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〘916㌻〙

第1章

1 ウヅのにヨブとなづくるひとあり 其人そのひとなり完全󠄃まつたくかつたゞしくしてかみおそあく遠󠄄とほざかる 2 そのうめものをとこにんをんなにん 3 その所󠄃有物もちものひつじせん 駱駝らくだぜん うしひやくくびき 牝驢馬めろばひやく しもべ夥多おびただしくあり 此人このひとひがしひとうちにてもつとおほいなるものなり 4 その子等こらおのおのおのれいへにておのれ宴筵ふるまひまうくることし その三にん姉妹しまいをもまねきてとも食󠄃飮くひのみせしむ 5 その宴筵ふるまひはつるごとにヨブかならずかれらをよびよせて潔󠄄きよすなは朝󠄃あさはやくかれ一切すべてかずにしたがひて燔祭はんさいさゝこれはヨブわがつみをかこゝろかみわすれたらんもしるべからずといひてなり ヨブのなすところつねかくのごとし

6 あるかみたちきたりてヱホバの前󠄃まへつ サタンもきたりてそのなかにあり 7 ヱホバ、サタンにいひたまひけるはなんぢ何處いづくよりきたりしや サタン、ヱホバにこたへていひけるはゆきめぐり此彼ここかしこあるきてきたれり 8 ヱホバ、サタンにいひたまひけるはなんぢこゝろをもちひてわがしもべヨブをしや かれのごとく完全󠄃まつたくかつたゞしくしてかみおそあく遠󠄄とほざかるひとにあらざるなり 9 サタン、ヱホバにこたへていひけるはヨブあにもとむることなくしてかみおそれんや 10 なんぢかれとそのいへおよびその一切すべて所󠄃有物もちもの周󠄃圍まはり藩屏まがきまうけたまふにあらずや なんぢかれがなすところをこと〴〵成就じやうじゆせしむるがゆゑにその所󠄃有物もちもの遍󠄃あまねし 11 されなんぢのべかれ一切すべて所󠄃有物もちものうちたまへ さらかならなんぢかほにむかひてなんぢのろはん 12 ヱホバ、サタンにいひたまひけるはかれ一切すべて所󠄃有物もちものなんぢまかたゞかれのなんぢをつくるなかれ サタンすなはちヱホバの前󠄃まへよりいでゆけり

 916㌻ 
13 あるヨブのむすこむすめそのだい一のあにいへにてもの食󠄃さけのみゐたるとき 14 使者つかひヨブのもときたりてうしたがへしをり牝驢馬めろばそのかたはら草食󠄃くさくひをりしに 15 シバびとおそひてこれうばやいばをもて少者わかきものうちころせり われただ一人ひとりのがれてなんぢつげんとてきたれりと 16 かれなほものいひをるうち又󠄂また一人ひとりきたりてかみてんよりくだりてひつじおよび少者わかきものやきほろぼせり われただ一人ひとりのがれてなんぢつげんとてきたれりと 17 かれなほものいひをるうち又󠄂また一人ひとりきたりてふ カルデヤびと三隊みくみ分󠄃わか駱駝らくだおそひてこれをうばやいばをもて少者わかきものうちころせりわれただ一人ひとりのがれてなんぢつげんとてきたれりと 18 かれなほものいひをるうち又󠄂また一人ひとりきたりてなんぢむすこむすめそのだい一のあにいへにてもの食󠄃さけのみをりしに〘708㌻〙 19 荒野あれのかたより大風おほかぜふきいへ四隅よすみうちければわか人々ひと〴〵うへつぶれおちてみなしねり われこれをなんぢつげんとてたゞ一人ひとりのがれきたれりと

20 こゝにおいてヨブ起󠄃たちあがり外衣うはぎかみふししてはい 21 われはだかにてはゝたいいでたり 又󠄂またはだかにて彼處かしこかへらん ヱホバあたへヱホバとりたまふなり ヱホバの御名みなほむべきかな 22 このことにおいてヨブは全󠄃まつたつみをかさずかみにむかひておろかなることをいはざりき

第2章

1 あるかみ子等こたちきたりてヱホバの前󠄃まへつ サタンもきたりそのなかにありてヱホバの前󠄃まへ 2 ヱホバ、サタンにいひたまひけるはなんぢ何處いづくよりきたりしや サタン、ヱホバにこたへていひけるはゆきめぐり此彼ここかしこあるきてきたれり 3 ヱホバ、サタンにいひたまひけるはなんぢこゝろをもちひてわがしもべヨブをしや かれのごとく完全󠄃まつたくかつたゞしくしてかみおそあく遠󠄄とほざかるひとにあらざるなり なんぢわれをすゝめてゆゑなきにかれ打惱うちなやまさしめしかどかれなほおのれまつたうしてみづかかたくす 4 サタン、ヱホバにこたへていひけるはかはをもてかはかふるなればひとはその一切すべて所󠄃有物もちものをもておのれ生命いのちふべし 5 されいまなんぢののべかれほねにくとをうちたまへ さらかならずなんぢかほにむかひてなんぢのろはん
 917㌻ 
6 ヱホバ、サタンにいひたまひけるはかれなんぢまかたゞかれの生命いのち害󠄅そこななかれと

7 サタンやがてヱホバの前󠄃まへよりいでゆきヨブをうちてそのあしうらよりいたゞきまでにあし腫物はれものしやうぜしむ 8 ヨブ土瓦やきもの碎片くだけそのをもて灰󠄃はひなかすわりぬ 9 ときにそのつまかれにいひけるはなんぢなほおのれまつたうしてみづかかたくするや かみのろひてしぬるにしかずと 10 しかるにかれはこれになんぢいふところはおろかなる婦󠄃をんないふところにたり われかみより福祉さいはひうくるなれば災禍わざはひをもまたうけざるをんやと 此事このことにおいてはヨブまつたくそのくちびるをもてつみをかさざりき

11 ときにヨブの三にんともこの一切すべて災禍わざはひかれのぞめるを各々おの〳〵おのれのところよりしてきたれり すなはちテマンびとエリパズ、シユヒびとビルダデおよびマアナびとゾパルこれなり かれらヨブをいたはりかつなぐさめんとてたがひやくしてきたりしが 12 あげはるかしにそのヨブなるを見識みしりがたきほどなりければひとしこゑあげおの〳〵おのれの外衣うはぎてんにむかひてちりまきおのれかしらうへにちらし 13 すなは七日なぬか七夜ななよかれとともしゐて 一言ひとことかれいひかくるものなかりき かれ苦惱くるしみはなはおほいなるをたればなり〘709㌻〙

第3章

1 かくのちヨブくちひらきて自己おのれのろへり 2 ヨブすなはち言詞ことばいだしていは 3 うまれしほろびうせよ 男子をのこはらにやどれりといひまたしかあれ 4 その暗󠄃くらくなれ かみうへよりこれを顧󠄃かへりみたまはざれ ひかりこれをてらなか 5 暗󠄃闇くらやみおよび死蔭しのかげこれをとりもどせ くもこれがうへをおほえ 暗󠄃くらくするものこれをおそれしめよ 6 その黑暗󠄃くらやみとらふる所󠄃ところとなれ としうちくははらざれ つきかずいらざれ 7 そのはらむことあらざれ 歡喜よろこびこゑそのうちおこらざれ 8 のろものレビヤタンを激發ふりおこすにたくみなるものこれをのろ 9 その晨星あけのほし暗󠄃くらかれ そのには光明ひかり望󠄇のぞむもざらしめ 又󠄂また東雲しののめ眼蓋まぶたざらしめよ 10 わがはゝはらとぢずまたわがうれへることなからしめざりしによる 11 なにとてわれはらよりしにいでざりしや なにとてはらよりいでとき氣息いきたえざりしや
 918㌻ 
12 如何いかなればひざありてわれをうけしや 如何いかなれば乳󠄃房ちぶさありてわれを養󠄄やしなひしや 13 しからずばいまわれふしやすんじかつねむらん さらばこのやすらひをり 14 かの荒墟あれつか自己おのれのためにきづきたりしきみたちおみたちともにあり 15 かの黄金こがね白銀しろがねいへみたしたりし牧伯つかさたちともにあらん 16 又󠄂またひとしれずおり胎兒はらごのごとくにしていでず またひかりざる赤子あかごのごとくならん 17 彼處かしこにてはあしもの 虐󠄃遇󠄃しへたげ倦憊うみつかれたるもの安息やすみ 18 彼處かしこにては俘囚人とらはれびとみなとも安然やすらかりて驅使者おひつかふものこゑきか 19 ちひさものおほいなるものおなじく彼處かしこにありしもべぬしはな 20 如何いかなれば艱難なやみにをるものひかりたまこゝろくるしむもの生命いのちをたまひしや 21 かゝもの望󠄇のぞむなれどもきたらず これをもとむるはかくれたるたからるよりもはなはだし 22 もし墳墓はか尋󠄃たづねておほいよろこびたのしむなり 23 その道󠄃みちかくれかみ取籠とりこめられをるひと如何いかなれば光明ひかりたまふや 24 わが歎息なげきはわが食󠄃物くひものかはわが呻吟うめきみづながれそそぐにたり 25 戰慄をののおそれしものわれのぞ怖懼おぢおそれたるものこのおよべり 26 われ安然やすらかならずおだやかならず安息やすみたゞ艱難なやみのみきたる

