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〘1146㌻〙

第1章

1 ダビデの ヱルサレムのわう 傳道󠄃でんだうしやことば 2 傳道󠄃でんだうしやいは空󠄃くう空󠄃くう 空󠄃くう空󠄃くうなるかな すべ空󠄃くうなり 3 したひとらうしてなすところのもろ〳〵動作はたらきはそのなにえきかあらん 4 きた永久とこしなへ長存たもつなり 5 り またそのいでところあへぎゆくなり 6 かぜみなみ又󠄂またまはりてきたにむかひ 旋轉めぐりめぐりてかぜまたその旋轉めぐところにかへる。 7 かははみなうみながうみみつることかははそのいできたれるところまた還󠄃かへりゆくなり 8 すべてもの勞苦らうくひとこれをいひつくすことあたはず みる飽󠄄あくことなくみゝきくみつること 9 さきありものはまたのちにあるべし さきなりことはまたのちなるべし したにはあらたしきものあらざるなり 10 これあらたしきものなりとさしいふべきものあるや それ我等われら前󠄃さきにありし世々よゝすでひさしくありたるものなり 11 己前󠄃まへのもののことはこれを記憶おぼゆることなし 以後のちのもののこともまたのちいづものこれをおぼゆることあらじ

12 われ傳道󠄃でんだうしやはヱルサレムにありてイスラエルのわうたりき 13 われこゝろつく智慧󠄄ちゑをもちひてあめしたおこなはるるもろ〳〵こと尋󠄃たづねかつ考覈しらべたりこのくるしき事件わざかみひとにさづけてこれらうせしめたまふものなり 14 われしたなすところのもろ〳〵行爲わざたり 嗚呼あゝみな空󠄃くうにしてかぜとらふるがごとし 15 まがれるものなほからしむるあたはずかけたるものかずをあはするあたはず 16 われこゝろうちかたりて嗚呼あゝわれおほいなるものとなれり われよりさきにヱルサレムにをりしすべてのものよりもわれおほくの智慧󠄄ちゑたり わがこゝろ智慧󠄄ちゑ知識ちしきおほたり 17 われこゝろつくして智慧󠄄ちゑしらんとし狂妄きやうまう愚癡ぐちしらんとしたりしが これまたかぜとらふるがごとくなるをさとれり
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18 それ智慧󠄄ちゑおほければ憤激いきどほりおほ知識ちしきもの憂患うれへ

第2章

1 われわがこゝろいひけらく きたわれこゝろみになんぢをよろこばせんとす なんぢ逸樂たのしみをきはめよと 嗚呼あゝこれもまた空󠄃くうなりき 2 われわらひこれきやうなり 快樂たのしみこれなになすところあらんやと 3 われこゝろ智慧󠄄ちゑいだきてをりつつさけをもて肉身からだこやさんとこゝろみたり 又󠄂またひとあめしたにおいて生涯しやうがい如何いかなることをなさばよからんかをしらんためにわれおろかなることおこなふことをせり〘882㌻〙 4 われおほいなる事業じげふをなせり われはわがためいへ葡萄園ぶだうばたけまう 5 そのをつくりにはをつくり 又󠄂またのなるもろ〳〵其處そこ 6 またみづ塘池ためいけをつくりて樹木きぎおひしげれるはやしそれよりみづそゝがしめたり 7 われしもべしもめかひたり またいへあり われはまたすべわれより前󠄃さきにヱルサレムにをりしものよりも衆多おほくうしひつじもて 8 われ金銀きんぎん王等わうたち國々くに〴〵財寶たからつみあげたり またうた詠之うたふ男女をとこをんな ひとたのしみなるさいせうおほくえたり 9 かくわれおほいなるものとなり われより前󠄃さきにヱルサレムにをりしすべてひとよりもおほいになりぬ わが智慧󠄄ちゑもまたわがはなれざりき 10 およそわがこのものわれこれをきんぜす およそわがこゝろよろこものわれこれをきんぜざりき すなはわれはわがもろ〳〵勞苦らうくによりて快樂たのしみたり これもろ〳〵勞苦らうくによりてたるところの分󠄃ぶんなり 11 われわがにてなしたるもろ〳〵事業わざおよびらうしてことなしたる勞苦らうく顧󠄃かへりみるに みな空󠄃くうにしてかぜとらふるがごとくなりき したにはえきとなるものあらざるなり

