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〘1㌻〙

第1章

1 アブラハムの、ダビデの、イエス・キリストの系圖けいづ

2 アブラハム、イサクをみ、イサク、ヤコブをみ、ヤコブ、ユダとその兄弟きゃうだいらとをみ、 3 ユダ、タマルによりてパレスとザラとをみ、パレス、エスロンをみ、エスロン、アラムをみ、 4 アラム、アミナダブをみ、アミナダブ、ナアソンをみ、ナアソン、サルモンをみ、 5 サルモン、ラハブによりてボアズをみ、ボアズ、ルツによりてオベデをみ、オベデ、エツサイをみ、 6 エツサイ、ダビデわうめり。
   ダビデ、ウリヤのつまたりしをんなによりてソロモンをみ、
7 ソロモン、レハベアムをみ、レハベアム、アビヤをみ、アビヤ、アサをみ、 8 アサ、ヨサパテをみ、ヨサパテ、ヨラムをみ、ヨラム、ウジヤをみ、 9 ウジヤ、ヨタムをみ、ヨタム、アハズをみ、アハズ、ヒゼキヤをみ、 10 ヒゼキヤ、マナセをみ、マナセ、アモンをみ、アモン、ヨシヤをみ、 11 バビロンにうつさるるころ、ヨシヤ、エコニヤとその兄弟きゃうだいらとをめり。

12 バビロンにうつされてのち、エコニヤ、サラテルをみ、サラテル、ゾロバベルをみ、 13 ゾロバベル、アビウデをみ、アビウデ、エリヤキムをみ、エリヤキム、アゾルをみ、 14 アゾル、サドクをみ、サドク、アキムをみ、アキム、エリウデをみ、 15 エリウデ、エレアザルをみ、エレアザル、マタンをみ、マタン、ヤコブをみ、 16 ヤコブ、マリヤのをっとヨセフをめり。のマリヤよりキリストととなふるイエスうまたまへり。

 1㌻ 
17 さればすべをふること、アブラハムよりダビデまで十四代じふよだい、ダビデよりバビロンにうつさるるまで十四代じふよだい、バビロンにうつされてよりキリストまで十四代じふよだいなり。

18 イエス・キリストの誕生たんじゃうのごとし。そのははマリヤ、ヨセフと許嫁いひなづけしたるのみにて、いまともにならざりしに、聖󠄄せいれいによりてみごもり、そのみごもりたることあらはれたり。 19 をっとヨセフはたゞしきひとにしてこれ公然おほやけにするをこのまず、ひそか離緣りえんせんとおもふ。 20 かくて、これらのことおもめぐらしをるとき、よ、しゅ使つかひゆめあらはれてふ『ダビデのヨセフよ、つまマリヤを納󠄃るることおそるな。そのたい宿やどもの聖󠄄せいれいによるなり。〘1㌻〙 21 かれまん、なんぢそのをイエスとづくべし。おのたみをそのつみよりすくたまゆゑなり』 22 すべてこと起󠄃おこりしは、預言者よげんしゃによりてしゅたまひしことば成就じゃうじゅせんためなり。いはく、 23よ、處女をとめみごもりてまん。 そのはインマヌエルととなへられん』これけば、かみわれらとともいますといふ意󠄃こゝろなり。 24 ヨセフねむりより起󠄃き、しゅ使つかひめいぜしごとくしてつま納󠄃れたり。 25 されどうまるるまでは、あひことなかりき。かくてそのをイエスとづけたり。

第2章

1 イエスはヘロデわうとき、ユダヤのベツレヘムにうまたまひしが、よ、ひがし博士はかせたちエルサレムにきたりてふ、 2 『ユダヤびとわうとてうまたまへるものは、何處いづこいますか。われら《[*]》ひがしにてそのほしたれば、はいせんためにきたれり』[*或は「その星の上れるを見たれば」と譯す。] 3 ヘロデわうこれをきてなやみまどふ、エルサレムもみなしかり。 4 わうたみ祭司長さいしちゃう學者がくしゃらをみなあつめて、キリストの何處いづこうまるべきをたゞす。 5 かれらふ『ユダヤのベツレヘムなり。それは預言者よげんしゃによりて、
 2㌻ 
6 「ユダのベツレヘムよ、なんぢは ユダの《[*]》をさたちうちにていとちひさものにあらず、 なんぢうちより一人ひとりきみいでて、 わがたみイスラエルをぼくせん」としるされたるなり』[*或は「町」と譯す。]

7 ここにヘロデひそか博士はかせたちをまねきて、ほしあらはれしとき詳細つまびらかにし、 8 かれらをベツレヘムに遣󠄃つかはさんとしてふ『きて幼兒をさなごのことをこまかにたづね、これにあはばわれげよ。われきてはいせん』 9 かれわうことばをききてきしに、よ、前󠄃さきに《[*]》ひがしにてほしさきだちゆきて、幼兒をさなごいますところのうへとゞまる。[*或は「その上れるを見たる星」と譯す。] 10 かれらほして、歡喜よろこび溢󠄃あふれつつ、 11 いへりて、幼兒をさなごのそのははマリヤとともいますを平󠄃伏ひれふしてはいし、かつたからはこをあけて、黄金わうごん乳󠄃香にうかう沒藥もつやくなど禮物れいもつさゝげたり。 12 かくゆめにてヘロデのもと返󠄄かへるなとの御吿みつげかうむり、ほかのみちよりおのくにりゆきぬ。

13 そのきしのち、よ、しゅ使つかひゆめにてヨセフにあらはれていふ『起󠄃きて、幼兒をさなごとそのははとをたづさへ、エジプトに逃󠄄のがれ、わがぐるまで彼處かしことゞまれ。ヘロデ幼兒をさなごもとめてほろぼさんとするなり』 14 ヨセフ起󠄃きて、幼兒をさなごとそのははとをたづさへて、エジプトにりゆき、〘2㌻〙 15 ヘロデのぬるまで彼處かしことゞまりぬ。これしゅ預言者よげんしゃによりて『われエジプトよりいだせり』とたまひしことば成就じゃうじゅせんためなり。

16 こゝにヘロデ、博士はかせたちにすかされたりとさとりて、はなはだしくいきどほり、ひと遣󠄃つかはし、博士はかせたちにりて詳細つまびらかにせしときはかり、ベツレヘムおよすべてそのほとり地方ちはうなるさい以下いかをとこをことごとくころせり。 17 ここに預言者よげんしゃエレミヤによりてはれたることば成就じゃうじゅしたり。いはく、 18こゑラマにありてきこゆ、 慟哭なげきなり、いとどしき悲哀かなしみなり。 ラケルおのらをなげき、 のなきゆゑなぐさめらるるをいとふ』

 3㌻ 
19 ヘロデにてのち、よ、しゅ使つかひゆめにてエジプトなるヨセフにあらはれてふ、 20起󠄃きて、幼兒をさなごとそのははとをたづさへ、イスラエルのにゆけ。幼兒をさなご生命いのちもとめしものどもはにたり』 21 ヨセフ起󠄃きて、幼兒をさなごとそのははとをたづさへ、イスラエルのいたりしに、 22 アケラオその父󠄃ちちヘロデにかわりて、ユダヤををさむとき、彼處かしこくことをおそる。またゆめにて御吿みつげかうむり、ガリラヤの地方ちはう退󠄃しりぞき、 23 ナザレといふまちいたりて住󠄃みたり。これは預言者よげんしゃたちにりて、かれはナザレびとよばれん、とはれたることば成就じゃうじゅせんためなり。

第3章

1 そのころバプテスマのヨハネきたり、ユダヤの荒野あらのにてをしへべて 2 『なんぢら悔改くいあらためよ、天國てんこく近󠄃ちかづきたり』 3 これ預言者よげんしゃイザヤによりて、はれしひとなり、いはく 『荒野あらのよばはるものこゑす 「しゅ道󠄃みちそなへ、 そのみちすぢをなほくせよ」』 4 このヨハネは駱駝らくだ毛織衣けおりごろもをまとひ、こしかはおびをしめ、いなご野蜜のみつとを食󠄃しょくとせり。 5 こゝにエルサレムおよびユダヤ全󠄃國ぜんこくまたヨルダンのほとりなる全󠄃地方ぜんちはう人々ひとびと、ヨハネのもとできたり、 6 つみあらはし、ヨルダンがはにてバプテスマをけたり。 7 ヨハネ、パリサイびとおよびサドカイびとのバプテスマをけんとて、おほきたるをて、かれらにふ『まむしすゑよ、なんぢらに、きたらんとする御怒みいかり避󠄃くべきことしめしたるぞ。 8 さらば悔改くいあらため相應ふさはしきむすべ。 9 なんぢら「われらの父󠄃ちちにアブラハムあり」とこゝろのうちにはんとおもふな。われなんぢらにぐ、かみこれらのいしよりアブラハムのらを起󠄃おこ得給えたまふなり。〘3㌻〙 10 をのははやかる。さればすべむすばぬは、られてれらるべし。 11 われなんぢらの悔改くいあらためのために、みづにてバプテスマをほどこす。されどわれよりのちにきたるものは、われよりも能力ちからあり、われはそのくつをとるにもらず、かれ聖󠄄せいれいとにてなんぢらにバプテスマをほどこさん。
 4㌻ 
12 にはちて禾場うちばをきよめ、そのむぎくら納󠄃をさめ、から消󠄃えぬにてきつくさん』

13 こゝにイエス、ヨハネにバプテスマをけんとて、ガリラヤよりヨルダンにきたたまふ。 14 ヨハネこれとゞめんとしてふ『われはなんぢにバプテスマをくべきものなるに、かへつてわれきたたまふか』 15 イエスこたへてひたまふ『いまゆるせ、われらたゞしきことをことごとく爲遂󠄅しとぐるは、當然たうぜんなり』ヨハネすなはゆるせり。 16 イエス、バプテスマをけてたゞちにみづよりあがたまひしとき、よ、てんひらけ、かみ御靈みたまの、鴿はとのごとくくだりておのうへにきたるをたまふ。 17 またてんよりこゑあり、いはく『これはいつくしむ、わがよろこものなり』

第4章

1 こゝにイエス御靈みたまによりて荒野あらの導󠄃みちびかれたまふ、惡魔󠄃あくまこゝろみられんとるなり。 2 四十しじふにち四十しじふ斷食󠄃だんじきして、のち飢󠄄ゑたまふ。 3 こゝろむるものきたりてふ『なんぢかみならば、めいじてこれいしをパンとらしめよ』 4 こたへてたまふ『「ひとくるはパンのみにるにあらず、かみくちよりづるすべてのことばる」としるされたり』 5 ここに惡魔󠄃あくまイエスを聖󠄄せいなるみやこにつれゆき、みや頂上いたゞきたせてふ、 6 『なんぢもしかみならばおのしたげよ。それは 「なんぢのため御使みつかひたちにめいたまはん。 かれにてなんぢさゝへ、そのあしいしにうちつることからしめん」としるされたるなり』 7 イエスひたまふ『「しゅなるなんぢかみこゝろむべからず」と、またしるされたり』
 5㌻ 
8 惡魔󠄃あくままたイエスをいとたかやまにつれゆき、のもろもろのくにと、その榮華えいぐわとをしめしてふ、 9 『なんぢ平󠄃伏ひれふしてわれはいせば、これみななんぢにあたへん』 10 こゝにイエスたまふ『サタンよ、退󠄃しりぞけ「しゅなるなんぢかみはいし、ただこれにのみつかまつるべし」としるされたるなり』 11 ここに惡魔󠄃あくまはなり、よ、御使みつかひたちきたつかへぬ。

12 イエス、ヨハネのとらはれしことをききて、ガリラヤに退󠄃しりぞき、〘4㌻〙 13 のちナザレをりて、ゼブルンとナフタリとのさかひなる海邊うみべのカペナウムにいたりて住󠄃たまふ。 14 これは預言者よげんしゃイザヤによりてはれたることば成就じゃうじゅせんためなり。いは 15 『ゼブルンの、ナフタリのうみほとり、ヨルダンの彼方かなた異邦人いはうじんのガリラヤ、 16 暗󠄃くらきにするたみは、おほいなるひかりかげとにするものに、ひかりのぼれり』

17 このときよりイエスをしへべはじめてたまふ『なんぢら悔改くいあらためよ、天國てんこく近󠄃ちかづきたり』

18 かくて、ガリラヤの海邊うみべをあゆみて、二人ふたり兄弟きゃうだいペテロといふシモンとその兄弟きゃうだいアンデレとが、うみあみちをるをたまふ、かれらは漁人すなどりびとなり。 19 これにひたまふ『われしたがひきたれ、らばなんぢらをひとすなどものとなさん』 20 かれらたゞちにあみをすててしたがふ。 21 さら進󠄃すゝみゆきて、又󠄂またふたりの兄弟きゃうだい、ゼベダイのヤコブとその兄弟きゃうだいヨハネとが、父󠄃ちちゼベダイとともにふねにありてあみつくろひをるをたまへば、 22 たゞちにふね父󠄃ちちとをきてしたがふ。 23 イエスあまねくガリラヤを巡󠄃めぐり、會堂くわいだうにてをしへをなし、御國みくに福音󠄃ふくいんべつたへ、たみうちのもろもろのやまひ、もろもろの疾患わづらひをいやしたまふ。
 6㌻ 
24 そのうはさあまねくシリヤにひろまり、人々ひとびとすべてのなやめるもの、すなはちさまざまのやまひ苦痛くるしみとにかゝれるもの、惡鬼あくきかれたるもの、癲癇てんかんおよび中風ちゅうぶものなどをきたりたれば、イエスこれいやしたまふ。 25 ガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤおよびヨルダンの彼方かなたよりおほいなる群衆ぐんじゅうきたりしたがへり。

第5章

1 イエス群衆ぐんじゅうて、やまにのぼり、たまへば、弟子でしたち御許みもとにきたる。 2 イエスくちをひらき、をしへてひたまふ、 3幸福さいはひなるかな、こゝろ貧󠄃まづしきもの天國てんこくはそのひとのものなり。 4 幸福さいはひなるかな、かなしむもの。そのひとなぐさめられん。 5 幸福さいはひなるかな、柔和にうわなるもの。そのひとがん。 6 幸福さいはひなるかな、飢󠄄かわもの。そのひと飽󠄄くことをん。 7 幸福さいはひなるかな、憐憫あはれみあるもの。そのひと憐憫あはれみん。 8 幸福さいはひなるかな、こゝろきよもの。そのひとかみん。 9 幸福さいはひなるかな、平󠄃和へいわならしむるもの。そのひとかみとなへられん。 10 幸福さいはひなるかな、のためにめられたるもの天國てんこくはそのひとのものなり。 11 がために、ひとなんぢらをのゝしり、まため、いつはりて各樣さまざましきことをふときは、なんぢ幸福さいはひなり。〘5㌻〙 12 よろこびよろこべ、てんにてなんぢらのむくいおほいなり。なんぢより前󠄃さきにありし預言者よげんしゃたちをも、めたりき。

13 なんぢらはしほなり、しほもし效力かうりょくうしなはば、なにをもてかこれしほすべき。のちようなし、そとにすてられてひとまるるのみ。 14 なんぢらはひかりなり。やまうへにあるまちかくるることなし。 15 またひと燈火ともしびをともしてますしたにおかず、燈臺とうだいうへにおく。かく燈火ともしびいへにあるすべてのものてらすなり。 16 かくのごとくなんぢらのひかりひと前󠄃まへにかがやかせ。これひとなんぢらが行爲おこなひて、てんにいますなんぢらの父󠄃ちちあがめんためなり。

 7㌻ 
17 われ律法おきてまた預言者よげんしゃこぼつためにきたれりとおもふな。こぼたんとてきたらず、かへつて成就じゃうじゅせんためなり。 18 まことなんぢらにぐ、てん過󠄃かぬうちに、律法おきて一點いってん一畫いっかくすたることなく、ことごとく全󠄃まったうせらるべし。 19 このゆゑにもしこれのいとちひさ誡命いましめひとつをやぶり、かつそのごとひとをしふるものは、天國てんこくにていとちひさものとなへられ、これおこなひ、かつひとをしふるものは、天國てんこくにておほいなるものとなへられん。 20 われなんぢらにぐ、なんぢらの學者がくしゃ・パリサイびと勝󠄃まさらずば、天國てんこくることあたはず。

21 いにしへのひとに「ころすなかれ、ころもの審判󠄄さばきにあふべし」とへることあるをなんぢきけり。 22 れどわれなんぢらにぐ、すべて兄弟きゃうだいいかものは、審判󠄄さばきにあふべし。また兄弟きゃうだいむかひて、おろかものよといふものは、衆議しゅうぎにあふべし。また痴者しれものよといふものは、ゲヘナのにあふべし。 23 このゆゑなんぢもし供物そなへもの祭壇さいだんにささぐるとき、そこにて兄弟きゃうだいうらまるることあるをおもいださば、 24 供物そなへもの祭壇さいだんのまへに遺󠄃のこしおき、きて、その兄弟きゃうだい和睦わぼくし、しかるのちきたりて、供物そなへものをささげよ。 25 なんぢをうったふるものとともに途󠄃みちるうちに、はや和解わかいせよ。おそらくは、うったふるものなんぢを審判󠄄さばきびとにわたし、審判󠄄さばきびと下役したやくにわたし、遂󠄅つひになんぢはひとやれられん。 26 まことに、なんぢぐ、いちりんのこりなくつぐのはずば、其處そこをいづることあたはじ。 27姦淫かんいんするなかれ」とへることあるをなんぢきけり。 28 されどわれなんぢらにぐ、すべて色情󠄃しきじゃういだきてをんなるものは、すでこゝろのうち姦淫かんいんしたるなり。 29 もしみぎなんぢをつまづかせば、くじいだしててよ、五體ごたいひとほろびて、全󠄃身ぜんしんゲヘナにれられぬはえきなり。
 8㌻ 
30 もしみぎなんぢをつまづかせば、りててよ、五體ごたいひとほろびて、全󠄃身ぜんしんゲヘナにかぬはえきなり。〘6㌻〙 31 また「つまをいだすもの離緣狀りえんじゃうあたふべし」とへることあり。 32 されどわれなんぢらにぐ、淫行いんかうゆゑならでつまをいだすものは、これに姦淫かんいんおこなはしむるなり。またいだされたるをんなめとるものは、姦淫かんいんおこなふなり。

33 またいにしへのひとに「いつはりちかふなかれ、なんぢのちかひしゅはたすべし」とへることあるをなんぢけり。 34 されどわれなんぢらにぐ、一切いっさいちかふな、てんしてちかふな、かみ御座みくらなればなり。 35 してちかふな、かみ足臺あしだいなればなり。エルサレムをしてちかふな、大君おほきみみやこなればなり。 36 おのかしらしてちかふな、なんぢ頭髮かみのけ一筋ひとすじだにしろくし、またくろくしあたはねばなり。 37 ただしかしかり、いないなといへ、これ過󠄃ぐるはあくよりづるなり。

