虛僞いつはりにして、なんぢ律法おきてまもりてたゞしくあゆることをらん。
 284㌻ 
25 異邦人いはうじん信者しんじゃとなりたるものにつきては、われすでおくりて、偶像ぐうざうさゝげたるもの絞殺しめころしたるもの淫行いんかうとに遠󠄄とほざかるべきことさだめたり』 26 こゝにパウロその人々ひとびとみてつぎ、ともどもに潔󠄄きよめをなしてみやり、潔󠄄きよめ滿ちて各人おのおののために獻物さゝげものをささぐべきげたり。

27 かく七日なぬか終󠄃をはらんとするとき、アジヤよりきたりしユダヤびとら、みやうちにパウロのるを群衆ぐんじゅうさわがし、かれにをかけ、さけびてふ、 28 『イスラエルの人々ひとびとたすけよ、このひとはいたるところにてたみ律法おきて所󠄃ところとにもとれることを人々ひとびとをしふるものなり、しかのみならずギリシヤびとみや率󠄃れて聖󠄄せいなる所󠄃ところをもけがしたり』 29 かれらさきにエペソびとトロピモが、パウロとともに市中しちゅうにゐたるをて、パウロこれみや率󠄃れしとおもひしなり。 30 こゝ市中しちゅうみなさわぎたち、たみどもあつまり、パウロをとらへてみやそとひきいだせり、かくもんたゞちにとざされたり。 31 かれらパウロをころさんとしとき、軍隊ぐんたい千卒長せんそつちゃうに、エルサレムぢゅうさわぎてりとのこときこえたれば、 32 かれ速󠄃すみやかに兵卒へいそつおよび百卒長ひゃくそつちゃうらを率󠄃ひきゐてくだる。かれら千卒長せんそつちゃう兵卒へいそつとをて、パウロをつことをむ。 33 千卒長せんそつちゃう近󠄃ちかよりてパウロをとらへ、めいじてふたつのくさりにてつながせ、その何人なにびとなるか、何事なにごとをなしたるかを尋󠄃たづぬるに、 34 群衆ぐんじゅううちにてあるものはこのことを、あるものはかのことよばはり、騷亂さわぎのためにたしかなることるによしなく、めいじて陣營ぢんえいきたらしめたり。 35 階段きざはしいたれるに、群衆ぐんじゅう手暴てあらきによりて、兵卒へいそつパウロを負󠄅ひたり。 36 これむらがれるたみども『かれのぞけ』とさけびつつしたが迫󠄃せまれるゆゑなり。

 285㌻ 
37 パウロ陣營ぢんえいれられんとるとき、千卒長せんそつちゃうふ『われなんぢかたりてきか』かれふ『なんぢギリシヤことばるか。 38 なんぢはかのエジプトびとにして、さきらん起󠄃おこして四千しせんにん刺客しかく荒野あらの率󠄃ひきでしものならずや』〘207㌻〙 39 パウロふ『われはキリキヤなるタルソのユダヤびといやしからぬ市民しみんなり。請󠄃たみかたるをゆるせ』 40 これゆるしたれば、パウロ階段きざはしうへち、たみむかひてうごかし、おほいしづまれるとき、ヘブルのことばにてかたりてふ、

第22章

1兄弟きゃうだいたちおやたちよ、いまなんぢらにたいする辯明べんめいけ』 2 人々ひとびとそのヘブルのことばかたるをきてますますしづかになりたれば、又󠄂またいふ、 3われはユダヤびとにてキリキヤのタルソにうまれしが、みやこにてそだてられ、ガマリエルの足下あしもとにて先祖せんぞたちの律法おきてきびしきかた遵󠄅したがひてをしへられ、今日こんにちなんぢらのごとくかみたいして熱心ねっしんなるものなりき。 4 われこの道󠄃みち迫󠄃害󠄅はくがい男女なんにょしばりてひとやれ、にまでいたらしめしことは、 5 だい祭司さいしすべての長老ちゃうらうわれきてあかしするなり。われかれより兄弟きゃうだいたちへのふみけて、ダマスコにやどものどもをしばり、エルサレムにきたりてばつけしめんとて彼處かしこにゆけり。 6 きてダマスコに近󠄃ちかづきたるに、正午まひるごろたちまおほいなるひかりてんよりでてわれめぐてらせり。 7 そのときわれたふれ、かつわれかたりて「サウロ、サウロ、なんわれ迫󠄃害󠄅はくがいするか」といふこゑき、 8しゅよ、なんぢはたれぞ」とこたへしに「われはなんぢ迫󠄃害󠄅はくがいするナザレのイエスなり」とたまへり。 9 ともものどもひかりしが、われかたものこゑかざりき。 10 われまたいふ「しゅよ、われなにをすべきか」しゅいひたまふ「起󠄃ちてダマスコにけ、なんぢのすべきさだまりたること彼處かしこにてことごとくげらるべし」 11 われは、かのひかり晃耀かがやきにてえずなりたれば、ともにをるものかれてダマスコにりたり。
 286㌻ 
12 こゝ律法おきてれる敬虔けいけんひとにしてまち住󠄃すべてのユダヤびと令聞よききこえあるアナニヤというものあり。 13 かれわれにきたかたはらにちて「兄弟きゃうだいサウロよ、ることをよ」とひたれば、そのときあふぎてかれたり。 14 かれ又󠄂またいふ「われらの先祖せんぞかみは、なんぢを選󠄄えらびて御意󠄃みこゝろらしめ、又󠄂またかの義人ぎじん、その御口みくちこゑかしめんとたまへり。 15 これはなんぢきゝしたることにつきて、すべてのひとたいかれ證人しょうにんとならんためなり。 16 いまなんぞ躊躇ためらふか、起󠄃て、その御名みなび、バプテスマをけてなんぢつみあられ」 17 かくわれエルサレムにかへり、みやにていのりをるとき、われわすれし心地こゝちしてしゅたてまつるに、われたまふ、 18 「なんぢ急󠄃いそげ、はやくエルサレムをれ、人々ひとびとわれにかゝはなんぢあかしけぬゆゑなり」 19 われいふ「しゅよ、われさきになんぢしんずるものひとやれ、しょ會堂くわいだうにてこれち、〘208㌻〙 20 又󠄂またなんぢの證人あかしびとステパノのながされしとき、われもそのかたはらにちてこれしとし、ころものどものころもまもりしことは、かれらの所󠄃ところなり」 21 われにたまふ「け、われなんぢを遠󠄄とほ異邦人いはうじん遣󠄃つかはすなり」と』