12 われまためぐらして智慧󠄄ちゑ狂妄きやうまう愚癡ぐちとをたり そも〳〵わうぐところのひと如何いかなることなしうるや そのすでになせしところのこと過󠄃すぎざるべし 13 光明あかるみ黑暗󠄃くらきにまさるがごとく智慧󠄄ちゑ愚癡ぐち勝󠄃まさるなり われこれをさとれり
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14 智者ちしやはそのかしらにあり愚者ぐしや黑暗󠄃くらやみあゆされわれしるそのみな遇󠄃ふところのこと同一ひとつなり 15 われこゝろいひけらく 愚者ぐしや遇󠄃ふところのことわれもまた遇󠄃ふべければ われなんぞ智慧󠄄ちゑのまさる所󠄃ところあらんや われまたこゝろいへこれまた空󠄃くうなるのみと 16 それ智者ちしや愚者ぐしやひとしくなが記念おぼえらるることなし きたらんにいたればみなはやすでわすらるるなり 嗚呼あゝ智者ちしや愚者ぐしやとおなじくしぬるはこれ如何いかなることぞや 17 こゝおいわれにながらふることをいとへり およしたなすところのわざわれあしみゆればなり すなはみな空󠄃くうにしてかぜとらふるがごとし

18 われしたにわがらうしてもろ〳〵動作はたらきをなしたるをうらわれあとひとにこれを遺󠄃のこさゞるをざればなり 19 其人そのひとたれかこれをらんしかるにそのひとしたらうして智慧󠄄ちゑをこめてなしたるもろもの工作わざ管理つかさどるにいたらんこれまた空󠄃くうなり 20 われをめぐらししたにわがらうしてなしたるもろ〳〵動作はたらきのために望󠄇のぞみうしなへり 21 いまこゝひとあり 智慧󠄄ちゑ知識ちしき才能さいのうをもてらうしてことをなさんに終󠄃つひにはこれがためにらうせざるひと一切すべて遺󠄃のこしてその所󠄃有もちものとなさしめざるをざるなり これまた空󠄃くうにしておほいあし〘883㌻〙 22 それひとはそのしたらうしてなすところのもろ〳〵動作はたらきとそのこゝろづかひによりてなにうるところるや 23 そのにあるにはつね憂患うれへあり その勞苦ほねをりくるし そのこゝろやすんずることあらず これまた空󠄃くうなり

24 ひと食󠄃くひのみをなしその勞苦ほねをりによりてこゝろたのしましむるは幸福さいはひなることにあらず これもまたかみよりいづるなり われこれを 25 たれかその食󠄃くらふところその歡樂たのしみきはむるところにおいわれにまさるものあらん 26 かみはそのこゝろ適󠄄かなひとには智慧󠄄ちゑ知識ちしき喜樂よろこびたましかれどもつみをかひとには勞苦らうくたまひてあつめかつつむことをさしむ それかみこゝろ適󠄄かなひとあたへたまはんためなり これもまた空󠄃くうにしてかぜとらふるがごとし
 1148㌻ 

第3章

1 あめしたすべてことにはあり すべて事務わざにはときあり 2 うまるるにときありしぬるにときあり うゝるにときありうゑたるものぬくときあり 3 ころすにときありいやすにときあり こぼつにときありたつるにときあり 4 なくときありわらふにときあり かなしむにときあり躍󠄃をどるにときあり 5 いしなげうつにときありいしあつむるにときあり いだくにときありいだくことをせざるにときあり 6 うるときありうしなふにときあり たもつにときありすつるにときあり 7 さくときあり縫󠄃ぬふときあり もだすにときありかたるにときあり 8 いつくしむにときありにくむにときあり たゝかふにときありやはらぐにときあり 9 はたらものはそのらうしてなすところよりしてなにえきんや 10 われかみひとにさづけてをこれにらうせしめたまふところの事件わざたり 11 かみしたまふところはみなそのとき適󠄄かなひて美麗うるほしかり かみはまたひとこゝろ永遠󠄄えいゑんをおもふの思念おもひさづけたまへり されひとかみのなしたまふ作爲わざはじめより終󠄃をはりまでしりあきらむることをざるなり 12 われひとうちにはそのにあるとき快樂たのしみをなしぜんをおこなふよりほか善事よきことはあらず 13 またひとはみな食󠄃くひのみをなしその勞苦らうくによりて逸樂たのしみべきなり これすなはちかみ賜物たまものたり 14 われすべかみのなしたまふことかぎりなくそんせん これくはふべき所󠄃ところなくこれへらすべきところかみこれをなしたまふはひとをしてその前󠄃まへおそれしめんがためなり 15 むかしありたるものいまもあり のちにあらんものすでにありしものなり かみはその遂󠄅おひやられしものもとめたまふ