第4章

1 ときにテマンびとエリパズこたへていは 2 ひともしなんぢにむかひて言詞ことばいださばなんぢこれをいとふや さりながらたれいは忍󠄄しのぶことをんや 3 さきになんぢ衆多おほくひとをしさとせり たれたるものをばこれをつよくし 4 つまづくものをばことばをもてたすけおこし ひざ弱󠄃よわりたるものつよくせり〘710㌻〙 5 しかるにいまこのことなんぢのぞめばなんぢもだえ このことなんぢにくははればなんぢおぢまどふ 6 なんぢかみかしこめり これなんぢの依賴よりたの所󠄃ところならずや なんぢはその道󠄃みち全󠄃まつたうせり これなんぢの望󠄇のぞみならずや 7 請󠄃おもたれつみなくしてほろびしものあらん ただしきものたゝれしこといづくにあり 8 われ所󠄃ところによれば不義ふぎたがへしあくものはその所󠄃ところまたかくのごとし 9 みなかみ氣吹いぶきによりてほろびそのはないきによりて消󠄃きえうす
 919㌻ 
10 獅子しゝほえ たけ獅子しゝこゑともにわか獅子しゝきば 11 おほ獅子じしものなくしてほろ小獅子こじし散失ちりう 12 前󠄃さきことばひそかわれのぞめるありてわれその細聲ささやきみゝきゝたり 13 すなはひと熟睡うまいするころわれ異象まぼろしによりておもわづらひをりけるとき 14 恐懼おそれをもよほして戰慄をのの骨節󠄄ほねぶしことごとくふる 15 ときれいありてわがかほ前󠄃まへ過󠄃すぎければわれよだちたり 16 そのものたちとまりしがわれはそのさまわかつことえざりき たゞひとつものかたちわが前󠄃まへにあり ときわれしづかなるこゑけりいは 17 ひといかでかみより正義ただしからんや ひといかでその造󠄃主つくりぬしより潔󠄄きよからんや 18 かれはそのしもべをさへにたのみたまはず その使者つかひをもたらもの見做みなしたまふ 19 いはんやつちいへ住󠄃すみをりてちりもとゐとし蜉蝣かげらふのごとくほろぶるものをや 20 これ朝󠄃あさよりゆふまでのあひだほろびかへりみるものもなくしてなが失逝󠄃うせさ 21 そのたまあにたえざらんやみなさとることなくしてしにうす

第5章

1 請󠄃ふなんぢびてたれなんぢこたふるものありや 聖󠄄者きよきものうちにてたれなんぢむかはんとするや 2 それおろかなるもの憤恨いきどほりのためにころつたなもの嫉媢ねたみのためにおのれしなしむ 3 われみづからおろかなるもののそのるをたりしがすみやかにそのいへのろへり 4 その子等こども助援たすけることなく もんにてなやまさる これすくものなし 5 そのかりとれるものうゑたるひとこれを食󠄃くら荊棘いばらまがきうちにありてもなほこれうばひいだし わなをその所󠄃有物もちものにむかひてくち 6 災禍わざはひちりより起󠄃おこらず 艱難なやみつちよりいで 7 ひとうまれて艱難なやみをうくるはかみとぶがごとし 8 もしわれならんにはわれかならずかみつげもとわがことかみまかせん 9 かみおほいにしてはかりがたきことおこなひたまふ その不思議ふしぎなるわざなしたまふことかずしれず 10 あめうへふらみづ遣󠄃おく 11 ひくものたかうれふるものひきおこして幸福さいはひならしめたまふ 12 かみさかしきもの謀計はかりごとやぶこれをして何事なにごとをもその成就なしとぐることあたはざらしめ
 920㌻ 
13 慧󠄄かしこものをその自分󠄃みづから詭計たくみによりてとらよこしまなるもの謀計はかりごとをしてやぶれしむ〘711㌻〙 14 かれらはひる暗󠄃黑くらき遇󠄃卓午まひるにもよるごとくにさぐまどはん 15 かみなやめるものすくひてかれらがくちつるぎまぬかれしめ つよものまぬかれしめたまふ 16 こゝをもて弱󠄃よわもの望󠄇のぞみあり あしものくち 17 かみこらしたまふひと幸福さいはひなり されなんぢ全󠄃能者ぜんのうしや儆責いましめかろんずるなか 18 かみきづつ又󠄂またつゝうちていため又󠄂またそのをもてぜんいやしたまふ 19 かれはなんぢをむつ艱難なやみうちにてすくひたまふ ななつうちにても災禍わざはひなんぢにのぞまじ 20 饑饉ききんときにはなんぢをすくひてまぬかれしめ 戰爭いくさときにはつるぎまぬかれしめたまふ 21 なんぢしたにてむちうたるるときにもかくるることを 壞滅ほろびきたときにもおそるることあら 22 なんぢ壞滅ほろび饑饉ききんわらけものをもおそるることなかるべし 23 田野でんやいしなんぢとあひむすけものなんぢとやはらがん 24 なんぢはおのが幕屋まくや安然やすらかなるをしらなんぢ住󠄃處すみかまはるにかけたるものなからん 25 なんぢまたなんぢ子等こどもおほくなり なんぢすゑくさごとくになるをしら 26 なんぢ遐齡よきよはひにおよびてはかにいらん 宛然あたかも麥束むぎたばときにいたりて運󠄃はこびあぐるごとくなるべし 27 われらが尋󠄃たづあきらめし所󠄃ところかくのごとし なんぢこれをきゝみづかれよ

第6章

1 ヨブこたへていは 2 ねがはくはわが憤恨いきどほりはかられ わが懊惱なやみこれとむかひて天秤はかりかけられんことを 3 すればこれうみすなよりもおもからん かゝればこそわがことば躁妄みだりなりけれ 4 それ全󠄃能者ぜんのうしやわがにいりわが魂神たましひそのどくのめかみ畏怖おそれわれおそ 5 野驢馬のろばあに靑草あをくさあるになかんや うしあに食󠄃物くひものあるにうならんや 6 あはものあにしほなくして食󠄃くらはれんや たまごしろみあにあじはひあらんや 7 わがこゝろふるることを嫌󠄃きらものこれいと所󠄃ところ食󠄃物くひもののごとし 8 ねがはくはわがもとむる所󠄃ところんことをねがはくはかみわがこひねが所󠄃ところものわれたまはらんことを 9 ねがはくはかみわれをほろぼすをよしとし 御手みてのべわれたちたまはんことを
 921㌻ 
10 しかるともわれなほみづからなぐさむる所󠄃ところあり はげしき苦痛くるしみなかにありてよろこばん われ聖󠄄者きよきものことばもとりしことなければなり 11 われなに氣力ちからありてかなほまたわれ終󠄃をはりいかなればわれなほこら忍󠄄しのばんや 12 わが氣力ちからあにいし氣力ちからのごとくならんや わがにくあにあかがねのごとくならんや 13 わがたすけわれのうちなきにあらずや 救拯すくひわれより逐󠄃おひはなされしにあらずや 14 憂患うれひにしづむものはそのともこれをあはれむべし しからずば全󠄃能者ぜんのうしやおそるることをやめ 15 わが兄弟きやうだいはわが望󠄇のぞみみたさざること溪川たにがはのごとく 溪川たにがはながれのごとくに過󠄃すぎさる 16 これこほりのためにくろくなり 雪󠄃ゆきそのうちかくるれども 17 溫暖あたたかになるとき消󠄃きえゆきあつくなるにおよびてはそのところたえはつ〘712㌻〙 18 隊旅客くみたびびとをめぐらして空󠄃曠處むなしきところにいたりてほろ 19 テマの隊旅客くみたびびとこれを望󠄇のぞみシバの旅客たびゞとこれをした 20 彼等かれらこれを望󠄇のぞみしによりて愧恥はぢ彼處かしこいたりてそのかほあかくす 21 かく汝等なんぢらいまむなしきものなり なんぢらはおそろしきことればすなはおそ 22 われあに汝等なんぢらわれあたへよといひしことあらんや なんぢらの所󠄃有物もちものうちよりものとりわがためにおくれといひしことあらんや 23 また敵人あだびとよりわれすくいだせといひしことあらんや 虐󠄃しへたぐるものよりわれあがなへといひしことあらんや 24 われをしへよ しからばわれもくせん 請󠄃われ過󠄃あやまてる所󠄃ところしらせよ 25 たゞしきことば如何いかちからあるものぞ さりながらなんぢらの規諫いましむ所󠄃ところなに規諫いましめとならんや 26 なんぢらはことば規正いましめんとおもふや 望󠄇のぞみたえたるものかた所󠄃ところかぜのごときなり 27 なんぢらは孤子みなしごのためにくじなんぢらのともをも商貨あきなひものにするならん 28 いまねがはくはわれむかわれなんぢらのかほ前󠄃まへいつはらず 29 請󠄃ふたゝびせよ 不義ふぎあらしむるなか請󠄃ふたゝびせよ 此事このことにおいてはわれ正義たゞ 30 わがした不義ふぎあらんや わがくちあしものわきまへざらんや