22 人々ひとびとききたりしがことばおよび、こゑげてふ『かくのごときものをばよりのぞけ、かしおくべきものならず』 23 さけびつつころも脫󠄁ぎすて、ちり空󠄃中くうちゅうきたれば、 24 千卒長せんそつちゃう人々ひとびとなにゆゑパウロにむかひてさけよばはるかをらんとし、むちうちてしらぶることをめいじて、かれ陣營ぢんえいれしむ。 25 革鞭かはむちをあてんとてパウロをりしとき、かれかたはらに百卒長ひゃくそつちゃうふ『ロマびとたるものつみさだめずしてむちうつはきか』 26 百卒長ひゃくそつちゃうこれをきて千卒長せんそつちゃうき、げてふ『なんぢなにをなさんとするか、ひとはロマびとなり』 27 千卒長せんそつちゃう、きたりてふ『なんぢはロマびとなるか、われげよ』かれふ『しかり』
 287㌻ 
28 千卒長せんそつちゃうこたふ『われおほくのきんをもてたみせきたり』パウロふ『われうまれながらなり』 29 こゝしらべんとせしものどもはたゞちにり、千卒長せんそつちゃうはそのロマびとなるをり、これしばりしことをおそれたり。

30 くる千卒長せんそつちゃうかれがなにゆゑユダヤびとうったへられしか、たしかなることらんとほっしてかれなはめき、めいじて祭司長さいしちゃうらと全󠄃ぜん議會ぎくわいとをあつめ、パウロをいだして前󠄃まへたしめたり。

第23章

1 パウロ議會ぎくわいそゝぎてふ『兄弟きゃうだいたちよ、われ今日こんにちいたるまでことごと良心りゃうしんしたがひてかみつかへたり』 2 だい祭司さいしアナニヤかたはらにものどもに、かれくちつことをめいず。 3 こゝにパウロふ『しろりたるかべよ、かみなんぢをたまはん、なんぢ律法おきてによりてわれさばくためにしながら、律法おきてもとりてわれつことをめいずるか』 4 かたはらにものいふ『なんぢかみだい祭司さいしのゝしるか』 5 パウロふ『兄弟きゃうだいたちよ、われそのだい祭司さいしたることをらざりき。しるして「なんぢのたみつかさをそしるからず」とあればなり』 6 かくてパウロ、その一部いちぶはサドカイびと、その一部いちぶはパリサイびとたるをりて、議會ぎくわいのうちによばはりてふ『兄弟きゃうだいたちよ、われはパリサイびとにしてパリサイびとなり、われ死人しにんよみがへることの希望󠄇のぞみにつきてさばかるるなり』 7 ひしにりて、パリサイびととサドカイびととのあひだ紛爭あらそひおこりて、會衆くわいしゅうあひ分󠄃わかれたり。 8 サドカイびと復活よみがへりもなく御使みつかひれいもなしとひ、パリサイびとふたつながらありとふ。〘209㌻〙 9 遂󠄅つひおほいなる喧噪さわぎとなりてパリサイびとうち學者がくしゃ數人すにん、たちてあらそひてふ『われらひとしきことあるをず、もしれいまたは御使みつかひ、かれにかたりたるならば如何いかん 10 紛爭あらそひいよいよはげしくりたれば、千卒長せんそつちゃう、パウロのかれらにひきさかれんことをおそれ、兵卒へいそつどもにめいじてくだりゆかしめ、かれらのなかより引取ひきとりて陣營ぢんえいきたらしめたり。