16 われまたしたるに審判󠄄さばきをおこなふ所󠄃ところ邪曲よこしまなることあり 公義ただしきおこなふところに邪曲よこしまなることあり 17 われすなはちこゝろいひけらくかみ義者ただしきもの惡者あしきものとをさばきたまはん 彼處かしこにおいてよろづことよろづ所󠄃爲わざときあるなり〘884㌻〙 18 われまたこゝろいひけらくこのことあるはこれひとのためなり すなはかみかくひとためしてこれにそのけもののごとくなることをみずかさとらしめたまふなり 19 ひとのぞむところのことはまたけものにものぞむ この二者ふたつのぞむところのこと同一ひとつにしてこれしねかれしぬるなり みな同一ひとつ呼吸こきふれり ひとけものにまさる所󠄃ところなしみな空󠄃くうなり
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20 みなひとつ所󠄃ところみなちりよりみなちりにかへるなり 21 たれひとたましひうへのぼけものたましひにくだることをしら 22 されひとはその動作はたらきによりて逸樂たのしみをなすにしくはなし これその分󠄃ぶんなればなり われこれをる そののちことたれかこれをたづさへゆきてさしむるものあらんや

第4章

1 こゝわれめぐらしてしたおこなはるるもろ〳〵虐󠄃遇󠄃しへたげたり 嗚呼あゝ虐󠄃しへたげらるものなみだながる これなぐさむるものあらざるなり また虐󠄃しへたぐるものには權力ちからあり 彼等かれらはこれをなぐさむるものあらざるなり 2 われなほいけ生者せいしやよりもすでしにたるしやをもてさいはひなりとす 3 またこの二者ふたつよりもさいはひなるはいまにあらずしてしたにおこなはるるあくざるものなり

4 われまたもろ〳〵勞苦ほねをりもろ〳〵工事わざ精巧たくみとをるに これひとのたがひにねたみあひてせるものたるなり これ空󠄃くうにしてかぜとらふるがごと 5 おろかなるものつかねてそのにく食󠄃くら 6 かたものみて平󠄃穩おだやかにあるは 兩手もろてものみて勞苦ほねをりかぜとらふるにまされり

7 われまたをめぐらしした空󠄃くうなることのあるをたり 8 こゝひとありたゞひとりにして伴󠄃侶とももなくもなく兄弟きやうだいもなし しかるにその勞苦らうくすべきはまりなくのとみ飽󠄄あくことなし かれまたいは嗚呼あゝわれたれがためにらうするやなにとてわれこゝろたのしませざるやと これもまた空󠄃くうにして勞力ほねをりくるしものなり 9 二人ふたり一人ひとりまさはその勞苦ほねをりのためによきむくいればなり 10 すなはちその跌倒たふときには一箇ひとりひとその伴󠄃侶ともたすけおこすべし され孤身ひとりにして跌倒たふるものあはれなるかなこれたすけおこすものなきなり 11 又󠄂また二人ふたりともにいぬれば溫暖あたたかなり一人ひとりならばいか溫暖あたたかならんや 12 ひともしその一人ひとり攻擊せめうた二人ふたりしてこれにあたるべし 三根みこなは容易たやすきれざるなり

 1150㌻ 
13 貧󠄃まづしくしてかしこ童子わらべおいおろかにしていさめ納󠄃れざるわうまさ 14 かれ牢獄ひとやよりいでわうとなれり されどそのくにうまれしとき貧󠄃まづしかりき 15 われしたにあゆむところの群生ぐんせいかのわうつぎてこれにかはりてたつところの童子わらべとともにあるをたり〘885㌻〙 16 たみはすべて際限はてしなし その前󠄃さきにありしものみなしかのちにきたるものまたかれよろこばず これ空󠄃くうにしてかぜとらふるがごとし

第5章

1 なんぢヱホバのいへにいたるときにはそのあしつゝし進󠄃すゝみよりて聽聞きくおろかなるもの犧牲いけにへにまさる 彼等かれらはそのあくをおこなひをることをしらざるなり 2 なんぢかみ前󠄃まへにありては輕々かろ〴〵くちひらくなかれ こゝろをさめてみだりことをいだすなかれ かみてんにいましなんぢにをればなり されなんぢ言詞ことばすくなからしめよ 3 それゆめこと繁多しげきによりてしやうおろかなるものこゑことば衆多おほきによりてしるるなり 4 なんぢかみ誓願せいぐわんをかけなばこれ還󠄃はたすことをおこたるなかれ かみおろかなるものよろこびたまはざるなり なんぢはそのかけし誓願せいぐわん還󠄃はたすべし 5 誓願せいぐわんをかけてこれを還󠄃はたさざるよりはむし誓願せいぐわんをかけざるはなんぢ 6 なんぢくちをもてなんぢつみをかさしむるなかれ また使者つかひ前󠄃まへそれ過󠄃誤あやまちなりといふべからず おそらくはかみなんぢことばいかなんぢ所󠄃爲わざほろぼしたまはん 7 それゆめおほければ空󠄃くうなることおほ言詞ことばおほきもまたしかなんぢヱホバをかしこ

