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〘67㌻〙

第1章

1 かみの《[*]》イエス・キリストの福音󠄃ふくいんはじめ[*異本「神の子」なし。]。

2 預言者よげんしゃイザヤのふみに、 『よ、われなんぢのかほ前󠄃まへに、わが使つかひ遣󠄃つかはす、 かれなんぢの道󠄃みちまうくべし。 3 荒野あらのよばはるものこゑす 「しゅ道󠄃みちそなへ、そのみちすぢをなほくせよ」』としるされたるごとく、 4 バプテスマのヨハネで、荒野あらのにてつみゆるしさする悔改くいあらためのバプテスマを宣傳のべつたふ。 5 ユダヤ全󠄃國ぜんこくまたエルサレムの人々ひとびと、みなもときたりてつみひあらはし、ヨルダンがはにてバプテスマをけたり。 6 ヨハネは駱駝らくだ毛織けおりこしかはおびして、いなご野蜜のみつとを食󠄃くらへり。 7 かれ宣傳のべつたへてふ『われよりもちからあるもの、わがのちきたる。われかゞみて、そのくつひもをとくにもらず、 8 われみづにてなんぢらにバプテスマをほどこせり。されどかれ聖󠄄せいれいにてバプテスマをほどこさん』

9 そのころイエス、ガリラヤのナザレよりきたり、ヨルダンにてヨハネよりバプテスマをたまふ。 10 かくみづよりあがるをりしも、てんさけゆき、御靈みたま鴿はとのごとくおのれくだるをたまふ。 11 かつてんよりこゑづ『なんぢはいつくしむなり、われなんぢをよろこぶ』

12 かく御靈みたまただちにイエスを荒野あらの逐󠄃ひやる。 13 荒野あらのにて四十しじふにちあひだサタンにこゝろみられ、けものとともに居給ゐたまふ、御使みつかひたちこれつかへぬ。

14 ヨハネのとらはれしのち、イエス、ガリラヤにいたり、かみ福音󠄃ふくいん宣傳のべつたへてたまふ、 15とき滿てり、かみくに近󠄃ちかづけり、なんぢ悔改くいあらためて福音󠄃ふくいんしんぜよ』

 67㌻ 
16 イエス、ガリラヤのうみにそひてあゆみゆき、シモンと兄弟きゃうだいアンデレとが、うみあみちをるをたまふ。かれらは漁人すなどりびとなり。 17 イエスたまふ『われにしたがひきたれ、なんぢをしてひとすなどものとならしめん』 18 かれたゞちにあみをすててしたがへり。 19 すこ進󠄃すゝみゆきて、ゼベダイのヤコブとその兄弟きゃうだいヨハネとをたまふ、かれらもふねにありてあみつくろひゐたり。 20 ただちにたまへば、父󠄃ちちゼベダイを雇人やとひびととともにふね遺󠄃のこしてしたがひゆけり。

21 かくかれらカペナウムにいたる、イエスたゞちに安息あんそくにち會堂くわいだうにいりてをしたまふ。 22 人々ひとびとそのをしへをどろきあへり。それは學者がくしゃごとくならず、權威けんゐあるもののごとくをしたまふゆゑなり。 23 ときにその會堂くわいだうに、けがれしれいかれたるひとあり、さけびて〘49㌻〙 24 『ナザレのイエスよ、われらはなんぢなに關係かゝはりあらんや、なんぢわれらをほろぼさんとて來給きたまふ。われはなんぢたれなるをる、かみ聖󠄄者しゃうじゃなり』 25 イエスいましめてたまふ『もだせ、そのひとでよ』 26 けがれしれい、そのひと痙攣ひきつけさせ、大聲おほごゑをあげてづ。 27 人々ひとびとみなをどろあひひてふ『これ何事なにごとぞ、權威けんゐあるあたらしきをしへなるかな、けがれしれいすらめいずればしたがふ』 28 こゝにイエスのうはさあまねくガリラヤの四方しはうひろまりたり。

29 會堂くわいだうをいで、たゞちにヤコブとヨハネとを伴󠄃ともなひて、シモンおよびアンデレのいへたまふ。 30 シモンの外姑しうとめねつをやみてしゐたれば、人々ひとびとただちにこれをイエスにぐ。 31 イエスきて、そのをとり、起󠄃おこたまへば、ねつさりてをんなかれらにつかふ。

32 ゆふべとなり、いりてのち人々ひとびとすべてのやまひあるもの惡鬼あくきかれたるものをイエスにきたり、 33 全󠄃町ひとまちこぞりてもんあつまる。
 68㌻ 
34 イエスさまざまのやまひわづらおほくのひとをいやし、おほくの惡鬼あくき逐󠄃ひいだしこれものふことをゆるたまはず、惡鬼あくきイエスをるにりてなり。

35 朝󠄃あさまだき暗󠄃くらほどに、イエス起󠄃でて、さびしきところにゆき、其處そこにていのりゐたまふ。 36 シモンおよこれともにをるものども、そのあとしたひゆき、 37 イエスに遇󠄃ひてふ『ひとみななんぢ尋󠄃たづぬ』 38 イエスたまふ『いざ最寄もより村々むらむらかん、われ彼處かしこにもをしへぶべし、われはこのためきたりしなり』 39 遂󠄅つひにゆきて、あまねくガリラヤの會堂くわいだうにてをしへべ、かつ惡鬼あくき逐󠄃いだたまへり。

40 一人ひとり癩病人らいびゃうにん、みもとにきたり、ひざまづき請󠄃ひてふ『御意󠄃みこゝろならばわれ潔󠄄きよくなしたまふをん』 41 イエスあはれみて、をのべかれにつけて『わが意󠄃こゝろなり、潔󠄄きよくなれ』とたまへば、 42 たゞちに癩病らいびゃうさりて、そのひときよまれり。 43 やがかれらしめんとて、きびしくいましめてたま 44 『つつしみてたれにもかたるな、たゞゆきておのれ祭司さいしせ、モーセがめいじたるものなんぢ潔󠄄きよめのためにさゝげて、人々ひとびとあかしせよ』 45 されどかれいでてことおほい述󠄃べつたへ、あまねひろはじめたれば、こののちイエスあらはにまちりがたく、そとさびしきところとゞまりたまふ。人々ひとびと四方しはうより御許みもときたれり。

第2章

1 數日すにちのち、またカペナウムにたまひしに、そのいへいますることをきて、 2 おほくのひとあつまりきたり、門口かどぐちすら隙間すきまなきほどなり。イエスかれらに御言みことばかたたまふ。〘50㌻〙 3 ここに四人よにんになはれたる中風ちゅうぶもの人々ひとびとつれきたる。 4 群衆ぐんじゅうによりて御許みもとにゆくことあたはざれば、いま所󠄃ところ屋根やね穿うがちあけて、中風ちゅうぶものとこのままおろせり。
 69㌻ 
5 イエスかれらの信仰しんかうて、中風ちゅうぶものひたまふ『よ、なんぢつみゆるされたり』 6 ある學者がくしゃたち其處そこしゐたるが、こゝろうちに、 7 『このひとなんぞふか、これはかみけがすなり、かみひとりのほかたれつみゆるすことをべき』とろんぜしかば、 8 イエスたゞちにかれがかくろんずるをこゝろさとりてたまふ『なにゆゑかゝることをこゝろろんずるか、 9 中風ちゅうぶものに「なんぢのつみゆるされたり」とふと「起󠄃きよ、とこをとりてあゆめ」とふと、いづれやすき。 10 ひとにてつみゆる權威けんゐあることを、なんぢらにらせんために』――中風ちゅうぶものたまふ―― 11 『なんぢにぐ、起󠄃きよ、とこをとりていへかへれ』 12 かれおきてたゞちにとこをとりあげ、人々ひとびと眼前󠄃まのあたりいでけば、みなおどろき、かつかみあがめてふ『われらかくごときことはえてざりき』

13 イエスまた海邊うみべでゆきたまひしに、群衆ぐんじゅうみもとにつどきたりたれば、これをしたまへり。 14 かく過󠄃くとき、アルパヨのレビの、收税所󠄃しうぜいしょしをるをて『われにしたがへ』とたまへば、ちてしたがへり。 15 しかしていへにて食󠄃事しょくじせきにつき居給ゐたまふとき、おほくの取税人しゅぜいにん罪人つみびとら、イエスおよ弟子でしたちとともせきつらなる、これらのものおほくて、イエスにしたがへるなり。 16 パリサイびと學者がくしゃら、イエスの罪人つみびと取税人しゅぜいにんとともに食󠄃しょくたまふをて、その弟子でしたちにふ『なにゆゑ取税人しゅぜいにん罪人つみびととともに食󠄃しょくするか』 17 イエスきてたまふ『すこやかなるものは、醫者いしゃ要󠄃えうせず、ただやまひあるもの、これを要󠄃えうす。われたゞしきものまねかんとにあらで、罪人つみびとまねかんとてきたれり』

18 ヨハネの弟子でしとパリサイびととは、斷食󠄃だんじきしゐたり。人々ひとびとイエスにきたりてふ『なにゆゑヨハネの弟子でしとパリサイびと弟子でしとは斷食󠄃だんじきして、なんぢ弟子でし斷食󠄃だんじきせぬか』 19 イエスたまふ『新郎はなむこともだち、新郎はなむこともにをるうちは斷食󠄃だんじきべきか、新郎はなむこともにをるあひだは、斷食󠄃だんじきするをず。
 70㌻ 
20 れど新郎はなむこをとらるるきたらん、そのには斷食󠄃だんじきせん。 21 たれあたらしきぬのきれふるころも縫󠄃ひつくることはじ。もししかせば、そのおぎなひたるあたらしきものは、ふるものをやぶり、破綻ほころびさらにはなはだしからん。 22 たれあたらしき葡萄酒ぶだうしゅを、ふるき革嚢かはぶくろるることはじ。もししかせば、葡萄酒ぶだうしゅふくろをはりさきて、葡萄酒ぶだうしゅふくろすたらん。あたらしき葡萄酒ぶだうしゅは、あたらしき革嚢かはぶくろるるなり』
〘51㌻〙
23 イエス安息あんそくにちむぎはたけをとほりたまひしに、弟子でしたちあゆみつつはじめたれば、 24 パリサイびと、イエスにふ『よ、かれらはなにゆゑ安息あんそくにちまじきことをするか』 25 こたたまふ『ダビデその伴󠄃ともなへる人々ひとびとともともしくして飢󠄄ゑしときししこといままぬか。 26 すなはだい祭司さいしアビアタルのとき、ダビデかみいへりて、祭司さいしのほかは食󠄃くらふまじきそなへのパンをりて食󠄃くらひ、おのれとともなるものにもあたへたり』 27 またひたまふ『安息あんそくにちひとのためにまうけられて、ひと安息あんそくにちのためにまうけられず。 28 ればひと安息あんそくにちにもしゅたるなり』

第3章

1 また會堂くわいだうたまひしに、片手かたてなえたるひとあり。 2 人々ひとびとイエスをうったへんとおもひて、安息あんそくにちにかのひといやすやいなやとうかゞふ。 3 イエスなえたるひとに『なかて』といひ、 4 また人々ひとびとひたまふ『安息あんそくにちぜんをなすとあくをなすと、生命いのちすくふところすと、いづれかよき』かれ默然もくねんたり。 5 イエスそのこゝろ頑固かたくななるをうれひて、いか見囘みまはして、なえたるひとに『べよ』とたまふ。かれべたれば癒󠄄ゆ。 6 パリサイびといでて、たゞちにヘロデたうひととともに、如何いかにしてイエスをほろぼさんとはかる。