第7章

1 それひとにあるは戰鬪たたかひにあるがごとくならずや 又󠄂またその傭人やとひびとのごとくなるにあらずや
 922㌻ 
2 奴僕しもべくれこひねがふがごと傭人やとひびとのそのあたひ望󠄇のぞむがごとく 3 われくるしきつきさせられ うれはしきをあたへらる 4 われふせすなはち何時いつあけてわれおきいでんかと あけぼのまでしきり輾轉まろ 5 わがにくむし土塊つちくれとを衣服󠄃ころもとなし わがかはいえてまたくさ 6 わがはたよりも迅󠄄速󠄃すみやかなり われ望󠄇のぞ所󠄃ところなくしこれ送󠄃おく 7 おもよ わが生命いのち氣息いきなる而已のみ わがふたゝ福祉さいはひることあら 8 われものまなこかさねてわれざらん なんぢわれにむくるもわれすであらざるべし 9 くも消󠄃きえ逝󠄃さるがごとく陰府よみくだれるものかさねてのぼりきたらじ 10 かれふたゝびそのいへかへらず かれ郷里ふるさと最早もはやかれを認󠄃みとめじ 11 されわれはわがくちとどめず わがこゝろいたみによりてものいひ わが神魂たましひくるしきによりてなげかん 12 われあにうみならんやわにならんや なんぢなにとてわれまもらせおきたまふぞ 13 わがとこわれをなぐさめ わが寢床ねどこわがうれへとかんとおもひをるとき 14 なんぢゆめをもてわれおどろかし 異象まぼろしをもてわれおそれしめたまふ 15 こゝをもてわがこゝろ氣息いきとぢんことをねがわがこのほねよりもこひねがふ 16 われ生命いのちいとわれながいくることをねがはず われすておきたまへ わがいきのごときなり〘713㌻〙 17 ひと如何いかなるものとしてなんぢこれをおほいにし これこゝろとめ 18 朝󠄃あさごとにこれそなはし ときわかずこれこゝろみたまふや 19 何時いつまでなんぢわれにはなさず われすておきたまはざるや 20 ひとかんがみたまふものわれつみをかしたりとてなんぢなにをかなさなんわれなんぢまととなしてわれにこのいとはしめたまふや 21 なんぢなんぞわれとがゆるさずわがつみのぞきたまはざるや われいまつちなかねむらん なんぢわれ尋󠄃たづねたまふともわれあらざるべし

第8章

1 ときにシユヒびとビルダデこたへていは 2 何時いつまでなんぢかかることいふ何時いつまでなんぢくち言語ことば大風おほかぜのごとくにするや 3 かみあに審判󠄄さばきまげたまはんや 全󠄃能者ぜんのうしやあに公義こうぎまげたまはんや 4 なんぢ子等こどもかれにつみたるにやこれをそのとがわたしたまへり
 923㌻ 
5 なんぢもしかみもと全󠄃能者ぜんのうしやいの 6 きよくかつたゞしうしてあらばかならいまなんぢ顧󠄃かへりなんぢただしいへさかえしめたまはん 7 しからばなんぢはじめ微小ちひさくあるともなんぢ終󠄃をはりはなはおほいならん 8 請󠄃なんぢ過󠄃すぎにしひとかれらの父󠄃祖ふそ尋󠄃究たづねきはめしところのことまな 9われらは昨日きのふよりありしのみにてなにをもしらわれらがにあるかげのごとし) 10 彼等かれらなんぢををしなんぢさとことばをそのこゝろよりいださざらんや 11 あしあにどろなくしてのびんや をぎあにみづなくしてそだたんや 12 これはそのあをくしていまからざるときにもほか一切すべてくさよりははや 13 かみわするるもの道󠄃みちすべかくのごとく もともの望󠄇のぞみ空󠄃むなしくなる 14 そのたの所󠄃ところたゝれ そのよるところは蜘蛛網くものすのごとし 15 そのいへよりかからんとすればいへたゝこれかたくとりすがるもたもたじ 16 かれ前󠄃まへ靑緑みどりあらはし そのえだその蔓延はびこらせ 17 その石堆いしづかからみていしいへながむれども 18 もしそのところよりとりのぞかれなばそのところこれを認󠄃みとめずしてわれなんぢたることなしといは 19 よその道󠄃みち喜樂たのしみかくのごとし しかしてまたほかものよりはえいでん 20 それかみ完全󠄃まつたきひとすてたまはず またあしものりたまはず 21 遂󠄅つひ哂笑わらひをもてなんぢくちみた歡喜よろこびなんぢくちびるおきたまはん 22 なんぢにくもの羞恥はぢせられ あしもの住󠄃所󠄃すみかなくなるべし

第9章

1 ヨブこたへていひけるは 2 われまことにそのことしかるをしれひといかでかかみ前󠄃まへただしかるべけん 3 よしひとかみ辨爭あらそはんとするともせんひとつこたふることあたはざるべし 4 かみこゝろ慧󠄄かしこちからつよくましますなり たれかみ逆󠄃さからひてそのやすからんや〘714㌻〙 5 かれやまうつしたまふにやましらず かれ震怒いかりをもてこれ飜倒くつがへしたまふ 6 かれふるひてその所󠄃ところはなれしめたまへばそのはしらゆるぐ 7 めいじたまへばいでず 又󠄂また星辰ほしふうじたまふ 8 たゞかれひとりてんうみなみふみたまふ
 924㌻ 
9 また北斗ほくと參宿しんしゆく昴宿ばうしゆくおよび南方なんぽう密室みつしつ造󠄃つくりたまふ 10 おほいなることおこなひたまふことはかられずくすしきわざなしたまふことかずしれず 11 かれわが前󠄃まへ過󠄃すぎたまふ しかるにわれこれをかれすすみゆきたましかるにわれこれさとら 12 かれうばさりたまたれあたこれはばまん たれこれなんぢなになすやといふことを 13 かみその震怒いかりやめたまはず ラハブをたすくものどもこれしたかが 14 されわれいかでかれ回答こたへなすことをいかでわれことば選󠄄えらびてかれあげつらことをえんや 15 假令たとひわれただしかるともかれ回答こたへをせじ かれわれ審判󠄄さばものなればわれかれなげもとめ 16 假令たとへわれかれよびかれわれにこたへたまふともわがことばきゝいれたまひしとはわれしんぜざるなり 17 かれ大風おほかぜをもてわれ擊碎うちくだゆゑなくしてわれ衆多おほくきず負󠄅おは 18 われいきをつかさしめず にがことをもてわがみたたま 19 つよもの力量ちからいはんか こゝにあり 審判󠄄さばきことならんか たれわれよびいだすことを 20 假令たとひわれただしかるともわがくちわれをあししとなさ假令たとひわれ完全󠄃まつたかるともなほわれをつみありとせん 21 われ全󠄃まつたしかれどもわれはわがこゝろしらわが生命いのちいやし 22 みな同一ひとつなり ゆゑわれかみ完全󠄃まつたきものあしきものとをしくほろぼしたまふと 23 災禍わざはひ俄然にはかひところごとことあればかれつみなきもの苦痛くるしみわらたまふ 24 あしものわたされてあり かれまたその裁判󠄄さばきびとかほおほひたまふ もしかれならずばこれたれ行爲わざなるや 25 わが驛使はゆまづかひよりも迅󠄄はやたゞ過󠄃すぎさりて福祉さいはひ 26 はしること葦舟あしぶねのごとく ものつかまんとてとびかけるわしのごとし 27 たとひわれわがうれひわす面色かほいろあらためてわらひをらんとおもふとも 28 なほこのもろ〳〵苦痛くつうのために戰慄ふるひをののくなり われおもふになんぢわれをゆるはなちたまはざらん 29 われつみありとせらるるなればなん徒然いたづららうすべけんや 30 われ雪󠄃ゆきみづをもてあら灰󠄃汁あくをもて潔󠄄きよむるとも 31 なんぢわれをけがらはしき穴󠄄あななかおとしいれたまはん しかしてわがころもわれいとふにいたらん 32 かみわれのごとくひとにあらざればわれかれにこたふべからず われ二箇ふたりしてとも裁判󠄄さばきのぞむべからず
 925㌻ 
33 またわれらのあひだにはわれ二箇ふたりうへおくべき仲保ちうほうあらず 34 ねがはくはかれそのつゑわれよりとりはなし その震怒いかりをもてわれおそれしめたまはざれ 35 しからばわれ 言語ものいひかれおそれざらん われみづからかゝものおもはざればなり〘715㌻〙