38にはを、にはを」とへることあるをなんぢけり。 39 されどわれなんぢらにぐ、しきもの抵抗てむかふな。ひともしなんぢみぎほほをうたば、ひだりをもけよ。 40 なんぢをうったへて下衣したぎらんとするものには、上衣うはぎをもらせよ。 41 ひともしなんぢ一里いちりゆくことをひなば、とも二里にりゆけ。 42 なんぢに請󠄃ものにあたへ、らんとするものこばむな。

43 「なんぢのとなりあいし、なんぢのあた憎にくむべし」とへることあるをなんぢきけり。 44 されどわれなんぢらにぐ、なんぢらのあたあいし、なんぢらをむるもののためにいのれ。 45 これてんにいますなんぢらの父󠄃ちちとならんためなり。てん父󠄃ちちは、そのしきもののうへにも、もののうへにものぼらせ、あめたゞしきものにも、たゞしからぬものにもらせたまふなり。
 9㌻ 
46 なんぢらおのれあいするものあいすともなにむくいをかべき、取税人しゅぜいにんしかするにあらずや。 47 兄弟きゃうだいにのみ挨拶あいさつすともなに勝󠄃まさることかある、異邦人いはうじんしかするにあらずや。 48 らばなんぢらのてん父󠄃ちち全󠄃まったきがごとく、なんぢらも全󠄃まったかれ。

第6章

1 なんぢられんためにおのひと前󠄃まへにておこなはぬやうにこゝろせよ。しからずば、てんにいますなんぢらの父󠄃ちちよりむくいじ。

2 さらば施濟ほどこしをなすとき、僞善者ぎぜんしゃひとあがめられんとて會堂くわいだうちまたにてすごとく、おの前󠄃まへにラッパをならすな。まことなんぢらにぐ、かれらはすでにそのむくいたり。 3 なんぢ施濟ほどこしをなすとき、みぎのなすことをひだりらすな。 4 これはその施濟ほどこしかくれんためなり。らばかくれたるにたまふなんぢ父󠄃ちちむくたまはん。

5 なんぢらいのるとき、僞善者ぎぜんしゃごとくあらざれ。かれらはひとあらはさんとて、會堂くわいだう大路おほじかどちていのることをこのむ。まことなんぢらにぐ、かれらはすでにそのむくいたり。〘7㌻〙 6 なんぢはいのるとき、おの部屋へやにいり、ぢて、かくれたるにいまなんぢ父󠄃ちちいのれ。さらばかくれたるにたまふなんぢの父󠄃ちちむくたまはん。 7 またいのるとき、異邦人いはうじんごといたづらにことば反復くりかへすな。かれらはことばおほきによりてかれんとおもふなり。 8 さらばかれらにならふな、なんぢらの父󠄃ちちもとめぬ前󠄃さきに、なんぢらの必要󠄃ひつえうなるものりたまふ。 9 このゆゑなんぢらはいのれ。「てんにいますわれらの父󠄃ちちよ、ねがはくは、御名みなの《[*]》あがめられんことを。[*或は「聖󠄄とせられん事を」と譯す。] 10 御國みくにきたらんことを。御意󠄃みこゝろてんのごとく、にもおこなはれんことを。 11 われらの日用にちようかて今日けふもあたへたまへ。
 10㌻ 
12 われらに負󠄅債おひめあるものわれらのゆるしたるごとく、われらの負󠄅債おひめをもゆるたまへ。 13 われらを嘗試こころみ遇󠄃はせず、《[*]》あくよりすくいだしたまへ」[*或は「惡しき者」と譯す。異本一三の末に「國と威力と榮光とは、とこしへに汝のものなればなり、アァメン」と云ふ句あり。] 14 なんぢもしひと過󠄃失あやまちゆるさば、なんぢらのてん父󠄃ちちなんぢらをゆるたまはん。 15 もしひとゆるさずば、なんぢらの父󠄃ちちなんぢらの過󠄃失あやまちゆるたまはじ。

16 なんぢら斷食󠄃だんじきするとき、僞善者ぎぜんしゃのごとく、かなしき面容おももちをすな。かれらは斷食󠄃だんじきすることをひとあらはさんとて、そのかほいろ害󠄅そこなふなり。まことなんぢらにぐ、かれらはすでにそのむくいたり。 17 なんぢは斷食󠄃だんじきするとき、かしらあぶらをぬり、かほをあらへ。 18 これ斷食󠄃だんじきすることのひとあらはれずして、かくれたるにいまなんぢ父󠄃ちちにあらはれんためなり。さらばかくれたるにたまふなんぢ父󠄃ちちむくたまはん。

19 なんぢらおのがために財寶たからむな、ここはむしさびとがそこなひ、盜人ぬすびとうがちてぬすむなり。 20 なんぢらおのがために財寶たからてんめ、かしこはむしさびとがそこなはず、盜人ぬすびとうがちてぬすまぬなり。 21 なんぢの財寶たからのある所󠄃ところには、なんぢのこゝろもあるべし。 22 燈火ともしびなり。このゆゑなんぢただしくば、全󠄃身ぜんしんあかるからん。 23 れど、なんぢのあしくば、全󠄃身ぜんしんくらからん。もしなんぢうちひかりやみならば、そのやみいかばかりぞや。 24 ひと二人ふたりしゅ兼󠄄かねつかふることあたはず、あるひは、これを憎にくみ、かれをあいし、あるひは、これにしたしみ、かれをかろしむべければなり。なんぢかみとみとに兼󠄄かねつかふることあたはず。 25 このゆゑわれなんぢらにぐ、なに食󠄃くらひ、なにまんと生命いのちのことをおもわづらひ、なにんとからだのことをおもわづらふな。生命いのちかてにまさり、からだころも勝󠄃まさるならずや。 26 空󠄃そらとりよ、かず、らず、くらをさめず、しかるになんぢらのてん父󠄃ちちは、これを養󠄄やしなひたまふ。なんぢらはこれよりもはるかすぐるるものならずや。 27 なんぢらのうちたれかおもわづらひて《[*]》たけ一尺いっしゃくくはんや。[*或は「その生命を寸陰も延べ得んや」と譯す。]
 11㌻ 
28 又󠄂またなにゆゑころものことをおもわづらふや。《[*]》百合ゆり如何いかにしてそだつかをおもへ、らうせず、つむがざるなり。[*或は「野の花」と譯す。]〘8㌻〙 29 れどわれなんぢらにぐ、榮華えいぐわきはめたるソロモンだに、その服󠄃裝よそほひこのはなひとつにもかざりき。 30 今日けふありて明日あすれらるるくさをも、かみはかくよそほたまへば、ましてなんぢらをや、ああ信仰しんかううすきものよ。 31 さらばなに食󠄃くらひ、なにみ、なにんとておもわづらふな。 32 これみな異邦人いはうじんせつもとむる所󠄃ところなり。なんぢらのてん父󠄃ちちすべてこれらのものなんぢらに必要󠄃ひつえうなるをたまふなり。 33 まづかみくにかみとをもとめよ、らばすべてこれらのものなんぢらにくはへらるべし。 34 このゆゑ明日あすのことをおもわづらふな、明日あす明日あすみづからおもわづらはん。一日いちにち苦勞くらう一日いちにちにてれり。

第7章

1 なんぢらひとさばくな、さばかれざらんためなり。 2 おのがさばく審判󠄄さばきにておのれもさばかれ、おのがはかるはかりにておのれはからるべし。 3 なにゆゑ兄弟きゃうだいにある《[*]》ちりて、おのがにある梁木うつばり認󠄃みとめぬか。[*或は「木屑」と譯す。四、五節なるも同じ。] 4 よ、おのが梁木うつばりのあるに、いかで兄弟きゃうだいにむかひて、なんぢよりちりをとりのぞかせよとんや。 5 僞善者ぎぜんしゃよ、まづおのより梁木うつばりをとりのぞけ、さらばあきらかにえて兄弟きゃうだいよりちりりのぞきん。

6 聖󠄄せいなるものいぬあたふな。また眞珠しんじゅぶた前󠄃まへぐな。おそらくはあしにてみつけ、返󠄄かへりてなんぢらをみやぶらん。

7 もとめよ、らばあたへられん。尋󠄃たづねよ、さらば見出みいださん。もんたゝけ、さらばひらかれん。 8 すべてもとむるもの、たづぬるものいだし、もんをたたくものひらかるるなり。 9 なんぢのうち、たれかそのパンをもとめんにいしあたへ、
 12㌻ 
10 うをもとめんにへびあたへんや。 11 らば、なんぢしきものながら、賜物たまものをそのらにあたふるをる。ましててんにいますなんぢらの父󠄃ちちは、もとむるものものたまはざらんや。 12 らばすべひとられんとおもふことは、ひとにもまたそのごとくせよ。これは律法おきてなり、預言者よげんしゃなり。

13 せまもんよりれ、ほろびにいたるもんおほきく、そのみちひろく、これよりものおほし。 14 生命いのちにいたるもんせまく、そのみちほそく、これいだものすくなし。
〘9㌻〙
15 にせ預言者よげんしゃこゝろせよ、ひつじ扮裝よそほひしてきたれども、うちうばかすむる豺狼おほかみなり。 16 そのによりてかれらをるべし。いばらより葡萄ぶだうを、あざみより無花果いちぢくをとるものあらんや。 17 く、すべてをむすび、しきしきをむすぶ。 18 しきむすぶことあたはず、しきはよきむすぶことあたはず。 19 すべてむすばぬは、られてれらる。 20 らば、そのによりてかれらをるべし。 21 われむかひてしゅしゅよといふもの、ことごとくは天國てんこくらず、ただてんにいます父󠄃ちち御意󠄃みこゝろをおこなふもののみ、これるべし。 22 そのおほくのもの、われにむかひて「しゅしゅよ、われらはなんぢによりて預言よげんし、なんぢによりて惡鬼あくき逐󠄃ひいだし、なんぢによりておほくの能力ちからあるわざししにあらずや」とはん。 23 そのときわれ明白あらはげん「われえてなんぢらをらず、不法ふはふをなすものよ、われはなれされ」と。

24 さらばすべがこれらのことばをききておこなものを、いはうへいへをたてたる慧󠄄さとひとなずらへん。 25 あめふりながれみなぎり、かぜふきてそのいへをうてどたふれず、これいはうへてられたるゆゑなり。 26 すべてがこれらのことばをききておこなはぬものを、すなうへいへてたるおろかなるひとなずらへん。
 13㌻ 
27 あめふりながれみなぎり、かぜふきていへをうてば、たふれてその顚倒たふれはなはだし』

28 イエスこれらのことばかたりをへたまへるとき、群衆ぐんじゅうそのをしへをどろきたり。 29 それは學者がくしゃらのごとくならず、權威けんゐあるもののごとくをしたまへるゆゑなり。

第8章

1 イエスやまくだたまひしとき、おほいなる群衆ぐんじゅうこれにしたがふ。 2 よ、一人ひとり癩病人らいびゃうにんみもとにきたり、はいしてふ『しゅよ、御意󠄃みこゝろならば、われ潔󠄄きよくなしたまふをん』 3 イエスをのべ、かれにつけて『わが意󠄃こゝろなり、潔󠄄きよくなれ』とたまへば、癩病らいびゃうただちに潔󠄄きよまれり。 4 イエスたまふ『つつしみてたれにもかたるな、ただきておのれ祭司さいしせ、モーセがめいじたる供物そなへものさゝげて、人々ひとびとあかしせよ』

5 イエス、カペナウムにたまひしとき、百卒長ひゃくそつちゃうきたり、 6 請󠄃ひていふ『しゅよ、わがしもべ中風ちゅうぶみ、いへしゐていたくるしめり』 7 イエスたまふ『われきていやさん』 8 百卒長ひゃくそつちゃうこたへてふ『しゅよ、われなんぢをわが屋根やねしたまつるにらぬものなり。ただ御言みことばのみをたまへ、さらばしもべはいえん。 9 われみづから權威けんゐしたにあるものなるに、したにまた兵卒へいそつありて、これに「ゆけ」とへばき、かれに「きたれ」とへばきたり、わがしもべに「これをせ」といへばすなり』〘10㌻〙 10 イエスきてあやしみ、したがへる人々ひとびとたまふ『まことになんぢらにぐ、かゝあつ信仰しんかうはイスラエルのうち一人ひとりにだにしことなし。 11 又󠄂またなんぢらにぐ、おほくのひとひがしより西にしよりきたり、アブラハム、イサク、ヤコブとともに天國てんこくえんにつき、 12 御國みくにらはそと暗󠄃くらきに逐󠄃いだされ、そこにて哀哭なげき切齒はがみすることあらん』
 14㌻ 
13 イエス百卒長ひゃくそつちゃうに『ゆけ、なんぢしんずるごとくなんぢになれ』とたまへば、このときしもべいえたり。

14 イエス、ペテロのいへり、その外姑しうとめねつみてしをるを 15 そのさはたまへば、ねつり、をんなおきてイエスにつかふ。 16 ゆふべになりて、人々ひとびと惡鬼あくきかれたるものをおほく御許みもとにつれきたりたれば、イエスことばにてれい逐󠄃ひいだし、めるものをことごとくいやたまへり。 17 これは預言者よげんしゃイザヤによりて『かれはみづかわれらの疾患わずらひをうけ、われらのやまひ負󠄅ふ』とはれしことば成就じゃうじゅせんためなり。

18 さてイエス群衆ぐんじゅうおのれめぐれるをて、ともに彼方かなたきしかんことを弟子でしたちにめいたまふ。 19 一人ひとり學者がくしゃきたりてふ『何處いづこにゆきたまふとも、われしたがはん』 20 イエスひたまふ『きつね穴󠄄あなあり、空󠄃そらとりねぐらあり、れどひとまくらする所󠄃ところなし』 21 また弟子でし一人ひとりいふ『しゅよ、きて父󠄃ちちはうむることをゆるしたまへ』 22 イエスひたまふ『われしたがへ、にたるものにそのにたるものはうむらせよ』

23 かくてふねたまへば、弟子でしたちもしたがふ。 24 よ、うみおほいなる暴風あらしおこりて、ふねなみおほはるるばかりなるに、イエスはねむりゐたまふ。 25 弟子でしたち御許みもとにゆき、起󠄃おこしてふ『しゅよ、すくひたまへ、われらはほろぶ』 26 かれらにたまふ『なにゆゑおくするか、信仰しんかううすきものよ』すなは起󠄃きて、かぜうみとをいましたまへば、おほいなるなぎとなりぬ。 27 人々ひとびとあやしみてふ『こは如何いかなるひとぞ、かぜうみしたがふとは』

28 イエス彼方かなたにわたり、ガダラびとにゆきたまひしとき、惡鬼あくきかれたる二人ふたりのもの、はかよりできたりてこれ遇󠄃ふ。そのたけきことはなはだしく、其處そこ途󠄃みちひと過󠄃ぬほどなり。 29 よ、かれらさけびてふ『かみよ、われらなんぢなに關係かゝはりあらん、いまときいたらぬに、われらをめんとて此處ここにきたりたまふか』
 15㌻ 
30 はるかにへだたりておほくのぶたひとむれ食󠄃しょくしゐたりしが、 31 惡鬼あくきども請󠄃ひてふ『もしわれらを逐󠄃いださんとならば、ぶたむれ遣󠄃つかはしたまへ』〘11㌻〙 32 かれらにたまふ『ゆけ』惡鬼あくきいでてぶたりたれば、よ、そのむれみながけよりうみくだりて、みづにたり。 33 ものども逃󠄄げてまちにゆき、すべてのこと惡鬼あくきかれたりしものこととをげたれば、 34 よ、まちひとこぞりてイエスにはんとてできたり、かれて、この地方ちはうよりたまはんことを請󠄃へり。

第9章

1 イエスふねにのり、わたりておのまちにきたりたまふ。 2 よ、中風ちゅうぶにてとこしをるものを、人々ひとびとみもとにきたれり。イエスかれらの信仰しんかうて、中風ちゅうぶものひたまふ『よ、こゝろやすかれ、なんぢつみゆるされたり』 3 よ、ある學者がくしゃこゝろうちにいふ『このひとかみけがすなり』 4 イエスそのおもひりてたまふ『なにゆゑこゝろしきことをおもふか。 5 なんぢつみゆるされたりとふと、起󠄃きてあゆめとふと、いづれやすき。 6 ひとにてつみゆる權威けんゐあることをなんぢらにらせんために』――ここに中風ちゅうぶものたまふ――『起󠄃きよ、とこをとりてなんぢいへにかへれ』 7 かれおきて、そのいへにかへる。 8 群衆ぐんじゅうこれをておそれ、かゝ能力ちからひとにあたへたまへるかみあがめたり。

9 イエス此處ここより進󠄃すゝみて、マタイといふひと收税所󠄃しうぜいしょしをるをて『われしたがへ』とたまへば、ちてしたがへり。

10 いへにて食󠄃事しょくじせきにつき居給ゐたまふとき、よ、おほくの取税人しゅぜいにん罪人つみびときたりて、イエスおよ弟子でしたちとともつらなる。
 16㌻ 
11 パリサイびとこれを弟子でしたちにふ『なにゆゑなんぢらのは、取税人しゅぜいにん罪人つみびとらととも食󠄃しょくするか』 12 これきてひたまふ『すこやかなるもの醫者いしゃ要󠄃えうせず、ただめるものこれを要󠄃えうす。 13 なんぢらきてまなべ「われ憐憫あはれみこのみて、犧牲いけにへこのまず」とは如何いかなる意󠄃こゝろぞ。われたゞしきものまねかんとにあらで、罪人つみびとまねかんとてきたれり』

14 こゝにヨハネの弟子でしたち御許みもとにきたりてふ『われらとパリサイびとは《[*]》斷食󠄃だんじきするに、なにゆゑなんぢの弟子でしたちは斷食󠄃だんじきせぬか』[*異本「しばしば斷食󠄃するに」とあり。] 15 イエスひたまふ『新郎はなむこともだち、新郎はなむこともにをるあひだは、かなしむことをんや。されど新郎はなむこをとらるるきたらん、そのときには斷食󠄃だんじきせん。 16 たれあたらしきぬのきれふるころもにつぐことはじ、おぎなひたるきれは、そのころもをやぶりて、破綻ほころびさらにはなはだしかるべし。 17 またあたらしき葡萄酒ぶだうしゅをふるき革嚢かはぶくろるることはじ。もししかせばふくろはりさけ、さけほどばしりでて、ふくろもまたすたらん。あたらしき葡萄酒ぶだうしゅあたらしき革嚢かはぶくろにいれ、かくふたつながらたもつなり』
〘12㌻〙
18 イエスこれのことをかたりゐたまふとき、よ、一人ひとりつかさきたり、はいしてふ『わがむすめいまにたり。れどきたりて御手みてこれにおきたまはばきん』 19 イエス起󠄃ちてかれ伴󠄃ともなたまふに、弟子でしたちもしたがふ。 20 よ、じふ二年にねん血漏ちらうわづらひゐたるをんな、イエスのうしろにきたりて、御衣みころもふさにさはる。 21 それは御衣みころもにだにさはらばすくはれんとこゝろうちにいへるなり。 22 イエスふりかへり、をんなひたまふ『むすめよ、こゝろやすかれ、なんぢ信仰しんかうなんぢをすくへり』をんなこのときよりすくはれたり。 23 かくてイエスつかさいへにいたり、ふえふくものさわ群衆ぐんじゅうとをひたまふ、 24退󠄃しりぞけ、少女せうじょにたるにあらず、ねたるなり』人々ひとびとイエスを嘲笑あざわらふ。 25 群衆ぐんじゅういだされしのち、いりてそのをとりたまへば、少女せうじょおきたり。
 17㌻ 
26 この聲聞きこえあまねくひろまりぬ。