 288㌻ 
11 そのしゅパウロのかたはらにちてたまふ『雄々ををしかれ、なんぢエルサレムにてわれにつきてあかしをなしたるごとく、ロマにてもあかしをなすべし』

12 夜明よあけになりてユダヤびと徒黨とたうみ、盟約うけひてて、パウロをころすまでは飮食󠄃のみくひせじとふ。 13 この徒黨とたうむすびたるもの四十しじふにんあまりなり。 14 かれらは祭司長さいしちゃう長老ちゃうらうらにきてふ『われらパウロをころすまではなにをもあじはふまじとかた盟約うけひてたり。 15 さればなんぢなほ詳細つまびらかしらべんとするさまして、かれなんぢらのもとくだらすることを議會ぎくわいとともに千卒長せんそつちゃううったへよ。我等われらその近󠄃ちかくならぬうちころ準備そなへをなせり』 16 パウロの姉妹しまいこの待伏まちぶせことをきき、きて陣營ぢんえいり、パウロにげたれば、 17 パウロ百卒長ひゃくそつちゃう一人いちにんびてふ『この若者わかもの千卒長せんそつちゃうにつれけ、ぐることあり』 18 百卒長ひゃくそつちゃうこれをたづさへ、千卒長せんそつちゃういたりてふ『囚人めしうどパウロ、われびて、この若者わかものなんぢにふべきことありとて、なんぢくことを請󠄃へり』 19 千卒長せんそつちゃうその退󠄃しりぞきて、ひそかふ『われにぐることとはなにぞ』 20 若者わかものいふ『ユダヤびとなんぢがパウロのことをなほ詳細つまびらかしらぶるためにとて、明日あすかれを議會ぎくわいくだることをなんぢ請󠄃はんと、申合まうしあはせたり。 21 なんぢその請󠄃こひしたがふな、かれらのうちにて四十しじふにんあまりもの、パウロを待伏まちぶせ、これころすまでは飮食󠄃のみくひせじと盟約うけひて、いまその準備そなへをなしてなんぢ許諾ゆるしてり』 22 ここに千卒長せんそつちゃう若者わかものに『これらのことわれうったへたりとたれにもかたるな』とめいじてかへせり。 23 さて百卒長ひゃくそつちゃうりゃう三人さんにんよびてふ『今夜こよひ九時くじごろカイザリヤにけてくために、兵卒へいそつひゃく騎兵きへいしちじふやりをとるものひゃくとゝのへよ』
 289㌻ 
24 またけものそなへ、パウロをせて安全󠄃あんぜん總督そうとくペリクスのもと護送󠄃ごそうすることをめいじ、 25 かつのごときふみをかきおくる。

26 『クラウデオ・ルシヤつゝしみて總督そうとくペリクス閣下かくか平󠄃安へいあんいのる。 27 このひとはユダヤびととらへられてころされんとせしを、われそのロマびとなるをき、兵卒へいそつどもを率󠄃ひききてすくへり。 28 ユダヤびとかれうったふる理由りいうらんとほっして、その議會ぎくわいきたるに、 29 かれらの律法おきて問題もんだいにつきうったへられたるにて、もしくはなはめあたつみ訴訟うったへにあらざるをりたり。〘210㌻〙 30 又󠄂またこのひと害󠄅がいせんとする謀計はかりごとありとわれきこえたれば、われにはかにこれをなんぢのもとに送󠄃おくり、これをうったふるものに、なんぢの前󠄃まへにてかれうったへんことをめいじたり』

31 こゝ兵卒へいそつどもめいぜられたるごとくパウロをけとりて、夜中やちゅうアンテパトリスまでれてゆき、 32 翌󠄃日よくじつこれを騎兵きへいゆだね、ともにかしめて陣營ぢんえいかへれり。 33 騎兵きへいはカイザリヤにり、總督そうとくふみをわたし、パウロを前󠄃まへたしむ。 34 總督そうとくふみみて、パウロのいづこのくにものなるかをひ、そのキリキヤびとなるをりて、 35なんぢうったふるものきたらんとき、なほつまびらかになんぢのことをかん』とひ、かつめいじて、ヘロデでの官邸くわんていこれまもらしめたり。