第10章

1 わがこゝろ生命いのちいとされわれわが憂愁うれへつゝまずいひあらはし わが魂神たましひくるしきによりてものいはん 2 われかみまうさん われつみありしとしたまふなか何故なにゆゑわれとあらそふかをわれしめしたまへ 3 なんぢ虐󠄃遇󠄃しへたげなんぢわざうちすてあしもの謀計はかりごとてらすことをよしとしたまふや 4 なんぢ肉眼にくがんもちたまふや なんぢたまふ所󠄃ところひとるがごとくなるや 5 なんぢの人間にんげんのごとく なんぢとしひとのごとくなるや 6 なにとてなんぢわがとが尋󠄃たづねわがつみをしらべたまふや 7 されどもなんぢはすでにわれつみなきをしりたまふ またなんぢよりすくひいだしものなし 8 なんぢわれをいとなみわれをことごとくつくれり しかるになんぢいまわれをほろぼしたまふなり 9 請󠄃記念おぼえたまへ なんぢ土塊つちくれをもてすてるがごとくにわれつくりたまへり しかるにまたわれをちりかへさんとしたまふや 10 なんぢわれ乳󠄃ちゝのごとくそゝ牛酪ぎうらくのごとくにこらしめたまひしにあらずや 11 なんぢかはにくとをわれほねすぢとをもてわれ 12 生命いのち恩惠めぐみとをわれにさづわれ眷顧󠄃かへりみてわが魂神たましひまもりたまへり 13 しかはあれどなんぢこれらのことこゝろかくしおきたまへり われこのことなんぢこゝろにあるを 14 われもしつみをかさばなんぢわれをみとめてわがつみゆるしたまはじ 15 われもし行狀おこなひあしからばわざはひあらん 假令たとひわれただしかるともわれかうべあげわれうち羞耻はぢにわが患難なやみればなり 16 もしかうべあげなば獅子しゝのごとくになんぢわれを追󠄃おひわがうへまたなんぢのくすしき能力ちからをあらはしたまはん 17 なんぢはしばしばあかしするものいれかへてわれわれにむかひてなんぢ震怒いかり新手あらて新手あらてくはへてわれめたまふ 18 なにとてなんぢわれをはらよりいだしたまひしや しからずばわれいきらるること 19 かつあらざりしごとくならん すなはわれはらよりはかもちゆかれん
 926㌻ 
20 わが幾時いくばくきにあらずや ねがはくはかれしばらくやめわれはなわれをしてすこしくやすんぜしめんことを 21 ゆきまた返󠄄かへることなきそのさきだかくあらしめよ われ暗󠄃くらかげゆか 22 この暗󠄃くらくして晦冥やみひとしくかげにして區分󠄃わいだめなし 彼處かしこにては光明ひかり黑暗󠄃くらやみのごとし

第11章

1 こゝにおいてナアマびとゾパルこたへていひけるは 2 言語ことばおほからばあにこたへざるをんや くちおほきひとあにただしとせられんや 3 なんぢ空󠄃むなしきことばあにひとをしてくちとぢしめんや なんぢあざけらばひとなんぢをしてはぢしめざらんや 4 なんぢわがをしへたゞわれなんぢ前󠄃まへ潔󠄄きよしと 5 ねがはくはかみことばいだなんぢにむかひてくちひら〘716㌻〙 6 智慧󠄄ちゑ祕密ひみつをなんぢにしめしてその知識ちしきあひばいするをあらはしたまはんことを なんぢしれかみはなんぢのつみよりもかろくなんぢを處置しよちしたまふなり 7 なんぢかみ深事ふかきこときはむるをんや 全󠄃能者ぜんのうしや全󠄃まつたきはむることをんや 8 そのたかきことはてんのごとし なんぢなにをんや そのふかきことは陰府よみのごとし なんぢなにをしりえんや 9 そのりやうよりもながうみよりもひろ 10 かれもしゆきめぐりてひととらへて召集めしあつめたまふときたれくこれをはばまんや 11 かれいつはひとりたまふ 又󠄂また惡事あくじ顧󠄃かへりみることなくしてしりたまふなり 12 むなしきひと悟性さとりなし そのうまるるよりして野驢馬のろばこまのごとし 13 なんぢもしかれにむかひてなんぢこゝろさだなんぢ 14 つみのあらんにはこれ遠󠄄とほあくをなんぢの幕屋まくやとどむるなか 15 すればなんぢ かほあげきずなかるべくかたおそるることなかるべし 16 すなはちなんぢ憂愁うれひわすれん なんぢのこれをおもゆることはながさりみづのごとくならん 17 なんぢの生存いきながらふる眞晝まひるよりもかがやかん 假令たとひ暗󠄃くらことあるともこれ平󠄃旦あしたのごとくならん 18 なんぢは望󠄇のぞみあるによりやすんじ なんぢ周󠄃圍まはりめぐりて安然やすらかいぬるにいたらん
 927㌻ 
19 なんぢはなににもおそれさせらるることなくしてふしやまん かなら衆多おほくものなんぢをよろこばせんとつとむべし 20 されあしものくら逃󠄄遁處のがれどころうしなはん その望󠄇のぞみいきたゆるとひとしかるべし

第12章

1 ヨブこたへて 2 なんぢら而已のみまことにひとなり 智慧󠄄ちゑなんぢらとともしな 3 われもなんぢらとおなじくこゝろあり われはなんぢらのしたたゝたれなんぢらのいひごとことしらざらんや 4 われかみよばはりてきかるるものなるにいまそのともあざけらるるものとなれり 嗚呼あゝたゞしくかつまつたきひとあざけらる 5 安逸やすらかなるものおも輕侮あなどり不幸ふしあはせなるものつきそひあしのよろめくものまつ 6 掠奪かすめうばものてんまく繁榮さかかみいからせ自己おのれかみたづさふるもの安泰やすらかなり 7 いま請󠄃けものさらなんぢをしへん 天空󠄃そらとりさらばなんぢにかたらん 8 さらばなんぢにをしへん うみうをもまたなんぢ述󠄃のぶべし 9 たれかこの一切すべてものよりてヱホバののこれをつくりしなるをしらざらんや 10 一切すべて生物いきもの生氣いのちおよび一切すべてひと靈魂たましひともにかれうちにあり 11 みゝ説話ことばわきまへざらんや そのさまあたかもくち食󠄃物くひものあじはふがごとし 12 おいたるものうちには智慧󠄄ちゑあり 壽長者いのちながきものうちには頴悟さとりあり 13 智慧󠄄ちゑ權能ちからかみ智謀ちぼう頴悟さとりかれぞく 14 かれこぼてばふたゝたつることあたはず かれひととぢこむればひらいだすことを 15 かれみづとゞむればすなはみづいだせばすなはほろぼす〘717㌻〙 16 權能ちから頴悟さとりかれまどはさるるものまどはすものともかれぞく 17 かれ議士ぎし裸體はだかにしてとらへゆき 審判󠄄人さばきびとをしておろかなるものとならしめ 18 わうたち權威いきほひときかへつこれこしなはをかけ 19 祭司さいしたち裸體はだかにしてとらへゆき 權力ちからあるものほろぼし 20 ことばさわやかなるもの言語ことばとりのぞおいたるもの了知さとりうば 21 侯伯きみたる者等ものども恥辱はぢかうむらせ つよものおび 22 暗󠄃中くらきうちよりかくれたる事等ことどもあらはかげ光明ひかりいだ
 928㌻ 
23 國々くに〴〵おほいにしまたこれほろぼし 國々くに〴〵ひろくしまたこれもとかへ 24 たみかしらたる者等ものども了知さとりうばひ これをみちなき荒野あれの吟行さまよはしむ 25 かれらは光明ひかりなき暗󠄃やみにたどる かれまたかれらをよへひとのごとくによろめかしむ

第13章

1 よわがこれをこと〴〵 わがみゝこれをきゝ通󠄃逹さとれり 2 なんぢらがるところはわれもこれをわれなんぢらに劣らず 3 しかりといへどもわれ全󠄃能者ぜんのうしやものいはわれかみろんぜんことをのぞむ 4 なんぢらはたゞ謊言いつはり造󠄃つくまうくるもの なんぢらはみな無用むよう醫師くすしなり 5 ねがはくはなんぢ全󠄃まつたもくせよ しかするはなんぢらの智慧󠄄ちゑなるべし 6 請󠄃ふわがろんずる所󠄃ところくちびるにて辨爭いひあらそ所󠄃ところ 7 かみのためになんぢあしこといふ又󠄂またかれのために虛僞いつはり述󠄃のぶるや 8 なんぢかみため偏󠄃かたよるや またかれのためにあらそはんとするや 9 かみもしなんぢらを鑒察しらべたまはばあによからんや 汝等なんぢらひとあざむくごとくにかれあざむきんや 10 汝等なんぢらもしひそかわたくしするあらばかれかならずなんぢらをせめ 11 その威光ゐくわうなんぢらをおそれしめざらんや かれおそるる畏懼おそれなんぢらにのぞまざらんや 12 なんぢらの諭言さとし灰󠄃はひたとふべし なんぢらのしろつちしろとなる 13 もくしてわれにかかはらざれ われ言語ものいはんとす 何事なにごとにもあれわれきたらばきた 14 われなんぞわがにくをわがあひだき わが生命いのちをわがかんや 15 かれわれをころすともわれかれ依賴よりたのまん たゞわれは吾道󠄃わがみちかれ前󠄃まへあきらかにせんとす 16 かれまた終󠄃つひわが救拯すくひとならん 邪曲よこしまなるものかれ前󠄃まへにいたることあたはざればなり 17 なんぢらきけわがことば述󠄃のぶ所󠄃ところをなんぢらのみゝいらしめよ 18 われすでにわがこと言竝いひならべたり かならたゞしとせられんとみづか 19 たれよくわれと辨論いひあらそものあらん もしあらばわれくちとぢしな 20 たゞわれにふたつことなしたまはざれ さらわれなんぢのかほをさけてかくれじ 21 なんぢのわれよりはなしたまへ なんぢ威嚴ゐげんをもてわれおそれしめたまはざれ 22 しかしてなんぢわれをめしたまへ われこたへん 又󠄂またわれにもものいはしめてなんぢわれにこたへたまへ〘718㌻〙 23 われとがわれのつみいくばくなるや われ背反そむきつみとをわれしらしめたまへ
 929㌻ 
24 なにとて御顏みかほかくわれをもてなんぢてきとなしたまふや 25 なんぢはふきまはさるるおどたてあがりたる籾殼もみがら追󠄃おひたまふや 26 なんぢわれにつきてにが事等ことどもかきしるし われをして幼稚時いとけなきときつみ負󠄅おはしめ 27 わがあし足械あしがせにはめ わがすべての道󠄃みちうかがわがあし周󠄃圍まはり限界かぎりをつけたまふ 28 われくされたるもののごとくにくちゆき むし食󠄃くはるる衣服󠄃ころもひと