27 イエス此處ここより進󠄃すゝみたまふとき、ふたりの盲人めしひさけびて『ダビデのよ、われらをあはれみたまへ』とひつつしたがふ。 28 イエスいへにいたりたまひしに、盲人めしひども御許みもときたりたれば、これひたまふ『われこのことをなししんずるか』かれいふ『しゅよ、しかり』 29 こゝにイエスかれらのさはりてひたまふ『なんぢらの信仰しんかうのごとくなんぢらにれ』 30 すなはかれらのあきたり。イエスきびしくいましめてひたまふ『つゝしみてたれにもらすな』 31 されどかれでて、あまねくそのにイエスのことをいひひろめたり。

32 盲人めしひどものづるとき、よ、人々ひとびと惡鬼あくきかれたる啞者おふし御許みもとにつれきたる。 33 惡鬼あくきおひいだされて啞者おふしものいひたれば、群衆ぐんじゅうあやしみてふ『かかることいまだイスラエルのうちあらはれざりき』 34 しかるにパリサイびといふ『かれは惡鬼あくきかしらによりて惡鬼あくき逐󠄃いだすなり』

35 イエスあまねまちむらとを巡󠄃めぐり、その會堂くわいだうにてをしへ、御國みくに福音󠄃ふくいんべつたへ、諸般もろもろやまひ、もろもろの疾患わずらひをいやしたまふ。 36 また群衆ぐんじゅうて、そのものなきひつじのごとくなやみ、かつた《[*]》ふるるをいたあはれみ、[*或は「散る」と譯す。] 37 遂󠄅つひ弟子でしたちにひたまふ『收穫かりいれはおほく勞動人はたらきびとはすくなし。 38 このゆゑ收穫かりいれしゅ勞動人はたらきびとをその收穫場かりいれば遣󠄃つかはたまはんことをもとめよ』

第10章

1 かくてイエスその十二じふに弟子でしし、けがれしれいせいする權威けんゐをあたへて、これ逐󠄃いだし、もろもろのやまひ、もろもろの疾患わずらひいやすことをしめたまふ。
〘13㌻〙
 18㌻ 
2 十二じふに使徒しとのごとし。づペテロといふシモンおよびその兄弟きゃうだいアンデレ、ゼベダイのヤコブおよびその兄弟きゃうだいヨハネ、 3 ピリポおよびバルトロマイ、トマスおよ取税人しゅぜいにんマタイ、アルパヨのヤコブおよびタダイ、 4 熱心ねっしんたうのシモンおよびイスカリオテのユダ、このユダはイエスをりしものなり。 5 イエスこの十二じふににん遣󠄃つかはさんとて、めいじてひたまふ。
   『異邦人いはうじん途󠄃みちにゆくな、又󠄂またサマリヤびとまちるな。
6 むしろイスラエルのいへせたるひつじにゆけ。 7 きてべつたへ「天國てんこく近󠄃ちかづけり」とへ。 8 めるものをいやし、にたるものよみがへらせ、癩病人らいびゃうにんをきよめ、惡鬼あくき逐󠄃ひいだせ。あたひなしにけたればあたひなしにあたへよ。 9 おびのなかにきんぎんまたはぜにをもつな。 10 たびふくろも、まい下衣したぎも、くつも、つゑももつな。勞動人はたらきびとの、その食󠄃物しょくもつるは相應ふさはしきなり。 11 いづれのまち、いづれのむらるとも、そのうちにて相應ふさはしきもの尋󠄃たづねいだして、るまでは其處そことゞまれ。 12 ひといへらば平󠄃安へいあんいのれ。 13 そのいへもしこれ相應ふさはしくば、なんぢらのいの平󠄃安へいあんは、そのうへのぞまん。もし相應ふさはしからずば、その平󠄃安へいあんは、なんぢらにかへらん。 14 ひともしなんぢらをけず、なんぢらのことばかずば、そのいへ、そのまちるとき、あしちりをはらへ。 15 まことなんぢらにぐ、審判󠄄さばきには、そのまちよりもソドム、ゴモラののかたやすからん。

16 よ、われなんぢらを遣󠄃つかはすは、ひつじ豺狼おほかみのなかにるるがごとし。このゆゑへびのごとく慧󠄄さとく、鴿はとのごとく素直すなほなれ。 17 人々ひとびとこゝろせよ、それはなんぢらを衆議所󠄃しゅうぎしょわたし、會堂くわいだうにてむちうたん。 18 またなんぢわがゆゑによりて、つかさたちわうたちの前󠄃まへかれん。これはかれらと異邦人いはうじんとにあかしをなさんためなり。
 19㌻ 
19 かれらなんぢらをわたさば、如何いかになにをはんとおもわづらふな、ふべきことは、そのときさづけらるべし。 20 これふものはなんぢにあらず、うちにありてひたまふなんぢらの父󠄃ちちれいなり。 21 兄弟きゃうだい兄弟きゃうだいを、父󠄃ちちわたし、どもはおや逆󠄃さからひてこれなしめん。 22 又󠄂またなんぢらのためにすべてのひと憎にくまれん。されど終󠄃をはりまで忍󠄄しのぶものはすくはるべし。 23 このまちにて、めらるるときは、かのまち逃󠄄のがれよ。まことなんぢらにぐ、なんぢらイスラエルの町々まちまち巡󠄃めぐつくさぬうちにひときたるべし。

24 弟子でしはそのにまさらず、しもべはそのしゅにまさらず、〘14㌻〙 25 弟子でしはそののごとく、しもべはそのしゅごとくならばれり。もし家主いへあるじをベルゼブルとびたらんには、ましてそのいへものをや。 26 このゆゑに、かれらをおそるな。おほはれたるものにあらはれぬはなく、かくれたるものにられぬはければなり。 27 暗󠄃黑くらきにてぐることを光明あかるきにてへ。みゝをあててくことをうへにてべよ。 28 ころして靈魂たましひをころしものどもをおそるな、靈魂たましひとをゲヘナにてほろぼものをおそれよ。 29 すゞめ一錢いっせんにてるにあらずや、しかるになんぢらの父󠄃ちちゆるしなくば、そのいちつることからん。 30 なんぢらのかしらまでもみなかぞへらる。 31 このゆゑにおそるな、なんぢらはおほくのすゞめよりもすぐるるなり。 32 ればおほよひと前󠄃まへにてわれひあらはすものを、われもまたてんにいます父󠄃ちち前󠄃まへにてあらはさん。 33 されどひと前󠄃まへにてわれいなものを、われもまたてんにいます父󠄃ちち前󠄃まへにていなまん。

34 われ平󠄃和へいわとうぜんためにきたれりとおもふな、平󠄃和へいわにあらず、かへつてつるぎとうぜんためきたれり。 35 それきたれるはひとをその父󠄃ちちより、むすめをそのははより、よめをその姑嫜しゅうとめより分󠄃わかたんためなり。
 20㌻ 
36 ひとあたはそのいへものなるべし。 37 われよりも父󠄃ちちまたはははあいするものは、われ相應ふさはしからず。われよりも息子むすこまたはむすめあいするものは、われ相應ふさはしからず。 38 又󠄂またおのが十字架じふじかをとりてわれしたがはぬものは、われ相應ふさはしからず。 39 生命いのちものは、これをうしなひ、がために生命いのちうしなものは、これをべし。

40 なんぢらをくるものは、われくるなり。われをうくるものは、われ遣󠄃つかはたまひしものくるなり。 41 預言者よげんしゃたるゆゑ預言者よげんしゃをうくるものは、預言者よげんしゃむくいをうけ、義人ぎじんたるのゆゑに義人ぎじんをうくるものは、義人ぎじんむくいくべし。 42 おほよそわが弟子でしたるゆゑに、このちひさもの一人ひとりひやゝかなるみづ一杯いっぱいにてもあたふるものは、まことなんぢらにぐ、かならずそのむくいうしなはざるべし』

第11章

1 イエス十二じふに弟子でしめい終󠄃へてのち、町々まちまちにてをしへ、かつ、宣傳のべつたへんとて、此處ここたまへり。

2 ヨハネ牢舍らうやにてキリストの御業みわざをきき、弟子でしたちを遣󠄃つかはして、 3 イエスにはしむ『きたるべきものなんぢなるか、あるひは、ほかつべきか』 4 こたへてひたまふ『ゆきて、なんぢらがきゝする所󠄃ところをヨハネにげよ。 5 盲人めしひ跛者あしなへはあゆみ、癩病人らいびゃうにん潔󠄄きよめられ、聾者みゝしひはきき、死人しにんよみがへらせられ、貧󠄃まづしきもの福音󠄃ふくいんかせらる。〘15㌻〙 6 おほよそわれつまづかぬもの幸福さいはひなり』 7 かれらのかへりたるをり、ヨハネのこと群衆ぐんじゅうでたまふ『なんぢらなにながめんとてでし、かぜにそよぐあしなるか。 8 らばなにんとてでし、やはらかきころもたるひとなるか。よ、やはらかきころもたるものわういへり。
 21㌻ 
9 さらばなにのためにでし、預言者よげんしゃんとてか。しかり、なんぢらにぐ、預言者よげんしゃよりも勝󠄃まさものなり。 10よ、わが使つかひをなんぢのかほ前󠄃まへにつかはす。 かれは、なんぢの前󠄃まへに、なんぢの道󠄃みちをそなへん」としるされたるはひとなり。 11 まことなんぢらにぐ、をんなみたるもののうち、バプテスマのヨハネよりおほいなるもの起󠄃おこらざりき。れど天國てんこくにてちひさものも、かれよりはおほいなり。 12 バプテスマのヨハネのときよりいまいたるまで、天國てんこくはげしくめらる、はげしくむるものは、これをうばふ。 13 すべての預言者よげんしゃ律法おきてとの預言よげんしたるは、ヨハネのときまでなり。 14 もしなんぢわがことばをうけんことをねがはば、きたるべきエリヤはひとなり、 15 みゝあるものくべし。 16 われいまなになずらへん、童子わらべ市場いちばし、ともびて、 17 「われらなんぢのためにふえきたれどなんぢをどらず、なげきたれどなんぢむねうたざりき」とふにたり。 18 それはヨハネきたりて、飮食󠄃のみくひせざれば「惡鬼あくきかれたるものなり」といひ、 19 ひときたりて飮食󠄃のみくひすれば「よ、食󠄃しょくむさぼり、さけこのひと、また取税人しゅぜいにん罪人つみびとともなり」とふなり。されど智慧󠄄ちゑおのが《[*]》わざによりてたゞしとせらる』[*異本「子」とあり。] 20 こゝにイエスおほくの能力ちからあるわざおこなたまへる町々まちまち悔改くいあらためぬによりて、これめはじめたまふ、 21禍害󠄅わざはひなるかな、コラジンよ、禍害󠄅わざはひなるかな、ベツサイダよ、なんぢらのうちにておこなひたる能力ちからあるわざをツロとシドンとにておこなひしならば、かれらははや荒布あらぬの灰󠄃はひなかにて悔改くいあらためしならん。 22 さればなんぢらにぐ、審判󠄄さばきにはツロとシドンとのかたなんぢよりもやすからん。 23 カペナウムよ、なんぢはてんにまでげらるべきか、黄泉よみにまでくだらん。なんぢのうちにておこなひたる能力ちからあるわざをソドムにておこなひしならば、今日けふまでも、かのまち遺󠄃のこりしならん。 24 ればなんぢらにぐ、審判󠄄さばきにはソドムののかたなんぢよりもやすからん』

 22㌻ 
25 そのときイエスこたへてひたまふ『てんしゅなる父󠄃ちちよ、われ感謝かんしゃす、これのことをかしこもの慧󠄄さとものにかくして嬰兒みどりごあらはたまへり。 26 父󠄃ちちよ、しかり、かくごときは御意󠄃みこゝろ適󠄄かなへるなり。 27 すべものわれわが父󠄃ちちよりゆだねられたり。もの父󠄃ちちほかになく、父󠄃ちちをしるものまたはほっするままにあらはすところのものほかになし。〘16㌻〙 28 すべらうするもの重荷おもに負󠄅もの、われにきたれ、われなんぢらをやすません。 29 われ柔和にうわにしてこゝろひくければ、くびき負󠄅ひてわれまなべ、さらば靈魂たましひ休息やすみん。 30 わがくびきやすく、わがかろければなり』

第12章

1 そのころイエス安息あんそくにちむぎはたけをとほりたまひしに、弟子でしたち飢󠄄ゑてみ、食󠄃はじめたるを、 2 パリサイびとてイエスにふ『よ、なんぢの弟子でし安息あんそくにちまじきことをなす』 3 かれらにたまふ『ダビデがその伴󠄃ともなへる人々ひとびととともに飢󠄄ゑしとき、ししことまぬか。 4 すなはかみいへりて、祭司さいしのほかは、おのれもその伴󠄃ともなへる人々ひとびと食󠄃くらふまじきそなへのパンを食󠄃くらへり。 5 また安息あんそくにち祭司さいしらはみやうちにて安息あんそくにちをかせども、つみなきことを律法おきてにてまぬか。 6 われなんぢらにぐ、みやよりおほいなるものここにり。 7 「われ憐憫あはれみこのみて、犧牲いけにへこのまず」とは如何いかなる意󠄃こころかを、なんぢりたらんには、つみなきものつみせざりしならん。 8 それひと安息あんそくにちしゅたるなり』

9 イエス此處ここりて、かれらの會堂くわいだうたまひしに、 10 よ、片手かたてなえたるひとあり。人々ひとびとイエスをうったへんとおもひ、ひていふ『安息あんそくにちひといやすことはきか』 11 かれらにひたまふ『なんぢのうち一匹いっぴきひつじをもてるものあらんに、もし安息あんそくにち穴󠄄あなおちいらば、これりあげぬか。
 23㌻ 
12 ひとひつじよりすぐるること如何いかばかりぞ。さらば安息あんそくにちぜんをなすはし』 13 こゝにかのひとたまふ『なんぢのべよ』かれべたれば、ほかのごとく癒󠄄ゆ。 14 パリサイびといでて如何いかにしてかイエスをほろぼさんとはかる。 15 イエスこれりて此處ここりたまふ。おほくのひと、したがひきたりたれば、ことごとくこれいやし、 16 かつわれひとらすなといましたまへり。 17 これ預言者よげんしゃイザヤによりてはれたることば成就じゃうじゅせんためなり。いはく、 18よ、わが選󠄄えらびたるしもべ、 わがこゝろよろこいつくしむものわれわがれいかれあたへん、 かれ異邦人いはうじん正義せいぎしめさん。 19 かれあらそはず、さけばず、 そのこゑ大路おほじにてものなからん。 20 正義せいぎをして勝󠄃かち遂󠄅げしむるまでは、 そこなへるあしることなく、 けぶれる《[*]》亞麻󠄃あま消󠄃すことなからん。[*或は「燈心」と譯す。]〘17㌻〙 21 異邦人いはうじんかれ望󠄇のぞみをおかん』

22 ここに惡鬼あくきかれたる盲目めしひ啞者おふし御許みもときたりたれば、これいやして啞者おふしものひ、ゆるやうにしたまひぬ。 23 群衆ぐんじゅうみなをどろきてふ『これはダビデのにあらぬか』 24 しかるにパリサイびとききてふ『このひと惡鬼あくきかしらベルゼブルによらでは惡鬼あくき逐󠄃いだすことなし』 25 イエスかれらのおもひりてたまふ『すべて分󠄃わかあらそくにはほろび、分󠄃わかあらそまちまたいへはたたず。 26 サタンもしサタンを逐󠄃いださば、みづか分󠄃わかあらそふなり。らばそのくにいかでつべき。 27 われもしベルゼブルによりて惡鬼あくき逐󠄃いださば、なんぢらのたれによりてこれ逐󠄃いだすか。このゆゑかれらはなんぢらの審判󠄄さばきひととなるべし。 28 れどわれもしかみれいによりて惡鬼あくき逐󠄃いださば、かみくにすでなんぢらにいたれるなり。 29 ひとまづつよものしばらずば、いかでつよものいへりて、その家財かざいうばふことをん、しばりてのちそのいへうばふべし。
 24㌻ 
30 われともならぬものわれにそむき、われとともにあつめぬものちらすなり。 31 このゆゑなんぢらにぐ、ひとすべてのつみけがしとはゆるされん、されど御靈みたまけがすことはゆるされじ。 32 たれにてもことばをもてひと逆󠄃さからものゆるされん、れどことばをもて聖󠄄せいれい逆󠄃さからものは、このにてものちにてもゆるされじ。 33 あるひをもしとし、をもしとせよ。あるひをもしとし、をもしとせよ。によりてらるるなり。 34 まむしすゑよ、なんぢらしきものなるに、いかきことをんや。それこゝろ滿つるよりくちはるるなり。 35 ひとくらよりものをいだし、しきひとしきくらよりしきものをいだす。 36 われなんぢらにぐ、ひとかたすべてのむなしきことばは、審判󠄄さばきたゞさるべし。 37 それはなんぢことばによりてとせられ、なんぢことばによりてつみせらるるなり』

38 こゝ學者がくしゃ・パリサイびとこたへてふ『よ、われらなんぢしるしんことをねがふ』 39 こたへてひたまふ『邪曲よこしまにして不義ふぎなるしるしもとむ、されど預言者よげんしゃヨナのしるしのほかにしるしあたへられじ。 40 すなはち「ヨナが三日みっか三夜みよ大魚おほうをはらなかりし」ごとく、ひと三日みっか三夜みよなかるべきなり。 41 ニネベのひと審判󠄄さばきのときいまひととともにちてこれつみさだめん、かれらはヨナのぶることばによりて悔改くいあらためたり。よ、ヨナよりも勝󠄃まさるもの此處ここり。 42 みなみ女王にょわう審判󠄄さばきのときいまひととともに起󠄃きてこれつみさだめん、かれはソロモンの智慧󠄄ちゑかんとてはてよりきたれり。よ、ソロモンよりも勝󠄃まさものここにり。 43 けがれしれいひとづるときは、みづなきところ巡󠄃めぐりてやすみもとむ、しかしてず。〘18㌻〙 44 すなはち「わがでしいへかへらん」といひ、かへりてそのいへの、空󠄃きてきよめられ、飾󠄃かざられたるを 45 遂󠄅つひきておのれよりしきほかなゝつのれいれきたり、ともりて此處ここ住󠄃む。さればひとのちさま前󠄃まへよりもしくなるなり。邪曲よこしまなるもまたかくごとくならん』