第24章

1 五日いつかののちだい祭司さいしアナニヤ數人すにん長老ちゃうらうおよびテルトロと辯護士べんごしとともにくだりて、パウロを總督そうとくうったふ。 2 パウロいだされたれば、テルトロうったでてふ『ペリクス閣下かくかよ、われらはなんぢによりて太平󠄃たいへいたのしみ、 3 なんぢの先見せんけんによりて國人くにびとのためにときしたがところしたがひて、しきことあらためられたるを感謝かんしゃしてまず。
 290㌻ 
4 ここに喃々くどくどしくべてなんぢさまたぐまじ、ねがはくは寛容くわんようをもてすこしのことばけ。 5 我等われらこのひとるにあたか疫病えきびゃうのごとくにて、全󠄃世界ぜんせかいのユダヤびとのあひだに騷擾さわぎをおこし、かつナザレびと異端いたんかしらにして、 6 みやをさへけがさんとたればこれとらへたり。〔六節の後半󠄃及び七節なし〕《[*]》[*異本「我らの律法に循ひて審かんとせしに] 7 [なし]《[*]》[*異本(七)千卒長ルシヤ來り、我らの手より奪ひ去り、訴ふる者どもに命じて汝に到らしむ」の句あり。] 8 なんぢこのひときてたゞさばわれらのうったふる所󠄃ところをことごとくべし』 9 ユダヤびとこれくはへてまことにそのごとくなりと主張しゅちゃうす。 10 總督そうとくかうべにてしめしパウロにはしめたれば、こたふ 『なんぢがとしひさしく、この國人くにびと審判󠄄さばきびとたることをわれるゆゑに、よろこびて辯明べんめいをなさん。 11 なんぢべし、禮拜れいはいのためにエルサレムにのぼりてよりわづ十二じふににち過󠄃ぎず、 12 またかれらは、みやにても會堂くわいだうにても市中しちゅうにてもひとあらそひ、群衆ぐんじゅうさわがしたるをず、 13 いまうったへたることにつきても證明しょうめいすることあたはざるなり。 14 われただ一事いちじなんぢひあらはさん、すなはわれかれらが異端いたんとなふる道󠄃みちしたがひて先祖せんぞたちのかみにつかへ、律法おきて預言者よげんしゃふみとにしるしたることをことごとくしんじ、 15 かれらみづからもてるごとく義者ぎしゃ不義者ふぎしゃとの復活よみがへりあるべしと、かみあふぎて望󠄇のぞみいだくなり。 16 このゆゑに、われつねかみひととにたいして良心りゃうしんせめなからんことをつとむ。〘211㌻〙 17 われおほくのとしてのちかへりきたり、たみ施濟ほどこしをなし、また獻物さゝげものをささげゐたりしが、 18 そのときかれらは潔󠄄きよめをなしてみやにをるをたるのみにて群衆ぐんじゅうもなく騷擾さわぎもなかりしなり。 19 しかるにアジアよりきたれる數人すにんのユダヤびとありて――もしわれとがむべきことあらば、かれらがなんぢ前󠄃まへでてうったふることをべきなり。 20 あるひはまた此處ここなる人々ひとびと、わがさき議會ぎくわいちしとき、われなに不義ふぎ認󠄃みとめしかへ。 21 たゞわれかれらのうちちて「死人しにんよみがへることにつきてわれけふなんぢらの前󠄃まへにてさばかる」とよばはりし一言ひとことほかにはなにもなかるべし』

 291㌻ 
22 ペリクスこの道󠄃みちのことをくはしくりたれば、審判󠄄さばきのばしてふ『千卒長せんそつちゃうルシヤのくだるをちてなんぢらのことさだむべし』 23 かく百卒長ひゃくそつちゃうめいじ、パウロをまもらせ、ゆるやかならしめ、かつともこれつかふるをもきんぜざらしむ。

24 數日すにちのちペリクス、そのつまなるユダヤびとをんなドルシラとともにきたり、パウロをびよせてキリスト・イエスにたいする信仰しんかうのことをき、 25 パウロが正義たゞしき節制せつせいきたらんとする審判󠄄さばきとにつきてろんじたるとき、ペリクスおそれてこたふ『いまれ、よきをりてまたまねかん』 26 かくてパウロよりかねあたへられんことを望󠄇のぞみてなほしばしばかれびよせてはかたれり。 27 二年にねんてポルシオ・フェスト、ペリクスのにんかわりしが、ペリクス、ユダヤびと意󠄃こゝろ迎󠄃むかへんとして、パウロをつなぎたるままに差措さしおけり。

第25章

1 フェスト任國にんこくにいたりて三日みっかのち、カイザリヤよりエルサレムにのぼりたれば、 2 祭司長さいしちゃうおよびユダヤびと重立おもだちたるものども、パウロをうったこれ害󠄅そこなはんとして、 3 フェストの好意󠄃かういにてかれをエルサレムにめしいだされんことをねがふ。かくして道󠄃みち待伏まちぶせし、これころさんとおもへるなり。 4 しかるにフェストこたへて、パウロのカイザリヤにとらはれることとおのほどなくかへるべきこととをげ、 5 『もしかれぜんあらんには、なんぢのうちしかるべきものどもわれとともにくだりてうったふべし』とふ。

6 かく彼處かしこ八日やうか十日とをかばかりりてカイザリヤにくだり、くる審判󠄄さばきし、めいじてパウロを引出ひきいださしむ。 7 そのきたりしとき、エルサレムよりくだりしユダヤびとら、これを取圍とりかこみて樣々さまざまおもつみててうったふれどもあかしすることあたはず。〘212㌻〙 8 パウロは辯明べんめいしてふ『われはユダヤびと律法おきてたいしてもみやたいしてもカイザルにたいしてもつみをかしたることなし』
 292㌻ 
9 フェスト、ユダヤびと意󠄃こゝろ迎󠄃むかへんとしてパウロにこたへてふ『なんぢエルサレムにのぼり、彼處かしこにて前󠄃まへさばかるることをうけがふか』 10 パウロふ『われはわがさばかるべきカイザルの審判󠄄さばき前󠄃まへちをるなり。なんぢるごとくわれはユダヤびと害󠄅そこなひしことなし。 11 しもつみをかしてあたるべきことをなしたらんには、ぬるをいとはじ。れど人々ひとびとうったふることまことならずば、たれわれかれらにわたすことをじ、われはカイザルに上訴じゃうそせん』 12 こゝにフェスト陪席ばいせきものあひはかりてこたふ『なんぢカイザルに上訴じゃうそせんとす、カイザルのもとくべし』