7 イエスその弟子でしとともに、海邊うみべ退󠄃しりぞたまひしに、ガリラヤよりきたれる夥多おびたゞしき民衆みんしゅうしたがふ。又󠄂またユダヤ、
 71㌻ 
8 エルサレム、イドマヤ、ヨルダンのむかひ、およびツロ、シドンのほとりより夥多おびたゞしき民衆みんしゅうそのたまへることきて、御許みもときたる。 9 イエス群衆ぐんじゅうのおしなやますを逃󠄄のがれんとて、小舟こぶねそなくことを弟子でしめいたまふ。 10 これおほくのひといやたまひたれば、すべやまひくるしむもの、御體みからださはらんとて押迫󠄃おしせまゆゑなり。 11 またけがれしれいイエスをごとに、御前󠄃みまへ平󠄃伏ひれふし、さけびて『なんぢはかみなり』とひたれば、 12 われあらはすなとて、きびしくいましたまふ。

13 イエスやまのぼり、御意󠄃みこゝろ適󠄄かなものたまひしに、かれ御許みもときたる。 14 こゝ十二じふににんげたまふ。これかれらを御側みそばにおき、またをしへべさせ、 15 惡鬼あくき逐󠄃いだ權威けんゐもちひさするために、遣󠄃つかはさんとてなり。 16 の《[*]》十二じふににんげて、シモンにペテロといふをつけ、[*異本「此の十二人を擧げて」の句なし。] 17 ゼベダイのヤコブ、その兄弟きゃうだいヨハネ、二人ふたりにボアネルゲ、すなは雷霆いかづちといふをつけたまふ。 18 又󠄂またアンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨのヤコブ、タダイ、熱心ねっしんたうのシモン、〘52㌻〙 19 およびイスカリオテのユダ、このユダはイエスをりしなり。
   かくてイエスいへたまひしに、
20 群衆ぐんじゅうまたあつまきたりたれば、食󠄃事しょくじするひまもなかりき。 21 その親族みうちものこれをき、イエスを取押とりおさへんとてきたる、イエスをくるへりとひてなり。 22 又󠄂またエルサレムよりくだれる學者がくしゃたちも『かれはベルゼブルにかれたり』とひ、かつ『惡鬼あくきかしらによりて惡鬼あくき逐󠄃いだすなり』とふ。 23 イエスかれらをびよせ、たとへにてたまふ『サタンは、いかでサタンを逐󠄃いだんや。 24 もしくに分󠄃わかあらそはば、くにつことあたはず。 25 もしいへ分󠄃わかあらそはば、いへつことあたはざるべし。 26 しサタンおのれ逆󠄃さからひて分󠄃わかあらそはば、つことあたはず、かへつてほろてん。 27 たれにてもつよものしばらずば、つよものいへりて家財かざいうばふことあたはじ、しばりてのちそのいへうばふべし。
 72㌻ 
28 まことなんぢらにぐ、ひとらのすべてのつみと、けがすけがしとはゆるされん。 29 れど聖󠄄せいれいをけがすものは、永遠󠄄とこしへゆるされず、永遠󠄄とこしへつみさだめらるべし』 30 これはかれらイエスを『けがれしれいかれたり』とへるがゆゑなり。

31 こゝにイエスのはは兄弟きゃうだいきたりてそとち、ひと遣󠄃つかはしてイエスをばしむ。 32 群衆ぐんじゅうイエスをめぐりてしたりしが、あるものいふ『よ、なんぢのはは兄弟きゃうだい姉妹しまいそとにありてなんぢ尋󠄃たづぬ』 33 イエスこたへてたまふ『わがはは、わが兄弟きゃうだいとはたれぞ』 34 かく周󠄃圍まはりする人々ひとびと見囘みまはしてひたまふ『よ、これははは、わが兄弟きゃうだいなり。 35 たれにてもかみ御意󠄃みこゝろおこなふものは、これわが兄弟きゃうだい、わが姉妹しまい、わがははなり』

第4章

1 イエスまた海邊うみべにてをしはじめたまふ。夥多おびたゞしき群衆ぐんじゅう、みもとにあつまりたれば、ふねうみうかびてしたまひ、群衆ぐんじゅうはみなうみ沿ひてをかにあり。 2 たとへにて數多あまたことををしへ、をしへうちひたまふ、 3け、たねくもの、かんとてづ。 4 くとき、みちかたはらにちしたねあり、とりきたりてついばむ。 5 つちうすき磽地いしぢちしたねあり、つちふかからぬによりて、速󠄃すみやかにでたれど、 6 でてやけ、なきゆゑる。 7 いばらなかちしたねあり、いばらそだちふさぎたれば、むすばず。 8 ちしたねあり、でてしげり、むすぶこと、三十さんじふばい六十ろくじふばいひゃくばいせり』 9 またたまふ『きくみゝあるものくべし』
〘53㌻〙
10 イエス人々ひとびとはな居給ゐたまふとき、御許みもとにをるものども、十二じふに弟子でしとともに、これたとへふ。 11 イエスたまふ『なんぢらにはかみくに奧義おくぎあたふれど、そとものには、すべたとへにてをしふ。 12 これ「るときゆとも認󠄃みとめず、くとききこゆともさとらず、ひるがへりてゆるさるることなからん」ためなり』
 73㌻ 
13 またたまふ『なんぢらたとへらぬか、らばいかでもろもろのたとへんや。 14 もの御言みことばくなり。 15 御言みことばかれてみちかたはらにありとは、かゝひとをいふ、すなはくとき、たゞちにサタンきたりて、そのかれたる御言みことばうばふなり。 16 おなじくかれて磽地いしぢにありとは、かゝひとをいふ、すなは御言みことばをききて、たゞちによろこくれども、 17 そのうちなければ、ただしばたもつのみ、御言みことばのために、患難なやみまた迫󠄃害󠄅はくがいにあふときは、たゞちにつまづくなり。 18 またかれていばらなかにありとは、かゝひとをいふ、 19 すなは御言みことばをきけど、心勞こゝろづかひ財貨たからまどひ、さまざまのよくいりきたり、御言みことばふさぐによりて、遂󠄅つひみのらざるなり。 20 かれてにありとは、かゝひとをいふ、すなは御言みことばきてけ、三十さんじふばい六十ろくじふばいひゃくばいむすぶなり』

21 またひたまふ『ますのした、寢臺ねだいしたにおかんとて、燈火ともしびをもちきたるか、燈臺とうだいうへにおくためならずや。 22 それあらはるるためならで、かくるるものなく、あきらかにせらるるためならで、めらるるものなし。 23 みみあるものくべし』 24 またたまふ『なんぢらくことにこゝろせよ、なんぢらがはかはかりにてはかられ、さらくはへらるべし。 25 それてるひとは、なほあたへられ、たぬひとは、てるものをもらるべし』

26 またひたまふ『かみくには、あるひと、たねをくがごとし、 27 日夜にちや起󠄃臥おきふしするほどに、たねはえでてそだてども、そのゆゑらず。 28 はおのづからむすぶものにして、はじめにはなへ、つぎに、つひになかれるこくなる。 29 みのればたゞちにかまる、收穫時かりいれどきいたれるなり』

 74㌻ 
30 またたまふ『われらかみくになにになずらへ、如何いかなるたとへをもてしめさん。 31 一粒ひとつぶ芥種からしだねのごとし、ときは、にあるよろづたねよりもちひさけれど、 32 すできてづれば、よろづ野菜やさいよりはおほきく、かつおほいなるえだいだして、空󠄃そらとりそのかげるほどになるなり』

33 かくのごとき數多あまたたとへをもて、人々ひとびときうるちからしたがひて、御言みことばかたり、 34 たとへならではかたたまはず、弟子でしたちには、ひとなきときすべてのことたまへり。
〘54㌻〙
35 そのゆふべになりてたまふ『いざ彼方かなたかん』 36 弟子でしたち群衆ぐんじゅうはなれ、イエスのふねにゐたまふままともづ、ほかふねしたがひゆく。 37 ときはげしき颶風はやておこり、なみうち込󠄃みて、ふね滿つるばかりなり。 38 イエスはともかたしとねまくらとしてねたまふ。弟子でしたち起󠄃おこしてふ『よ、われらのほろぶるを顧󠄃かへりたまはぬか』 39 イエス起󠄃きてかぜをいましめ、うみひたまふ『もだせ、しづまれ』すなはかぜやみて、おほいなるなぎとなりぬ。 40 かく弟子でしたちにたまふ『なにゆゑかくおくするか、信仰しんかうなきはなんぞ』 41 かれらいたおそれてたがひふ『こはたれぞ、かぜうみしたがふとは』

第5章

1 かくうみ彼方かなたなるゲラセネびといたる。 2 イエスのふねよりあがたまふとき、けがれしれいかれたるひとはかよりでて、たゞちに遇󠄃ふ。 3 このひとはか住󠄃處すみかとす、くさりにてすらいまたれつなず。 4 かれはしばしば足械あしかせくさりとにてつながれたれど、くさりをちぎり、足械あしかせをくだきたり、たれこれせいするちからなかりしなり。 5 よるひるも、えずはかあるひはやまにてさけび、おのいしにてきずつけゐたり。 6 かれはるかにイエスをて、はしりきたり、御前󠄃みまへ平󠄃伏ひれふし、 7 大聲おほごゑさけびてふ『いとたかかみイエスよ、われなんぢなに關係かゝはりあらん、かみによりてねがふ、われくるしめたまふな』
 75㌻ 
8 これはイエス『けがれしれいよ、このひとよりけ』とたまひしにるなり。 9 イエスまた『なんぢのなにか』とたまへば『わがはレギオン、われおほきがゆゑなり』とこたへ、 10 またおのれらをそと逐󠄃ひやりたまはざらんことをせつもとむ。 11 彼處かしこ山邊やまべぶたおほいなるむれ食󠄃しょくしゐたり。 12 惡鬼あくきどもイエスにもとめてふ『われらを遣󠄃つかはしてぶたらしめたまへ』 13 イエスゆるしたまふ。けがれしれいいでて、ぶたりたれば、二千にせんびきばかりのむれうみむかひて、がけけくだり、うみおぼれたり。 14 ものども逃󠄄きて、まちにもさとにもげたれば、人々ひとびと何事なにごと起󠄃おこりしかをんとてづ。 15 かくてイエスにきたり、惡鬼あくきかれたりしものすなはちレギオンをもちたりしものの、衣服󠄃ころもをつけ、たしかなるこゝろにてしをるをて、おそれあへり。 16 かの惡鬼あくきかれたるものうへにありしことと、ぶたこととをものども、これ具󠄄つぶさげたれば、 17 人々ひとびとイエスにそのさかひたまはんこともとむ。 18 イエスふねらんとしたまふとき、惡鬼あくきかれたりしものともらんことねがひたれど、 19 ゆるさずしてたまふ『なんぢのいへに、したしきものかへりて、しゅがいかにおほいなることなんぢし、いかになんぢあはれたまひしかをげよ』〘55㌻〙 20 かれゆきてイエスの如何いかおほいなることおのれになしたまひしかをデカポリスにひろめたれば、人々ひとびとみなあやしめり。

21 イエスふねにて、またかなたにわたたまひしに、おほいなる群衆ぐんじゅうみもとにあつまる、イエス海邊うみべいませり。 22 會堂くわいだうつかさ一人ひとり、ヤイロというものきたり、イエスをて、その足下あしもとし、 23 せつねがひてふ『わがいとけなきむすめ、いまはのきはなり、きたりてをおきたまへ、さらばすくはれてくべし』 24 イエスかれともにゆきたまへば、おほいなる群衆ぐんじゅうしたがひつつ御許みもと押迫󠄃おしせまる。