 25㌻ 
46 イエスなほ群衆ぐんじゅうにかたり居給ゐたまふとき、よ、そのはは兄弟きゃうだいたちと、かれものはんとてそとつ。 47 あるひとイエスにふ『よ、なんぢのはは兄弟きゃうだいたちと、なんぢものはんとてそとてり』 48 イエスげしものこたへてひたまふ『わがははとはたれぞ、わが兄弟きゃうだいとはたれぞ』 49 かくをのべ、弟子でしたちをしてひたまふ『よ、これははは、わが兄弟きゃうだいなり。 50 たれにてもてんにいます父󠄃ちち御意󠄃みこゝろをおこなふものは、すなは兄弟きゃうだい、わが姉妹しまい、わがははなり』

第13章

1 そのイエスはいへでて、海邊うみべしたまふ。 2 おほいなる群衆ぐんじゅうみもとにあつまりたれば、イエスはふねりてしたまひ、群衆ぐんじゅうはみなきしてり。 3 たとへにて數多あまたのことをかたりてひたまふ、『よ、たねものまかんとてづ。 4 くときみちかたはらにちしたねあり、とりきたりてついばむ。 5 つちうすき磽地いしぢちしたねあり、つちふかからぬによりて速󠄃すみやかにでたれど、 6 のぼりしときやけてなきゆゑる。 7 いばらちしたねあり、いばらそだちてこれふさぐ。 8 ちしたねあり、あるひひゃくばいあるひ六十ろくじふばいあるひ三十さんじふばいむすべり。 9 みゝある《[*]》ものくべし』[*異本「聽く耳」とあり。]

10 弟子でしたち御許みもときたりてふ『なにゆゑたとへにてかれらにかたたまふか』 11 こたへてたまふ『なんぢらは天國てんこく奧義おくぎることをゆるされたれど、かれらはゆるされず。 12 それたれにても、てるひとあたへられて愈々いよいよゆたかならん。れどたぬひとは、そのてるものをもらるべし。 13 このゆゑかれらにはたとへにてかたる、これかれらはゆれどもず、きこゆれどもかず、またさとらぬゆゑなり、
 26㌻ 
14 かくてイザヤの預言よげんは、かれらのうへ成就じゃうじゅす。いはく、 「なんぢらきてけどもさとらず、 れども認󠄃みとめず。 15 たみこゝろにぶく、 みゝくにものうく、 ぢたればなり。 これにてみゝにてき、 こゝろにてさとり、ひるがへりて、 われいやさるることなからんためなり」〘19㌻〙 16 されどなんぢらの、なんぢらのみゝは、るゆゑにくゆゑに、幸福さいはひなり。 17 まことなんぢらにぐ、おほくの預言者よげんしゃ義人ぎじんは、なんぢらが所󠄃ところんとせしがず、なんぢらが所󠄃ところかんとせしがかざりしなり。 18 ればなんぢたねものたとへけ。 19 たれにても天國てんこくことばをききてさとらぬときは、しきものきたりて、こゝろかれたるものをうばふ。みちかたはらにかれしとはかゝひとなり。 20 磽地いしぢかれしとは、御言みことばをききて、たゞちによろこくれども、 21 おのれなければしばふるのみにて、御言みことばのために艱難なやみあるひは迫󠄃害󠄅はくがい起󠄃おこるときは、たゞちにつまづくものなり。 22 いばらなかかれしとは、御言みことばをきけども、心勞こゝろづかひ財貨たからまどひとに、御言みことばふさがれてみのらぬものなり。 23 かれしとは、御言みことばをききてさとり、むすびて、あるひひゃくばい、あるひは六十ろくじふばい、あるひは三十さんじふばいいたるものなり』

24 またほかたとへしめしてひたまふ『天國てんこくたねはたにまくひとのごとし。 25 人々ひとびとねむれるに、あたきたりてむぎのなかにどくむぎきてりぬ。 26 なへはえでてみのりたるとき、どくむぎもあらはる。 27 しもべどもきたりて家主いへあるじにいふ「しゅよ、はたきしはたねならずや、しかるに如何いかにしてどくむぎあるか」 28 主人しゅじんいふ「あたのなしたるなり」しもべどもふ「さらばわれらがきてこれあつむるをほっするか」 29 主人しゅじんいふ「いなおそらくはどくむぎあつめんとて、むぎをもともかん。
 27㌻ 
30 ふたつながら收穫かりいれまでそだつにまかせよ。收穫かりいれのときわれかるものに「まづどくむぎきあつめて、くためにこれつかね、むぎはあつめてくら納󠄃れよ」とはん」』

31 またほかたとへしめしてひたまふ『天國てんこく一粒ひとつぶ芥種からしだねのごとし、ひとこれをりてそのはたくときは、 32 よろづたねよりもちひさけれど、そだちては、ほか野菜やさいよりもおほきく、となりて空󠄃そらとりきたり、えだ宿やどるほどなり』

33 またほかたとへかたりたまふ『天國てんこくはパンだねのごとし、をんなこれをりて、さんこななかるれば、ことごふくれいだすなり』

34 イエスすべてこれのことを、たとへにて群衆ぐんじゅうかたりたまふ、たとへならでは何事なにごとかたたまはず。 35 これ預言者よげんしゃによりてはれたることば成就じゃうじゅせんためなり。いはく、 『われたとへまうけてくちひらき、 はじめよりかくれたることいださん』
〘20㌻〙
36 こゝ群衆ぐんじゅうらしめて、いへりたまふ。弟子でしたち御許みもときたりてふ『はたどくむぎたとへわれらにきたまへ』 37 こたへてたまふ『たねものひとなり、 38 はた世界せかいなり、たね天國てんこくどもなり、どくむぎしきものどもなり、 39 これきしあた惡魔󠄃あくまなり、收穫かりいれ終󠄃をはりなり、もの御使みつかひたちなり。 40 さればどくむぎあつめられてかるるごとく、終󠄃をはりにもくあるべし。 41 ひと、その使つかひたちを遣󠄃つかはさん。かれ御國みくにうちよりすべての顚躓つまづきとなるもの不法ふほふをなすものとをあつめて、 42 るべし、其處そこにて哀哭なげき切齒はがみすることあらん。 43 のとき義人ぎじんは、父󠄃ちち御國みくににてのごとくかゞやかん。《[*]》みゝあるものくべし。[*異本「聽く耳」とあり。]

44 天國てんこくはたかくれたるたからのごとし。ひと見出みいださばこれかくしおきて、よろこびゆき、てるものをことごとくりてはたふなり。

 28㌻ 
45 また天國てんこく眞珠しんじゅもとむる商人あきうどのごとし。 46 あたひたかき眞珠しんじゅひとつを見出みいださば、きててるものをことごとくりて、これふなり。

47 また天國てんこくうみにおろして、各樣さまざまのものをあつむるあみのごとし。 48 つればきしにひきあげ、してきものをうつはれ、しきものをつるなり。 49 終󠄃をはりにもくあるべし。御使みつかひたちでて、義人ぎじんなかより、惡人あくにん分󠄃わかちて、 50 これるべし。其處そこにて哀哭なげき切齒はがみすることあらん。

51 なんぢこれらのことをみなさとりしか』かれいふ『しかり』 52 またたまふ『このゆゑに、天國てんこくのことををしへられたるすべての學者がくしゃは、あたらしきものふるものとをそのくらよりいだ家主いへあるじのごとし』

53 イエスこれらのたとへ終󠄃へて此處ここりたまふ。 54 おのさとにいたり、會堂くわいだうにてをしたまへば、人々ひとびとおどろきてふ『このひとはこの智慧󠄄ちゑこれ能力ちからとを何處いづこよりしぞ。 55 これ木匠たくみにあらずや、はははマリヤ、兄弟きゃうだいはヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダにあらずや。 56 又󠄂またその姉妹しまいみなわれらとともにをるにあらずや。しかるにこれのすべてのこと何處いづこよりしぞ』 57 遂󠄅つひ人々ひとびとかれにつまづけり。イエスかれらにひたまふ『預言者よげんしゃは、おのがさと、おのがいへほかにて尊󠄅たふとばれざることなし』 58 かれらの信仰しんかうによりて其處そこにてはおほくの能力ちからあるわざたまはざりき。〘21㌻〙

第14章

1 そのころ、國守こくしゅヘロデ、イエスのうはさをききて、 2 侍臣じしんどもにふ『これバプテスマのヨハネなり。かれ死人しにんうちよりよみがへりたり、ればこそこれ能力ちからそのうちはたらくなれ』 3 ヘロデさきおの兄弟きゃうだいピリポのつまヘロデヤのためにヨハネをとらへ、しばりてひとやれたり。
 29㌻ 
4 ヨハネ、ヘロデに『かのをんな納󠄃るるはよろしからず』とひしにる。 5 かくてヘロデ、ヨハネをころさんとおもへど、群衆ぐんじゅうおそれたり。群衆ぐんじゅうヨハネを預言者よげんしゃとすればなり。 6 しかるにヘロデの誕生日たんじゃうびあたり、ヘロデヤのむすめその席上せきじゃうまひをまひてヘロデをよろこばせたれば、 7 ヘロデこれなににてももとむるままにあたへんとちかへり。 8 むすめそのははそゝのかされてふ『バプテスマのヨハネのくび盆󠄃ぼんせてここにたまはれ』 9 わううれひたれど、そのちかひせきものとにたいして、これあたふることをめいじ、 10 ひと遣󠄃つかはひとやにてヨハネのくびり、 11 そのくび盆󠄃ぼんにのせてきたらしめ、これ少女せうじょあたふ。少女せうじょはこれをははさゝぐ。 12 ヨハネの弟子でしたちきたり、屍體しかばねりてはうむり、きて、イエスにぐ。

13 イエスこれきてひと避󠄃け、其處そこよりふねにのりてさびしきところたまひしを、群衆ぐんじゅうききて町々まちまちより徒步かちにてしたがひゆく。 14 イエスでておほいなる群衆ぐんじゅう、これをあはれみて、そのめるものいやたまへり。 15 ゆふべになりたれば、弟子でしたち御許みもときたりてふ『ここはさびしきところ、はやときおそし、群衆ぐんじゅうらしめ、村々むらむらきて、おのため食󠄃物しょくもつはせたまへ』 16 イエスたまふ『かれらくにおよばず、なんぢこれ食󠄃物しょくもつあたへよ』 17 弟子でしたちふ『われらが此處ここにもてるは、ただいつつのパンとふたつのうをとのみ』 18 イエスたまふ『それをわれちきたれ』 19 かく群衆ぐんじゅうめいじて、くさうへせしめ、いつつのパンとふたつのうをとをり、てんあふぎてしくし、パンをきて、弟子でしたちにあたたまへば、弟子でしたちこれ群衆ぐんじゅうあたふ。 20 すべてのひと食󠄃くらひて飽󠄄く、きたるあまりあつめしに十二じふにかご滿ちたり。 21 食󠄃くらひしものは、をんな子供こどもとをのぞきておほよせんにんなりき。

 30㌻ 
22 イエスたゞちに弟子でしたちをひてふねらせ、みづか群衆ぐんじゅうをかへすに、彼方かなたきしさきかしむ。 23 かく群衆ぐんじゅうらしめてのち、いのらんとてひそかやまのぼり、ゆふべになりてひとりそこにゐたまふ。 24 ふねははや《[*]》をかより數丁すうちゃうはなれ、かぜ逆󠄃さからふによりてなみなやまされゐたり。[*異本「海の眞中に在り」と譯す。] 25 夜明よあけ四時よじごろ、イエスうみうへあゆみて、かれらにいたたまひしに、〘22㌻〙 26 弟子でしたちうみうへあゆたまふをこゝろさわぎ、變化へんげものなりとひておそさけぶ。 27 イエスたゞちにかれらにかたりてひたまふ『こゝろやすかれ、われなり、おそるな』 28 ペテロこたへてふ『しゅよ、もしなんぢならばわれめいじ、みづみて、御許みもといたらしめたまへ』 29きたれ』とたまへば、ペテロふねよりり、みづうへあゆみてイエスのもとく。 30 しかるにかぜおそれ、しづみかかりければさけびてふ『しゅよ、われすくひたまへ』 31 イエスたゞちに御手みてべ、これをとらへてたまふ『ああ信仰しんかううすきものよ、なにうたがふか』 32 あひともふねりしとき、かぜやみたり。 33 ふねものどもイエスをはいしてふ『まことになんぢかみなり』

34 遂󠄅つひわたりてゲネサレのきしに、 35 そのところ人々ひとびとイエスを認󠄃みとめて、あまね四方しはうひとをつかはし、又󠄂またすべてのめるものれきたり、 36 ただ御衣みころもふさにだにさはらしめたまはんことをねがふ、さはりしものはみないやされたり。

第15章

1 こゝにパリサイびと學者がくしゃら、エルサレムよりきたりてイエスにふ、 2 『なにゆゑなんぢ弟子でしは、いにしへのひと言傳いひつたへをかすか、食󠄃事しょくじのときにあらはぬなり』 3 こたへてたまふ『なにゆゑなんぢらは、またなんぢらの言傳いひつたへによりてかみ誡命いましめをかすか。 4 すなはかみは「父󠄃ちちははうやまへ」とひ「父󠄃ちちまたはははのゝしものかならころさるべし」とひたまへり。 5 しかるになんぢらは「たれにても父󠄃ちちまたはははむかひて負󠄅所󠄃ところのものは、供物そなへものとなりたりとはば、
 31㌻ 
6 父󠄃ちちまたはははうやまふにおよばず」とふ。くその言傳いひつたへによりてかみことば空󠄃むなしうす。 7 僞善者ぎぜんしゃよ、うべなるかなイザヤはなんぢらにきて預言よげんせり。いはく、 8 「このたみ口唇くちびるにてわれうやまふ、 れどこゝろわれ遠󠄄とほざかる。 9 ただいたづらにわれをがむ。 ひと訓誡いましめをしへとしをしへて」』 10 かく群衆ぐんじゅうせてひたまふ『きてさとれ。 11 くちるものはひとけがさず、れどくちよりづるものは、これひとけがすなり』 12 こゝ弟子でしたち御許みもときたりていふ『御言みことばをききてパリサイびとつまづきたるをたまふか』 13 こたへてたまふ『わがてん父󠄃ちちたまはぬものは、みなかれん。 14 かれらをておけ、盲人めしひ手引てびきする盲人めしひなり、盲人めしひもし盲人めしひ手引てびきせば、二人ふたりとも穴󠄄あなちん』 15 ペテロこたへてふ『そのたとへわれらにたまへ』〘23㌻〙 16 イエスたまふ『なんぢらもいまなほさとりなきか。 17 すべくちるものははらにゆき、遂󠄅つひかはやてらるることさとらぬか。 18 れどくちよりづるものはこゝろよりづ、これひとけがすものなり。 19 それこゝろよりしきおもひいづ、すなは殺人ひとごろし姦淫かんいん淫行いんかう竊盜ぬすみ僞證ぎしょう誹謗そしり 20 これらはひとけがすものなり、れどあらはぬにて食󠄃しょくすることひとけがさず』

21 イエスここをりてツロとシドンとの地方ちはうたまふ。 22 よ、カナンのをんな、そのほとりよりできたり、さけびて『しゅよ、ダビデのよ、われあはれたまへ、わがむすめ惡鬼あくきにつかれていたくるしむ』とふ。 23 されどイエス一言ひとことこたたまはず。弟子でしたちきた請󠄃ひてふ『をんなかへしたまへ、われらのあとよりさけぶなり』 24 こたへてひたまふ『われはイスラエルのいへせたるひつじのほかに遣󠄃つかはされず』 25 をんなきたりはいしてふ『しゅよ、われたすけたまへ』 26 こたへてひたまふ『子供こどものパンをとりて、小狗こいぬあたふるはからず』 27 をんないふ『しかり、しゅよ、小狗こいぬ主人しゅじん食󠄃卓しょくたくよりおつる食󠄃屑たべくず食󠄃くらふなり』
 32㌻ 
28 こゝにイエスこたへてひたまふ『をんなよ、なんぢ信仰しんかうおほいなるかな、ねがひのごとくなんぢになれ』むすめこのときより癒󠄄えたり。

29 イエス此處ここり、ガリラヤの海邊うみべにいたり、しかしてやまのぼり、そこにたまふ。 30 おほいなる群衆ぐんじゅう跛者あしなへ不具󠄄かたは盲人めしひ啞者おふしおよびほかおほくのものきたりて、イエスの足下あしもときたれば、いやたまへり。 31 群衆ぐんじゅうは、啞者おふしものいひ、不具󠄄かたは癒󠄄え、跛者あしなへあゆみ、盲人めしひえたるをこれあやしみ、イスラエルのかみあがめたり。

32 イエス弟子でしたちをしてたまふ『われ群衆ぐんじゅうをあはれむ、すで三日みっかわれとともにをりて食󠄃くらふべきものなし。飢󠄄ゑたるままにてかへらしむるをこのまず、おそらくは途󠄃みちにてつかてん』 33 弟子でしたちふ『このさびしきにて、おほいなる群衆ぐんじゅう飽󠄄かしむべきおほくのパンを、何處いづこよりべき』 34 イエスたまふ『パンいくつあるか』かれらいふ『なゝつ、またちひさうをすこしあり』 35 イエス群衆ぐんじゅうめいじてせしめ、 36 なゝつのパンとうをとをり、しゃしてこれをさき弟子でしたちにあたたまへば、弟子でしたちこれ群衆ぐんじゅうあたふ。 37 すべてのひとくらひて飽󠄄き、きたるあまりひろひしに、なゝつのかご滿ちたり。 38 食󠄃くらひしものは、をんな子供こどもとをのぞきて四千しせんにんなりき。 39 イエス群衆ぐんじゅうをかへし、ふねりてマガダンの地方ちはうたまへり。〘24㌻〙

第16章

1 パリサイびととサドカイびときたりてイエスをこゝろみ、てんよりのしるししめさんことを請󠄃ふ。 2 こたへてひたまふ『ゆふべにはなんぢら「空󠄃そらあかきゆゑに、はれならん」とひ、 3 また朝󠄃あしたには「そらあかくしてくもゆゑに、今日けふ風雨あれならん」とふ。なんぢら空󠄃そら氣色けしき見分󠄃みわくることをりて、ときしるし見分󠄃みわくることあたはぬか。 4 邪曲よこしまにして不義ふぎなるしるしもとむ、れどヨナのしるしほかしるしあたへられじ』かくかれらをはなれてたまひぬ。