第14章

1 婦󠄃をんなひとはそのすくなくして艱難なやみおほ 2 そのきたることはなのごとくにしてそのはすることかげのごとくにしてとゞまらず 3 なんぢかくのごときものなんぢひらきたまふや なんぢわれをなんぢ前󠄃まへにひきて審判󠄄さばきしたまふや 4 たれきよものけがれたるものうちよりいだものあらん 一人ひとり 5 そのすでさだまり そのつきかずなんぢになんぢこれが區域さかひたてこえざらしめたまふなれば 6 これはなして安息やすみさせ これをして傭人やとひびとのそのたのしむがごとくならしめたまへ 7 それには望󠄇のぞみあり 假令たとひきらるるともまたいだしてそのえだたえ 8 たとひそのなかみきつちかるるとも 9 みづ潤霑うるほしにあへばすなはをふきえだいだして若樹わかきことならず 10 されひとしぬれば消󠄃きえうす ひといきたえなばいづくあらんや 11 みづうみかはかれてかわく 12 かくのごとくひと寢臥いねふしてまたおきてんつくるまでさめ睡眠ねむりさまさざるなり 13 ねがはくはなんぢわれを陰府よみかくなんぢ震怒いかりむまでわれおほわがためにときさだしかしてわれおもひたまへ 14 ひともししなばまたいきんや われはわが征戰いくさしよにちあひだ望󠄇のぞみをりて變更かはりきたるをまた 15 なんぢわれよびたまはん しかしてわれこたへん なんぢかならずなんぢわざ顧󠄃かへりみたまはん 16 いまなんぢはわれ步履あゆみかぞへたまふ わがつみなんぢうかがひたまはざらんや 17 わがとがすべふくろなかふうじてありなんぢわがつみ縫󠄃ぬひこめたまふ
 930㌻ 
18 それやまたふれて終󠄃つひ崩󠄃くづ巖石いはほうつりてそのところはな 19 みづいしうがなみちりおしながなんぢひと望󠄇のぞみたちたまふ 20 なんぢはかれながせめなやましてさりゆかしめ かれ面容かほかたちかはらせて逐󠄃おひやりたまふ 21 その尊󠄅貴たふとくなるもかれこれしら卑賤いやしくなるもまたこれさとらざるなり 22 たゞおのれみづからそのにく痛苦いたみおぼおのれみづからそのこゝろなげ而已のみ

第15章

1 テマンびとエリパズこたへていは 2 智者ちしやあにむなしき知識ちしきをもてこたへんやあに東風ひがしかぜをそのはらみたさんや 3 あにたすけなきはなしえきなきことばをもて辨論あげつらはんや 4 まことになんぢかみおそるることて その前󠄃まへいのることをとゞ〘719㌻〙 5 なんぢのつみなんぢのくちをしなんぢはみづからえらびて狡猾人さかしらびとしたもち 6 なんぢのくちみづからなんぢつみさだわれにはあらなんぢくちびるなんぢのあしきをあかし 7 なんぢあに最初いやさきうまれたるひとならんや やまよりも前󠄃さき出來いできしならんや 8 かみ御謀議みはかりきゝしならんや 智慧󠄄ちゑひとりにてをさめをらんや 9 なんぢが所󠄃ところわれらもしらざらんや なんぢさとるところはわれらのこゝろにもあらざらんや 10 われらのなかには白髮しらがひとおよびおいたるひとありてなんぢ父󠄃ちゝよりもとしたか 11 かみ慰藉なぐさめおよびやはらかき言詞ことばなんぢちひさしとするや 12 なんぢなんぞかくこゝろくるふや なんぞかくをしばたたくや 13 なんぢかくのごとくかみむかひてをいらだて かゝ言詞ことばをなんぢのくちよりいだすは如何いかにぞや 14 ひと如何いかなるもの如何いかにしてか潔󠄄きよからん 婦󠄃をんなうみもの如何いかなるもの如何いかにしてかただしからん 15 それかみはその聖󠄄者きよきものにすらしんおきたまはず もろ〳〵てんもその前󠄃まへには潔󠄄きよからざるなり 16 いはんやつみることみづのむがごとくする憎にくむべきけがれたるひとをや 17 われなんぢにかた所󠄃ところあらん きけわれたる所󠄃ところ述󠄃のべ 18 これすなはち智者ちしやたち父󠄃祖ふそよりうけかくすところつたものなり 19 かれらに而已のみこのさづけられて外國人とつくにびと彼等かれらうち徃來ゆききせしことなかりき 20 あしひとはそのいけあひだつねにもだくるしむ 强暴人あらきひととしかぞへてさだめおかる
 931㌻ 
21 そのみゝにはつね懼怖おそろしき音󠄃おときこえ平󠄃安へいあんときにもほろぼすものこれにのぞ 22 かれ幽暗󠄃くらやみいでるとはしんぜず ざされてつるぎわたさる 23 かれ食󠄃物くひもの何處いづくにありやといひつつ尋󠄃たづねありき 黑暗󠄃日くらきひそなへられておのれわきにあるを 24 患難なやみ苦痛くるしみとはかれをおそれしめ 戰鬪たたかひ準備そなへをなせるわうのごとくしてかれうち勝󠄃かち 25 かれのべかみてきたかぶりて全󠄃能者ぜんのうしやもと 26 うなじこはくし あつたておもてむけこれはせかかり 27 かほにく滿みたこしあぶらこら 28 あらされたる邑々まち〳〵住󠄃居すまひまうけてひと住󠄃すむべからざるいへ 石堆いしづかとなるべき所󠄃ところ 29 是故このゆえかれとまず その貨物たからながたもたず その所󠄃有物もちもの蔓延ひろがら 30 また自己おのれ黑暗󠄃くらやみづるにいたらず 火燄ほのほそのえだからさん しかしてそのかみくち氣吹いぶきによりてうせゆかん 31 かれ虛妄むなしきことたのみてみづかあざむくべからず そのむくい虛妄むなしきことなるべければなり 32 かれきたらざるさきそのことなるべし かれえだみどりならじ 33 かれ葡萄ぶだうのそのじゆくせざるふりおとすがごとく 橄欖かんらんのそのはなおとすがごとくなるべし 34 邪曲よこしまなるもの宗族やから零落おちぶ賄賂まひなひいへやけ 35 彼等かれら惡念あしきおもひはら虛妄むなしきことみ そのはらにて詭計いつはり調ととの〘720㌻〙

第16章

1 ヨブこたへていは 2 かゝことわれおほくきけなんぢらはみなひとなぐさめんとしてかへつてひとわづらはすものなり 3 むなしき言語ことばあに終󠄃極はてしあらんや なんぢなににはげまされて應答こたへをなすや 4 われもまたなんぢらのごとくにいふことを もしなんぢらのわがところかへなばわれ言語ことばねりなんぢらをなんぢらにむかひてかしらふることを 5 またくちをもてなんぢらをつよくし くちびる慰藉なぐさめをもてなんぢらの憂愁うれへとくことをるなり 6 たとひわれことばいだすともわが憂愁うれへとけもくするとてもなんわがやすくなることあらんや 7 かれいますでわれつからしむ なんぢわが宗族やからをことごとくあらせり 8 なんぢわれをしてしわよらしめたり これわれにむかひて見證あかしをなすなり 又󠄂またわがやせおとろへたる狀貌すがたわがかほ前󠄃まへあらはれたちわれ
 932㌻ 
9 かれいかりてわれを撕裂かきさきかつくるしめ われにむかひて噛鳴かみならわがてきとなりとくしてわれ 10 かれわれにむかひてくちわれいやしめてわがほゝあひあつまりてわれ 11 かみわれを邪曲よこしまなるものわたあしものなげうちたまへり 12 われ安穩やすらかなるなりしにかれいたくわれ打惱うちなやままし くびとらへてわれをうちくだき遂󠄅つひわれたてまととなしたまひ 13 その射手いてわれをめぐかこめり やがて情󠄃なさけもなくわがこし透󠄃とほし わがきもながいだしめたまふ 14 かれはわれを打敗うちやぶりて破壞やぶれ破壞やぶれくは勇士ますらをのごとくわれはせかかりたまふ 15 われ麻󠄃布あさぬのをわがはだ縫󠄃ぬひつけわがつのちりにてけがせり 16 わがかほなきあかくなり わが目緣まぶちにはかげあり 17 しかれどもわがには不義ふぎあることく わが祈禱いのりきよ 18 わがおほふなかれ わが號呼さけびやすところざれ 19 いまにてもわがあかしとなるものてんにあり わが眞實まこと表明あらはものたかところにあり 20 わが朋友ともわれあざけれどもわがかみにむかひてなみだそゝ 21 ねがはくはかれひとのためにかみ論辨ろんべんひとのためにこれが朋友とも論辨ろんべんせんことを 22 數年すねんすぎさらばわれ還󠄃かへらぬたびゆくべし