13 數日すにちのち、アグリッパわうとベルニケとカイザリヤにいたりてフェストの安否あんぴふ。 14 おほくのとゞまりゐたれば、フェスト、パウロのことをわうげてふ『ここにペリクスが囚人めしうどとして遺󠄃のこしおきたる一人ひとりひとあり、 15 われエルサレムにりしときユダヤびと祭司長さいしちゃう長老ちゃうらうこれうったへてつみさだめんことをねがひしが、 16 われこたへて、うったへらるるものいまうったふるもの面前󠄃めんぜんにて辯明べんめいするをりあたへられぬ前󠄃さきわたすは、ロマびと慣例ならはしにあらぬことげたり。 17 このゆゑかれここにあつまりたれば、ときのばさずつぎ審判󠄄さばきし、めいじてかのもの引出ひきいださしむ。 18 うったふるものかれをかこみてちしが、おもひしごときしきことひとつもぶる所󠄃ところなし。 19 ただおのれらの宗敎しゅうけう、またはイエスとものにたるをきたりとパウロが主張しゅちゃうするなどにくわんする問題もんだいのみなれば、 20 かゝ審理しらべにはわれ當惑たうわくせしゆゑ、かのひとに、なんぢエルサレムに彼處かしこにてさばかるることこのむかとひしに、 21 パウロは上訴じゃうそして皇帝くわうてい判󠄄決はんけつけんためまもられんことをねがひしにより、めいじてこれをカイザルに送󠄃おくるまでまもらせけり』 22 アグリッパ、フェストにふ『われもそのひとかんとほっす』フェストふ『なんぢ明日あすかれにくべし』

 293㌻ 
23 くるアグリッパとベルニケとおほい威儀ゐぎとゝのへてきたり、千卒長せんそつちゃうおよ重立おもだちたるものどもととも訊問所󠄃じんもんしょりたれば、フェストのめいによりてパウロ引出ひきいださる。 24 フェストふ『アグリッパわうならびに此處ここすべてのものよ、なんぢらのるこのひとはユダヤの民衆みんしゅうこぞりてかしおくべきにあらずとよばはりて、エルサレムにても此處ここにてもわれうったへしものなり。〘213㌻〙 25 しかるにわれはそのあたるべきしきことひとつだにをかしたるを認󠄃みとめねば、かれみづか皇帝くわうてい上訴じゃうそせんとするまゝにそのもと送󠄃おくらんとさだめたり。 26 しかしてかれにつきてしゅ上書じゃうしょすべきじつ情󠄃じゃうず。このゆゑなんぢのまへ、ことにアグリッパわうよ、なんぢの前󠄃まへきいだし、訊問しらべをなしてのち、上書じゃうしょすべき箇條かでうんとおもへり。 27 囚人めしうど送󠄃おくるに訴訟うったへ次第しだいべざるは道󠄃理ことわりならずとおもゆゑなり』