 33㌻ 
5 弟子でしたち彼方かなたきしいたりしに、パンをたづさふることをわすれたり。 6 イエスひたまふ『つゝしみてパリサイびととサドカイびととのパンだねこゝろせよ』 7 弟子でしたちたがひに『《[*]》われらはパンをたづさへざりき』とかたふ。[*或は「これはパンを携へざりし故ならん」と譯す。] 8 イエスこれりてたまふ『ああ信仰しんかううすきものよ、なにぞ《[*]》パンきことをかたふか。[*或は「パンなき故ならんと語り合ふか」と譯す。] 9 いまさとらぬか、いつつのパンをせんにん分󠄃わかちて、そのあまり幾籃いくかごひろひ、 10 またなゝつのパンを四千しせんにん分󠄃わかちて、そのあまり幾籃いくかごひろひしかをおぼえぬか。 11 ひしはパンのことにあらぬをなんさとらざる。たゞパリサイびととサドカイびととのパンだねにこゝろせよ』 12 こゝ弟子でしたちイエスのこゝろせよとたまひしは、パンのたねにはあらで、パリサイびととサドカイびととのをしへなることをさとれり。

13 イエス、ピリポ・カイザリヤの地方ちはうにいたり、弟子でしたちにひてひたまふ『人々ひとびとひとたれふか』 14 かれいふ『あるひとはバプテスマのヨハネ、あるひとはエリヤ、あるひとはエレミヤ、また預言者よげんしゃ一人ひとり 15 かれらにひたまふ『なんぢらはわれたれふか』 16 シモン・ペテロこたへてふ『なんぢはキリスト、けるかみなり』 17 イエスこたへてたまふ『バルヨナ・シモン、なんぢ幸福さいはひなり、なんぢこれしめしたるは血肉けつにくにあらず、てんにいます父󠄃ちちなり。 18 われはまたなんぢぐ、なんぢは《[*]》ペテロなり、われこのいはうへ敎會けうくわいてん、黄泉よみもんはこれに勝󠄃たざるべし。[*ペテロとは「磐」の義なり。] 19 われ天國てんこくかぎなんぢあたへん、おほよなんぢにて《[*]》つな所󠄃ところてんにてもつなぎ、にて所󠄃ところてんにてもくなり』[*或は「禁ずる所󠄃は天にても禁じ、地にて許す所󠄃は天にても許さん」と譯す。] 20 こゝにイエスおのがキリストなることたれにもぐなと弟子でしたちをいましたまへり。

 34㌻ 
21 このときよりイエス・キリスト、弟子でしたちに、おのれのエルサレムにきて、長老ちゃうらう祭司長さいしちゃう學者がくしゃらよりおほくの苦難くるしみけ、かつころされ、三日みっかめによみがへるべきことしめはじめたまふ。 22 ペテロ、イエスをかたへにひきいましでてふ『しゅよ、《[*]》しかあらざれ、ことなんぢに起󠄃おこらざるべし』[*原語「汝に憐みあれ」との義なり。]〘25㌻〙 23 イエス振反ふりかへりてペテロにたまふ『サタンよ、うしろ退󠄃しりぞけ、なんぢはわが躓物つまづきなり、なんぢかみのことをおもはず、かへつてひとのことをおもふ』 24 こゝにイエス弟子でしたちにひたまふ『ひともしわれしたがきたらんとおもはば、おのれをすて、おの十字架じふじか負󠄅ひて、われしたがへ。 25 おの生命いのちすくはんとおもものは、これをうしなひ、がために、おの生命いのちをうしなふものは、これべし。 26 ひと全󠄃世界ぜんせかいまうくとも、おの生命いのちそんせば、なにえきあらん、又󠄂またその生命いのちしろなにあたへんや。 27 ひと父󠄃ちち榮光えいくわうをもて、御使みつかひたちとともきたらん。そのときおのおのの行爲おこなひしたがひてむくゆべし。 28 まことなんぢらにぐ、ここにもののうちに、ひとのそのくにをもてきたるをるまでは、あぢはぬものどもあり』

第17章

1 六日むゆかのち、イエス、ペテロ、ヤコブおよびヤコブの兄弟きゃうだいヨハネを率󠄃きつれ、ひと避󠄃けてたかやまのぼりたまふ。 2 かくかれらの前󠄃まへにてそのさまかはり、かほのごとくかゞやき、そのころもひかりのごとくしろくなりぬ。 3 よ、モーセとエリヤとイエスにかたりつつかれらにあらはる。 4 ペテロ差出さしいでてイエスにふ『しゅよ、われらの此處ここるはし。御意󠄃みこゝろならばわれここにつのいほり造󠄃つくり、ひとつをなんぢのため、ひとつをモーセのため、ひとつをエリヤのためにせん』 5 かれなほかたりをるとき、よ、ひかれるくも、かれらをおほふ。またくもよりこゑあり、いはく『これはいつくしむ、わがよろこものなり、なんぢこれけ』
 35㌻ 
6 弟子でしたちこれきてたふし、おそるることはなはだし。 7 イエスそのもとにきたりこれさはりて『起󠄃きよ、おそるな』とたまへば、 8 かれげしに、イエス一人ひとりほかたれえざりき。

9 やまくだるとき、イエスかれらにめいじてひたまふ『ひと死人しにんうちよりよみがへるまでは、たることをたれにもかたるな』 10 弟子でしたちひてふ『さらば、エリヤきたるべしと學者がくしゃらのふはなんぞ』 11 こたへてひたまふ『にエリヤきたりてよろづことをあらためん。 12 われなんぢらにぐ、エリヤはすできたれり。れど人々ひとびとこれをらず、かへつてこゝろのままにあしらへり。かくのごとくひともまた人々ひとびとよりくるしめらるべし』 13 こゝ弟子でしたちバプテスマのヨハネをしてたまひしなるをさとれり。
〘26㌻〙
14 かれら群衆ぐんじゅうもといたりしとき、あるひと御許みもとにきたりひざまづきてふ、 15しゅよ、わがあはれみたまへ。癲癇てんかんにてなやみ、しばしばなかに、しばしばみづなかたふるるなり。 16 これ御弟子みでしたちにきたりしに、いやすことあたはざりき』 17 イエスこたへてたまふ『ああしんなきまがれるなるかな、われいつまでなんぢらとともにをらん、何時いつまでなんぢらを忍󠄄しのばん。そのわれれきたれ』 18 遂󠄅つひにイエスこれをいましたまへば、惡鬼あくきいでてそのこのときより癒󠄄えたり。 19 こゝ弟子でしたちひそかにイエスにきたりてふ『われらはなにゆゑ逐󠄃いだざりしか』 20 かれらにたまふ『なんぢら信仰しんかううすきゆゑなり。まことなんぢらにぐ、もし芥種からしだね一粒ひとつぶほどの信仰しんかうあらば、このやまに「此處ここより彼處かしこうつれ」とふともうつらん、かくなんぢあたはぬことかるべし』 21 [なし]《[*]》[*異本「この類は祈と斷食󠄃とに由らざれば出でぬなり」とあり。]

 36㌻ 
22 かれらガリラヤにつどひをるとき、イエスひたまふ『ひとひとわたされ、 23 人々ひとびとこれころさん、かく三日みっかめによみがへるべし』弟子でしたちいたかなしめり。

24 かれらカペナウムにいたりしとき、納󠄃金をさめきんあつむるものども、ペテロにきたりてふ『なんぢらの納󠄃金をさめきん納󠄃をさめぬか』 25 ペテロ『納󠄃をさむ』とひ、やがいへりしに、逸速󠄃いちはやくイエスたまふ『シモンいかにおもふか、わうたちはぜいまたはみつぎたれよりるか、おのよりか、ほかものよりか』 26 ペテロふ『ほかのものより』イエスたまふ『されば自由じいうなり。 27 されどかれらをつまづかせぬために、うみきてつりをたれ、はじめあがうををとれ、くちをひらかば《[*]》銀貨ぎんくわひとつをん、それをりてわれなんぢとのため納󠄃をさめよ』[*原語「スタテール」]

第18章

1 そのとき弟子でしたち、イエスにきたりてふ『しからば天國てんこくにておほいなるはたれか』 2 イエス幼兒をさなごび、かれらのなかきてたま 3 『まことになんぢらにぐ、もしなんぢひるがへりて幼兒をさなごごとくならずば、天國てんこくるをじ。 4 さればたれにても幼兒をさなごのごとくおのれひくうするものは、これ天國てんこくにておほいなるものなり。 5 またのために、かくのごとき一人ひとり幼兒をさなごくるものは、われくるなり。 6 れどわれしんずるちひさもの一人ひとりつまづかするものは、むしおほいなる碾臼ひきうすくびけられ、うみ深處ふかみしづめられんかたえきなり。 7 この躓物つまづきあるによりて禍害󠄅わざはひなるかな。躓物つまづきかならきたらん、されど躓物つまづききたらするひと禍害󠄅わざはひなるかな。〘27㌻〙 8 もしなんぢ、またはあし、なんぢをつまづかせば、りててよ。不具󠄄かたはまたは蹇跛あしなへにて生命いのちるは、兩手りゃうて兩足りゃうあしありて永遠󠄄とこしへれらるるよりも勝󠄃まさるなり。 9 もしなんぢ、なんぢをつまづかせばきててよ。片眼かためにて生命いのちるは、兩眼りゃうめありてのゲヘナにれらるるよりも勝󠄃まさるなり。
 37㌻ 
10 なんぢつゝしみてちひさもの一人ひとりをもあなどるな。われなんぢらにぐ、かれらの御使みつかひたちはてんにありて、てんにいます父󠄃ちち御顏みかほつねるなり。 11 [なし]《[*]》[*異本「それ人の子の來れるに失せたる者を救はん爲なり」との句あり。] 12 なんぢいかにおもふか、百匹ひゃくひきひつじてるひとあらんに、しその一匹いっぴきまよはば、じふひきやま遺󠄃のこしおき、きて迷󠄃まよへるものを尋󠄃たづねぬか。 13 もしこれ見出みいださば、まことなんぢらにぐ、迷󠄃まよはぬじふひき勝󠄃まさりて一匹いっぴきよろこばん。 14 かくのごとくちひさもの一人ひとりほろぶるは、てんにいますなんぢらの父󠄃ちち御意󠄃みこゝろにあらず。

15 もしなんぢ兄弟きゃうだいつみをかさば、きてただかれとのみ、あひたいしていさめよ。もしかば兄弟きゃうだいたるなり。 16 もしかずば一人ひとり二人ふたり伴󠄃ともなけ、これさん證人しょうにんくちりて、すべてのことたしかめられんためなり。 17 もしかれにもかずば、敎會けうくわいげよ。もし敎會けうくわいにもかずば、これ異邦人いはうじんまたは取税人しゅぜいにんのごときものとすべし。 18 まことなんぢらにぐ、すべてなんぢらがにて《[*]》つな所󠄃ところてんにてもつなぎ、にて所󠄃ところてんにてもくなり。[*或は「禁ずる所󠄃は天にても禁じ、地にて許す所󠄃は天にても許すなり」と譯す。] 19 またまことなんぢらにぐ、もしなんぢのうち二人ふたりなににてももとむることにつきにてこゝろひとつにせば、てんにいます父󠄃ちちこれたまふべし。 20 二三人にさんにんわがによりてあつま所󠄃ところには、われもそのうちるなり』

21 こゝにペテロ御許みもときたりてふ『しゅよ、わが兄弟きゃうだいわれにたいしてつみをかさばいくたびゆるすべきか、七度なゝたびまでか』 22 イエスひたまふ『いなわれ「七度なゞたびまで」とははず「七度なゝたびしちじふばいするまで」とふなり。 23 このゆゑ天國てんこくはその家來けらいどもと計算けいさんをなさんとするわうのごとし。 24 計算けいさんはじめしとき、一萬いちまんタラントの負󠄅債おひめある家來けらいつれきたられしが、 25 つくのかたなかりしかば、主人しゅじん、このものと、そのつますべての所󠄃有もちものとをりてつぐのふことをめいじたるに、
 38㌻ 
26 その家來けらいひれし、はいしてふ「ゆるくしたまへ、さらばことごとくつぐのはん」 27 その家來けらい主人しゅじん、あはれみてこれき、その負󠄅債おひめゆるしたり。 28 しかるに家來けらいいでて、おのれよりひゃくデナリを負󠄅ひたる一人ひとり同僚どうれうにあひ、これをとらへ、のどめてふ「負󠄅債おひめつぐのへ」 29 その同僚どうれうひれし、ねがひて「ゆるくしたまへ、さらばつぐのはん」とへど、 30 うけがはずしてき、その負󠄅債おひめつぐのふまでこれひとやれたり。〘28㌻〙 31 同僚どうれうどもりしこといたかなしみ、きてりしすべてのことをその主人しゅじんぐ。 32 ここに主人しゅじんかれをいだしてふ「しき家來けらいよ、なんぢねがひしによりて、かの負󠄅債おひめをことごとくゆるせり。 33 わがなんぢあはれみしごとくなんぢもまた同僚どうれうあはれむべきにあらずや」 34 くその主人しゅじんいかりて、負󠄅債おひめをことごとくつくのふまでかれ獄卒ごくそつわたせり。 35 もしなんぢおのおのこゝろより兄弟きゃうだいゆるさずば、てん父󠄃ちちまたなんぢらにかくのごとくたまふべし』

第19章

1 イエスこれらのことばかた終󠄃へてガリラヤをり、ヨルダンの彼方かなたなるユダヤの地方ちはうきたたまひしに、 2 おほいなる群衆ぐんじゅうしたがひたれば、此處ここにてかれらをいやたまへり。

3 パリサイびときたり、イエスをこゝろみてふ『なにゆゑにかかはらず、ひとそのつまいだすはきか』 4 こたへてひたまふ『ひと造󠄃つくたまひしもの、元始はじめよりこれをとこをんなとに造󠄃つくり、しかして、 5かゝゆゑひと父󠄃ちちはははなれ、そのつまひて、二人ふたりのもの一體いったいとなるべし」とたまひしをいままぬか。 6 れば、はや二人ふたりにはあらず、一體いったいなり。このゆゑかみあはたまひしものひとこれをはなすべからず』 7 かれらイエスにふ『さらばなにゆゑモーセは離緣狀りえんじゃうあたへていだすことをめいじたるか』 8 かれらにたまふ『モーセはなんぢこゝろ無情󠄃つれなきによりてつまいだすことをゆるしたり。されど元始はじめよりにはあらぬなり。
 39㌻ 
9 われなんぢらにぐ、《[*]》おほよそ淫行いんかうゆゑならでつまをいだし、ほかめともの姦淫かんいんおこなふなり』[*異本に五章三二と同一の句あり。] 10 弟子でしたちイエスにふ『ひともしつまのことにおいかくのごとくば、めとらざるにかず』 11 かれらにひたまふ『すべてのひとこのことばるるにはあらず、たださづけられたるもののみなり。 12 それうまれながらの閹人えんじんあり、ひとられたる閹人えんじんあり、また天國てんこくのためにみづからなりたる閹人えんじんあり、これれうるものるべし』

13 こゝ人々ひとびとイエスのをおきていのたまはんことを望󠄇のぞみて、幼兒をさなごらをきたりしに、弟子でしたちいましめたれば、 14 イエスひたまふ『幼兒をさなごらをゆるせ、われきたるをとゞむな、天國てんこくかくのごときものくになり』 15 かくかれらのうへにおきて此處ここたまへり。

16 よ、あるひとみもとにきたりてふ『よ、われ永遠󠄄とこしへ生命いのちをうるためには如何いかなることすべきか』〘29㌻〙 17 イエスひたまふ『ことにつきてなんわれふか、ものたゞひとりのみ。なんぢもし生命いのちらんとおもはば誡命いましめまもれ』 18 かれいふ『いづれを』イエスひたまふ『「ころすなかれ」「姦淫かんいんするなかれ」「ぬすむなかれ」「僞證ぎしょうつるなかれ」 19父󠄃ちちははとをうやまへ」また「おのれのごとくなんぢとなりあいすべし」』 20 その若者わかものいふ『われみなこれまもれり、なほなにくか』 21 イエスひたまふ『なんぢ全󠄃まったからんとおもはば、きてなんぢ所󠄃有もちものりて貧󠄃まづしきものほどこせ、さらば財寶たからてんん。かつきたりてわれしたがへ』 22 このことばをききて若者わかものかなしみつつりぬ。おほいなる資產しさんてるゆゑなり。

23 イエス弟子でしたちにたまふ『まことになんぢらにぐ、めるもの天國てんこくるはかたし。 24 またなんぢらにぐ、めるものかみくにるよりは、駱駝らくだはりあな通󠄃とほるかたかへつてやすし』 25 弟子でしたちこれをきき、はなはだしくをどろきてふ『さらばたれすくはるることをん』
 40㌻ 
26 イエスかれらにめてたまふ『これはひとあたはねどかみすべてのことをなしるなり』 27 こゝにペテロこたへてふ『よ、われら一切いっさいをすててなんぢしたがへり、ればなにべきか』 28 イエスかれらにたまふ『まことになんぢらにぐ、あらたまりてひとその榮光えいくわう座位くらゐするとき、われしたがへるなんぢもまた十二じふに座位くらゐしてイスラエルの十二じふにやからさばかん。 29 またおほよのためにあるひいへあるひ兄弟きゃうだい、あるひは姉妹しまい、あるひは父󠄃ちちあるひははあるひあるひ田畑たはたつるもの數倍すうばいけ、また永遠󠄄とこしへ生命いのちがん。 30 れどおほくのさきなるものあとに、あとなるものさきになるべし。