第17章

1 わが氣息いきすでにくさり わがすでにつきなんとし墳墓はかわれを 2 まことに嘲弄者あざけるものどもわがかたはらわがかれらの辨爭いひあらそふをつねざるを 3 ねがはくはものしろたまふてなんぢみづからわれ保證うけあひとなりたまへ たれほかにわがをうつものあらんや 4 なんぢかれらのこゝろとぢさとるところなからしめたまへり かならかれらをしてまさらしめたまはじ 5 朋友とも交付わたして掠奪かすめ遭󠄃あはしむるものその子等こどもつぶるべし 6 かれわれをたみ笑柄わらひぐさとならしめたまふ われかほつばきせらるべきものとなれり〘721㌻〙 7 かつまたわが憂愁うれへによりてくら肢體からだすべかげのごとし 8 たゞしきものこれおどろ無辜者つみなきもの邪曲よこしまなるものいきどほる 9 さりながらたゞしきものはその道󠄃みちかたたも潔󠄄淨いさぎよものはますますちからるなり 10 請󠄃なんぢみなふたゝびきたわれなんぢらのうち一人ひとりかしこものあるをざるなり 11 わがすで過󠄃ぎ わがはか所󠄃ところわがこゝろこひねが所󠄃ところすでやぶれたり
 933㌻ 
12 かれよるひる黑暗󠄃くらやみ前󠄃まへ光明ひかりちかづく 13 われもしつところあらこれわがいへたるべき陰府よみなるのみ われ黑暗󠄃くらやみにわがとこ 14 われ朽腐くさりむかひてはなんぢはわが父󠄃ちゝなりとうじむかひてはなんぢわがはゝわが姉妹しまいなりと 15 さればわが望󠄇のぞみはいづくにかある わが望󠄇のぞみたれかこれをものあらん 16 これくだりて陰府よみくわんいたらん これひとしくわがちりなか臥靜ふししづまるべし

第18章

1 シユヒびとビルダデこたへていは 2 汝等なんぢらいつまで言語ことば獵求かりもとむることをするや なんぢまづさとるべし しかのちわれら辨論あげつらはん 3 われらなん獸畜けものとおもはるべけんや なんなんぢらの汚穢けがれたるものらるべけんや 4 なんぢいかりてものなんぢのためとてあにすてられんや いはあに其處そのところよりうつされんや 5 あしもの光明ひかりされ そのほのほてら 6 そのてんまくうちなる光明ひかり暗󠄃くらくなりうへ燈火ともしびさるべし 7 またそのつよ步履あゆみせばまり そのはかるところは自分󠄃みづからおとしいる 8 すなはちそのあし逐󠄃おはれてあみいたり また陷阱おとしあなうへあゆむに 9 なははそのくびすまつはわなこれをとら 10 なはかれをとらふるためにかくしあり わなかれをおとしいるるためにみちまうけあり 11 おそろしきこと四方よもにおいてかれおそれしめ そのあしにしたがひてかれをおふ 12 そのちから餓󠄃そのかたはらには災禍わざはひそなはり 13 そのはだへえだ蝕壞くひやぶらる すなは初子うひごこれがえだ蝕壞くひやぶるなり 14 やがてかれはそのたのめるてんまくよりひきはなされて懼怖おそれわうもとおひやられん 15 かれぞくせざるものかれのてんまく住󠄃硫礦いわうかれのいへうへふら 16 しもにてはそのかみにてはそのえだきら 17 かれあとかれ街衢ちまたつたはらじ 18 かれ光明ひかりうちより黑暗󠄃くらやみ逐󠄃おひやられ うちよりおひいだされん 19 かれはそのたみなかまごあらじ またかれ住󠄃所󠄃すみかには一人ひとり遺󠄃のこものなからん 20 これるにおいてのちきたものおどろき さきいでものおぢおそれん
 934㌻ 
21 かならずあしひと住󠄃所󠄃すみかかくのごとく かみしらざるもの所󠄃ところかくのごとくなるべし〘722㌻〙

第19章

1 ヨブこたへていは 2 なんぢわがこゝろをなやまし 言語ことばをもてわれうちくだくこと何時いつまでぞや 3 なんぢらすで十次とたびわれはづかしめわれあしあしらひてなほはづるところ 4 假令たとひわれまこと過󠄃あやまちたらんもその過󠄃あやまちわれとゞまれり 5 なんぢらまことわれむかひてほこわがはづべき行爲わざありとあかしするならば 6 かみわれを虐󠄃しへたげその網羅あみをもてわれつゝみたまへりとるべし 7 われ虐󠄃しへたげらるるとさけべどもこたへなく よばはりもとむれども審理さばきなし 8 かれわがみち周󠄃圍まはりかきゆひめぐらしてこゆあたはざらしめ 途󠄃みち黑暗󠄃くらやみかうむむらしめ 9 わが光榮さかえわが冠冕かんむりかうべよりうば 10 四方よもよりわれこぼちてうせしめ わが望󠄇のぞみのごとくにより 11 われにむかひて震怒いかりもやわれかたき一人ひとりたまへり 12 その軍旅ぐんりよひとしく進󠄃すゝ途󠄃みちたかくしてわれ攻寄せめよせ わがてんまく周󠄃圍まはりぢんはれ 13 かれわが兄弟きやうだいたちをして遠󠄄とほくわれをはなれしめたまへり われ人々ひと〴〵全󠄃まつたわれうとくなりぬ 14 わが親戚うからやから徃來ゆききめ わが朋友ともだちはわれをわす 15 わがいへ寄寓やどものおよびわがしもめわれ外人あだしびとのごとくす われかれらの前󠄃まへにては異國人ことくにびとのごとし 16 われわがしもべよべどもこたへず われくちをもてかれ請󠄃はざるをざるなり 17 わが氣息いきはわがつまいとはれ わが臭氣にほひはわが同胎おなじはら子等こども嫌󠄃きらはる 18 童子わらべさへもわれあなどり われ起󠄃おきあがればすなはわれあざける 19 わがしたしきともわれをにくみわがあいしたる人々ひと〴〵ひるがへりてわがてきとなれり 20 わがほねはわがかはにくとにつけわれわづかかは全󠄃まつたうして逃󠄄のがれしのみ 21 わがとも汝等なんぢらわれをあはれめ われあはれめ かみわれをうて 22 なんぢらなにとてかみのごとくしてわれめ わがにくあくことなきや 23 望󠄇のぞむらくはわがことばかきとめられんことを 望󠄇のぞむらくはわがことばふみしるされんことを
 935㌻ 
24 望󠄇のぞむらくはくろがねふでなまりとをもてこれなが磐石いはえりつけおかんことを 25 われわれあがなもののちかれかならずうへたゝ 26 わがこのかはこのくちはてんのち われにくはなれてかみ 27 われみづからかれたてまつらん わがかれをんにらぬもののごとくならじ こゝろこれを望󠄇のぞみてこが 28 なんぢらもしわれら如何いかかれせめんかとひ またことわれにりといは 29 つるぎおそれよ 忿怒いかりつるぎばつをきたらす かくなんぢら遂󠄅つひ審判󠄄さばきのあるをしら

第20章

1 ナアマびとゾパルこたへていは 2 これによりてわれこたへをなすの思念おもひ起󠄃おここゝろしきりにこれがために急󠄃せか 3 われはづかしむる警語いましめわれきかざるをしかしながらわが了知さとりせいわれをしてこたふることをせしむ〘723㌻〙 4 なんぢしらずや古昔いにしへよりひとおかれしより以來このかた 5 あしひと勝󠄃誇かちほこり暫時しばらくにして邪曲よこしまなるもの歡樂たのしみときのみ 6 そのたかさてんたつしそのかしらくもおよぶとも 7 終󠄃つひにはおのれふんのごとくになが亡絕うせたゆべし かれ見識みしれものいはかれ何處いづくにありやと 8 かれゆめごと過󠄃すぎさりてまたるべからず よるまぼろしのごとく追󠄃おひはらはれん 9 かれたるかさねてかれをることあらず かれ住󠄃すみたるところふたゝびかれをることなからん 10 その子等こども貧󠄃まづしきもの寛待なさけもとめん かれもまたそのとり貨財たからづからかへさん 11 そのほね少壯氣勢わかきいきほひみてしかれどもその氣勢いきほひもまたちりなかかれとおなじくふさ 12 かれあくくちあましとしてしたそこをさ 13 をしみてすてこれくちなかふくみをる 14 されどその食󠄃物くひものはらわたなかにてかははらうちにてまむしどくとならん 15 かれ貨財たからのみたれどもまたこれはきいださん かみこれをかれはらよりおしいだしたまふべし 16 かれはまむしどくくちばみしたころされん 17 かれははちみつ牛酪ぎうらくわきながるる河川かはがはざらん 18 その勞苦ほねおりたるものこれかへしてみづか食󠄃くらはず 又󠄂またそれをもとめたる所󠄃有もちものよりは快樂たのしみ 19 かれ貧󠄃まづしきもの虐󠄃遇󠄃しへたげてこれすてたればなり 假令たとひいへうばひとるともこれあらたつくることをざらん
 936㌻ 
20 かれはそのはら飽󠄄あくことをしらざるがゆゑ自己おのれふかよろこものをもたもつことあたはじ 21 かれが遺󠄃のこして食󠄃くらはざるものとてはひとつこれによりてその福祉さいはひながたもたじ 22 その繁榮さかえ眞盛まさかりにおいてかれ艱難なやみ迫󠄃せまられ とぼしきものすべてをこれがうへおか 23 かれはらみたさんとすればかみはげしき震怒いかりをそのうへくだし その食󠄃しよくするときにこれをそのうへふらしたまふ 24 かれくろがねうつは避󠄃さくればあかがねゆみこれを透󠄃とほ 25 こゝおいこれをそのよりぬけきらめやじりそのきもよりいできたりて畏懼おそれこれにのぞ 26 各種もろ〳〵黑暗󠄃くらやみこれが寳物たからものををほろぼすためにたくはへらる 又󠄂またひとふきおこせしにあらざかれをき そのてんまく遺󠄃のこりをるものをもやか 27 てんかれのつみあらはし りてかれせめ 28 そのいへ儲蓄たくはへうせかみ震怒いかりながさら 29 これすなはちあしひとかみよりうく分󠄃ぶん かみのこれにさだめたまへるすうなり