 76㌻ 
25 こゝじふ二年にねん血漏ちらうわづらひたるをんなあり。 26 おほくの醫者いしゃおほくるしめられ、てるものをことごとくつひやしたれど、なにかひなく、かへつて增々ますますしくなりたり。 27 イエスのことをききて、群衆ぐんじゅうにまじり、うしろきたりて、御衣みころもにさはる、 28 『そのころもにだにさはらばすくはれん』とみづかへり。 29 かくいづみ、ただちにかわき、やまひのいえたるをおぼえたり。 30 イエスたゞちに能力ちからおのれよりでたるをみづかり、群衆ぐんじゅうなかにて、振反ふりかへひたまふ『たれわれころもさはりしぞ』 31 弟子でしたちふ『群衆ぐんじゅう押迫󠄃おしせまるをて、たれわれさはりしぞとたまふか』 32 イエスこのことししものんとて見囘みまはたまふ。 33 をんなおそれをのゝき、おのになりしことり、きたりて御前󠄃みまへ平󠄃伏ひれふし、ありしままをぐ。 34 イエスたまふ『むすめよ、なんぢの信仰しんかうなんぢをすくへり、やすらかにけ、やまひいえてすこやかになれ』

35 かくかたたまふほどに、會堂くわいだうつかさいへより人々ひとびときたりてふ『なんぢのむすめにたり、いかでなほわづらはすべき』 36 イエスぐることばかたへよりきて、會堂くわいだうつかさひたまふ『おそるな、ただしんぜよ』 37 かくてペテロ、ヤコブその兄弟きゃうだいヨハネのほかは、ともにことたれにもゆるたまはず。 38 かれ會堂くわいだうつかさいへきたる。イエスおほくのひとの、いたきつさけびつするさわぎ 39 りてたまふ『なんぞさわぎ、かつくか、幼兒をさなごにたるにあらず、ねたるなり』 40 人々ひとびとイエスを嘲笑あざわらふ。イエスかれをみなそといだし、幼兒をさなご父󠄃ちちははおのれ伴󠄃ともなへるものとを率󠄃きつれて、幼兒をさなごのをるところり、 41 幼兒をさなごりて『タリタ、クミ』とひたまふ。少女せうじょよ、われなんぢにふ、起󠄃きよ、との意󠄃こゝろなり。 42 たゞちに少女せうじょたちてあゆむ、そのとし十二じふになりければなり。かれたゞちにいたをどろきおどろけり。 43 イエスことたれにもれぬやうにせよと、かたかれらをいましめ、また食󠄃物しょくもつむすめあたふることをめいたまふ。〘56㌻〙
 77㌻ 

第6章

1 かく其處そこをいで、おのさといたたまひしに、弟子でしたちもしたがへり。 2 安息あんそくにちになりて、會堂くわいだうにてをしはじたまひしに、きたるおほくのものをどろきてふ『このひとこれのことを何處いづこよりしぞ、ひとさづけられたる智慧󠄄ちゑなにぞ、そのにてかくのごとき能力ちからあるわざはなにぞ。 3 ひと木匠たくみにして、マリヤの、またヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟きゃうだいならずや、姉妹しまい此處ここわれらとともにをるにあらずや』遂󠄅つひかれつまづけり。 4 イエスかれらにひたまふ『預言者よげんしゃは、おのがさと、おのが親族しんぞく、おのがいへほかにて尊󠄅たふとばれざることなし』 5 彼處かしこにては、なに能力ちからあるわざをもおこなたまふことあたはず、ただ少數せうすうめるものに、をおきていやたまひしのみ。 6 かれらの信仰しんかうなきをあやしみたまへり。
   かく村々むらむら巡󠄃めぐりてをしたまふ。
7 また十二じふに弟子でしし、二人ふたりづつ遣󠄃つかはしはじめ、けがれしれいせいする權威けんゐあたへ、 8 かつたびのために、つゑひとつのほかは、なにをもたず、かてふくろおびなかぜにをもたず、 9 ただ草鞋わらぢばかりをはきて、ふたつの下衣したぎをもざることをめいたまへり。 10 かくひたまふ『何處いづこにてもひといへらば、そのるまで其處そことゞまれ。 11 何地いづちにてもなんぢらをけず、なんぢらにかずば、其處そこづるとき、あかしのためにあしうらちりはらへ』 12 こゝ弟子でしたちきて、悔改くいあらたむべきことを宣傅のべつたへ、 13 おほくの惡鬼あくき逐󠄃ひいだし、おほくのめるものあぶらをぬりていやせり。

14 かくてイエスのあらはれたれば、ヘロデわうききてふ『バプテスマのヨハネ、死人しにんうちよりよみがへりたり。このゆゑこれ能力ちからそのうちはたらくなり』 15 あるひとは『エリヤなり』といひ、あるひとは『預言者よげんしゃ、いにしへの預言者よげんしゃのごときものなり』といふ。
 78㌻ 
16 ヘロデきてふ『わが首斬くびきりしヨハネ、かれよみがへりたるなり』 17 ヘロデさきにそのめとりたるおの兄弟きゃうだいピリポのつまヘロデヤのために、みづからひと遣󠄃つかはし、ヨハネをとらへてひとやつなげり。 18 ヨハネ、ヘロデに『その兄弟きゃうだいつま納󠄃るるは、よろしからず』とへるにる。 19 ヘロデヤ、ヨハネをうらみてころさんとおもへどあたはず。 20 それはヘロデ、ヨハネのにして聖󠄄せいなるひとたるをりて、これおそれ、これまもり、かつそのをしへをききて、おほいなやみつつも、なほよろこびてきたるゆゑなり。 21 しかるにをりよききたれり。ヘロデおの誕生日たんじゃうびに、大臣だいじん將校しゃうこう・ガリラヤの貴人きにんたちをまねきて饗宴ふるまひせしに、 22 かのヘロデヤのむすめいりきたりて、まひをまひ、ヘロデとせきつらなれるものとをよろこばしむ。わう少女せうじょふ『なににてもしくおもふものをもとめよ、われあたへん』〘57㌻〙 23 またちかひてふ『なんぢもとめば、くに半󠄃なかばまでもあたへん』 24 むすめいでてははにいふ『なにもとむべきか』ははいふ『バプテスマのヨハネのくびを』 25 むすめただちに急󠄃いそぎてわうもとりきたり、もとめてふ『ねがはくは、バプテスマのヨハネのくび盆󠄃ぼんせて速󠄃すみやかにたまはれ』 26 わういたくうれひたれど、そのちかひせきものとにたいしてこばむことをこのまず、 27 たゞちに衞兵ゑいへい遣󠄃つかはし、これにヨハネのくびきたることをめいず、衞兵ゑいへいゆきてひとやにて、ヨハネを首斬くびきり、 28 そのくび盆󠄃ぼんにのせ、きたりて少女せうじょあたふ、少女せうじょこれをははあたふ。 29 ヨハネの弟子でしたちきてきたり、その屍體しかばねりてはか納󠄃をさめたり。

30 使徒しとたちイエスのもとあつまりて、そのししこと、をしへしことをことごとくぐ。 31 イエスたまふ『なんぢらひと避󠄃け、さびしきところに、いざきたりてしばいこへ』これは徃來ゆききひとおほくして、食󠄃しょくするひまだになかりしゆゑなり。 32 かくひと避󠄃け、ふねにてさびしきところにゆく。 33 くをて、おほくのひとそれとり、そのところして、町々まちまちより徒步かちにてともにはしり、かれよりもさきけり。
 79㌻ 
34 イエスでておほいなる群衆ぐんじゅう、そのものなきひつじごとくなるをいたあはれみて、おほくのことをしへはじめたまふ。 35 ときすでにおそくなりたれば、弟子でしたち御許みもときたりていふ『ここはさびしきところ、はやときおそし。 36 人々ひとびとらしめ、周󠄃圍まはりさとまたむらきて、おのがために食󠄃物しょくもつはせたまへ』 37 こたへてたまふ『なんぢら食󠄃物しょくもつあたへよ』弟子でしたちふ『われらきてひゃくデナリのパンをひ、これにあたへて食󠄃くらはすべきか』 38 イエスたまふ『パンいくつあるか、きてよ』かれていふ『いつつ、またうをふたつあり』 39 イエスすべてのひと組々くみぐみとなりて、あをくさうへすることをめいたまへば、 40 あるひひゃくにん、あるひはじふにんうねのごとくならびてす。 41 かくてイエスいつつのパンとふたつのうをとをり、てんあふぎてしくしパンをさき、弟子でしたちにわたして人々ひとびと前󠄃まへかしめ、ふたつのうををもひとごと分󠄃たまふ。 42 すべてのひと食󠄃くらひて飽󠄄きたれば、 43 パンのあまりうをのこりあつめしに、十二じふにかご滿ちたり。 44 パンを食󠄃くらひたるをとこせんにんなりき。

45 イエスたゞちに、弟子でしたちをひてふねらせ、みづか群衆ぐんじゅう返󠄄かへに、彼方かなたなるベツサイダにさきかしむ。 46 群衆ぐんじゅうわかれてのち、いのらんとてやまにゆきたまふ。〘58㌻〙 47 ゆふべになりて、ふねうみ眞中まなかにあり、イエスはひとりをかいます。 48 かぜ逆󠄃さからふにりて、弟子でしたちのわづらふをて、夜明よあけ四時よじごろ、うみうへあゆみ、そのもといたりて、過󠄃ぎんとしたまふ。 49 弟子でしたちうみうへあゆたまふを變化へんげものならんとおもひてさけぶ。 50 みなこれをこゝろさわぎたるにる。イエスたゞちにかれらにかたりてたまふ『こゝろやすかれ、われなり、おそるな』 51 かく弟子でしたちのもとにゆき、ふねのぼたまへば、かぜやみたり。弟子でしたちこゝろうちにていたをどろく、 52 かれらはさきのパンのことをさとらず、かへつてこゝろにぶくなりしなり。

 80㌻ 
53 遂󠄅つひわたりてゲネサレのき、ふねがかりす。 54 ふねよりあがりしに、人々ひとびとただちにイエスを認󠄃みとめて、 55 あまねくあたりをせまはり、そのいますと處々ところどころに、わづらものとこのままつれきたる。 56 そのいたりたまふところには、むらにても、まちにても、さとにても、めるもの市場いちばにおきて、御衣みころもふさにだにさはらしめたまはんことをねがふ。さはりしものは、みないやされたり。

第7章

1 パリサイびと學者がくしゃらとエルサレムよりきたりてイエスのもとあつまる。 2 しかして、その弟子でしたちのうちに、潔󠄄きよからぬすなはあらはぬにて食󠄃事しょくじするもののあるをたり。 3 パリサイびとおよびすべてのユダヤびとは、いにしへのひと言傳いひつたへかたりて、ねんごろにあらはねば食󠄃くらはず。 4 また市場いちばよりかへりては、まずみそがざれば食󠄃くらはず。このほか酒杯さかづきはちあかがねうつは濯󠄄すゝぐなどおほくのつたへけてかたりたり。 5 パリサイびとおよび學者がくしゃらイエスにふ『なにゆゑなんぢ弟子でしたちは、いにしへのひと言傳いひつたへ遵󠄅したがひてあゆまず、潔󠄄きよからぬにて食󠄃事しょくじするか』 6 イエスたまふ『イザヤはなんぢ僞善者ぎぜんしゃにつきて預言よげんせり。 「このたみ口唇くちびるにてわれうやまふ、 れど、そのこゝろわれ遠󠄄とほざかる。 7 ただいたづらにわれをがむ、 ひと訓誡いましめをしへとしをしへて」としるしたり。 8 なんぢらはかみ誡命いましめはなれてひと言傳いひつたへかたる』 9 またひたまふ『なんぢはおのれの言傳いひつたへまもらんとて、くもかみ誡命いましめつ。 10 すなはちモーセは「なんぢの父󠄃ちち、なんぢのははうやまへ」といひ「父󠄃ちちまたははのゝしものは、かならころさるべし」といへり。 11 しかるになんぢらは「ひともし父󠄃ちちまたははにむかひなんぢたいして負󠄅所󠄃ところのものは、コルバンすなは供物そなへものなりとはばし」とひて、 12 そののちひとをして、父󠄃ちちまたははつかふることなからしむ。〘59㌻〙
 81㌻ 
13 かくなんぢらのつたへたる言傳いひつたへによりて、かみことば空󠄃むなしうし、又󠄂またおほくたぐひことをなしをるなり』 14 さら群衆ぐんじゅうせてたまふ『なんぢらみなわれにきてさとれ。 15 そとよりひとりて、ひとけがるものなし、れどひとよりづるものは、これひとけがすなり』 16 [なし]《[*]》[*諸異本「聽く耳あるものは聽くべし」との句あり。] 17 イエス群衆ぐんじゅうはなれていへたまひしに、弟子でしたちたとへふ。 18 かれらにたまふ『なんぢらもさとりなきか、そとよりひとものの、ひとけがしえぬをさとらぬか、 19 これこゝろにはらず、はらりてかはやにおつるなり』かくすべての食󠄃物しょくもつ潔󠄄きよしとしたまへり。 20 またひたまふ『ひとよりづるものは、これひとけがすなり。 21 それうちより、ひとこゝろより、しきおもひいづ、すなは淫行いんかう竊盜ぬすみ殺人ひとごろし 22 姦淫かんいん慳貪むさぼり邪曲よこしま詭計たばかり好色かうしょく嫉妬ねたみ誹謗そしり傲慢がうまん愚痴ぐち 23 すべてこれしきことうちよりでてひとけがすなり』