第20章

1 天國てんこく勞動人はたらきびと葡萄園ぶだうぞのやとふために、朝󠄃あさはやでたる主人あるじのごとし。 2 一日いちにちいちデナリの約束やくそくをなして、勞動人はたらきびとどもを葡萄園ぶだうぞの遣󠄃つかはす。 3 また九時くじごろでて市場いちば空󠄃むなしくものどもをて、 4 「なんぢらも葡萄園ぶだうぞのけ、相當さうたうのものをあたへん」といへば、かれらもく。 5 十二じふにころ三時さんじころとにまたいでて前󠄃まへのごとくす。 6 ころまたでしに、なほものどものあるをていふ「なにゆゑ終󠄃日ひねもすここに空󠄃むなしくつか」 7 かれらふ「たれもわれらをやとはぬゆゑなり」主人あるじいふ「なんぢらも葡萄園ぶだうぞのけ」 8 ゆふべになりて葡萄園ぶだうぞの主人あるじそのいへつかさふ「勞動人はたらきびとびて、あとものよりはじさきものにまで賃銀ちんぎんをはらへ」 9 かくごろにやとはれしものきたりて、おのおのいちデナリをく。〘30㌻〙 10 さきものきたりて、おほくるならんとおもひしに、これまたおのおのいちデナリをく。 11 けしとき、家主いへあるじにむかひつぶやきてふ、 12 「このあとものどもはわづかいち時間じかんはたらきたるに、なんぢ一日いちにちらうあつさとを忍󠄄しのびたるわれらとひとしく、これ遇󠄃あしらへり」 13 主人あるじこたへて一人ひとりふ「ともよ、われなんぢに不正ふせいをなさず、なんぢわれいちデナリの約束やくそくをせしにあらずや。
 41㌻ 
14 おのものりてけ、このあとものなんぢとひとしくあたふるは、意󠄃こゝろなり。 15 わがもの意󠄃こゝろのままにるはからずや、われよきがゆゑなんぢあしきか」 16 かくのごとくあとなるものさきに、さきなるものあとになるべし』

17 イエス、エルサレムにのぼらんとたまふとき、ひそか十二じふに弟子でし近󠄃ちかづけて、途󠄃みちすがらたまふ、 18よ、われらエルサレムにのぼる、ひと祭司長さいしちゃう學者がくしゃらにわたされん。かれこれさだめ、 19 また嘲弄てうろうし、むちうち、十字架じふじかにつけんため異邦人いはうじんわたさん、かくかれ三日みっかめによみがへるべし』

20 こゝにゼベダイのらのはは、そのらととも御許みもとにきたり、はいして何事なにごともとめんとしたるに、 21 イエスかれひたまふ『なに望󠄇のぞむか』かれふ『この二人ふたりなんぢ御國みくににて一人ひとりなんぢみぎに、一人ひとりひだりせんことをめいたまへ』 22 イエスこたへてたまふ『なんぢらはもとむる所󠄃ところらず、まんとする酒杯さかづきるか』かれらふ『るなり』 23 イエスひたまふ『なんぢらは酒杯さかづきむべし、れどみぎひだりすることは、これわれあたふべきものならず、父󠄃ちちよりそなへられたるひとこそあたへらるるなれ』 24 じふにん弟子でしこれをき、二人ふたり兄弟きゃうだいことによりていきどほる。 25 イエスかれらをびてひたまふ『異邦人いはうじんきみのそのたみつかさどり、おほいなるものたみうへけんることはなんぢらの所󠄃ところなり。 26 なんぢらのうちにてはしからず、なんぢらのうちおほいならんとおもものは、なんぢらの役者えきしゃとなり、 27 かしらたらんとおもものなんぢらのしもべとなるべし。 28 かくのごとくひときたれるもつかへらるるためにあらず、かへつてつかふることをなし、又󠄂またおほくのひと贖償あがなひとしておの生命いのちあたへんためなり』

 42㌻ 
29 かれらエリコをづるとき、おほいなる群衆ぐんじゅうイエスにしたがへり。 30 よ、二人ふたり盲人めしひみちかたはらにしをりしが、イエスの過󠄃たまふことをき、さけびてふ『しゅよ、ダビデのよ、われらをあはれみたまへ』 31 群衆ぐんじゅうかれらをいましめてもださしめんとたれど、愈々いよいよさけびてふ『しゅよ、ダビデのよ、われらをあはれたまへ』〘31㌻〙 32 イエスどまり、かれらをびてたまふ『わがなんぢらになにさんことを望󠄇のぞむか』 33 かれふ『しゅよ、ひらかれんことなり』 34 イエスいたくあはれみてかれらのさはたまへば、たゞちにものることをて、イエスにしたがへり。

第21章

1 かれらエルサレムに近󠄃ちかづき、オリブやまほとりなるベテパゲにいたりしとき、イエス二人ふたり弟子でし遣󠄃つかはさんとしてたまふ、 2むかひむらにゆけ、やがてつなぎたる驢馬ろばのそのとともにるをん、きてわれききたれ。 3 たれかもしなんぢらになにとかはば「しゅようなり」とへ、さらばたゞちにこれ遣󠄃つかはさん』 4 こと起󠄃おこりしは預言者よげんしゃによりてはれたることば成就じゃうじゅせんためなり。いはく、 5 『シオンのむすめげよ、 「よ、なんぢわう、なんぢにきたたまふ。 柔和にうわにして驢馬ろばり、 くびき負󠄅驢馬ろばりて」』 6 弟子でしたちきて、イエスのめいたまへるごとくして、 7 驢馬ろばとそのとをききたり、おのころもをそのうへにおきたれば、イエスこれりたまふ。 8 群衆ぐんじゅうおほくはそのころも途󠄃みちにしき、あるものえだりて途󠄃みちく。 9 かつ前󠄃まへにゆきあとにしたがふ群衆ぐんじゅうよばはりてふ、『ダビデのに《[*]》ホサナ、むべきかな、しゅ御名みなによりてきたもの。いとたかところにてホサナ』[*「救あれ」との義なり。] 10 遂󠄅つひにエルサレムにたまへば、みやここぞりてさわぎちてふ『これはたれなるぞ』 11 群衆ぐんじゅういふ『これガリラヤのナザレよりでたる預言者よげんしゃイエスなり』

12 イエスみやり、そのうちなるすべての賣買うりかひするもの逐󠄃ひいだし、兩替りゃうがへするものだい鴿はともの腰掛こしかけたふしてたまふ、
 43㌻ 
13 『「わがいへいのりいへとなへらるべし」としるされたるになんぢらはこれ强盜がうたうとなす』 14 みやにて盲人めしひ跛者あしなへども御許みもときたりたれば、これいやしたまへり。 15 祭司長さいしちゃう學者がくしゃらイエスのたまへる不思議ふしぎなるわざみやにてよばはり『ダビデのにホサナ』とひをるどもとをいきどほりて、 16 イエスにふ『なんぢかれらのふところをくか』イエスたまふ『しかり「嬰兒みどりご乳󠄃兒ちのみごくち讃美さんびそなたまへり」とあるをいままぬか』 17 遂󠄅つひかれらをはなれ、みやこでてベタニヤにゆき、其處そこ宿やどたまふ。

18 朝󠄃あさはやく、みやこにかへるときイエス飢󠄄ゑたまふ。 19 みちかたへなるひともとの無花果いちぢくて、そのもといたたまひしに、のほかになにをも見出みいださず、これむかひて『いまよりのちいつまでもむすばざれ』とたまへば、無花果いちぢくたちどころにれたり。〘32㌻〙 20 弟子でしたちこれあやしみてふ、『無花果いちぢく立刻たちどころれたるはなんぞや』 21 イエスこたへてたまふ『まことになんぢらにぐ、もしなんぢ信仰しんかうありてうたがはずば、たゞ無花果いちぢくにありしごときことをるのみならず、やまに「うつりてうみれ」とふともまたるべし。 22 かついのりのときなににてもしんじてもとめば、ことごとくべし』

23 みやいたりてをしたまふとき、祭司長さいしちゃうたみ長老ちゃうらう御許みもときたりてふ『なに權威けんゐをもてこれことをなすか、がこの權威けんゐさづけしか』 24 イエスこたへてひたまふ『われ一言ひとことなんぢらにはん、もしそれげなば、われもまたなに權威けんゐをもてこれのことをすかをげん。 25 ヨハネのバプテスマは何處いづこよりぞ、てんよりか、ひとよりか』かれらたがひろんじてふ『もしてんよりとはば「なにゆゑかれをしんぜざりし」とはん。 26 もしひとよりとはんか、ひとみなヨハネを預言者よげんしゃ認󠄃みとむれば、われらは群衆ぐんじゅうおそる』
 44㌻ 
27 遂󠄅つひこたへて『らず』とへり。イエスもまたひたまふ『われなに權威けんゐをもてこれのことをすかなんぢらにげじ。 28 なんぢら如何いかおもふか、あるひとふたりのありしが、そのあににゆきてふ「よ、今日けふ葡萄園ぶだうぞのきてはたらけ」 29 こたへて「しゅよ、われゆかん」とひて終󠄃つひかず。 30 またおとうとにゆきておなじやうにひしに、こたへて「かじ」とひたれど、のちくいてきたり。 31 この二人ふたりのうちいづれ父󠄃ちち意󠄃こゝろしし』かれらいふ『のちものなり』イエスたまふ『まことになんぢらにぐ、取税人しゅぜいにん遊󠄃女あそびめとはなんぢらにさきだちてかみくにるなり。 32 それヨハネ道󠄃みちをもてきたりしに、なんぢらはかれしんぜず、取税人しゅぜいにん遊󠄃女あそびめとはしんじたり。しかるになんぢらはこれのちもなほ悔改くいあらためずしてしんぜざりき。

33 またひとつのたとへけ、ある家主いへあるじ葡萄園ぶだうぞのをつくりてまがきをめぐらし、なか酒槽さかぶねり、やぐらて、農夫のうふどもにして遠󠄄とほ旅立たびだちせり。 34 果期みのりどきちかづきたれば、そのらんとてしもべらを農夫のうふどものもと遣󠄃つかはししに、 35 農夫のうふどもそのしもべらをとらへて一人ひとりちたたき、一人ひとりをころし、一人ひとりいしにててり。 36 またほかのしもべらを前󠄃まへよりもおほ遣󠄃つかはししに、これをもおなじやうに遇󠄃あしらへり。 37 「わがうやまふならん」とひて、遂󠄅つひにその遣󠄃つかはししに、 38 農夫のうふどもたがひふ「これは世嗣よつぎなり、いざころして、その嗣業しげふらん」 39 かくこれをとらへ葡萄園ぶだうぞのそと逐󠄃いだしてころせり。〘33㌻〙 40 さらば葡萄園ぶだうぞの主人あるじきたるとき、この農夫のうふどもになにさんか』 41 かれらふ『その惡人あくにんどもを飽󠄄くまでほろぼし、果期みのりどきにおよびて納󠄃をさむるほか農夫のうふどもに葡萄園ぶだうぞのあたふべし』 42 イエスひたまふ『聖󠄄書せいしょに、 「造󠄃家者いへつくりらのてたるいしは、 これぞすみ首石おやいしとなれる、 これしゅによりてれるにて、 われらのにはくすしきなり」とあるをなんぢいままぬか。
 45㌻ 
43 このゆゑなんぢらにぐ、なんぢらはかみくにをとられ、むす國人くにびとは、これあたへらるべし。 44 このいしうへたふるるものはくだけ、又󠄂またこのいしひとのうへにたふるれば、ひと微塵みじんとせん』 45 祭司長さいしちゃう・パリサイびとら、イエスのたとへをきき、おのれらをしてかたたまへるをさとり、 46 イエスをとらへんとおもへど群衆ぐんじゅうおそれたり、群衆ぐんじゅうかれを預言者よげんしゃとするにる。

第22章

1 イエスまたたとへをもてこたへてたま 2天國てんこくおののために婚筵こんえんまうくるわうのごとし。 3 婚筵こんえんまねきおきたる人々ひとびと迎󠄃むかへんとてしもべどもを遺󠄃つかはししに、きたるをうけがはず。 4 またほかのしもべどもを遣󠄃つかはすとてふ「まねきたる人々ひとびとげよ、よ、晝餐󠄃ひるげすでそなはりたり。うしえたるけものほふられて、すべてのものそなはりたれば、婚筵こんえんきたれと」 5 しかるに人々ひとびと顧󠄃かへりみずして、あるものおのはたに、あるものおの商賣あきなひけり。 6 またほかものしもべどもをとらへて、はづかしめ、かつころしたれば、 7 わういかりて軍勢ぐんぜい遣󠄃つかはし、かの兇行者きゃうかうしゃほろぼして、まちきたり。 8 かくしもべどもにふ「婚筵こんえんすでそなはりたれど、まねきたるものどもは相應ふさはしからず。 9 ればなんぢちまたきて遇󠄃ふほどのもの婚筵こんえんまねけ」 10 しもべども途󠄃みちでてきもしきも遇󠄃ふほどのものをみなあつめたれば、婚禮こんれいせききゃくにて滿てり。 11 わうきゃくんとてきたり、一人ひとり禮服󠄃れいふくけぬものあるをて、 12 これふ「ともよ、如何いかなれば禮服󠄃れいふくけずして此處ここりたるか」かれもだしゐたり。 13 ここにわう侍者じしゃらにふ「そのあししばりてそと暗󠄃黑くらきげいだせ、其處そこにて哀哭なげき切齒はがみすることあらん」 14 それまねかるるものおほかれど、選󠄄えらばるるものすくなし』

15 こゝにパリサイびとでて如何いかにしてかイエスをことばわなけんとあひはかり、 16 その弟子でしらをヘロデたうものどもととも遺󠄃のこしてはしむ『よ、われらはる、なんぢはまことにして、まことをもてかみ道󠄃みちをしへ、かつたれをもはゞかりたまふことなし、ひと外貌うはべたまはぬゆゑなり。〘34㌻〙
 46㌻ 
17 さればわれらにげたまへ、みつぎをカイザルに納󠄃をさむるはきか、しきか、如何いかおもひたまふ』 18 イエスその邪曲よこしまなるをりてひたまふ『僞善者ぎぜんしゃよ、なんぞわれこゝろむるか。 19 みつぎかねわれせよ』かれらデナリひとつをきたる。 20 イエスたまふ『これはたれかたち、たれのしるしなるか』 21 かれふ『カイザルのなり』ここにかれらにたまふ『さらばカイザルのものはカイザルに、かみものかみ納󠄃をさめよ』 22 かれこれきてあやしみ、イエスをはなれてけり。

23 復活よみがへりなしといふサドカイびとら、その、みもとにきたひて 24よ、モーセは「ひともしなくしてなば、兄弟きゃうだいかれのつまめとりて兄弟きゃうだいのために世嗣よつぎぐべし」とへり。 25 われらのうち七人しちにん兄弟きゃうだいありしが、あにめとりてに、世嗣よつぎなくしてつまおとうと遺󠄃のこしたり。 26 その、そのさんより、そのしちまでみなかくのごとし、 27 最後いやはてにそのをんなにたり。 28 されば復活よみがへりときそのをんな七人しちにんのうちたれつまたるべきか、かれみなこれをつまとしたればなり』 29 イエスこたへてたまふ『なんぢら聖󠄄書せいしょをもかみ能力ちからをもらぬゆゑあやまれり。 30 それひとよみがへりのときめとらず、とつがず、てん御使みつかひたちのごとし。 31 死人しにん復活よみがへりきてはかみなんぢらにげて、 32われはアブラハムのかみ、イサクのかみ、ヤコブのかみなり」とたまへることをいままぬか。かみにたるものかみにあらず、けるものかみなり』 33 群衆ぐんじゅうこれをきてをしへをどろけり。

34 パリサイびとら、イエスのサドカイびとらをもださしめたまひしことをきてあひあつまり、 35 そのうちなる一人ひとり敎法師けうはふし、イエスをこゝろむるため
 47㌻ 
36よ、律法おきてのうちいづれ誡命いましめおほいなる』 37 イエスたまふ『「なんぢこゝろつくし、精神せいしんつくし、おもひつくしてしゅなるなんぢかみあいすべし」 38 これはおほいにして第一だいいち誡命いましめなり。 39 第二だいにもまたこれにひとし「おのれのごとく、なんぢのとなりあいすべし」 40 律法おきて全󠄃體ぜんたい預言者よげんしゃとはふたつの誡命いましめるなり』

41 パリサイびとらのあつまりたるとき、イエスかれらにひてたま 42 『なんぢらはキリストにきて如何いかおもふか、たれなるか』かれらふ『ダビデのなり』 43 イエスたまふ『さらばダビデ御靈みたまかんじてなにゆゑかれをしゅとなふるか。いは 44しゅ、わがしゅたまふ、 われなんぢてきなんぢあししたくまでは、 みぎせよ」 45 くダビデかれしゅとなふれば、いかでそのならんや』〘35㌻〙 46 たれ一言ひとことだにこたふることあたはず、そのよりあへまたイエスにものなかりき。

第23章

1 こゝにイエス群衆ぐんじゅう弟子でしたちとにかたりてたまふ、 2學者がくしゃとパリサイびととはモーセのむ。 3 さればすべてその所󠄃ところは、まもりておこなへ、されど、その所󠄃作しわざにはならふな、かれらはふのみにておこなはぬなり。 4 またおもくゝりてひとかたにのせ、おのれゆびにてこれうごかさんともせず。 5 すべてその所󠄃作しわざひとられんためにするなり。すなはちその經札きゃうふだはゞひろくし、ころもふさおほきくし、 6 饗宴ふるまひ上席じゃうせき會堂くわいだう上座じゃうざ 7 市場いちばにての敬禮けいれい、またひとにラビとばるることをこのむ。 8 されどなんぢらはラビのとなへくな、なんぢらの一人ひとりにして、なんぢはみな兄弟きゃうだいなり。 9 にあるもの父󠄃ちちぶな、なんぢらの父󠄃ちち一人ひとり、すなはちてんいまものなり。 10 また導󠄃師だうしとなへくな、なんぢらの導󠄃師だうしはひとり、すなはちキリストなり。
 48㌻ 
11 なんぢのうちおほいなるものは、なんぢらの役者えきしゃとならん。 12 おほよそおのれをたかうするものひくうせられ、おのれひくうするものたかうせらるるなり。

13 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイびとよ、なんぢらはひと前󠄃まへ天國てんこくとざして、みづからず、らんとするひとるをもゆるさぬなり。 14 [なし]《[*]》[*異本にマルコ傳十二章一四ルカ傳二十章四七とほぼ同じ句あり。] 15 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイびとよ、なんぢらは一人ひとり改宗者かいしゅうしゃんためにうみをかめぐり、すでれば、これおのればいしたる《[*]》ゲヘナのとなすなり。[*譯して「地獄の子」とす。]

16 禍害󠄅わざはひなるかな、盲目めしひなる手引てびきよ、なんぢらはふ「ひともしみやしてちかはばことなし、みや黄金こがねしてちかはばはたさざるべからず」と。 17 おろかにして盲目めしひなるものよ、黄金こがね黄金こがね聖󠄄せいならしむるみやとはいづれたふとき。 18 なんぢら又󠄂またいふ「ひともし祭壇さいだんしてちかはばことなし、うへ供物そなへものしてちかはばはたさざるべからず」と。 19 盲目めしひなるものよ、供物そなへもの供物そなへもの聖󠄄せいならしむる祭壇さいだんとはいづれたふとき。 20 されば祭壇さいだんしてちかものは、祭壇さいだんとそのうへすべてのものとをしてちかふなり。 21 みやしてちかものは、みやとそのうち住󠄃みたまふものとをしてちかふなり。 22 またてんしてちかものは、かみ御座みくらとそのうへしたまふものとをしてちかふなり。