第26章

1 アグリッパ、パウロにふ『なんぢは自己みづからのためにぶることをゆるされたり』こゝにパウロべ、辯明べんめいしてふ、

2 『アグリッパわうよ、われユダヤびとよりうったへられしすべてのことにつきて今日けふなんぢらの前󠄃まへ辯明べんめいするを幸福さいはひとす。 3 なんぢがユダヤびとすべての習慣ならはし問題もんだいとをるによりてことしかりとす。されば請󠄃ふ、忍󠄄しのびてわれけ。 4 わがはじめより國人くにびとのうちに又󠄂またエルサレムにけるおさなときよりの生活せいくわつさまは、ユダヤびとのみな所󠄃ところなり。 5 かれもしあかしせんとおもはば、わがわれらの宗敎しゅうけういときびしきしたがひて、パリサイびと生活せいくわつをなししことはじめよりれり。 6 いまわがちてさばかるるは、かみわれらの先祖せんぞたちに約束やくそくたまひしことの希望󠄇のぞみりてなり。 7 これんことを望󠄇のぞみて十二じふにやからよるひる熱心ねっしんかみつかふるなり。わうよ、この希望󠄇のぞみにつきて、われはユダヤびとうったへられたり。
 294㌻ 
8 かみ死人しにんよみがへらせたまふとも、なんぢなんぞしんがたしとするか。 9 われさきにはナザレびとイエスの逆󠄃さからひて樣々さまざまことをなすをきこととみづかおもへり。 10 われエルサレムにてこれをおこなひ、祭司長さいしちゃうらより權威けんゐけておほくの聖󠄄徒せいとひとやにいれ、かれらのころされしときこれに同意󠄃どういし、 11 しょ敎會堂けうくわいだうにてしばしばかれらをばっし、ひて瀆言けがしごとはしめんとし、はなはだしくくるひ、迫󠄃害󠄅はくがいして外國ぐわいこくまちにまでいたれり。 12 のとき祭司長さいしちゃうらより權威けんゐ委任ゐにんとをけてダマスコにおもむきしが、 13 わうよ、その途󠄃みちにて正午まひるごろてんよりのひかりたり、にも勝󠄃まさりてかゞやき、われ伴󠄃侶みちづれとをかこてらせり。 14 我等われらみなたふれたるにヘブルのことばにて「サウロ、サウロ、なんわれ迫󠄃害󠄅はくがいするか、とげあるむちるはかたし」といふこゑわれきけり。 15 われふ「しゅよ、なんぢはたれぞ」しゅいひたまふ「われはなんぢ迫󠄃害󠄅はくがいするイエスなり。 16 起󠄃きてなんぢあしにてて、わがなんぢあらはれしは、なんぢをたててしこととなんぢあらはれてしめさんとすることとの役者えきしゃまた證人あかしびとたらしめんためなり。〘214㌻〙 17 われなんぢをたみおよび異邦人いはうじんよりすくはん、又󠄂またなんぢをかれらに遣󠄃つかはし、 18 そのをひらきて暗󠄃くらきよりひかりに、サタンの權威けんゐよりかみかへらせ、われたいする信仰しんかうによりてつみゆるし潔󠄄きよめられたるもののうちの嗣業しげふとをしめん」と。 19 このゆゑにアグリッパわうよ、われはてんよりの顯示しめしそむかずして、 20 づダマスコにるものつぎにエルサレムおよびユダヤ全󠄃國ぜんこく、また異邦人いはうじんにまで悔改くいあらためてかみちかへり、悔改くいあらためにかなふわざをなすべきことを宣傅のべつたへたり。 21 これがためにユダヤびと、われをみやにてとらへ、かつころさんとせり。 22 しかるにかみたすけによりて今日こんにちいたるまでなほながらへて、せうなるひとにもだいなるひとにもあかしをなし、ふところは預言者よげんしゃおよびモーセがかならきたるべしとかたりしことのほかならず。
 295㌻ 
23 すなはちキリストの苦難くるしみくべきこと、最先いやさき死人しにんうちよりよみがへることによりてたみ異邦人いはうじんとにひかりつたふべきことこれなり』

24 パウロ辯明べんめいしつつあるとき、フェスト大聲おほごゑふ『パウロよ、なんぢ狂氣きゃうきせり、博學はくがくなんぢを狂氣きゃうきせしめたり』 25 パウロふ『フェスト閣下かくかよ、われ狂氣きゃうきせず、ぶる所󠄃ところまことにしてたしかなることばなり。 26 わうこれのことをるゆゑにわれその前󠄃まへはゞからずしてかたる。これらのこと片隅かたすみおこなはれたるにあらねば、ひとつとしてわうかくれたるはなしとしんずるにる。 27 アグリッパわうよ、なんぢ預言者よげんしゃふみしんずるか、われなんぢのしんずることをる』 28 アグリッパ、パウロにふ『なんぢくことわづかにしてわれをキリステアンたらしめんとるか』 29 パウロふ『くことのわづかなるにもせよ、おほきにもせよ、かみねがふはたゞなんぢのみならず、すべ今日けふわれにけるものの、この縲絏なはめなくしてがごときものとならんことなり』

30 ここにわう總督そうとくもベルニケも列座れつざものどももみなともにつ、 31 退󠄃しりぞきてのちあひかたりてふ『このひと死罪しざいまたは縲絏なはめあたるべきことをなさず』 32 アグリッパ、フェストにふ『このひとカイザルに上訴じゃうそせざりしならばゆるさるべかりしなり』

第27章

1 すでに我等われらをイタリヤにわたらしむることさだまりたれば、パウロおよびそのほか數人すにん囚人めしうど近󠄃衞このゑたい百卒長ひゃくそつちゃうユリアスとひとわたせり。 2 こゝわれらアジヤの海邊うみべなる各處ところどころせゆくアドラミテオのふね出帆しゅっぱんせんとするにりてづ。テサロニケのマケドニヤびとアリスタルコもわれらとともにありき。
 296㌻ 
3 つぎシドンにきたれば、ユリアス懇切ねんごろにパウロを遇󠄃あしらひ、そのともらのもとにゆきて欸待もてなしくることをゆるせり。〘215㌻〙 4 かく此處ここより船出ふなでせしが、かぜ逆󠄃さからふによりてクプロの風下かざしもかたをはせ、 5 キリキヤおよびパンフリヤのおき過󠄃ぎてルキヤのミラにく。 6 彼處かしこにてイタリヤにゆくアレキサンデリヤのふね遇󠄃ひたれば、百卒長ひゃくそつちゃうわれらをこれらしむ。 7 おほくののあひだ、ふね進󠄃すゝおそく、からうじてクニドにむかへるところいたりしが、かぜさへられてサルモネのおき過󠄃ぎ、クレテの風下かざしもかたをはせ、 8 をか沿からうじてみなとといふところにつく。その近󠄃ちかところにラサヤのまちあり。