24 イエス起󠄃ちて此處ここり、ツロの地方ちはうき、いへりてひとられじとたまひたれど、かくるることあたはざりき。 25 こゝけがれしれいかれたるいとけなきむすめをもてるをんなただちにイエスのことをきき、きたりて御足みあしもと平󠄃伏ひれふす。 26 このをんなはギリシヤびとにて、スロ・フェニキヤのうまれなり。そのむすめより惡鬼あくき逐󠄃いだたまはんことを請󠄃ふ。 27 イエスたまふ『まづ子供こども飽󠄄かしむべし、子供こどものパンをとりて小狗こいぬあたふるはからず』 28 をんなこたへてふ『しかしゅよ、食󠄃卓しょくたくした小狗こいぬ小供こども食󠄃屑たべくづ食󠄃くらふなり』 29 イエスたまふ『なんぢことばによりて[やすんじ]け、惡鬼あくきすでむすめよりでたり』 30 をんないへかへりてるに、寢臺ねだいうへし、惡鬼あくきすででたり。 31 イエス又󠄂またツロの地方ちはうりて、シドンを過󠄃ぎ、デカポリスの地方ちはうて、ガリラヤのうみきたたまふ。 32 人々ひとびと耳聾みゝしひにしてものふことかたものきたりて、これをおきたまはんことをねがふ。
 82㌻ 
33 イエス群衆ぐんじゅうなかより、かれをひとりいだし、その兩耳りゃうみゝゆびをさしれ、またつばきしてしたさはり、 34 てんあふぎてたんじ、そのひとむかひて『エパタ』とたまふ、ひらけよとの意󠄃こゝろなり。 35 かくてそのみゝひらけ、したもつれただちにけ、たゞしくものいへり。 36 イエスたれにもぐなと人々ひとびといましめたまふ。れどいましむるほどかへつて愈々いよいよひろめたり。 37 またはなはだしく打驚うちをどろきてふ『かれのししことみなよし、聾者みゝしひをもきこえしめ、啞者おふしをもものいはしむ』〘60㌻〙

第8章

1 そのころまたおほいなる群衆ぐんじゅうにて食󠄃くらふべきものなかりしかば、イエス弟子でしたちをしてたまふ、 2 『われ群衆ぐんじゅうあはれむ、すで三日みっかわれとともにをりて食󠄃くらふべきものなし。 3 飢󠄄ゑしままにて、いへかへらしめば、途󠄃みちにてつかてん。なかには遠󠄄とほくよりきたれるものあり』 4 弟子でしたちこたへてふ『このさびしきにては、何處いづこよりパンをて、この人々ひとびと飽󠄄かしむべき』 5 イエスたまふ『パンいくつあるか』こたへて『なゝつ』といふ。 6 イエス群衆ぐんじゅうめいじてせしめ、なゝつのパンをり、しゃしてこれき、弟子でしたちにあたへて群衆ぐんじゅう前󠄃まへにおかしむ。弟子でしたちすなはちその前󠄃まへにおく。 7 またちひさうをすこしばかりあり、しくしてこれをも、その前󠄃まへにおけとたまふ。 8 人々ひとびと食󠄃くらひて飽󠄄き、きたるあまりひろひしに、なゝつのかご滿ちたり。 9 そのひとおほよそ四千しせんにんなりき。イエスかれらをかへし、 10 たゞちに弟子でしたちとともふねりて、ダルマヌタの地方ちはうたまへり。

11 パリサイびといできたりて、イエスとろんじはじめ、これこゝろみててんよりのしるしをもとむ。 12 イエスこゝろふかたんじてたまふ『なにゆゑいましるしもとむるか、まことなんぢらにぐ、しるしいまえてあたへられじ』 13 かくかれらをはなれ、またふねりて彼方かなたたまふ。

 83㌻ 
14 弟子でしたちパンをたづさふることをわすれ、ふねには唯一たゞひとつのほかパンなかりき。 15 イエスかれらをいましめてひたまふ『つゝしみてパリサイびとのパンだねと、ヘロデのパンだねとにこゝろせよ』 16 弟子でしたちたがひに、これはパンゆゑならんとかたふ。 17 イエスりてひたまふ『なんぞパンゆゑならんとかたふか、いまらぬか、さとらぬか、なんぢらのこゝろなほにぶきか。 18 ありてぬか、みゝありてかぬか。又󠄂またなんぢらおもでぬか、 19 いつつのパンをきて、せんにんあたへしとき、そのあまり幾筐いくかごひろひしか』弟子でしたちふ『十二じふに 20なゝつのパンをきて四千しせんにんあたへしとき、そのあまり幾籃いくかごひろひしか』弟子でしたちふ『なゝつ』 21 イエスひたまふ『いまさとらぬか』

22 かれ遂󠄅つひにベツサイダにいたる。人々ひとびと盲人めしひをイエスにきたりて、さはたまはんことをねがふ。 23 イエス盲人めしひをとりて、むらそとき、そのつばきし、御手みてをあてて『なにかゆるか』とたまへば、 24 げてふ『ひとる、それはごとものあるくがゆ』 25 また御手みてをそのにあてたまへば、視凝みつめたるに、癒󠄄えてすべてのものあきらかにえたり。〘61㌻〙 26 かくて『むらにもるな』とひて、そのいへかへたまへり。

27 イエス弟子でしたちとピリポ・カイザリヤの村々むらむらでゆき、途󠄃みちにて弟子でしたちにひてひたまふ『人々ひとびとわれたれふか』 28 こたへてふ『バプテスマのヨハネ、あるひとはエリヤ、あるひと預言者よげんしゃ一人ひとり 29 またたまふ『なんぢらはわれたれふか』ペテロこたへてふ『なんぢはキリストなり』 30 イエスおのがことをたれにもぐなとかれらをいましたまふ。 31 かくひとかならおほくの苦難くるしみをうけ、長老ちゃうらう祭司長さいしちゃう學者がくしゃらにてられ、かつころされ、三日みっかのちよみがへるべきことをしへはじめ、
 84㌻ 
32 ことをあらはにかたたまふ。こゝにペテロ、イエスをかたへにひきていましでたれば、 33 イエス振反ふりかへりて弟子でしたちを、ペテロをいましめてたまふ『サタンよ、わがうしろ退󠄃しりぞけ、なんぢかみのことをおもはず、かへつてひとのことをおもふ』 34 かく群衆ぐんじゅう弟子でしたちとともせてひたまふ『ひともしわれしたがきたらんとおもはば、おのれをすて、おの十字架じふじか負󠄅ひてわれしたがへ。 35 おの生命いのちすくはんとおもものは、これをうしなひ、ためまた福音󠄃ふくいんためおの生命いのちをうしなふものは、これすくはん。 36 ひと全󠄃世界ぜんせかいまうくとも、おの生命いのちそんせば、なにえきあらん、 37 ひとその生命いのちしろなにあたへんや。 38 不義ふぎなる、つみふかいまにて、われまたはことばづるものをば、ひともまた、父󠄃ちち榮光えいくわうをもて、聖󠄄せいなる御使みつかひたちとともきたらんときづべし』

第9章

1 またたまふ『まことになんぢらにぐ、此處ここもののうちに、かみくにの、權能ちからをもてきたるをるまでは、あぢはぬものどもあり』

2 六日むゆかのち、イエスただペテロ、ヤコブ、ヨハネのみを率󠄃きつれ、ひと避󠄃けてたかやまのぼりたまふ。かくかれらの前󠄃まへにてさまかはり、 3 ころもかがやきてはなはしろくなりぬ、晒布者ぬのさらしぬほどしろし。 4 エリヤ、モーセともにかれらにあらはれて、イエスとかたりゐたり。 5 ペテロ差出さしいでてイエスにふ『ラビ、われらの此處ここるはし。われらつのいほり造󠄃つくり、ひとつをなんぢのため、ひとつをモーセのため、ひとつをエリヤのためにせん』 6 かれいたくおそれたれば、ペテロなにふべきかをらざりしなり。 7 かくくもおこり、かれらをおほふ。くもよりこゑづ『これはいつくしむなり、なんぢこれけ』 8 弟子でしたち急󠄃いそ見囘みまはすに、イエスとおのれらとのほかには、はやたれえざりき。
 85㌻ 
9 やまをくだるとき、イエスかれらに、ひとの、死人しにんうちよりよみがへるまでは、しことをたれにもかたるなといましたまふ。〘62㌻〙 10 かれことばこゝろにとめ『死人しにんうちよりよみがへる』とは、如何いかなることぞとたがひろんふ。 11 かくてイエスにひてふ『學者がくしゃたちは、なにゆゑエリヤまづきたるべしとふか』 12 イエスたまふ『にエリヤきたりて、よろづことをあらたむ。さらばひとにつき、おほくの苦難くるしみけ、かつなみせらるることしるされたるはなにぞや。 13 されどわれなんぢらにぐ、エリヤはすできたれり。しかるにかれきてしるされたるごとく、人々ひとびとこゝろのままにこれあしらへり』

14 あひとも弟子でしたちのもときたりて、おほいなる群衆ぐんじゅうこれめぐり、學者がくしゃたちのこれろんじゐたるをたまふ。 15 群衆ぐんじゅうみなイエスをるやいなや、いたくをどろき、御許みもとはしきてれいをなせり。 16 イエスたまふ『なんぢらなにかれらとろんずるか』 17 群衆ぐんじゅうのうちの一人ひとりこたふ『よ、おふしれいかれたる御許みもときたれり。 18 れいいづこにてもかれけば、痙攣ひきつあわをふき、をくひしばり、しかしておとろふ。御弟子みでしたちにこれ逐󠄃いだすことを請󠄃ひたれどあたはざりき』 19 こゝかれらにたまふ『ああしんなきなるかな、われいつまでなんぢらとともにをらん、何時いつまでなんぢらを忍󠄄しのばん。そのもとれきたれ』 20 すなはれきたる。かれイエスをしとき、れいただちにこれ痙攣ひきつけたれば、たふれ、あわをふきてころまはる。 21 イエスその父󠄃ちちたまふ『いつのころよりくなりしか』父󠄃ちちいふ『をさなきときよりなり。 22 れいしばしばかれのなかみづなかれてほろぼさんとせり。れどなんぢなにかば、われらをあはれみてたすたまへ』 23 イエスひたまふ『ばとふか、しんずるものには、すべてのことなしらるるなり』 24 その父󠄃ちちただちにさけびてふ『われしんず、信仰しんかうなきわれたすたまへ』 25 イエス群衆ぐんじゅうはしあつまるをて、けがれしれいいましめてひたまふ『おふしにて耳聾みゝしひなるれいよ、われなんぢにめいず、このよりでよ、かさねてるな』
 86㌻ 
26 れいさけびてはなはだしく痙攣ひきつけさせてでしに、その死人しにんごとくなりたれば、おほくのものこれをにたりとふ。 27 イエスそのりて起󠄃おこたまへばてり。 28 イエスいへたまひしとき、弟子でしたちひそかふ『我等われらいかなれば逐󠄃いだざりしか』 29 こたたまふ『このたぐひは《[*]》いのりらざれば、如何いかにすともでざるなり』[*異本「祈と斷食󠄃とに由らざれば」とあり。]