8 なんぢくにうち貧󠄃まづしもの虐󠄃遇󠄃しへたぐことおよび公道󠄃おほやけ公義ただしきまぐることあるをるもそのことあるをあやしむなかれ はそのくらゐたかひとよりもたかものありてそのひとうかがへばなり又󠄂またそれよりもたかものあるなり 9 くに利益りえき全󠄃まつたこれにあり すなはわうしや農事のうじつとむるにあるなり

10 ぎんこのものぎん飽󠄄あくこと豐富ゆたかならんことをこのものるところらず これまた空󠄃くうなり 11 貨財もちものせばこれを食󠄃ものすなり その所󠄃有主もちぬしたゞにこれをるのみ そのほかなにえきかあらん
 1151㌻ 
12 らうするものはその食󠄃くらふところはおほきもすくなきもこころよねむるなり しかれどもとめるものはその貨財もちものおほきがためにねむることをせず

13 われまたしたうれへおほいなるものあるをたり すなはち財寶たからのこれをたくはふるもの害󠄅がいをおよぼすことあるこれなり 14 その財寶たからはまた災難わざはひによりて失落うせゆくことあり さればそのひとまうくることあらんもそのにはなにものもあることなし 15 ひとはゝはらよりいできたりしごとくにまた裸體はだかにしてかへりゆくべし その勞苦ほねをりによりてたるもの毫厘ひとつにとりてたづさへゆくことをざるなり 16 ひと全󠄃まつたくそのきたりしごとくにまたさりゆかざるをこれまたうれへおほいなるものなり そも〳〵かぜ追󠄃おふらうするものなにえきをうることあらんや 17 ひと生命いのちかぎり黑暗󠄃くらやみうち食󠄃くらふことをす また憂愁うれへおほかり 疾病やまひにあり 憤怒いかりあり
〘886㌻〙
18 われかくたり ひとにとりてぜんかつなるものかみにたまはるその生命いのちきはみ食󠄃くひのみをなし かつそのしたらうしてはたらける勞苦らうくによりてるところの福祿さいはひうくるのことなりこれその分󠄃ぶんなればなり 19 何人なにびとによらずかみがこれにとみたからあたへてそれに食󠄃はむことをせしめ またその分󠄃ぶんりその勞苦らうくによりて快樂たのしみることをせさせたまふあれば そのことかみ賜物たまものたるなり 20 かかるひとはその年齡よはひおぼゆることふかからず かみこれがこゝろよろこぶところにしたがひてこたふることをしたまへばなり

第6章

1 われるにした一件ひとつうれへありこれひとうちつねなるものなり 2 すなはちかみとみたからたふときひとにあたへて そのこゝろしたもの一件ひとつもこれにかくることなからしめたまひながらも かみまたそのひとこれ食󠄃くらふことをせしめたまはずして 他人たにんのこれを食󠄃くらふことあり これ空󠄃くうなりあしやまひなり 3 假令たとひひとひやくにんまうけまた長壽いのちながくしてその年齡よはひおほからんも もしそのこゝろ景福さいはひ滿足まんぞくせざるか又󠄂またはうむらるることをざるあれば われりゆうざんはそのひとにまさるたり
 1152㌻ 
4 それりゆうざんはそのきたること空󠄃むなしくして黑暗󠄃くらやみうちさりゆきその黑暗󠄃くらやみうちにかくるるなり 5 又󠄂またこれることなくものることなければかれよりも安泰やすらかなり 6 ひと壽命いのちせんねんばいするとも福祉さいはひかうむれるにはあらず みな一所󠄃ひとつところくにあらずや

7 ひと勞苦ほねをりみなそのくちのためなり そのこゝろはなほも飽󠄄あかざるところ 8 かしこきものなんぞ愚者おろかなるもの勝󠄃まさるところあらんや また世人よのひと前󠄃まへ步行あゆむことをしるところの貧󠄃者まづしきものなに勝󠄃まさるところあらんや 9 事物ものごとこゝろのさまよひあるくにまさるなり これまた空󠄃くうにしてかぜとらふるがごとし