9 船路ふなぢひさしきをて、斷食󠄃だんじき期節きせつすで過󠄃ぎたれば、航海かうかいあやふきにより、パウロ人々ひとびとすゝめてふ、 10人々ひとびとよ、われこの航海かうかい害󠄅がいありそんおほくして、ただ積荷つみにふねとのみならず、われらの生命いのちにもおよぶべきを認󠄃みとむ』 11 されど百卒長ひゃくそつちゃうはパウロの所󠄃ところよりもふなをさふなぬしとのことばおもんじたり。 12 かつこのみなとふゆ過󠄃すごすに不便ふべんなるより、多數たすうものも、なしんにはピニクスにいたり、彼處かしこにてふゆ過󠄃すごさんとて此處ここ船出ふなでするをしとせり。ピニクスはクレテのみなとにてひがしきたひがしみなみとにむかふ。 13 みなみかぜおもむろにきたれば、かれ志望󠄇こころざしたりとしていかりをあげ、クレテの岸邊きしべ沿ひて進󠄃すゝみたり。 14 幾程いくほどもなくユーラクロンといふ疾風はやてそのしまよりきおろし、 15 これがためにふねながされ、かぜむかひて進󠄃すゝむことあたはねば、ふねかぜ追󠄃ふにまかす。 16 クラウダといふ小島こじま風下かざしもかたにいたり、からうじて小艇こぶねをさめ、 17 これをふね引上ひきあげてのち、備綱そなへづなにて船體せんたいしばり、またスルテスのりかけんことをおそれ、おろしてながる。 18 いたく暴風あらしなやまされ、つぎふねものども積荷つみにげすて、 19 三日みっかめにづから船具󠄄ふなぐてたり。
 297㌻ 
20 數日すにちのあひだほしえず、暴風あらしはげしくふきすさびて、われらのすくはるべき望󠄇のぞみつひにてたり。 21 人々ひとびと食󠄃しょくせぬことひさしくなりたるとき、パウロそのなかちてふ『人々ひとびとよ、なんぢら前󠄃さきすゝめをきき、クレテより船出ふなでせずして、この害󠄅がいそんとをけずあるべきはずなりき。 22 いまわれなんぢらにすゝむ、こゝろやすかれ、なんぢのうち一人ひとりだに生命いのちをうしなふものなし、ただふねうしなはん。 23 わがぞくする所󠄃ところ、わがつかふる所󠄃ところかみのつかひ、昨夜さくやわがかたはらにちて、 24 「パウロよ、おそるな、なんぢかならずカイザルの前󠄃まへたん、よ、かみなんぢ同船どうせんするものをことごとくなんぢたまへり」とひたればなり。 25 このゆゑ人々ひとびとよ、こゝろやすかれ、われはそのわれかたたまひしごとくかならるべしとかみしんず。 26 しかしてわれらはあるしま推上おしあげらるべし』
〘216㌻〙
27 かくじふ四日よっかめのよるいたりて、アドリヤのうみたゞよひゆきたるに、夜半󠄃よなかごろ水夫かこをか近󠄃ちかづきたりとおもひて、 28 みづはかりたれば、じふ尋󠄃ひろなるをり、すこしく進󠄃すゝみてまたはかりたれば、じふ尋󠄃ひろなるをり、 29 いはげんことをおそれてともよりいかりおろして夜明よあけちわぶ。 30 しかるに水夫かこふねより逃󠄄のがれらんとほっし、へさきよりいかりきゆくにことせて小艇こぶねうみおろしたれば、 31 パウロ、百卒長ひゃくそつちゃう兵卒へいそつらとにふ『このものどもふねとゞまらずば、なんぢすくはるることあたはず』 32 ここに兵卒へいそつ小艇こぶねつな斷切たちきりて、そのながれゆくにまかす。 33 けんとするころパウロすべてのひと食󠄃しょくせんことをすゝめてふ『なんぢらちて、食󠄃事しょくじせぬこと今日けふにてじふ四日よっかなり。 34 さればなんぢらに食󠄃しょくせんことをすゝむ、これなんぢらがすくひのためなり、なんぢらの頭髮かみのけ一筋ひとすじだにかうべよりつることなし』 35 ひてのちみづからパンをり、一同いちどう前󠄃まへにてかみしゃし、きて食󠄃しょくはじめたれば、 36 人々ひとびともみなこゝろやすんじて食󠄃しょくしたり。 37 ふねわれらはすべひゃくしちじふろくにんなりき。
 298㌻ 
38 人々ひとびと食󠄃しょく飽󠄄きてのち穀物こくもつうみててふねかろくせり。 39 夜明よあけになりて、いづれ土地とちかはらねど砂濱すなはま入江いりえ見出みいだし、なしべくば此處ここふねせんとあひはかり、 40 いかりちてうみつるとともに舵纜かぢづなをゆるめへさきげて、かぜにまかせつつ砂濱すなはまさして進󠄃すゝむ。 41 しかるにうしほながれあふところにいたりてふね淺瀬あさせげたれば、へさき膠著ゐつきてうごかず、ともなみはげしきにやぶれたり。 42 兵卒へいそつらは囚人めしうどおよぎて逃󠄄のがれらんことをおそれ、これをころさんとはかりしに、 43 百卒長ひゃくそつちゃうパウロをすくはんとほっして、そのはかるところをはゞみ、およぎうるものめいじ、うみりて、まず上陸じゃうりくせしめ、 44 そのほかものをばあるひいたあるひはふね碎片くだけらしむ。かくしてみな上陸じゃうりくしてすくはるるをたり。