第21章

1 ヨブこたへていは 2 請󠄃汝等なんぢらわがことばつゝしんでこれをもてなんぢらの慰藉なぐさめかへ 3 まづわれにゆるしていはしめよ いへのちなんぢあざけるも 4 わが怨言つぶやきひとうへにつきて起󠄃おこれるものならんや われなんぞをいらだつべからざらんや〘724㌻〙 5 なんぢらわれおどろくちにあてよ 6 われおもひまはせばおそろしくなりて身體からだしきりに戰慄わなな 7 あしひとなにとていきながらへ おいかつ勢力ちからつよくなるや 8 その子等こどもはその周󠄃圍まはりにありてその前󠄃まへかたち その子孫まごこもその前󠄃まへかたたつべし 9 またそのいへ平󠄃安やすらかにして畏懼おそれなく かみつゑそのうへのぞまじ 10 その牡牛をうしたねあたへて過󠄃あやまらず そのうしうみてそこなふことなし 11 彼等かれらはそのちひさ者等ものどもそといだすことむれのごとし その子等こどもまひをどる 12 彼等かれらつづみこととをもてうたふえ音󠄃よりたのし 13 その幸福さいはひくらし まばたくまに陰府よみにくだる 14 しかはあれども彼等かれらかみいへらくわれらをはなたまわれらはなんぢ道󠄃みちをしることをこのまず
 937㌻ 
15 全󠄃能者ぜんのうしやなにものなればわれらこれにつかふべき 我儕われらこれにいのるともなにえきんやと 16 かれらの福祿さいはひかれらのちからよるにあらざるなり あくにん希圖はかりごとわれくみする所󠄃ところにあらず 17 あくにんのその燈火ともしびけさるること幾度いくたびありしか その滅亡ほろびのこれにのぞこと かみいかりてこれ艱苦くるしみかうむらせたまふこと幾度いくたびありしか 18 かれらかぜ前󠄃まへわらごと暴風あらしふきさらるる籾殼もみがらごとくなること幾度いくたびありしか 19 かみかれのとがつみたくはへてその子孫しそんむくいたまふか これかれ自己みづからむくしらしむるにしか 20 かれをしてみづからその滅亡ほろびさせ かつ全󠄃能者ぜんのうしや震怒いかりのましめよ 21 そのつきかずすでにつくるにおいてはなんぞそののちいへかゝはる所󠄃ところあらん 22 かみてんにある者等ものどもをさへ審判󠄄さばきたまふなればたれよくこれに知識ちしきをしへんや 23 あるひと繁榮さかえきは全󠄃まつた平󠄃穩おだやかにかつ安康やすらかにして 24 そのうつは乳󠄃ちゝち そのほねずゐうるほへり 25 またあるひとこゝろくるしめて終󠄃つひ福祉さいはひをあぢはふることなし 26 是等これらともひとしくちりしてうじにおほはる 27 われまことになんぢらの思念おもひなんぢらがわれ攻擊せめうたんとするの計略たくみ 28 なんぢらはわうこういへいづくあくにん住󠄃所󠄃すみかいづくにあると 29 なんぢらはみち人々ひと〴〵とはざりしや 彼等かれら證據あかしさとらざるや 30 すなはち滅亡ほろびあくにん遺󠄃のこされ はげしきいかりあくにんたづさへいださる 31 たれよくかれにうちむかひてかれ行爲おこなひさししめさんや たれよくかれなしたる所󠄃ところかれむくゆることを 32 かれかゝれてはかいたつかうへにて守護まもることを 33 たに土塊つちくれかれにはこころよ一切すべてひとそのあとしたがその前󠄃まへゆけものかぞへがたし 34 すでかくごとくなるに汝等なんぢらなんぞいたづらわれなぐさめんとするや なんぢらのこたふる所󠄃ところはただ虛僞いつはりのみ〘725㌻〙

第22章

1 こゝにおいてテマンびとエリパズこたへていは 2 ひとかみえきすることをえんや 智人かしこきひとたゞみづからえきする而已のみなるぞかし 3 なんぢただしかるとも全󠄃能者ぜんのうしやなに歡喜よろこびかあらん なんぢ行爲おこなひ全󠄃まつたふするともかれなに利益りえきかあらん
 938㌻ 
4 かれなんぢ畏懼おそれゆゑによりてなんぢなんぢさばきたまはんや 5 なんぢのあくおほいなるにあらずや なんぢつみはきはまり 6 すなはちなんぢゆゑなくその兄弟きやうだいものおさへてしちとなし はだかなるもの衣服󠄃きものはぎ 7 かわものみづあたへてのましめず うゆもの食󠄃物くひものほどこさず 8 ちからあるもの土地くに たふとものそのうち住󠄃 9 なんぢは寡婦󠄃やもめ空󠄃むなしうしてさらしむ 孤子みなしごうでをら 10 こゝをもて網羅あみなんぢをめぐ畏懼おそれにはかになんぢみだ 11 なんぢ黑暗󠄃くらやみずや 洪水おほみづのなんぢをおほふをずや 12 かみてんたかきいますならずや 星辰ほしいただきああ如何いかたかきぞや 13 これによりてなんぢかみなにをかしろしめさん あによく黑雲くろくもうちより審判󠄄さばきするをたまはんや 14 濃雲こきくもかれをおほへばかれたまふ所󠄃ところなし たゞあめ蒼穹おほぞらあゆみたまふ 15 なんぢ古昔いにしへ道󠄃みちおこなはんとするや これあしきひとふみたりしものならずや 16 彼等かれらときいまだいたらざるに打絕うちたたれ その根基もとゐ大水おほみづおしながされたり 17 かれかみいひけらく我儕われらはなれたまへ 全󠄃能者ぜんのうしやわれらのためになになすことをんと 18 しかるにかれかへつて佳物よきものかれらのいへみたしたまへり たゞ惡人あくにん計畫はかりごとわれくみする所󠄃ところにあらず 19 たゞしきものこれよろこ無辜者つみなきものかれらをわら 20 いはわれらのあだまことほろぼされ その盈餘みちあまれるものにてやきつくさる 21 請󠄃なんぢかみやはらぎて平󠄃安やすきしからば福祿さいはひなんぢにきたらん 22 請󠄃ふかれのくちより敎晦をしへけ その言語ことばをなんぢのこゝろをさめよ 23 なんぢもし全󠄃能者ぜんのうしや歸向たちかへかつなんぢのいへよりあくのぞさらなんぢふたゝおこされん 24 なんぢのたからつちうへき オフルの黄金こがね谿河たにがはいしなか 25 さすれば全󠄃能者ぜんのうしやなんぢのたからとなりなんぢのために白銀しろがねとなりたまふべし 26 しかしてなんぢは又󠄂また全󠄃能者ぜんのうしやよろこかつかみにむかひてかほをあげん 27 なんぢかれいのらばかれなんぢにきゝたまはん しかしてなんぢその誓願ちかひをつくのひはたさん 28 なんぢことなさんとさだめなばそのことなんぢにならなんぢ道󠄃みちにはひかりてら
 939㌻ 
29 そのひくくだときなんぢいふのぼかなかれ謙󠄃遜者へりくだるものすくひたまふべし 30 かれはつみなきにあらざるものをもすくひたまはん なんぢ潔󠄄淨いさぎよきによりてかゝものすくはるべし

第23章

1 ヨブこたへていは 2 われ今日こんにちにてもなほつぶやきて服󠄃ふくせず わが禍災わざはひはわが嘆息なげきよりもおも 3 ねがはくはかみをたづねて何處いづくにか遇󠄃あひまつるをその御座みくらまゐりいたらんことを〘726㌻〙 4 われこの愁訴うつたへをその御前󠄃みまへならくちきはめて辨論あげつらはん 5 われそのわれこたへたまふことばり またそのわれにいひたまふ所󠄃ところさとらん 6 かれおほいなるちからをもてわれあらそひたまはんや しからじかへつてわれかへりみたまふべし 7 彼處かしこにては正義人ただしきひとかれと辨爭いひあらそふことを かくせばわれさばものながまぬかるべし 8 しかるにわれひがしくもかれいまさず 西にしくもまたたてまつらず 9 きた工作はたらきたまへども遇󠄃あひまつらず みなみかくたまへば望󠄇のぞむべからず 10 わが平󠄃生つね道󠄃みちかれしりたまふ かれわれをこゝろみたまはばわれきんのごとくしていできたらん 11 わがあしかれ步履あゆみかたしたがへり われはかれの道󠄃みちまもりてはなれざりき 12 われはかれのくちびる命令おふせ違󠄇たがはず おきてよりもかれくち言語ことばおもんぜり 13 かれはいつものにまします たれよくかれをして意󠄃おもひかへしめん かれはそのこゝろほつする所󠄃ところをかならずなしたまふ 14 されわれむかひてさだめしことかならず成就なしとげたまはん かくのごときことおほかれなしたまふなり 15 是故このゆえわれかれの前󠄃まへふるわれかんがふればかれおそ 16 かみわがこゝろ弱󠄃よわくならしめ 全󠄃能者ぜんのうしやわれをしておそれしめたまふ 17 かくわれ暗󠄃やみきたらぬさきわがかほ黑暗󠄃くらやみおほ前󠄃まへ打絕うちたたれざりき