10 かつありものひさしき前󠄃さきにすでにそのつけられたり すなはこれひとなりとされこれはかの自己おのれよりもちからつよものあらそふことをざるなり 11 衆多おほく言論ことばありて虛浮むなしことされひとなにえきあらんや 12 ひとはその虛空󠄃むなし生命いのちかげのごとくに送󠄃おくるなり たれかこのにおいて如何いかなることひとのためにものなるやをしらたれかそののちしたにあらんところのことひとつげうるものあらんや

第7章

1 よきあぶらまさしぬうまるるまさ 2 哀傷かなしみいへいる宴樂ふるまひいへいるまさ一切すべてひと終󠄃をはりかくのごとくなればなり いけものまたこれをそのこゝろにとむるあらん〘887㌻〙 3 悲哀かなしみ嬉笑わらひまさかほ憂色うれひおぶるなればこゝろよきにむかへばなり 4 かしこものこゝろ哀傷かなしみいへにあり おろかなるものこゝろ喜樂たのしみいへにあり

5 かしこもの勸責いましめきくおろかなるもの歌詠うたきくまさるなり 6 おろかなるものわらひかましたもゆ荊棘いばらおとのごとしこれまた空󠄃くうなり 7 かしこひと虐󠄃待しへたぐことによりてきやうするにいたるあり賄賂まひなひひとこゝろそこなふ

 1153㌻ 
8 こと終󠄃をはりはそのはじめよりも容忍󠄄しのぶこゝろあるもの傲慢ほこるこゝろあるもの勝󠄃まさ 9 なんぢ急󠄃はやくしていかるなかれ いかりおろかなるものむねにやどるなり 10 むかしいまにまさるは何故なにゆゑぞやとなんぢいふなかれ なんぢかゝとひをなすはこれ智慧󠄄ちゑよりいづるものにあらざるなり

11 智慧󠄄ちゑうへ財產ざいさんをかぬればしかれば者等ものども利益りえきおほかるべし 12 智慧󠄄ちゑ護庇まもりとなり銀子かね護庇まもりとなる され智惠ちゑはまたこれをもてもの生命いのちたもたしむ これ知識ちしき殊勝󠄃すぐれたるところなり 13 なんぢかみ作爲わざかんがふべし かみまげたまひしものたれかこれをなほくすることを 14 幸福さいはひあるにはたのし禍患わざはひあるにはかんがへよ かみはこの二者ふたつをあひ交錯まじへくだしたまふ ひとをしてそののちことることなからしめんためなり

15 われこの空󠄃くうにありて各樣もろ〳〵ことたり 義人ただしきひとをおこなひてほろぶるあり 惡人あしきひとあしきをおこなひて長壽いのちながきあり 16 なんぢただしき過󠄃すぐるなかれまたかしこき過󠄃すぐるなかれ なんぢなんぞほろぼすべけんや 17 なんぢあしき過󠄃すぐるなかれまたおろかなるなかなんぢなんぞときいたらざるにしぬべけんや 18 なんぢこれとるしまたかれにもはなすなかれ かみかしこものはこの一切すべてものうちより逃󠄄のがいづるなり

19 智慧󠄄ちゑ智者ちしやたすくることはまち豪雄つよきものにんにまさるなり 20 正義ただしくしてぜんをおこなひつみをかすことなきひとにあることなし 21 ひと言出いひいだ言詞ことばにはすべこゝろをとむるなかおそらくはなんぢしもべなんぢのろふをきくこともあらん 22 なんぢしば〳〵ひとのろふことあるはなんぢこゝろしるところなり

23 われ智慧󠄄ちゑをもてこの一切すべてことこゝろわれ智者ちしやとならんといひたりしが遠󠄄とほくおよばざるなり 24 事物ものごと遠󠄄とほくしてはなはふかたれかこれをきはむることを 25 われをめぐらしこゝろをもちひてものことさぐ智慧󠄄ちゑ道󠄃理どうりもとめんとし 又󠄂またあくたると愚癡ぐち狂妄きやうまうたるをしらんとせり
 1154㌻ 
26 われさとれり 婦󠄃人をんなのそのこゝろわなあみのごとくその縲絏しばりなはのごとくなるものこれよりもにがものなり かみよろこびたまふものこれ避󠄃さくることを罪人つみびとこれとらへらるべし〘888㌻〙 27 傳道󠄃でんだうしやわれそのすうしらんとして一々いち〳〵かぞへてつひに此事このことさと 28 われなほ尋󠄃たづねてざるものこれなり われせんにんうちには一箇ひとり男子をとこたれども そのかずうちには一箇ひとり女子をんなをもざるなり 29 われさとれるところはたゞこれのみ すなはかみひと正直ただしきもの造󠄃つくりたまひしにひと衆多おほく計略てだて案出かんがへいだせしなり