第28章

1 われらすくはれてのち、このしまのマルタととなふるをれり。 2 土人どじん一方ひとかたならぬ情󠄃なさけわれらにあらはし、りしきるあめ寒氣さむさとのためにきてわれ一同いちどう待遇󠄃もてなせり。 3 パウロしばつかねてにくべたれば、ねつによりてまむしいでてにつく。 4 へびのそのかゝりたるを土人どじんたがひふ『このひとかなら殺人者ひとごろしなるべし、うみよりすくはれしも、天道󠄃てんだうはそのくるをゆるさぬなり』 5 パウロへびのなかにおとしてなに害󠄅がいをもけざりき。 6 人々ひとびとかれづるか、またはたちまたふぬるならんとうかゞふ。ひさしくうかゞひたれど、いさゝかも害󠄅がいけぬをて、おもひへて、かみなりとふ。
〘217㌻〙
7 このところほとり島司たうしのもてる土地とちあり、島司たうしはポプリオといふ。ひとわれらを迎󠄃むかへて懇切ねんごろ三日みっかあひだもてなせり。 8 ポプリオの父󠄃ちちねつ痢病りびゃうとにかゝりてたれば、パウロそのもとにいたり、いのり、かつきていやせり。
 299㌻ 
9 このことありてよりしまめる人々ひとびとみなきたりていやされたれば、 10 れいあつくしてわれらをうやまひ、また船出ふなでときには必要󠄃ひつえうなる品々しなじなおくりたり。

11 三月みつきのち、われらはしま冬籠ふゆごもりせしデオスクリのしるしあるアレキサンデリヤのふねにてで、 12 シラクサにつきて三日みっかとまり、 13 此處ここよりめぐりてレギオンにいたり、一日いちにち過󠄃ぎてみなみかぜふき起󠄃おこりたれば、われ二日ふつかめにポテオリにき、 14 此處ここにて兄弟きゃうだいたちにひ、そのすゝめによりて七日なぬかのあひだとゞまり、しかして遂󠄅つひにロマにく。 15 かしこの兄弟きゃうだいたちわれらのことをききて、《[*]》アピオポロ、およびトレスタベルネまできたりてわれらを迎󠄃むかふ。パウロこれをかみ感謝かんしゃし、そのこゝろいさみたり。[*「アピオの市場および三宿」の意󠄃。]

16 われらロマにりてのち、パウロはおのれまも一人ひとり兵卒へいそつとともにべつ住󠄃むことをゆるさる。

17 三日みっかすぎてパウロ、ユダヤびと重立おもだちたるものあつむ。そのあつまりたるときこれにふ『兄弟きゃうだいたちよ、われはわがたみわが先祖せんぞたちの慣例ならはしもとることをひとつもさざりしに、エルサレムより囚人めしうどとなりて、ロマびとわたされたり。 18 かれらわれさばきてあたることなきゆゑに、われゆるさんとおもひしに、 19 ユダヤびとさからひたれば、餘義よぎなくカイザルに上訴じゃうそせり。れど國人くにびとうったへんとせしにあらず。 20 このゆゑわれなんぢらにひ、かつともかたらんことをねがへり、われはイスラエルのいだ希望󠄇のぞみためにこのくさりつながれたり』 21 かれらふ『われらなんぢにつきてユダヤよりふみけず、また兄弟きゃうだいたちのうちよりきたりてなんぢからぬことげたるものも、かたりたるものもなし。 22 ただわれらはなんぢおもふところをかんとほっするなり。それは宗旨しゅうしいたところにてなんせらるるをればなり』

 300㌻ 
23 こゝさだめておほくのひと、パウロの宿やどきたりたれば、パウロ朝󠄃あしたよりゆふべまでかみくにのことを説明ときあかしてあかしをなし、かつモーセの律法おきて預言者よげんしゃふみとをきてイエスのことをすゝめたり。 24 パウロのいふことばあるものしんじ、あるものしんぜず。 25 たがひあひはずして退󠄃しりぞかんとしたるに、パウロ一言ひとこと述󠄃べてふ『うべなるかな、聖󠄄せいれい預言者よげんしゃイザヤによりてなんぢらの先祖せんぞたちにかたたまへり。いはく、〘218㌻〙 26汝等なんぢらこのたみきてへ、 なんぢらきてけどもさとらず、 れども認󠄃みとめず、 27 このたみこゝろにぶく、 みみくにものうく、 ぢたればなり。 これにてみみにてき、 こゝろにてさとり、ひるがへりて われいやさるることなからんためなり」 28 ればなんぢれ、かみのこのすくひ異邦人いはうじん遣󠄃つかはされたり、かれらはこれくべし』 29 [なし]《[*]》[*異本二九「彼がこのをいひをへし時、ユダヤ人互に大なる爭論をなして退󠄃けり」の句あり。]

30 パウロは滿まん二年にねんのあひだ、おのけたるいへとゞまり、そのもとにきたるすべてのもの迎󠄃むかへて、 31 さらおくせず、またさまたげられずしてかみくにをのべ、しゅイエス・キリストのことをしへたり。〘219㌻〙
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