30 此處ここりて、ガリラヤを過󠄃ぐ。イエスひとことるをほったまはず。 31 これは弟子でしたちにをしへをなし、かつ『ひと人々ひとびとにわたされ、人々ひとびとこれをころし、ころされて、三日みっかののちよみがへるべし』とたまふがゆゑなり。〘63㌻〙 32 弟子でしたちはそのことばさとらず、またことおそれたり。

33 かくてカペナウムにいたる。イエスいへりて、弟子でしたちにたまふ『なんぢら途󠄃みちすがらなにろんぜしか』 34 弟子でしたち默然もくねんたり、これは途󠄃みちすがら、たれおほいならんと、たがひあらそひたるにる。 35 イエスして、十二じふに弟子でしび、これひたまふ『ひともしかしらたらんとおもはば、すべてのひとしりへとなり、すべてのひと役者えきしゃとなるべし』 36 かくてイエス幼兒をさなごをとりてかれらのなかにおき、これいだきてたまふ、 37 『おほよそのためにかゝ幼兒をさなご一人ひとりくるものは、われくるなり。われくるものは、われくるにあらず、われ遣󠄃つかはししものくるなり』

38 ヨハネふ『よ、われらにしたがはぬものの、御名みなによりて惡鬼あくき逐󠄃いだすをしが、われらにしたがはぬゆゑに、これとゞめたり』 39 イエスひたまふ『とゞむな、のために能力ちからあるわざをおこなひ、にはかわれそしものなし。 40 われらに逆󠄃さからはぬものは、われらにものなり。 41 キリストのものたるによりて、なんぢらに一杯いっぱいみづまするものは、われまことになんぢらにぐ、かならずそのむくいうしなはざるべし。
 87㌻ 
42 またわれしんずるちひさもの一人ひとりつまづかするものは、むしおほいなる碾臼ひきうすくびけられて、うみれられんかた勝󠄃まされり。 43 もしなんぢなんぢをつまづかせば、これれ、不具󠄄かたはにて生命いのちるは、兩手りゃうてありて、ゲヘナの消󠄃えぬくよりも勝󠄃まさるなり。 44 [なし]《[*]》[*異本四四及び四六の二節に、この書の四八とおなじ句あり。] 45 もしなんぢあしなんぢをつまづかせば、これれ、蹇跛あしなへにて生命いのちるは、兩足りゃうあしありてゲヘナにれらるるよりも勝󠄃まさるなり。 46 [なし] 47 もしなんぢなんぢをつまづかせば、これいだせ、片眼かためにてかみくにるは、兩眼りゃうめありてゲヘナにれらるるよりも勝󠄃まさるなり。 48彼處かしこにては、そのうじつきず、消󠄃えぬなり」 49 それひとは、みなをもてしほつけらるべし。 50 しほきものなり、れどしほもししほうしなはば、なにをもてこれあぢつけん。なんぢこゝろうちしほたもち、かつたがひやはらぐべし』

第10章

1 イエス此處ここをたちて、ユダヤの地方ちはうおよびヨルダンの彼方かなたきたたまひしに、群衆ぐんじゅうまたも御許みもとつどひたれば、つねのごとくをしたまふ。 2 ときにパリサイびときたこゝろみてふ『ひとそのつまいだすはよきか』 3 こたへてたまふ『モーセはなんぢらになにめいぜしか』〘64㌻〙 4 かれふ『モーセは離緣狀りえんじゃうきていだすことをゆるせり』 5 イエスたまふ『なんぢらのこゝろ無情󠄃つれなきによりて、誡命いましめしるししなり。 6 れど開闢かいびゃくはじめより「ひとをとこをんなとに造󠄃つくたまへり」 7かゝゆゑひとはその父󠄃ちちはははなれて、 8 二人ふたりのもの一體いったいとなるべし」ればはや二人ふたりにはあらず、一體いったいなり。 9 このゆゑかみあはたまふものは、ひとこれをはなすべからず』 10 いへりて弟子でしたちまたこのことふ。 11 イエスたまふ『おほよそつまいだして、ほかめとものは、そのつまたいして姦淫かんいんおこなふなり。 12 またつまもしをっとててほかとつがば、姦淫かんいんおこなふなり』

 88㌻ 
13 イエスのさはたまはんことを望󠄇のぞみて、人々ひとびと幼兒をさなごらをきたりしに、弟子でしたちいましめたれば、 14 イエスこれ、いきどほりてひたまふ『幼兒をさなごらのわれきたるをゆるせ、とゞむな、かみくにかくのごときものくになり。 15 まことなんぢらにぐ、おほよ幼兒をさなごごとくにかみくにをうくるものならずば、これることあたはず』 16 かく幼兒をさなごいだき、をそのうへにおきてしくたまへり。

17 イエス途󠄃みちたまひしに、一人ひとりはしりきたひざまづきてふ『よ、永遠󠄄とこしへ生命いのちぐためには、われなにをすべきか』 18 イエスたまふ『なにゆゑわれしとふか、かみひとりのほかものなし。 19 誡命いましめなんぢるところなり「ころすなかれ」「姦淫かんいんするなかれ」「ぬすむなかれ」「僞證ぎしょうつるなかれ」あざむるなかれ「なんぢ父󠄃ちちははとをうやまへ」』 20 かれいふ『よ、われおさなときよりみなこれをまもれり』 21 イエスかれをとめ、いつくしみてたまふ『なんぢひとつをく、きてなんぢてるものを、ことごとくりて、貧󠄃まづしきものほどこせ、さらば財寶たからてんん。かつきたりてわれしたがへ』 22 このことばによりて、かれうれひもよほし、かなしみつつりぬ、おほいなる資產しさんをもてるゆゑなり。

23 イエス見囘みまはして弟子でしたちにひたまふ『とみあるものかみくにるは如何いかかたいかな』 24 弟子でしたち御言みことばをどろく。イエスまたこたへてたまふ『たちよ、かみくにるは、如何いかかたいかな、 25 めるものかみくにるよりは、駱駝らくだはりあな通󠄃とほるかた、かへつてやすし』 26 弟子でしたちいたをどろきてたがひふ『さらばたれすくはるることん』 27 イエスかれらにめてひたまふ『ひとにはあたはねど、かみにはしからず、かみすべてのことをなしるなり』
 89㌻ 
28 ペテロ、イエスにむかひて『われらは一切いっさいをすててなんぢしたがひたり』とでたれば、 29 イエスたまふ、『まことになんぢらにぐ、がため、福音󠄃ふくいんのために、あるひいへあるひ兄弟きゃうだい、あるひは姉妹しまいあるひ父󠄃ちちあるひははあるひあるひ田畑たはたをすつるものは、〘65㌻〙 30 たれにてもいまいまときひゃくばいけぬはなし。すなはいへ兄弟きゃうだい姉妹しまいはは田畑たはた迫󠄃害󠄅はくがいともけ、またのちにては、永遠󠄄とこしへ生命いのちけぬはなし。 31 れどおほくのさきなるものあとに、あとなるものさきになるべし』

32 エルサレムにのぼ途󠄃みちにて、イエスさきだちたまひしかば、弟子でしたちをどろき、したがものどもおそれたり。イエスふたゝ十二じふに弟子でし近󠄃ちかづけて、おの起󠄃おこらんとすることどもをかたたま 33よ、われらエルサレムにあがる。ひと祭司長さいしちゃう學者がくしゃらにわたされん。かれさだめて、異邦人いはうじんわたさん。 34 異邦人いはうじん嘲弄てうろうし、つばきし、むちうち、遂󠄅つひころさん、かくかれ三日みっかのちよみがへるべし』

35 こゝにゼベダイのヤコブ、ヨハネ御許みもときたりてふ『よ、ねがはくはわれらがなににてももとむる所󠄃ところしたまへ』 36 イエスたまふ『わがなんぢらになにさんことを望󠄇のぞむか』 37 かれふ『なんぢの榮光えいくわううちにて、一人ひとりをそのみぎに、一人ひとりをそのひだりせしめたまへ』 38 イエスたまふ『なんぢらはもとむる所󠄃ところらず、なんぢわが酒杯さかづきみ、くるバプテスマをるか』 39 かれいふ『るなり』イエスたまふ『なんぢら酒杯さかづきみ、またくるバプテスマをくべし。 40 れどみぎひだりすることは、われあたふべきものならず、ただそなへられたるひとこそあたへらるるなれ』 41 じふにん弟子でしこれをき、ヤコブとヨハネとのことによりいきどほりでたれば、
 90㌻ 
42 イエスかれらをびてひたまふ『異邦人いはうじんきみ認󠄃みとめらるるものの、そのたみつかさどり、おほいなるものの、たみうへけんることは、なんぢらの所󠄃ところなり。 43 れどなんぢらのうちにてはしからず、かへつておほいならんとおもものは、なんぢらの役者えきしゃとなり、 44 かしらたらんとおもものは、すべてのものしもべとなるべし。 45 ひときたれるも、つかへらるるためにあらず、かへつてつかふることをなし、又󠄂またおほくのひと贖償あがなひとしておの生命いのちあたへんためなり』

46 かくかれらエリコにいたる。イエスその弟子でしたちおよおほいなる群衆ぐんじゅうともに、エリコをでたまふとき、テマイのバルテマイといふ盲目めしひ乞食󠄃こつじきみちかたへしをりしが、 47 ナザレのイエスなりとき、さけいだしてふ『ダビデのイエスよ、われあはれみたまへ』 48 おほくのひとかれをいましめてもださしめんとしたれど、增々ますますさけびて『ダビデのよ、われあはれみたまへ』とふ。 49 イエスどまりて『かれをべ』とたまへば、人々ひとびと盲人めしひびてふ『こゝろやすかれ、起󠄃て、なんぢをびたまふ』〘66㌻〙 50 盲人めしひうはぎを脫󠄁て、躍󠄃をどあがりて、イエスのもときたりしに、 51 イエスこたへてたまふ『わがなんぢなにさんことを望󠄇のぞむか』盲人めしひいふ『わがよ、えんことなり』 52 イエスかれに『ゆけ、なんぢ信仰しんかうなんぢをすくへり』とたまへば、たゞちにることを、イエスにしたがひて途󠄃みちけり。

第11章

1 かれらエルサレムに近󠄃ちかづき、《[*]》オリブやまふもとなるベテパゲおよびベタニヤにいたりしとき、イエス二人ふたり弟子でし遣󠄃つかはさんとしてたまふ、[*奮譯「橄欖山」とあり。] 2 『むかひのむらにゆけ、其處そこらば、やがひといまりたることなき驢馬ろばつなぎあるをん、それをきてきたれ。 3 たれかもしなんぢらに「なにゆゑしかするか」とはば「しゅようなり、かれただちに返󠄄かへさん」といへ』 4 弟子でしたちきて、もんそとみち驢馬ろばつなぎあるをきたれば、
 91㌻ 
5 其處そこ人々ひとびとのうちのあるもの『なんぢら驢馬ろばきてなにとするか』とふ。 6 弟子でしたちイエスのたまひしごとひしに、かれゆるせり。 7 かく弟子でしたち驢馬ろばをイエスのもとききたり、おのころもをそのうへきたれば、イエスこれたまふ。 8 おほくのひとおのころもを、あるひとよりりたるえだ途󠄃みちく。 9 かつ前󠄃まへあとしたがものどもよばはりてふ『「《[*]》ホサナ、むべきかな、しゅ御名みなによりてきたもの」[*「ホサナ」は「救あれ」との意󠄃なり。] 10 むべきかな、いまきたわれらの父󠄃ちちダビデのくに。「いとたかところにてホサナ」』 11 遂󠄅つひにエルサレムにいたりてみやり、すべてのもの見囘みまはし、ときはやくれおよびたれば、十二じふに弟子でしともにベタニヤにきたまふ。