第8章

1 たれ智者ちしやしかたれ事物ものごととくことをひと智慧󠄄ちゑはそのひとかほ光輝ひかりあらしむ 又󠄂またその粗暴あらきかほ變改あらたまるべし 2 われわうめいまもるべしすでかみをさしてちかひしことあればしかるべきなり 3 はやまりてわう前󠄃まへることなかれ あしことにつのることなかかれすべてそのこのむところをなせばなり 4 わう言語ことばには權力ちからあり されたれこれなんぢいかをなすやといふことを 5 命令いひつけまももの禍患わざはひうくるにいたらず 智者ちしやこゝろ時期とき判󠄄斷さばきしるなり 6 よろづ事務わざにはときあり判󠄄斷さばきありこれをもてひとおほいなる禍患わざはひをうくるにいたるあり 7 ひとのちにあらんところのことしらず またたれ如何いかなることのあらんかをこれつぐものあらん 8 靈魂たましひ掌管つかさどり靈魂たましひとどめうるひとあらず ひとはそのしぬには權力ちからあることこの戰爭たたかひには釋放ゆるしはなたるるものあらず 又󠄂またざいあくはこれをおこなものすくふことをせざるなり

9 われこの一切すべてことまたしたにおこなはるるもろ〳〵ことこゝろもちひたりときとしては此人このひと彼人かのひとをさめてこれに害󠄅がいかうむらしむることあり 10 われしに惡人あくにんはうむられて安息やすみにいるあり またぜんをおこなふもの聖󠄄所󠄃きよきところはなれてそのまちわすらるるにいたるありこれまた空󠄃くうなり 11 あしことむくい速󠄃すみやかにきたらざるがゆゑ世人よのひとこゝろもつぱらにしてあくをおこなふ
 1155㌻ 
12 つみをかもの百次ももたびあくをなしてなほ長命いのちながきあれども われかみかしこみてその前󠄃まへ畏怖おそれをいだくものには幸福さいはひあるべし 13 たゞ惡人あくにんには幸福さいはひあらず またその生命いのちながからずしてかげのごとし かみ前󠄃まへ畏怖おそれをいだくことなければなり

14 われした空󠄃くうなることのおこなはるるをたり すなは義人ただしきひとにして惡人あしきひと遭󠄃あふべき所󠄃ところ遭󠄃ものあり 惡人あしきひとにして義人ただしきひと遭󠄃べきところに遭󠄃ものあり われいへこれもまた空󠄃くうなり 15 こゝおいわれ喜樂たのしみ食󠄃くひのみしてたのしむよりもことしたにあらざればなり ひとらうしてものうちこれこそはそのしたにてかみにたまはる生命いのちあひだそのはなれざるものなれ
〘889㌻〙
16 こゝわれこゝろをつくして智慧󠄄ちゑらんとしなすところのこときはめんとしたり ひとよるひるもそのをとぢてねむることをせざるなり 17 われかみもろ〳〵作爲わざしがひとしたにおこなはるるところのこときはむるあたはざるなり ひとこれをきはめんとらうするもこれをきはむることをかつ又󠄂また智者ちしやありてこれをるとおもふもこれをきはむることあたはざるなり

第9章

1 われはこの一切すべてことこゝろもちひてこの一切すべてことあきらめんとせり すなはただしものかしこものおよびかれらのなすところはかみにあるなるをあきらめんとせり いつくしむやにくむやはひとこれをることなし一切すべてことはその前󠄃さきにあるなり

2 すべてひとのぞ所󠄃ところみな同じ ただしものにもあしものにもよきものにも きよきものにもけがれたるものにも 犧牲いけにへさゝぐるものにも犧牲いけにへさゝげぬものにもそののぞむところのこと同一ひとつなり よきひと罪人つみびとことならず ちかひをなすものちかひをなすことをおそるるものことなら
 1156㌻ 
3 すべてひとのぞむところのこと同一ひとつなるはこれしたにおこなはるることうちあしものたり そも〳〵ひとこゝろにはあしことみちをり そのいけあひだこゝろ狂妄きやうまういだくあり のちにはしにしものうちくなり 4 およそいきものうちつらなもの望󠄇のぞみあり いけいぬしせ獅子しゝまさればなり 5 生者いけるものはそのしなんことをされしぬものなにごとをもしらずまた應報むくいをうくることもかさねてあらず その記憶おぼえらるること遂󠄅つひわすれらるるにいた 6 またそのいつくしみにくしみねたみすで消󠄃きえうせて彼等かれらしたにおこなはるること最早もはや何時いつまでも關係かかはることあらざるなり