23 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイびとよ、なんぢらは薄荷はくか蒔蘿いのんど・クミンの十分󠄃じふぶんいち納󠄃をさめて、律法おきてうちにてもっとおも公平󠄃こうへい憐憫あはれみ忠信ちうしんとを等閑なほざりにす。れどこれおこなふべきものなり、しかしてかれもまた等閑なほざりにすべきものならず。 24 盲目めしひなる手引てびきよ、なんぢらはぶよいだして駱駝らくだむなり。
〘36㌻〙
25 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイびとよ、なんぢらは酒杯さかづきさらとのそと潔󠄄きよくす、されどうち貪慾どんよく放縱はうじゅうとにて滿つるなり。
 49㌻ 
26 盲目めしひなるパリサイびとよ、なんぢまづ酒杯さかづきうち潔󠄄きよめよ、らばそと潔󠄄きよくなるべし。

27 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイびとよ、なんぢらはしろりたるはかたり、そとうつくしくゆれどもうち死人しにんほねとさまざまのけがれとにて滿つ。 28 かくのごとくなんぢらもそとひとたゞしくゆれども、うち僞善ぎぜん不法ふほふとにて滿つるなり。

29 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイびとよ、なんぢらは預言者よげんしゃはかをたて、義人ぎじん飾󠄃かざりてふ、 30われらもし先祖せんぞときにありしならば、預言者よげんしゃながすことにくみせざりしものを」と。 31 かくなんぢらは預言者よげんしゃころししものたるをみづかあかしす。 32 なんぢらおの先祖せんぞ桝目ますめみたせ。 33 へびよ、まむしすゑよ、なんぢらいかでゲヘナの刑罰けいばつ避󠄃んや。 34 このゆゑよ、われなんぢらに預言者よげんしゃ智者ちしゃ學者がくしゃらを遣󠄃つかはさんに、うちあるものころし、十字架じふじかにつけ、あるものなんぢらの會堂くわいだうにてむちうち、まちよりまち逐󠄃くるしめん。 35 これによりて義人ぎじんアベルのより、聖󠄄所󠄃せいじょ祭壇さいだんとのあひだにてなんぢらがころししバラキヤのザカリヤのいたるまで、地上ちじゃうにてながしたるたゞしきは、みななんぢらにむくきたらん。 36 まことなんぢらにぐ、これらのことはみないまむくきたるべし。

37 ああエルサレム、エルサレム、預言者よげんしゃたちをころし、遣󠄃つかはされたる人々ひとびといしにてものよ、牝鷄めんどりのそのひなつばさしたあつむるごとく、われなんぢのどもをあつめんとしこと幾度いくたびぞや、れどなんぢらはこのまざりき。 38 よ、なんぢらのいへてられてなんぢらに遺󠄃のこらん。 39 われなんぢらにぐ「むべきかな、しゅによりてきたもの」と、なんぢのいふときいたるまでは、いまよりわれざるべし』
 50㌻ 

第24章

1 イエスみやでてゆきたまふとき、弟子でしたちみや建造󠄃物たてものしめさんとて御許みもときたりしに、 2 こたへてたまふ『なんぢら一切すべてものぬか。まことなんぢらにぐ、此處ここひとつのいし崩󠄃くづされずしてはいしうへ遺󠄃のこらじ』

3 オリブやまたまひしとき、弟子でしたちひそか御許みもときたりてふ『われらにたまへ、これらのこと何時いつあるか、又󠄂またなんぢのきたたまふと終󠄃をはりとには、なにしるしあるか』〘37㌻〙 4 イエスこたへてたまふ『なんぢらひとまどはされぬやうにこゝろせよ。 5 おほくのものわがをかきたり「われはキリストなり」とひておほくのひとまどはさん。 6 又󠄂またなんぢら戰爭いくさ戰爭いくさうはさとをかん、つゝしみておそるな。かゝことはあるべきなり、れどいま終󠄃をはりにはあらず。 7 すなはち「たみたみに、くにくに逆󠄃さからひて起󠄃たん」また處々ところどころ饑饉ききん地震ぢしんとあらん、 8 これはみなうみ苦難くるしみはじめなり。 9 そのとき人々ひとびとなんぢらを患難なやみわたし、またころさん、なんぢわがために、もろもろの國人くにびと憎にくまれん。 10 そのときおほくのひとつまづき、かつたがひにわたし、たがひ憎にくまん。 11 おほくのにせ預言者よげんしゃおこりておほくのひとまどはさん。 12 また不法ふほふすによりておほくのひとあいひやゝかにならん。 13 れど終󠄃をはりまでへしのぶものすくはるべし。 14 御國みくにのこの福音󠄃ふくいんは、もろもろの國人くにびとあかしをなさんため全󠄃世界ぜんせかい宣傅のべつたへられん、しかしてのち終󠄃をはりいたるべし。

15 なんぢら預言者よげんしゃダニエルによりてはれたる「あらにくむべきもの」の聖󠄄せいなるところつをば(ものさとれ) 16 そのときユダヤにものどもはやまのがれよ。 17 うへものはそのいへものいださんとしてくだるな。 18 はたにをるもの上衣うはぎらんとてかへるな。 19 そのにはみごもりたるもの乳󠄃ちゝまするものとは禍害󠄅わざはひなるかな。 20 なんぢらのぐることのふゆまたは安息あんそくにち起󠄃おこらぬようにいのれ。
 51㌻ 
21 そのときおほいなる患難なやみあらん、はじめよりいまいたるまでかゝ患難なやみはなく、またのちにもからん。 22 そのもしすくなくせられずば、一人ひとりだにすくはるるものなからん、されど選󠄄民せんみんためにそのすくなくせらるべし。 23 そのときあるひは「よ、キリスト此處ここにあり」あるひは「此處ここにあり」とものありともしんずな。 24 にせキリスト・にせ預言者よげんしゃおこりておほいなるしるし不思議ふしぎとをあらはし、べくば選󠄄民せんみんをもまどはさんとるなり。 25 よ、あらかじめこれなんぢらにげおくなり。 26 さればひともしなんぢらに「よ、かれ荒野あらのにあり」といふともくな「よ、かれ部屋へやにあり」とふともしんずな。 27 電光いなづまひがしよりでて西にしにまでひらめきわたるごとく、ひときたるもまたしからん。 28 それ死骸しがいのあるところには《[*]》わしあつまらん。[*或は「兀鷹」と譯す。]

29 これらの患難なやみののちたゞちに暗󠄃くらく、つきひかりはなたず、ほし空󠄃そらよりち、てん萬象ばんしゃう、ふるひうごかん。 30 そのときひとしるしてんあらはれん。そのとき地上ちじゃう諸族しょぞくみななげき、かつひと能力ちからおほいなる榮光えいくわうとをもててんくもきたるをん。 31 またかれ使つかひたちをおほいなるラッパのこゑとともに遣󠄃つかはさん。使つかひたちはてんはてよりはてまで四方しはうより選󠄄民せんみんあつめん。
〘38㌻〙
32 無花果いちぢくよりのたとへをまなべ、そのえだすでにやはらかくなりてぐめば、なつ近󠄃ちかきをる。 33 かくのごとくなんぢらもこれのすべてのことば《[*]》ひとすでに近󠄃ちかづきて門邊かどべいたるをれ。[*或は「時」と譯す。] 34 まことなんぢらにぐ、これらのことことごとくるまで、いま過󠄃くまじ。 35 てん過󠄃ぎゆかん、れどことば過󠄃くことなし。 36 そのそのときものなし、てん使つかひたちもらず《[*]》らず、ただ父󠄃ちちのみたまふ。[*異本「子も知らず」の句なし。]
 52㌻ 
37 ノアのときのごとくひときたるもしかあるべし。 38 かつ洪水こうずゐ前󠄃まへノア方舟はこぶねまでは、人々ひとびと食󠄃ひ、めととつがせなどし、 39 洪水こうずゐきたりてことごとくほろぼすまではらざりき、ひときたるもしかあるべし。 40 そのときふたりのをとこはたにをらんに、一人ひとりられ、一人ひとり遺󠄃のこされん。 41 二人ふたりをんなうすきをらんに、一人ひとりられ、一人ひとり遺󠄃のこされん。 42 さればさましをれ、なんぢらのしゅのきたるは、いづれのなるかをらざればなり。 43 なんぢこれをれ、家主いへあるじもし盜人ぬすびといづれのとききたるかをらば、をさまして、そのいへ穿うがたすまじ。 44 このゆゑなんぢらもそなへをれ、ひとおもはぬとききたればなり。 45 主人しゅじんときおよびて食󠄃物しょくもつあたへさするために、いへもののうへにてたる忠實まめやかにして慧󠄄さとしもべたれなるか。 46 主人しゅじんのきたるときかくるをらるるしもべ幸福さいはひなり。 47 まことなんぢらにぐ、主人しゅじんすべての所󠄃有もちものかれつかさどらすべし。 48 しそのしもべしくしてこゝろのうちに主人しゅじんおそしとおもひて、 49 その同輩どうはいたゝきはじめ、酒徒さけのみらと飮食󠄃のみくひともにせば、 50 そのしもべ主人しゅじんおもはぬしらぬとききたりて、 51 これを《[*]》はげしくしもとうち、そのむくい僞善者ぎぜんしゃおなじうせん。其處そこにて哀哭なげき切齒はがみすることあらん。[*或は「挽き斬り」と譯す。]

第25章

1 このとき天國てんこく燈火ともしびりて、新郎はなむこ迎󠄃むかへにづるじふにん處女をとめなずらふべし。 2 そのうちにんおろかにしてにん慧󠄄さとし。 3 おろかなるもの燈火ともしびをとりてあぶらたづさへず、 4 慧󠄄さときものはあぶらうつはれて燈火ともしびとともにたづさへたり。 5 新郎はなむこおそかりしかば、みなまどろみてぬ。 6 夜半󠄃よなかに「やよ、新郎はなむこなるぞ、迎󠄃むかへよ」とよばはるこゑす。 7 ここに處女をとめみな起󠄃きてその燈火ともしびとゝのへたるに、 8 おろかなるもの慧󠄄さときものにふ「なんぢらのあぶら分󠄃けあたへよ、われらの燈火ともしびきゆるなり」〘39㌻〙
 53㌻ 
9 慧󠄄さときものこたへてふ「おそらくはわれらとなんぢらとにるまじ、むしるものにきておのがためにへ」 10 かれはんとてきたる新郎はなむこきたりたれば、そなへをりしものどもはかれとともに婚筵こんえんにいり、しかしてもんとざされたり。 11 そののちかのほか處女をとめどもきたりて「しゅよ、しゅよ、われらのためにひらきたまへ」とひしに、 12 こたへて「まことになんぢらにぐ、われなんぢらをらず」とへり。 13 さればさましをれ、なんぢらはそのときらざるなり。

14 またあるひととほく旅立たびだちせんとしてしもべどもをび、これおの所󠄃有もちものあづくるがごとし。 15 各人おのおの能力ちからおうじてあるものにはタラント、あるものにはタラント、あるものにはいちタラントをあたきて旅立たびだちせり。 16 タラントをけしものは、たゞちにき、これをはたらかせてほかタラントをまうけ、 17 タラントをけしものおなじくほかタラントをまうく。 18 しかるにいちタラントをけしものは、きてり、その主人しゅじんかねをかくしけり。 19 ひさしうしてのちこのしもべどもの主人しゅじんきたりて、かれらと計算けいさんしたるに、 20 タラントをけしものほかタラントをちきたりてふ「しゅよ、なんぢわれタラントをあづけたりしが、よ、ほかタラントをまうけたり」 21 主人しゅじんいふ「いかな、ぜんかつちゅうなるしもべ、なんぢはわづかなるものちゅうなりき。われなんぢにおほくのものつかさどらせん、なんぢ主人しゅじん勸喜よろこびれ」 22 タラントをけしものきたりてふ「しゅよ、なんぢわれタラントをあづけたりしが、よ、ほかタラントをまうけたり」 23 主人しゅじんいふ「いかな、ぜんかつちゅうなるしもべ、なんぢはわづかなるものちゅうなりき。われなんぢにおほくのものつかさどらせん、なんぢ主人しゅじん勸喜よろこびにいれ」
 54㌻ 
24 またいちタラントをけしものもきたりてふ「しゅよ、われはなんぢのきびしきひとにて、かぬところよりり、らさぬところよりあつむることをるゆゑに、 25 おそれてゆき、なんぢのタラントをかくしおけり。よ、なんぢはなんぢのものたり」 26 主人しゅじんこたへてふ「しく、かつおこたれるしもべ、わがかぬところよりり、ちらさぬところよりあつむることをるか。 27 さらばかね銀行ぎんかうにあづけくべかりしなり、われきたりて利子りしとともにものをうけりしものを。 28 ればかれのタラントをりてじふタラントをてるひとあたへよ。 29 すべててるひとは、あたへられて愈々いよいよゆたかならん。れどたぬものは、そのてるものをもらるべし。 30 しかしてえきなるしもべそと暗󠄃黑くらき逐󠄃ひいだせ、其處そこにて哀哭なげき切齒はがみすることあらん」
〘40㌻〙
31 ひとその榮光えいくわうをもて、もろもろの御使みつかひ率󠄃ひきゐきたるとき、その榮光えいくわう座位くらゐせん。 32 かくて、その前󠄃まへにもろもろの國人くにびとあつめられん、これわかつこと牧羊者ひつじかいひつじ山羊やぎとをわかごとくして、 33 ひつじをそのみぎに、山羊やぎをそのひだりにおかん。 34 こゝわうそのみぎにをるものどもにはん「わが父󠄃ちちしくせられたるものよ、きたりてはじめよりなんぢのためにそなへられたるくにげ。 35 なんぢら飢󠄄ゑしときに食󠄃くらはせ、かわきしときにませ、旅人たびびとなりしとき宿やどらせ、 36 はだかなりしときにせ、みしときにとぶらひ、ひとやりしときにきたりたればなり」 37 こゝたゞしきものこたへてはん「しゅよ、何時いつなんぢの飢󠄄ゑしを食󠄃くらはせ、かわきしをませし。 38 何時いつなんぢの旅人たびびとなりしを宿やどらせ、はだかなりしをせし。 39 何時いつなんぢのみ、またひとやりしをて、なんぢにいたりし」 40 わうこたへてはん「まことになんぢらにぐ、わが兄弟きゃうだいなるこれのいとちひさもの一人ひとりになしたるは、すなはわれしたるなり」 41 かくてまたひだりにをるものどもにはん「のろはれたるものよ、われはなれて惡魔󠄃あくまとその使つかひらとのためにそなへられたる永遠󠄄とこしへれ。
 55㌻ 
42 なんぢら飢󠄄ゑしときに食󠄃くらはせず、かわきしときにませず、 43 旅人たびびとなりしときに宿やどらせず、はだかなりしときにせず、みまたひとやにありしときにとぶらはざればなり」 44 こゝかれらもこたへてはん「しゅよ、いつなんぢ飢󠄄ゑ、あるひかわき、あるひ旅人たびびと、あるひははだか、あるひはみ、あるひひとやりしをつかへざりし」 45 ここにわうこたへてはん「まことになんぢらにぐ、これのいとちひさきものの一人ひとりさざりしは、すなはわれになさざりしなり」と。 46 かくて、これらのものりて永遠󠄄とこしへ刑罰けいばつにいり、たゞしきもの永遠󠄄とこしへ生命いのちらん』

第26章

1 イエスこれらのことをみなかたりをへて、弟子でしたちにたま 2 『なんぢらのるごとく、二日ふつかのち過󠄃越すぎこしまつりなり、ひと十字架じふじかにつけられんためらるべし』 3 そのとき祭司長さいしちゃうたみ長老ちゃうらうら、カヤパといふだい祭司さいし中庭なかにはあつまり、 4 詭計たばかりをもてイエスをとらへ、かつころさんとあひはかりたれど、 5 又󠄂またいふ『まつりのあひだすべからず、おそらくはたみうちらん起󠄃おこらん』

6 イエス、ベタニヤにて癩病人らいびゃうにんシモンのいへ居給ゐたまとき 7 あるをんな石膏せきかうつぼりたるたふとにほひあぶらちて、近󠄃ちかづききた食󠄃事しょくじせき居給ゐたまふイエスのかうべそゝげり。〘41㌻〙 8 弟子でしたちこれいきどほりふ『なにゆゑかくみだりなるつひえすか。 9 これおほくのかねりて、貧󠄃まづしきものほどこすことをたりしものを』 10 イエスこれりてひたまふ『なんぞこのをんななやますか、われことをなせるなり。 11 貧󠄃まづしきものつねなんぢらとともにをれど、われつねともらず。 12 このをんなからだにほひあぶらそゝぎしは、わがはうむりのそなへをなせるなり。
 56㌻ 
13 まことなんぢらにぐ、全󠄃世界ぜんせかい何處いづこにてもこの福音󠄃ふくいん宣傅のべつたへらるるところには、このをんなのなししことも、記念きねんとしてかたらるべし』

14 ここに十二じふに弟子でし一人ひとりイスカリオテのユダといふもの祭司長さいしちゃうらのもとにゆきて 15 『なんぢらにかれわたさば、なにほどわれあたへんとするか』かれら《[*]》ぎん三十さんじふはかいだせり。[*或は「銀三十と定めたり」と譯す。] 16 ユダこのときよりイエスをわたさんとをりうかゞふ。

17 除酵祭じょかうさいはじめ弟子でしたちイエスにきたりてふ『過󠄃越すぎこし食󠄃しょくをなしたまふために何處いづこわれらがそなふること望󠄇のぞたまふか』 18 イエスひたまふ『みやこにゆき、それがしのもとにいたりて「いふ、わがとき近󠄃ちかづけり。われ弟子でしたちととも過󠄃越すぎこしなんぢいへにてまもらん」とへ』 19 弟子でしたちイエスのめいたまひしごとくして、過󠄃越すぎこしそなへをなせり。 20 れて十二じふに弟子でしとともにせききて、 21 食󠄃しょくするときたまふ『まことになんぢらにぐ、なんぢらのうち一人ひとり、われをらん』 22 弟子でしたちいたうれひて、おのおの『しゅよ、われなるか』とひいでしに、 23 こたへてひたまふ『われとともにはちるるものわれをらん。 24 ひとおのれきてしるされたるごと逝󠄃くなり。されどひともの禍害󠄅わざはひなるかな、そのひとうまれざりしかたよかりしものを』 25 イエスをるユダこたへてふ『ラビ、われなるか』イエスたまふ『なんぢのへるごとし』 26 かれ食󠄃しょくしをるときイエス、パンをとり、しくしてさき、弟子でしたちにあたへてたまふ『りて食󠄃くらへ、これはからだなり』 27 また酒杯さかづきをとりてしゃし、かれらにあたへてたまふ『なんぢらみなこの酒杯さかづきよりめ。 28 これは契約けいやくのわがなり、おほくのひとのためにつみゆるしさせんとて、なが所󠄃ところのものなり。 29 われなんぢらにぐ、わが父󠄃ちちくににてあたらしきものをなんぢらとともまでは、われいまよりのちこの葡萄ぶだうよりるものをまじ』