12 あくるかれらベタニヤよりきたりしとき、イエス飢󠄄たまふ。 13 はるかある無花果いちぢくて、をやんとのもとにいたたまひしに、のほかになにをも見出みいだたまはず、これ無花果いちぢくときならぬにる。 14 イエスそのむかひてひたまふ『いまよりのちいつまでも、ひとなんぢの食󠄃くらはざれ』弟子でしたちこれけり。

15 かれらエルサレムにいたる。イエスみやり、そのうちにて賣買うりかひするものどもを逐󠄃いだし、兩替りゃうがへするものだい鴿はとるものの腰掛こしかけたふし、 16 また器物うつはちてみやうち過󠄃ぐることをゆるたまはず。 17 かつをしへてたまふ『「わがいへは、もろもろの國人くにびといのりいへとなへらるべし」としるされたるにあらずや、しかるになんぢらはこれを「强盜がうたう」となせり』 18 祭司長さいしちゃう學者がくしゃこれき、如何いかにしてかイエスをほろぼさんとはかる、それは群衆ぐんじゅうみなをしへをどろきたれば、かれおそれしなり。
〘67㌻〙
19 ゆふべになるごとに、イエス弟子でしたちとともみやこでゆきたまふ。

 92㌻ 
20 かれ朝󠄃あさはやみちをすぎしに、無花果いちぢくよりれたるをる。 21 ペテロおもいだして、イエスにふ『ラビたまへ、のろたまひし無花果いちぢくれたり』 22 イエスこたへてたまふ『かみしんぜよ。 23 まことなんぢらにぐ、ひともしやまに「うつりてうみれ」とふとも、ふところかならるべしとしんじて、こゝろうたがはずば、そのごとるべし。 24 このゆゑなんぢらにぐ、すべいのりてねがことは、すでにたりとしんぜよ、らばべし。 25 またちていのるとき、ひとうらことあらばゆるせ、これはてんいまなんぢらの父󠄃ちちの、なんぢらの過󠄃失あやまちゆるたまはんためなり』 26 [なし]《[*]》[*異本「もし汝ら免さずば天に在す汝らの父󠄃も亦汝らの罪を免し給はじ」とあり。]

27 かれら又󠄂またエルサレムにいたる。イエスみやうちあゆたまふとき、祭司長さいしちゃう學者がくしゃ長老ちゃうらうたち御許みもときたりて、 28なに權威けんゐをもてこれことをなすか、これことすべき權威けんゐさづけしか』とふ。 29 イエスたまふ『われ一言ひとこと、なんぢらにはん、こたへよ、らばわれなに權威けんゐをもて、これことすかをげん。 30 ヨハネのバプテスマは、てんよりか、ひとよりか、われこたへよ』 31 かれたがひろんじてふ『もしてんよりとはば「なにゆゑかれをしんぜざりし」とはん。 32 れどひとよりとはんか……』かれ群衆ぐんじゅうおそれたり、ひとみなヨハネをじつ預言者よげんしゃ認󠄃みとめたればなり。 33 遂󠄅つひにイエスにこたへて『らず』とふ。イエスたまふ『われもなに權威けんゐをもてこれことすか、なんぢらにげじ』

第12章

1 イエスたとへをもてかれらにかたたまふ『あるひと葡萄園ぶだうぞの造󠄃つくり、まがきめぐらし、酒槽さかぶね穴󠄄あなり、ものみをたて、農夫のうふどもにして、遠󠄄とほ旅立たびだちせり。 2 ときいたりて農夫のうふより葡萄園ぶだうぞの所󠄃得しょとく受取うけとらんとて、しもべをそのもと遣󠄃つかはししに、 3 かれこれとらへてちたたき、空󠄃手むなでにてかへらしめたり。 4 又󠄂またほかのしもべ遣󠄃つかはししに、そのかうべきずつけ、かつはづかしめたり。
 93㌻ 
5 またほかもの遣󠄃つかはししに、これころしたり。又󠄂またほかのおほくのしもべをも、あるひあるひころしたり。 6 なほ一人ひとりあり、すなはいつくしむなり「わがうやまふならん」とひて、最後いやはてこれ遣󠄃つかはししに、〘68㌻〙 7 かの農夫のうふどもたがひふ「これは世嗣よつぎなり、いざこれころさん、らばその嗣業しげふは、われらのものとなるべし」 8 すなはとらへてこれころし、葡萄園ぶだうぞのそとてたり。 9 らば葡萄園ぶだうぞのぬし、なにをさんか、きたりて農夫のうふどもをほろぼし、葡萄園ぶだうぞのほかものどもにあたふべし。 10 なんぢ聖󠄄書せいしょに 「造󠄃家者いへつくりらのてたるいしは、 これぞすみ首石おやいしとなれる。 11 これしゅによりてれるにて、 われらのにはくすしきなり」とあるをすらまぬか』 12 ここにかれイエスをとらへんとおもひたれど、群衆ぐんじゅうおそれたり、このたとへおのれらをしてたまへるをさとりしにる。遂󠄅つひにイエスをはなれてけり。

13 かくてかれらイエスの言尾ことばじりをとらへて陷入おとしいれんために、パリサイびととヘロデたうとのうちより、數人すにん御許みもと遣󠄃つかはす。 14 そのものどもきたりてふ『よ、われらはる、なんぢまことにして、たれをもはゞかりたまふことなし、ひと外貌うはべず、まことをもてかみ道󠄃みちをしたまへばなり。われみつぎをカイザルに納󠄃をさむるは、きか、しきか、納󠄃をさめんか、納󠄃をさめざらんか』 15 イエス詐僞いつはりなるをりて『なんぞわれこゝろむるか、デナリをきたりてわれせよ』とたまへば、 16 かれきたる。イエスたまふ『これはたれかたち、たれのしるしなるか』『カイザルのなり』とこたふ。 17 イエスたまふ『カイザルのものはカイザルに、かみものかみ納󠄃をさめよ』かれらイエスにきてはなはあやしめり。

18 また復活よみがへりなしとふサドカイびとら、イエスにきたひて 19よ、モーセは、ひと兄弟きゃうだいもしなくつま遺󠄃のこしてなば、その兄弟きゃうだい、かれのつまめとりて、兄弟きゃうだいのため嗣子よつぎぐべしと、われらに遺󠄃のこしたり。
 94㌻ 
20 こゝ七人しちにん兄弟きゃうだいありて、あにつまめとり、嗣子よつぎなくしてに、 21 第二だいにものそのをんなめとり、また嗣子よつぎなくしてに、第三だいさんものもまたしかなし、 22 七人しちにんとも嗣子よつぎなくしてに、終󠄃つひにはをんなにたり。 23 復活よみがへりのとき《[*]》かれらみなよみがへらんに、このをんなたれつまたるべきか、七人しちにんこれをつまとしたればなり』[*諸異本「彼らみな甦へらんに」の句なし。] 24 イエスたまふ『なんぢらのあやまれるは、聖󠄄書せいしょをも、かみ能力ちからをも、らぬゆゑならずや。 25 ひと死人しにんうちよりよみがへるときは、めとらず、とつがず、てん御使みつかひたちのごとくなるなり。 26 にたるものよみがへることきては、モーセのふみなかなるしばくだりに、かみモーセに「われはアブラハムのかみ、イサクのかみ、ヤコブのかみなり」とたまひしことあるを、いままぬか。〘69㌻〙 27 かみにたるものかみにあらず、けるものかみなり。なんぢらおほいあやまれり』

28 學者がくしゃ一人ひとり、かれらのろんじをるをき、イエスのこたたまへるをり、進󠄃すゝでてふ『すべての誡命いましめのうち、なに第一だいいちなる』 29 イエスこたへたまふ『第一だいいちこれなり「イスラエルよけ、しゅなるわれらのかみ唯一ゆゐいつしゅなり。 30 なんぢこゝろつくし、精神せいしんつくし、おもひつくし、ちからつくして、しゅなるなんぢかみあいすべし」 31 第二だいにこれなり「おのれのごとなんぢとなりあいすべし」ふたつよりおほいなる誡命いましめはなし』 32 學者がくしゃいふ『きかなよ「かみ唯一ゆゐいつにしてほかかみなし」とたまへるはまことなり。 33 「こころをつくし、知慧󠄄ちゑつくし、ちからつくしてかみあいし、またおのれのごとくとなりあいする」は、もろもろの燔祭はんさいおよび犧牲いけにへ勝󠄃まさるなり』 34 イエスそのさとこたへしをたまふ『なんぢかみくに遠󠄄とほからず』のちたれもあへてイエスにものなかりき。 35 イエスみやにてをしふるとき、こたへてたまふ『なにゆゑ學者がくしゃらはキリストをダビデのふか。
 95㌻ 
36 ダビデ聖󠄄せいれいかんじてみづからいへり 「しゅわがしゅたまふ、 われなんぢのてきなんぢあししたくまでは、 みぎせよ」と。 37 ダビデみづかかれしゅふ、さればいかでそのならんや』
   おほいなる群衆ぐんじゅうよろこびてイエスにきたり。
38 イエスそのをしへのうちにひたまふ『學者がくしゃらにこゝろせよ、かれらはながころもあゆむこと、市場いちばにての敬禮けいれい 39 會堂くわいだう上座じゃうざ饗宴ふるまひ上席じゃうせきこのみ、 40 また寡婦󠄃やもめらのいへみ、外見みえをつくりてながいのりをなす。そのくる審判󠄄さばきさらきびしからん』

41 イエス賽錢函さいせんばこむかひてし、群衆ぐんじゅうぜに賽錢函さいせんばこるるをたまふ。めるおほくのものは、おほれしが、 42 一人ひとり貧󠄃まづしき寡婦󠄃やもめきたりて、レプタふたつをれたり、すなはりんほどなり。 43 イエス弟子でしたちをせてたまふ『まことになんぢらにぐ、この貧󠄃まづしき寡婦󠄃やもめは、賽錢函さいせんばこるるすべてのひとよりもおほれたり。 44 すべてのものは、そのゆたかなるうちよりなげれ、この寡婦󠄃やもめともしきなかより、すべての所󠄃有もちものすなはおの生命いのちしろをことごとくれたればなり』

第13章

1 イエスみやたまふとき、弟子でし一人ひとりいふ『よ、たまへ、これらのいし、これらの建造󠄃物たてもの、いかにさかんならずや』 2 イエスたまふ『なんぢこれおほいなる建造󠄃物たてものるか、ひとつのいし崩󠄃くづされずしてはいしうへのこらじ』
〘70㌻〙
3 オリブやまにてみやかたむかひてたまへるに、ペテロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレひそか 4 『われらにたまへ、これらのこと何時いつあるか、又󠄂またすべてこれこと遂󠄅げられんとするときは、如何いかなるしるしあるか』 5 イエスかたたまふ『なんぢらひとまどはされぬやうにこゝろせよ。
 96㌻ 
6 おほくのものわがをかきたり「われはそれなり」とひておほくのひとまどはさん。 7 戰爭いくさ戰爭いくさうはさとをくときおそるな、かゝことはあるべきなり、れどいま終󠄃をはりにはあらず。 8 すなはち「たみたみに、くにくに逆󠄃さからひて起󠄃たん」また處々ところどころ地震ぢしんあり、饑饉ききんあらん、これらはうみ苦難くるしみはじめなり。