7 なんぢゆき喜悅よろこびをもてなんぢのパンを食󠄃くらたのしこゝろをもなんぢさけかみひさしくなんぢ行爲わざ嘉納󠄃よみしたまへばなり 8 なんぢ衣服󠄃きものつねしろからしめよ なんぢかしらあぶらたえしむるなかれ 9 したなんぢたまはるこのなんぢ空󠄃くうなる生命いのちあひだなんぢそのあいするつまとともによろこびて度生くらなんぢ空󠄃くうなる生命いのちあひだしかせよ これなんぢにありてうく分󠄃ぶんなんぢしたはたらける勞苦らうくによりてものなり 10 すべなんぢたふることはちからをつくしてこれをなんぢゆかんところの陰府よみには工作わざ計謀はかりごと知識ちしき智慧󠄄ちゑもあることなければなり

11 われまたをめぐらしてしたるに 迅󠄄速󠄃ときものはしることに勝󠄃かつにあらず强者つよきもの戰爭たたかひ勝󠄃かつにあらず 智慧󠄄かしこきもの食󠄃物くひものうるにあらず 明哲さときひと財貨たからうるにあらず 知識ものしりびと恩顧󠄃めぐみうるにあらず すべひとのぞむところのことときあるもの偶然ぐうぜんなるもの〘890㌻〙 12 ひとはまたそのときしらうをわざはひあみにかかりとり鳥羅とりあみにかかるがごとくにひともまた禍患わざはひときはからざるにのぞむにおよびてその禍患わざはひにかかるなり

13 われしたこのこと智慧󠄄ちゑとなしおほいなることとなせり 14 すなはちこゝ一箇ひとつちひさまちありて そのうちひとすくなかりしがおほいなるわうこれにせめきたりてこれをかこみこれにむかひておほいなる雲梯うんていたてたり 15 ときまちうち一人ひとり智慧󠄄ちゑある貧󠄃まづしきひとありてその智慧󠄄ちゑをもてまちすくへり しかるにたれありてその貧󠄃まづしきひと記念おもふものなかりし
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16 こゝにおいてわれいへ智慧󠄄ちゑ勇力ちからまさものなりと たゞしかの貧󠄃まづしきひと智慧󠄄ちゑ藐視かろんぜられその言詞ことばきかれざりしなり 17 しづかきけ智者ちしやことば愚者ぐしや君長つかさたるもの號呼よばはりまさ 18 智慧󠄄ちゑいくさうつは勝󠄃すぐれり一人ひとり惡人あくにん許多あまた善事よきわざそこなふなり

第10章

1 しにはひ和香者かをりづくりあぶらくさくしこれをくさらす 少許すこし愚癡ぐち智慧󠄄ちゑ尊󠄅榮ほまれよりもおも 2 智者ちしやこゝろはそのみぎ愚者ぐしやこゝろはそのひだりくなり 3 愚者ぐしやいで途󠄃みちゆくにあたりてそのこゝろたらず自己おのれなることを一切すべてひと 4 君長つかさたるものなんぢにむかひてはらたつともなんぢ本處ところはなるるなか溫順をんじゆんおほいなるとがしやうぜしめざるなり

5 われしたひとつ患事うれへあるをたりこれ君長つかさたるものよりいづる過󠄃誤あやまちたり 6 すなはちおろかなるものたかくらゐかれたふとものひくところすわ 7 われまたしもべたるものむま王侯きみたるものしもべのごとくうへあゆむをたり

8 あなものはみづからこれにおちいり石垣いしがきこぼものへびかまれん 9 いしうちくだくものはそれがためにきず割󠄅ものはそれがために危難あやうき遭󠄃あは 10 てつにぶくなれるあらんにその刃󠄃とがざればちからおほこれにもちひざるを智慧󠄄ちゑこうなすえきあるなり 11 へびもし呪術まじなひきかずしてかま呪術師まじなひしようなし 12 智者ちしやくち言語ことば恩德めぐみあり 愚者ぐしやくちびるはそののみほろぼす 13 愚者ぐしやくちことばはじめおろかなり またそのことば終󠄃をはり狂妄きやうまうにしてあし 14 愚者ぐしや言詞ことばおほくす ひとのちあらことしらたれかそののちにあらんところのこと述󠄃のぶるを 15 愚者ぐしや勞苦ほねをりはそのつからすかれまちにいることをもしらざるなり