 57㌻ 
30 かれ讃美さんびうたひてのちオリブやまでゆく。

31 ここにイエス弟子でしたちにたまふ『今宵󠄃こよひなんぢらみなわれにきてつまづかん「われ牧羊者ひつじかいたん、さらばむれひつじるべし」としるされたるなり。 32 されどわれよみがへりてのち、なんぢらにさきだちてガリラヤにかん』〘42㌻〙 33 ペテロこたへてふ『假令たとひみななんぢきてつまづくともわれはいつまでもつまづかじ』 34 イエスたまふ『まことになんぢぐ、今宵󠄃こよひにはとり前󠄃まへに、なんぢたびわれいなむべし』 35 ペテロふ『われなんぢとともぬべきことありともなんぢいなまず』弟子でしたちみなかくへり。

36 こゝにイエスかれらとともにゲツセマネといふところにいたりて、弟子でしたちにたまふ『わが彼處かしこにゆきていのあひだ、なんぢら此處ここせよ』 37 かくてペテロとゼベダイの二人ふたりとを伴󠄃ともなひゆき、うれかなしみでてたまふ、 38 『わがこゝろいたくうれひてぬばかりなり。なんぢ此處こことゞまりてわれともさましをれ』 39 すこ進󠄃すゝみゆきて、平󠄃伏ひれふいのりてたまふ『わが父󠄃ちちよ、もしべくば酒杯さかづきわれより過󠄃らせたまへ。されど意󠄃こゝろまゝにとにはあらず、御意󠄃みこゝろのままにたまへ』 40 弟子でしたちのもとにきたり、そのねむれるをてペテロにたまふ『なんぢらひとときわれともさまることあたはぬか。 41 誘惑まどはしおちいらぬやうさまし、かついのれ。こゝろねつすれども肉體にくたいよわきなり』 42 また二度ふたゝびゆきいのりてたまふ『わが父󠄃ちちよ、この酒杯さかづきもしわれまでは過󠄃りがたくば、御意󠄃みこゝろのままにたまへ』 43 またきたりてかれらのねむれるをたまふ、これそのつかれたるなり。 44 またはなれゆきてたびおなことばにていのたまふ。
 58㌻ 
45 しかして弟子でしたちのもときたりてたまふ『いまねむりてやすめ。よ、とき近󠄃ちかづけり、ひと罪人つみびとらのわたさるるなり。 46 起󠄃きよ、われくべし。よ、われるもの近󠄃ちかづけり』

47 なほかたたまふほどに、よ、十二じふに弟子でし一人ひとりなるユダきたる、祭司長さいしちゃうたみ長老ちゃうらうらより遣󠄃つかはされたるおほいなる群衆ぐんじゅうつるぎぼうとをもちてこれ伴󠄃ともなふ。 48 イエスをるものあらかじめ合圖あひづしめしてふ『わが接吻くちつけするものはそれなり、これとらへよ』 49 かくてたゞちにイエスに近󠄃ちかづき『ラビ、やすかれ』といひて接吻くちつけしたれば、 50 イエスひたまふ『ともよ《[*]》なにとてきたる』このとき人々ひとびとすすみてイエスにをかけてとらふ。[*或は「なんぢの成さんとて來れることを成せ」と譯す。] 51 よ、イエスとともにありしもののひとりをのべ、つるぎきて、だい祭司さいししもべをうちて、そのみゝおとせり。 52 ここにイエスかれたまふ『なんぢのつるぎをもとにをさめよ、すべてつるぎをとるものつるぎにてほろぶるなり。 53 われわが父󠄃ちち請󠄃ひて十二じふにぐんあま御使みつかひいまあたへらるることあたはずとおもふか。 54 もししかせばくあるべくしるしたる聖󠄄書せいしょはいかで成就じゃうじゅすべき』 55 このときイエス群衆ぐんじゅうたまふ『なんぢら强盜がうたうむかふごとくつるぎぼうとをもち、われとらへんとてきたるか。われ日々ひゞみやしてをしへたりしに、なんぢわれとらへざりき。〘43㌻〙 56 されどかくごとくなるは、みな預言者よげんしゃたちのふみ成就じゃうじゅせんためなり』こゝ弟子でしたちみなイエスをてて逃󠄄げさりぬ。

57 イエスをとらへたるものども、學者がくしゃ長老ちゃうらうらのあつまだい祭司さいしカヤパのもときゆく。 58 ペテロ遠󠄄とほはなれイエスにしたがひてだい祭司さいし中庭なかにはまでいたり、その成行なりゆきんとて、そこに下役したやくどもとともせり。 59 祭司長さいしちゃうらと全󠄃ぜん議會ぎくわいと、イエスをさだめんとて、いつはりの證據しょうこもとめたるに、 60 おほくの僞證者ぎしょうしゃいでたれどもず。のち二人ふたりものいでて
 59㌻ 
61 『このひとは「われかみの《[*]》みやこぼ三日みっかにてべし」とへり』[*或は「聖󠄄所󠄃」と譯す。] 62 だい祭司さいしたちてイエスにふ『この人々ひとびとなんぢたいしてつる證據しょうこなにをもこたへぬか』 63 されどイエスもだ居給ゐたまひたれば、だい祭司さいしいふ『われなんぢめいず、けるかみちかひてわれらにげよ、なんぢはキリスト、かみなるか』 64 イエスたまふ『なんぢのへるごとし。かつわれなんぢらにぐ、いまよりのち、なんぢらひとの、全󠄃能者ぜんのうしゃみぎし、てんくもりてきたるをん』 65 ここにだい祭司さいしおのがころもきてふ『かれ瀆言けがしごとをいへり、なんほか證人しょうにんもとめん。よ、なんぢらいまこの瀆言けがしごとをきけり。 66 いかにおもふか』こたへてふ『かれはあたれり』 67 ここにかれその御顏みかほつばきこぶしにてち、あるものどもは手掌てのひらにてたゝきて 68 『キリストよ、われらに預言よげんせよ、なんぢをうちしものたれなるか』

69 ペテロそとにて中庭なかにはしゐたるに、一人ひとり婢女はしためきたりてふ『なんぢも、ガリラヤびとイエスとともにゐたり』 70 かれすべてのひと前󠄃まへうけがはずしてふ『われはなんぢふことをらず』 71 かくてかどまできたるときほか婢女はしためかれをて、其處そこにをるものどもにむかひて『このひとはナザレびとイエスとともにゐたり』とへるに、 72 かさねてうけがはずちかひて『われはそのひとらず』といふ。 73 しばらくして其處そこものども近󠄃ちかづきてペテロにふ『なんぢもたしかにかの黨與ともがらなり、なんぢ國訛くになまりなんぢをあらはせり』 74 こゝにペテロうけひ、かつちかひて『われそのひとらず』とづるをりしも、にはとりきぬ。 75 ペテロ『にはとり前󠄃まへに、なんぢ三度みたびわれをいなまん』とイエスのたまひし御言みことばおもひだし、そとでていたけり。〘44㌻〙

第27章

1 夜明よあけになりてすべての祭司長さいしちゃうたみ長老ちゃうらうら、イエスをころさんとあひはかり、 2 遂󠄅つひこれしばり、きゆきて總督そうとくピラトにわたせり。

 60㌻ 
3 こゝにイエスをりしユダ、そのさだめられたまひしをい、祭司長さいしちゃう長老ちゃうらうらに、かの三十さんじふぎんをかへしてふ、 4 『われつみなきのりてつみをかしたり』かれらいふ『われらなんあづからん、なんぢみづからあたるべし』 5 かれそのぎん聖󠄄所󠄃せいじょげすててり、ゆきてみづかくびれたり。 6 祭司長さいしちゃうら、そのぎんをとりてふ『これはあたひなれば、みやくら納󠄃をさむるはからず』 7 かくあひはかり、そのぎんをもて陶工すゑつくりはたひ、旅人たびびとらの墓地ぼちとせり。 8 これによりてはたは、いまいたるまではたとなへらる。 9 ここに預言者よげんしゃエレミヤによりてはれたることば成就じゃうじゅしたり。いはく『かくて《[*]》かれ値積ねづもられしもの、すなはちイスラエルのらが値積ねづもりしものあたひぎん三十さんじふをとりて、[*或は「われ」と譯す。] 10 陶工すゑつくりはたしろこれあたへたり。しゅわれめいたまひしごとし』

11 さてイエス、總督そうとく前󠄃まへたまひしに、總督そうとくひてふ『なんぢはユダヤびとわうなるか』イエスたまふ『なんぢのふがごとし』 12 祭司長さいしちゃう長老ちゃうらううったふれども、なにをもこたたまはず。 13 こゝにピラトかれふ『かぬか、かれらがなんぢたいして如何いかに《[*]》おほくの證據しょうこつるを』[*或ば「重大なる」と譯す。] 14 されど總督そうとくいたあやしむまで、一言ひとことをもこたたまはず。 15 まつりときには、總督そうとく群衆ぐんじゅう望󠄇のぞみにまかせて、囚人めしうど一人ひとりこれゆるれいあり。 16 こゝにバラバといふかくれなき囚人めしうどあり。 17 されば人々ひとびとあつまれるとき、ピラトふ『なんぢらたれゆるさんことをねがふか。バラバなるか、キリストととなふるイエスなるか』 18 これピラトかれらのイエスをわたししはねたみるとゆゑなり。 19 かれなほ審判󠄄さばきにをるとき、そのつまひと遣󠄃つかはしてはしむ『かの義人ぎじんかゝはることをな、われけふゆめなかにてかれゆゑにさまざまくるしめり』 20 祭司長さいしちゃう長老ちゃうらうら、群衆ぐんじゅうにバラバのゆるされんこと請󠄃はしめ、イエスをほろぼさんことをすゝむ。
 61㌻ 
21 總督そうとくこたへてかれらにふ『二人ふたりうちいづれをゆるさんことねがふか』かれらいふ『バラバなり』 22 ピラトふ『さらばキリストととなふるイエスをわれいかにべきか』みないふ『十字架じふじかにつくべし』 23 ピラトふ『かれなに惡事あくじをなしたるか』かれはげしくさけびていふ『十字架じふじかにつくべし』 24 ピラトはなにかひなくかへつてらんにならんとするをて、みづをとり群衆ぐんじゅうのまへにあらひてふ『このひとにつきてわれつみなし、なんぢみづからあたれ』〘45㌻〙 25 たみみなこたへてふ『は、われらとわれらの子孫しそんとにすべし』 26 こゝにピラト、バラバをかれらにゆるし、イエスをむちうちて十字架じふじかにつくるためわたせり。

27 ここに總督そうとく兵卒へいそつども、イエスを官邸くわんていにつれゆき、全󠄃ぜんたい御許みもとあつめ、 28 そのころもをはぎて、緋色ひいろ上衣うはぎをきせ、 29 いばら冠冕かんむりみて、そのかうべかむらせ、あしみぎにもたせかつその前󠄃まへひざまづき、嘲弄てうろうしてふ『ユダヤびとわうやすかれ』 30 またこれつばきし、かのあしをとりてかうべたゝく。 31 かく嘲弄てうろうしてのち、上衣うはぎぎて、もところもをきせ、十字架じふじかにつけんとてきゆく。

32 そのづるとき、シモンといふクレネびとにあひしかば、ひてこれにイエスの十字架じふじかをおはしむ。 33 かくてゴルゴタといふところすなは髑髏されかうべにいたり、 34 苦味にがみぜたる葡萄酒ぶだうしゅませんとしたるに、めて、まんとしたまはず。 35 かれらイエスを十字架じふじかにつけてのち、くじをひきてころもをわかち、 36 かつそこにして、イエスをまもる。 37 そのかうべうへに『これはユダヤびとわうイエスなり』としるしたる罪標すてふだきたり。 38 こゝにイエスとともに二人ふたり强盜がうたう十字架じふじかにつけられ、一人ひとりはそのみぎに、一人ひとりはそのひだりにおかる。
 62㌻ 
39 徃來ゆききものどもイエスをそしり、かうべりていふ、 40 『《[*]》みやこぼちて三日みっかのうちにつるものよ、もしかみならばおのれすくへ、十字架じふじかよりりよ』[*或は「聖󠄄所󠄃」と譯す。] 41 祭司長さいしちゃうらも、またおなじく學者がくしゃ長老ちゃうらうらとともに、嘲弄てうろうしてふ、 42ひとすくひておのれすくふことあたはず。かれはイスラエルのわうなり、いま十字架じふじかよりりよかし、さらばわれかれしんぜん。 43 かれかみたのめり、かみかれをいつくしまばいますくひたまふべし「われかみなり」とへり』 44 ともに十字架じふじかにつけられたる强盜がうたうどもも、おなことをもてイエスをのゝしれり。

45 ひる十二じふによりうへあまねく暗󠄃くらくなりて、三時さんじおよぶ。 46 三時さんじごろイエス大聲おほごゑさけびて『エリ、エリ、レマ、サバクタニ』とたまふ。わがかみ、わがかみ、なんぞわれたまひしとの意󠄃こゝろなり。 47 そこにもののうち人々ひとびとこれをきて『かれはエリヤをぶなり』とふ。 48 たゞちにそのうち一人ひとりはしりゆきて海綿うみわたをとり、葡萄酒ぶだうしゅふくませ、あしにつけてイエスにましむ。 49 そのほかものどもふ『まて、エリヤきたりてかれすくふやいなや、われこれん』 50 イエスふたゝ大聲おほごゑよばはりていきえたまふ。 51 よ、聖󠄄所󠄃せいじょまくうへよりしたまでけてふたつとなり、また地震ちふるひ、いはさけ、 52 はかひらけて、ねむりたる聖󠄄徒せいと屍體しかばねおほくきかへり、〘46㌻〙 53 イエスの復活よみがへりののちはかをいで、聖󠄄せいなるみやこりて、おほくのひとあらはれたり。 54 百卒長ひゃくそつちゃうおよびこれともにイエスをまもりゐたるものども、地震ぢしんとそのりしこととをて、いたおそれ『かれかみなりき』とへり。 55 そのところにてはるか望󠄇のぞみゐたるおほくのをんなあり、イエスにつかへてガリラヤよりしたがきたりしものどもなり。 56 そのなかには、マグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフとのははマリヤおよびゼベダイのらのははなどもゐたり。

 63㌻ 
57 れて、ヨセフとふアリマタヤのめるひときたる。かれもイエスの弟子でしなるが、 58 ピラトにきてイエスの屍體しかばね請󠄃ふ。ここにピラトこれわたすことをめいず。 59 ヨセフ屍體しかばねをとりてきよ亞麻󠄃あまぬのにつつみ、 60 いはにほりたるおのあたらしきはか納󠄃をさめ、はか入口いりくちおほいなるいしまろばしおきてりぬ。 61 其處そこにはマグダラのマリヤとほかのマリヤとはかむかひてしゐたり。

62 あくるすなは準備そなへ翌󠄃日よくじつ祭司長さいしちゃうらとパリサイびとらとピラトのもとあつまりてふ、 63しゅよ、かのまどはすものりしとき「われ三日みっかのちよみがへらん」とひしを、われおもひいだせり。 64 さればめいじて三日みっかいたるまではかかためしめたまへ、おそらくはその弟子でしきたりてこれぬすみ「かれ死人しにんうちよりよみがへれり」とたみはん。しからばのちまどひ前󠄃まへのよりもはなはだしからん』 65 ピラトふ『《[*]》なんぢらに番兵ばんぺいあり、きてちからかぎかためよ』[*或は「汝ら番兵か用ひよ」と譯す。] 66 すなはかれらゆきていし封印ふういんし、番兵ばんぺいきてはかかためたり。

第28章

1 さて安息あんそくにちをはりて、一週󠄃ひとまはりはじめのほのあかころ、マグダラのマリヤとほかのマリヤとはかんとてきたりしに、 2 よ、おほいなる地震ぢしんあり、これしゅ使つかひてんよりくだきたりて、かのいしまろばし退󠄃け、そのうへしたるなり。 3 そのさま電光いなづまのごとくかゞやき、そのころも雪󠄃ゆきのごとくしろし。 4 まもりものどもかれおそれたれば、おのゝきて死人しにんごとくなりぬ。 5 御使みつかひ、こたへてをんなたちにふ『なんぢらおそるな、われなんぢらが十字架じふじかにつけられたまひしイエスを尋󠄃たづぬるをる。 6 此處ここにはいまさず、そのへるごとよみがへりたまへり。きたりてそのかれたまひしところよ。 7 かつ速󠄃すみやかにきて、その弟子でしたちに「かれ死人しにんうちよりよみがへりたまへり。よ、なんぢらにさきだちてガリラヤにたまふ、彼處かしこにてまみゆるをん」とげよ。よ、なんぢらにこれげたり』〘47㌻〙
 64㌻ 
8 をんなたちおそれおほいなる歡喜よろこびとをもて、速󠄃すみやかにはかり、弟子でしたちにらせんとてはしりゆく。 9 よ、イエスかれらに遇󠄃ひて『やすかれ』とたまひたれば、進󠄃すゝみゆき、御足みあしいだきてはいす。 10 こゝにイエスひたまふ『おそるな、きて兄弟きゃうだいたちに、ガリラヤにゆき、彼處かしこにてわれるべきことをらせよ』

11 をんなたちのきたるとき、よ、番兵ばんぺいのうちの數人すにんみやこにいたり、すべりしことどもを祭司長さいしちゃうらにぐ。 12 祭司長さいしちゃうら、長老ちゃうらうらとともあつまりてあひはかり、兵卒へいそつどもにおほくのかねあたへてふ、 13 『なんぢらへ「その弟子でしよるきたりて、われらのねむれるかれぬすめり」と。 14 このこともし總督そうとくきこえなば、われかれなだめてなんぢらにうれひなからしめん』 15 かれかねをとりてふくめられたるごとたれば、はなしユダヤびとうちにひろまりて、今日けふいたれり。

16 じふいち弟子でしたちガリラヤにきて、イエスのめいたまひしやまにのぼり、 17 遂󠄅つひまみえてはいせり。れどうたがものもありき。 18 イエス進󠄃すゝみきたり、かれらにかたりてひたまふ『われてんにてもにても一切すべてけんあたへられたり。 19 ればなんぢきて、もろもろの國人くにびと弟子でしとなし、父󠄃ちち聖󠄄せいれいとのによりてバプテスマをほどこし、 20 わがなんぢらにめいぜしすべてのことまもるべきををしへよ。よ、われ終󠄃をはりまでつねなんぢらとともるなり』〘48㌻〙
 65㌻