9 なんぢみづからこゝろせよ、人々ひとびとなんぢらを衆議所󠄃しゅうぎしょわたさん。なんぢら會堂くわいだうかれてたれ、かつわがゆゑによりて、つかさたちおよわうたちの前󠄃まへてられん、これはあかしをなさんためなり。 10 かく福音󠄃ふくいんまづもろもろの國人くにびと宣傳のべつたへらるべし。 11 人々ひとびとなんぢらをきてわたさんとき、なにはんとあらかじめおもわづらふな、たゞそのときさづけらるることをへ、これものなんぢにあらず聖󠄄せいれいなり。 12 兄弟きゃうだい兄弟きゃうだいを、父󠄃ちちにわたし、らはおやたちに逆󠄃さからちてなしめん。 13 又󠄂またなんぢらゆゑすべてのひと憎にくまれん、れど終󠄃をはりまで忍󠄄しのものすくはるべし。

14あらにくむべきもの」のつべからざる所󠄃ところつをば(むものさとれ)そのときユダヤにをるものどもは、やまのがれよ。 15 うへにをるものは、うちくだるな。またいへものいださんとてうちるな。 16 はたにをるもの上衣うはぎらんとてかへるな。 17 にはみごもりたるをんなと、乳󠄃ちゝまするをんなとは禍害󠄅わざはひなるかな。 18 このことの、ふゆおこらぬやうにいのれ、 19 その患難なやみなればなり。かみ萬物ばんぶつ造󠄃つくたまひし開闢かいびゃくよりいまいたるまで、かゝ患難なやみはなく、またのちにもなからん。 20 しゅそのすくなくしたまはずば、すくはるるもの一人ひとりだになからん。れど選󠄄えらたまひし選󠄄民せんみんために、そのすくなくしたまへり。 21 ときなんぢらに「よ、キリスト此處ここにあり」「よ、彼處かしこにあり」とものありともしんずな。 22 にせキリスト・にせ預言者よげんしゃ起󠄃おこりて、しるし不思議ふしぎとをおこなひ、べくは、選󠄄民せんみんをもまどはさんとするなり。
 97㌻ 
23 なんぢらはこゝろせよ、あらかじめこれみななんぢらにげおくなり。

24 とき、その患難なやみののち、暗󠄃くらく、つきひかりはなたず。〘71㌻〙 25 ほし空󠄃そらよりち、《[*]》てんにある萬象ばんしゃうふるうごかん。[*或は「天にある諸の勢力」と譯す。] 26 のとき人々ひとびとひとおほいなる能力ちから榮光えいくわうとをもて、くもきたるをん。 27 そのときかれは使者つかひたちを遣󠄃つかはして、はてよりてんはてまで、四方しはうより、選󠄄民せんみんをあつめん。

28 無花果いちぢくよりのたとへまなべ、そのえだすでにやはらかくなりてぐめば、なつ近󠄃ちかきをる。 29 かくのごとくこれのことの起󠄃おこるをば、《[*]》ひとすでに近󠄃ちかづきて門邊かどべにいたるをれ。[*「人の子」或は「時」と譯す。] 30 まことなんぢらにぐ、これらのことことごとくるまで、いま過󠄃逝󠄃くことなし。 31 てん過󠄃ぎゆかん、れどことば過󠄃逝󠄃くことなし。 32 そのそのときものなし。てんにある使者つかひたちもらず、らず、ただ父󠄃ちちのみたまふ。 33 こゝろして《[*]》さましをれ、なんぢそのとき何時いつなるかをらぬゆゑなり。[*異本「目を覺し、かつ祈れ」とあり。] 34 たとへばいへづるときそのしもべどもにけんゆだねて、各自おのおのつとめさだめ、さら門守かどもりに、さましをれと、めいきて遠󠄄とほ旅立たびだちしたるひとのごとし。 35 このゆゑさましをれ、いへ主人あるじかへるは、ゆふべか、夜半󠄃よなかか、にはとりくころか、夜明よあけか、いづれのときなるかをらねばなり。 36 おそらくはにはかかへりて、なんぢらのねむれるをん。 37 わがなんぢらにぐるは、すべてのひとぐるなり。さましをれ』

第14章

1 さて過󠄃越すぎこし除酵じょかうとのまつり二日ふつか前󠄃まへとなりぬ。祭司長さいしちゃう學者がくしゃ詭計たばかりをもてイエスをとらへ、かつころさんとくはだてて 2まつりあひだすべからず、おそらくはたみらんあるべし』

3 イエス、ベタニヤにいまして、癩病人らいびゃうにんシモンのいへにて食󠄃事しょくじせきにつき居給ゐたまふとき、あるをんなあたひたかまじりなきナルドのにほひあぶらりたる石膏せきかうつぼきたり、そのつぼこぼちてイエスのかうべそゝぎたり。
 98㌻ 
4 ある人々ひとびといきどほりてたがひふ『なにゆゑかくみだりあぶらつひやすか、 5 このあぶらさんひゃくデナリあまりりて、貧󠄃まづしきものほどこすことをたりしものを』しかしていたをんなとがむ。 6 イエスたまふ『そのすにまかせよ、なんぞこのをんななやますか、われことをなせり。 7 貧󠄃まづしきものは、つねなんぢらとともにをれば、何時いつにてもこゝろのままにたすべし、れどわれつねなんぢらとともにをらず。 8 をんなは、なしかぎりをなして、からだにほひあぶらをそそぎ、あらかじめはうむりのそなへをなせり。 9 まことなんぢらにぐ、全󠄃世界ぜんせかい何處いづこにても、福音󠄃ふくいん宣傅のべつたへらるるところには、このをんなししこと記念きねんとしてかたらるべし』
〘72㌻〙
10 こゝ十二じふに弟子でし一人ひとりなるイスカリオテのユダ、イエスをらんとて祭司長さいしちゃうもとにゆく。 11 かれこれをきてよろこび、かねあたへんとやくしたれば、ユダ如何いかにしてかをりくイエスをわたさんとはかる。

12 除酵祭じょかうさいはじめすなは過󠄃越すぎこし羔羊こひつじほふるべき弟子でしたちイエスにふ『過󠄃越すぎこし食󠄃しょくをなしたまふために、われらが何處いづこきてそなふることを望󠄇のぞたまふか』 13 イエス二人ふたり弟子でし遣󠄃つかはさんとしてひたまふ『みやこけ、らばみづをいれたるかめひと、なんぢらに遇󠄃ふべし。これしたがき、 14 その所󠄃ところ家主いへあるじに「いふ、われ弟子でしらととも過󠄃越すぎこし食󠄃しょくすべき座敷ざしき何處いづこなるか」とへ。 15 らば調とゝのそなへたるおほいなる二階にかい座敷ざしきすべし。其處そこわれらのためにそなへよ』 16 弟子でしたちきてみやこり、イエスのたまひしごとくなるを過󠄃越すぎこし設備そなへをなせり。

17 れてイエス十二じふに弟子でしとともにき、 18 みなせききて食󠄃しょくするときたまふ『まことになんぢらにぐ、われとも食󠄃しょくするなんぢらのうち一人ひとり、われをらん』
 99㌻ 
19 弟子でしたちうれひて一人ひとり一人ひとり『われなるか』とでしに、 20 イエスひたまふ『十二じふにのうちの一人ひとりにてわれともにパンをはちひたものそれなり。 21 ひとおのれきてしるされたるごと逝󠄃くなり。れどひともの禍害󠄅わざはひなるかな、そのひとうまれざりしかたよかりしものを』

22 かれ食󠄃しょくしをるとき、イエス、パンをり、しくしてさき、弟子でしたちにあたへてひたまふ『れ、これはからだなり』 23 また酒杯さかづきり、しゃしてかれらにあたたまへば、みなこの酒杯さかづきよりめり。 24 またたまふ『これは契約けいやく、おほくのひとためなが所󠄃ところのものなり。 25 まことなんぢらにぐ、かみくににてあたらしきものをまでは、われ葡萄ぶだうよりるものをまじ』

26 かれら讃美さんびをうたひてのち、オリブやまでゆく。

27 イエス弟子でしたちにたまふ『なんぢらみなつまづかん、それは「われ牧羊者ひつじかひたん、らばひつじるべし」としるされたるなり。 28 れどわれよみがへりてのち、なんぢらにさきだちてガリラヤにかん』 29 ときにペテロ、イエスにふ『假令たとへみなつまづくともわれしからじ』 30 イエスたまふ『まことになんぢぐ、今日けふこのにはとりふたたび前󠄃まへに、なんぢたびわれいなむべし』 31 ペテロちからをこめてふ『われなんぢとともにぬべきことありともなんぢいなまず』弟子でしたちみなかくへり。
〘73㌻〙
32 かれらゲツセマネとづくるところいたりしとき、イエス弟子でしたちにたまふ『わがいのあひだ、ここにせよ』 33 かくてペテロ、ヤコブ、ヨハネを伴󠄃ともなひゆき、いたをどろき、かつかなしみでてたま 34 『わがこゝろいたくうれひてぬばかりなり、なんぢ此處こことゞまりてさましをれ』
 100㌻ 
35 すこ進󠄃すゝみゆきて、平󠄃伏ひれふし、しもべくばときおのれより過󠄃かんことをいのりてたま 36 『《[*]》アバ父󠄃ちちよ、父󠄃ちちにはあたはぬことなし、酒杯さかづきわれよりたまへ。されど意󠄃こゝろのままをさんとにあらず、御意󠄃みこゝろのままをたまへ』[*「父󠄃」の義なり。] 37 きたりて、そのねむれるを、ペテロにたまふ『シモンよ、なんぢねむるか、いちときさましをることあたはぬか。 38 なんぢら誘惑まどはしおちいらぬやうさまし、かついのれ。こゝろねつすれども肉體にくたいよわきなり』 39 ふたゝびゆき、おなことばにていのたまふ。 40 またきたりてかれらのねむれるをたまふ、これその、いたくつかれたるなり、かれなにこたふべきかをらざりき。 41 三度みたびきたりてひたまふ『いまねむりてやすめ、れり、とききたれり、よ、ひと罪人つみびとらのわたさるるなり。 42 起󠄃て、われらはくべし。よ、われものちかづけり』

43 なほかたりゐたまふほどに、十二じふに弟子でし一人ひとりなるユダ、やがて近󠄃ちかづききたる、祭司長さいしちゃう學者がくしゃ長老ちゃうらうらより遣󠄃つかはされたる群衆ぐんじゅうつるぎぼうとをちてこれ伴󠄃ともなふ。 44 イエスをるもの、あらかじめ合圖あひづしめしてふ『わが接吻くちつけするものはそれなり、これとらへてしかきゆけ』 45 かくきたりてたゞちに御許みもとき《[*]》『ラビ』とひて接吻くちつけしたれば、[*「師」の義なり。] 46 人々ひとびとイエスにをかけてとらふ。 47 かたはらにもののひとり、つるぎき、だい祭司さいししもべちて、みゝおとせり。 48 イエス人々ひとびとむかひてたまふ『なんぢら强盜がうたうにむかふごとつるぎぼうとをち、われとらへんとてきたるか。 49 われ日々ひゞなんぢらとともみやにありてをしへたりしに、われとらへざりき、れどこれ聖󠄄書せいしょことば成就じゃうじゅせんためなり』 50 のとき弟子でしみなイエスをてて逃󠄄る。

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51 ある若者わかもの素肌すはだ亞麻󠄃あまぬのまとひて、イエスにしたがひたりしに、人々ひとびとこれをとらへければ、 52 亞麻󠄃あまぬのはだかにて逃󠄄れり。