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16 そのわう童子わらべにしてその侯伯きみたち朝󠄃あした食󠄃しよくをなすくになんぢわざはひなるかな 17 そのわう貴族うまびとまたその侯伯きみたちゑひたのしむためならずちからおぎなふために適󠄄ほどとき食󠄃しよくをなすくになんぢさいはひなるかな〘891㌻〙 18 懶惰ものうきところよりして屋背やねたれをるところよりして家屋いへ 19 食󠄃事しよくじをもてわらよろこぶのものとなしさけをもて快樂たのしみれり 銀子かねなにごとにもおうずるなり 20 なんぢこゝろうちにてもわうたるもののろふなかれ また寢室ねやにてもとめるもののろなかれ 天空󠄃そらとりそのこゑつた羽翼つばさあるものそのことふるべければなり

第11章

1 なんぢ糧食󠄃くひものみづうへげよ おほくののちなんぢふたゝびこれ 2 なんぢ一箇ひとつ分󠄃ぶんしちまたはちにわかて なんぢ如何いかなる災害󠄅わざはひにあらんかをしらざればなり 3 くももしあめみつるあればそゝぐ またもしみなみきたたふるるあればそのたふれたるところにあるべし 4 かぜうかがもの種播たねまくことをくも望󠄇のぞものかることを 5 なんぢかぜ道󠄃みち如何いかなるをしらず またはらめる婦󠄃をんなたいにてほね如何いか生長そだつをしらかくなんぢ萬事ばんじなしたまふかみ作爲わざしることなし 6 なんぢ朝󠄃あしたたねゆふべにもやすむるなかれ はそのみのものこれなるかかれなるか又󠄂また二者ふたつともによくなるやなんぢこれをしらざればなり 7 それ光明ひかりこころよものなり るはたの 8 ひとおほくのとしいきながらへてそのうちすべ幸福さいはひなるもなほ幽暗󠄃くらきおもふべきなり はそのかずおほかるべければなり すべきたらんところのことみな空󠄃くうなり

9 少者わかきものなんぢわかとき快樂たのしみをなせ なんぢわかなんぢこゝろよろこばしめなんぢこゝろ道󠄃みちあゆなんぢるところをせよ たゞしそのもろ〳〵行爲わざのためにかみなんぢさばきたまはんとしるべし 10 されなんぢこゝろよりうれひなんぢよりあしもののぞわかときさかりなるときはともに空󠄃くうなればなり
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第12章

1 なんぢわかなんぢ造󠄃主つくりぬしおぼえよ すなはあしきたとしのよりてわれはやなにたのしむところしといふにいたらざるさき 2 また光明ひかりつきほし暗󠄃くらくならざるさき あめのちくも返󠄄かへらざるうちなんぢしかせよ 3 そのいたるときいへまもものふるちからあるひとかがひきこなすものすくなきによりてやすまどよりうかゞものくらむなり 4 ひきこなすおとひくくなればちまたもんづ そのひととりこゑ起󠄃おきあがり うた女子むすめはみなひくくす 5 かかる人々ひと〴〵たかものおそおそろしきものおほ途󠄃みちにあり 巴旦杏はたんきやうはなくまたいなごもそのおもくそのよくすたひと永遠󠄄えいゑんいへにいたらんとすれば哭婦󠄃なきめちまたにゆきかふ 6 しかときにはしろかねひもこがねさらくだ吊瓶つるべいづみそばやぶ轆轤くるまかたはらわれ〘892㌻〙 7 しかしてちりもとごとくにつちかへ靈魂たましひはこれをさづけしかみにかへるべし 8 傳道󠄃でんだうしや空󠄃くう空󠄃くうなるかなみな空󠄃くうなり

9 また傳道󠄃でんだうしや智慧󠄄ちゑあるがゆゑつね知識ちしきたみをしへたり かれこゝろをもちひて尋󠄃たづきは許多あまた箴言しんげんつくれり 10 傳道󠄃でんだうしやつとめて佳美うるはし言詞ことばもとめたり そのかきしるしたるもの正直ただしくして眞實まこと言語ことばなり

11 智者ちしや言語ことばとげむちのごとく 會衆くわいしううちたるくぎのごとくにして 一人ひとり牧者ぼくしゃよりいでものなり 12 わが是等これらより訓誡いましめをうけよ おほしよをつくればはてしなし おほまなべばからだつか

13 こと全󠄃體ぜんたいする所󠄃ところきくべし いはかみおそれその誡命いましめまもこれすべてひとほん分󠄃ぶんたり 14 かみ一切すべて行爲わざならびに一切すべてかくれたることよしあしともに審判󠄄さばきたまふなり〘893㌻〙
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