53 人々ひとびとイエスをだい祭司さいしもときたれば、祭司長さいしちゃう長老ちゃうらう學者がくしゃみなあつまる。 54 ペテロ遠󠄄とほはなれてイエスにしたがひ、だい祭司さいし中庭なかにはまでり、下役したやくどもとともしてあたゝまりゐたり。 55 さて祭司長さいしちゃうおよ全󠄃ぜん議會ぎくわい、イエスをさだめんとて、證據しょうこもとむれどもず。〘74㌻〙 56 それはイエスにたいして僞證ぎしょうするものおほくあれども證據しょうこあはざりしなり。 57 遂󠄅つひあるものども起󠄃ちて僞證ぎしょうして 58 『われらひとの「われはにて造󠄃つくりたるみやこぼち、にて造󠄃つくらぬほかみや三日みっかにてつべし」とへるをけり』 59 れどなほこの證據しょうこもあはざりき。 60 こゝだい祭司さいしなかちイエスにひてふ『なんぢなにをもこたへぬか、人々ひとびとつる證據しょうこ如何いかに』 61 れどイエスもだしてなにをもこたたまはず。だい祭司さいしふたたびひてふ『なんぢはむべきもののキリストなるか』 62 イエスたまふ『われはそれなり、なんぢひとの、全󠄃能者ぜんのうしゃみぎし、てんくもうちにありてきたるをん』 63 のときだい祭司さいしおのがころもきてふ『なんぞほか證人しゃうにんもとめん。 64 なんぢら瀆言けがしごとけり、如何いかおもふか』かれらこぞりてイエスをあたるべきものとさだむ。 65 しかしてあるものどもはイエスにつばきし、又󠄂またそのかほおほひ、こぶしにてちなど爲始しはじめてふ、『預言よげんせよ』下役したやくどもイエスをけ、手掌てのひらにてうてり。

66 ペテロしたにて中庭なかにはにをりしに、だい祭司さいし婢女はしため一人ひとりきたりて、 67 ペテロのあたゝまりをるを、これにめて『なんぢも、かのナザレびとイエスとともたり』とふ。 68 ペテロうけがはずして『われはなんぢふことをらず、又󠄂またその意󠄃こゝろをもさとらず』とひてにはぐちでたり。《[*]》[*異本六八節の末に「時に鷄なきぬ」といふ句あり。]
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69 婢女はしためかれをて、またかたはらにものどもに『このひとは、かの黨與ともがらなり』とでしに、 70 ペテロかさねてうけがはず、しばらくしてまたかたはらにものどもペテロにふ『なんぢはたしかに、かの黨與ともがらなり、なんぢもガリラヤびとなり』 71 ときペテロうけひ、かつちかひて『われはなんぢらのひとらず』とづ。 72 そのをりしも、またにはとりなきぬ。ペテロ『にはとり二度ふたゝびなく前󠄃まへに、なんぢ三度みたびわれをいなまん』とイエスのたまひし御言みことばおもひいだし、おもかへしてきたり。

第15章

1 あくるやたゞちに、祭司長さいしちゃう長老ちゃうらう學者がくしゃら、すなは全󠄃ぜん議會ぎくわいともにあひはかりて、イエスをしばきゆきて、ピラトにわたす。 2 ピラト、イエスにひてふ『なんぢはユダヤびとわうなるか』こたへてたまふ『なんぢのふがごとし』 3 祭司長さいしちゃうら、さまざまにうったふれば、 4 ピラトまたひてふ『なにもこたへぬか、よ、如何いかに《[*]》おほくのことをもてうったふるか』[*或は「重大なる事」と譯す。]〘75㌻〙 5 されどピラトのあやしむばかりイエスさらなにをもこたたまはず。

6 さてまつりときには、ピラトたみねがひまかせて、囚人めしうどひとりをゆるれいなるが、 7 こゝ一揆いっき起󠄃おこし、ひところしてつながれをるものうちに、バラバといふものあり。 8 群衆ぐんじゅうすすみきたりて、れいごとくせんことをねがでたれば、 9 ピラトこたへてふ『ユダヤびとわうゆるさんことをねがふか』 10 これピラト、祭司長さいしちゃうらのイエスをわたししは、ねたみるとゆゑなり。 11 れど祭司長さいしちゃう群衆ぐんじゅうそゝのかし、かへつてバラバをゆるさんことをねがはしむ。 12 ピラトまたこたへてふ『さらばなんぢらがユダヤびとわうとなふるものをわれ如何いかべきか』 13 人々ひとびとまたさけびてふ『十字架じふじかにつけよ』 14 ピラトふ『そもかれなに惡事あくじしたるか』かれらはげしくさけびて『十字架じふじかにつけよ』とふ。 15 ピラト群衆ぐんじゅう望󠄇のぞみ滿みたさんとて、バラバをゆるし、イエスをむちうちたるのち、十字架じふじかにつくるためにわたせり。

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16 兵卒へいそつどもイエスを官邸くわんてい中庭なかにはれゆき、全󠄃ぜんたいあつめて、 17 かれ紫色むらさきころもせ、いばら冠冕かんむりみてかむらせ、 18 『ユダヤびとわうやすかれ』とれいをなしはじめ、 19 またあしにて、かうべをたたき、つばきし、ひざまづきてはいせり。 20 かく嘲弄てうろうしてのち、紫色むらさきころもぎ、もところも十字架じふじかにつけんとていだせり。 21 ときにアレキサンデルとルポスとの父󠄃ちちシモンといふクレネびと田舍ゐなかよりきたりて通󠄃とほりかかりしに、ひてイエスの十字架じふじか負󠄅はせ、 22 イエスをゴルゴタ、けば髑髏されかうべといふところけり。 23 かく沒藥もつやくぜたる葡萄酒ぶだうしゅあたへたれど、たまはず。 24 かれらイエスを十字架じふじかにつけ、しかしてたれなにるべきと、くじきてころも分󠄃わかつ、 25 イエスを十字架じふじかにつけしは、朝󠄃あさ九時くじごろなりき。 26 その罪標すてふだには『ユダヤびとわう』としるせり。 27 イエスとともに、二人ふたり强盜がうたう十字架じふじかにつけ、一人ひとりをそのみぎに、一人ひとりをそのひだりく。 28 [なし]《[*]》[*異本「彼は罪人と共に數へられたりといへる聖󠄄書は成就したり」とあり。] 29 徃來ゆききものどもイエスをそしり、かうべりてふ『ああみやこぼちて三日みっかのうちにつるものよ、 30 十字架じふじかよりりておのれすくへ』 31 祭司長さいしちゃうらもまたおなじく學者がくしゃらととも嘲弄てうろうしてたがひふ『ひとすくひて、おのれすくふことあたはず、 32 イスラエルのわうキリスト、いま十字架じふじかよりりよかし、らばわれしんぜん』とも十字架じふじかにつけられたるものどもも、イエスをのゝしりたり。

33 ひる十二じふにに、のうへあまね暗󠄃くらくなりて、三時さんじおよぶ。〘76㌻〙 34 三時さんじにイエス大聲おほごゑに『エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ』とよばはりたまふ。これけば、わがかみ、わがかみ、なんぞわれたまひし、との意󠄃こゝろなり。 35 かたはらにもののうち人々ひとびとこれをきてふ『よ、エリヤをぶなり』 36 一人ひとりはしりきて、海綿うみわた葡萄酒ぶだうしゅふくませてあしにつけ、イエスにましめてふ『て、エリヤきたりて、かれおろすやいなや、われこれん』
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37 イエス大聲おほごゑいだしていきたまふ。 38 聖󠄄所󠄃せいじょまくうへよりしたまでけてふたつとなりたり。 39 イエスにむかひててる百卒長ひゃくそつちゃう、かかるさまにていきたまひしをふ『にこのひとかみなりき』 40 またはるか望󠄇のぞたるをんなたちあり、そのなかにはマグダラのマリヤ、せうヤコブとヨセとのははマリヤおよびサロメなどもたり。 41 かれらはイエスのガリラヤに居給ゐたまひしとき、したがつかへしものどもなり。ほかイエスとともにエルサレムにのぼりしおほくのをんなもありき。

42 すでれて、準備そなへすなは安息あんそくにち前󠄃まへとなりたれば、 43 たふと議員ぎゐんにして、かみくに望󠄇のぞめる、アリマタヤのヨセフきたりて、はゞからずピラトのもとき、イエスの屍體しかばねふ。 44 ピラト、イエスはにしかといぶかり、百卒長ひゃくそつちゃうびて、そのにしよりときしやいなやをひ、 45 すでにたること百卒長ひゃくそつちゃうよりりて、屍體しかばねをヨセフにあたふ。 46 ヨセフ亞麻󠄃あまぬのひ、イエスを取下とりおろしてこれつゝみ、いはりたるはか納󠄃をさめ、はか入口いりくちいしまろばく。 47 マグダラのマリヤとヨセのははマリヤとイエスを納󠄃をさめしところゐたり。

第16章

1 安息あんそくにち終󠄃をはりしとき、マグダラのマリヤ、ヤコブのははマリヤおよびサロメきて、イエスにらんとて香料かうれうひ、 2 一週󠄃ひとまはりはじめでたるころいとはやはかにゆく。 3 たれわれらのためはか入口いりくちよりいしまろばすべきとかたひしに、 4 ぐれば、いしすでまろばしあるをる。このいしはなはおほいなりき。 5 はかり、みぎかたしろころもたる若者わかものするをいたをどろく。 6 若者わかものいふ『おどろくな、なんぢらは十字架じふじかにつけられたまひしナザレのイエスを尋󠄃たづぬれど、すでよみがへりて、此處ここいまさず。よ、納󠄃をさめしところ此處ここなり。
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7 れどきて、弟子でしたちとペテロとにげよ「なんぢらにさきだちてガリラヤにたまふ、彼處かしこにてまみゆるをん、かつなんぢらにたまひしがごとし」』〘77㌻〙 8 をんなたちいたくをどろきをののき、はかより逃󠄄にげでしが、おそれたれば一言ひとことをもひとかたらざりき。

9 [*異本九節以下を缺く。]〔一週󠄃ひとまはりはじめ拂曉あかつき、イエスよみがへりてづマグダラのマリヤにあらはれたまふ、前󠄃さきにイエスがなゝつの惡鬼あくき逐󠄃ひいだしたまひしをんななり。 10 マリヤきて、イエスとともにありし人々ひとびとの、かなしみるときにこれぐ。 11 かれらイエスのたまへることと、マリヤにたまひしこととをけどもしんぜざりき。

12 のちそのうち二人ふたり田舍ゐなか途󠄃みちあゆむほどに、イエスことなりたる姿すがたにてあらはたまふ。 13 二人ふたりゆきて、ほか弟子でしたちにこれげたれど、なほしんぜざりき。

14 ののちじふいち弟子でし食󠄃しょくしをるときに、イエスあらはれて、おのよみがへりたるをものどものことばしんぜざりしにより、信仰しんかうなきと、こゝろ頑固かたくななるとをたまふ。 15 かくかれらにひたまふ『全󠄃世界ぜんせかい巡󠄃めぐりてすべての造󠄃つくられしものに福音󠄃ふくいん宣傳のべつたへよ。 16 しんじてバプテスマをくるものすくはるべし、れどしんぜぬものつみさだめらるべし。 17 しんずるものにはこれしるし、ともなはん。すなはによりて惡鬼あくき逐󠄃ひいだし、あたらしきことばをかたり、 18 へびにぎるとも、どくむとも、害󠄅がいけず、めるものをつけなば癒󠄄えん』

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19 かた終󠄃へてのち、しゅイエスはてんげられ、かみみぎたまふ。 20 弟子でしたちでて、あまね福音󠄃ふくいん宣傳のべつたへ、しゅまたともにはたらき、伴󠄃ともなふところのしるしをもて、御言みことばかたうしたまへり〕〘78㌻〙
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