第24章

1 なにゆゑに全󠄃能者ぜんのうしや時期ときさだめおきたまはざるや 何故なにゆゑかれものそのざるや 2 ひとありて地界ちざかひをか群畜むれうばひて 3 孤子みなしご驢馬ろば驅去おひさ寡婦󠄃やもめうしとりしちとなし 4 貧󠄃まづしきものみちより推退󠄃おしの受難者なやめるものをしてこと〴〵かくさしむ
 940㌻ 
5 かれらは荒野あれのにをる野驢馬のろばのごとくいでわざなし食󠄃しよくもと野原のはらよりその子等こどものために食󠄃物くひもの 6 はたけにてあしものむぎり またその葡萄ぶだう遺󠄃餘のこり 7 かれらは衣服󠄃ころもなくはだかにしてあかおほふて寒氣さむけふせぐべきものなし 8 やま暴風あらしおほはるるところなくしていはいだ 9 孤子みなしごはゝふところよりうばものあり 貧󠄃まづしきものにつけるものとりしちとなすものあり 10 貧󠄃まづしもの衣服󠄃ころもなくはだかにてあるうゑつつ麥束むぎたばにな 11 ひとかきうちにてあぶらめ またかわきつつ酒醡さかぶね 12 まちなかより人々ひと〴〵呻吟うめきたちのぼり きずつけられたるもの叫喚さけびおこる しかれどもかみはその怪事くわいじかへりみたまはず 13 また光明ひかりそむものあり ひかり道󠄃みちしらひかりみちとゞまらず 14 ひところもの昧爽よあけおきいで 受難者なやめるもの貧󠄃まづしきものころよる盜賊ぬすびとのごとくす 15 姦淫かんいんするものわれはなからんといひてその昏暮ほのぐれをうかがひしかしてそのかほおほもの〘727㌻〙 16 また夜分󠄃よるいへ穿うがものあり 彼等かれらひるとぢこもり光明ひかりらず 17 かれらにはあしたかげのごとし これかげおそろしきをしればなり

18 かれみづおもてとくながるるものごとし その產業さんげふなかのろはる そのかさねて葡萄圃ぶだうばたけみちむかはず 19 亢旱ひでりおよび炎熱あつさ雪󠄃ゆきみづたゞち乾涸ほしから陰府よみつみをかせしものにおけるもまたかくのごとし 20 これを宿やどせしはらこれをわすうじこれをこのみて食󠄃くらかれ最早もはやにおぼえらるることく そのあくをるるがごとくに 21 これすなはちはらまずうまざりし婦󠄃人をんなをなやまし 寡婦󠄃やもめあはれまざるものなり 22 かみはその權能ちからをもてつよ人々ひと〴〵保存ながらへさせたまふ かれらは生命いのちあらじとおもときにもまたおこ 23 かみかれらに安泰あんたいたまへばかれらはやすらかなり しかしてそのをもてかれらの道󠄃みちそなはしたまふ 24 かれらは旺盛さかんになり暫時しばしあひだなくなりひくくなりて一切すべてひとのごとくにぼつむぎのごとくにきら 25 すでにかくのごとくなればたれわれあやまれるをしめしてわが言語ことば空󠄃むなしくすることを
 941㌻ 

第25章

1 ときにシユヒびとビルダデこたへていは 2 かみ大權たいけんにぎりたまふもの おそるべきものにましまし たかところ平󠄃和へいわほどこしたまふ 3 その軍旅ぐんりよかぞふることをんや その光明ひかりなにものをかてらさざらん 4 されたれかみ前󠄃まへ正義ただしかるべき 婦󠄃人をんなうみものいかでかきよかるべき 5 つきかがやかず ほしそのには淸明きよらかならず 6 いはんやうじのごときひと むしのごときひとをや

第26章

1 ヨブこたへていは 2 なんぢ能力ちからなきもの如何いかたすけしや 氣力きりよくなきものを如何いかすくひしや 3 智慧󠄄ちゑなきもの如何いかをしへしや 頴悟さとり道󠄃みち如何いかおほしめししや 4 なんぢたれにむかひて言語ことばいだししや なんぢよりいでしはれいなるや 5 陰靈いんれいみづまたそのなかものしたふる 6 かれの御前󠄃みまへには陰府よみ顯露あらはなり 滅亡ほろびあなおほかく所󠄃ところなし 7 かれきたてん虛空󠄃おほぞらものなき所󠄃ところけたまふ 8 みづ濃雲こきくもなかつゝみたまふてそのしたくもさけ 9 御寳座みくらゐおもてかくしてくもをそのうへ 10 みづおもてさかひまうけてひかり暗󠄃くらきとにかぎりたてたまふ 11 かれ叱咤いましめたまへばてんはしらふるひかつおそ 12 その權能ちからをもてうみしづめ その智慧󠄄ちゑをもてラハブを擊碎うちくだ 13 その氣嘘いぶきをもててんかがやかせ そのをもて逃󠄄にぐへびつきとほしたまふ 14 是等これらはただその御工作みわざはしなるのみ われらがきくところのもの如何いかにも微細かすかなる耳語ささやきならずや されどその權能ちから雷轟とどろきいたりてはたれかこれをさとらんや〘728㌻〙

第27章

1 ヨブまたことばぎていはく 2 われにたゞしき審判󠄄さばきほどこしたまはざるかみ わが心魂たましひをなやましたま全󠄃能者ぜんのうしやこれかみ 3 (わが生命いのちなほ全󠄃まつたくわれのうちにあり かみ氣息いきなほわがはなにあり) 4 わがくちあくいはず わがした謊言いつはりかたらじ 5 われきはめて汝等なんぢらよしとせじ われしぬるまでつみなきをいふことをやめ 6 われかたくわが正義ただしきたもちてこれすてわれいままで一にちこゝろせめられしことなし 7 われてきするものあしものわれせむものただしからざるものるべし
 942㌻ 
8 邪曲よこしまなるものもしかみたゝれその魂神たましひぬきとらるるにおいてはなに望󠄇のぞみかあらん 9 かれ艱難なやみかゝときかみその呼號よばはりきゝいれたまはんや 10 かれ全󠄃能者ぜんのうしやよろこばんや つねかみよばんや 11 われかみ御手みて汝等なんぢらをしへん 全󠄃能者ぜんのうしや道󠄃みち汝等なんぢらかくさじ 12 汝等なんぢらもみなみづからこれをたり しかるになんかく愚蒙おろかをきはむるや 13 あしひとかみ分󠄃ぶん 强暴きやうばうひと全󠄃能者ぜんのうしやよりうくげふこれなり 14 その子等こどもふゆればつるぎころさる その子孫しそん食󠄃物くひもの飽󠄄あか 15 その遺󠄃のこれるもの疫病やくびやうたふれてうづめられ そのつま哀哭なげきをなさず 16 かれぎんつむことちりのごとく衣服󠄃ころもそなふることつちのごとくなるとも 17 そのそなふるものただしひとこれをん またそのぎん無辜者つみなきものこれを分󠄃わかとら 18 そのたついへむしのごとく また番人ばんにん造󠄃つく茅家こやのごとし 19 かれとめにて寢臥いねふかさねておくることし またひらけばすなはちそのきえ 20 おそろしきこと大水おほみづのごとくかれ追󠄃及おひしよる暴風あらしかれをうば 21 東風ひがしかぜかれをげてかれをそのところよりふきはらふ 22 かみかれをあはれまず かれそのより逃󠄄のがれんともがく 23 ひとかれにむかひてならあざけりわらひてそのところをいでゆかしむ

第28章

1 白銀しろがねほりいだすあなあり るところの黄金こがね出處いづるところあり 2 くろがねつちよりあかがねいしよりとかしてるなり 3 ひとすなはち黑暗󠄃くらやみやぶはてよりはてまで尋󠄃たづきはめて黑暗󠄃くらやみおよび死蔭しかげいしもと 4 その穴󠄄あな穿うがつことふかくしてうへ住󠄃ひと遠󠄄とほあひはなれ そのうへあゆものまつたくこれおぼえず かくのごとく縋下つりさはるかひとへだたりて空󠄃くうかゝ 5 そのうへ食󠄃物くひものいだそのしたくつがへさるるがごとくくつがへる 6 そのいしなかにはみどりたまのあるところあり 黄金こがねすなまたそのうちにあり 7 そのみち鷙鳥あらきとりもこれをしらたかもこれを 8 あらけものいまだこれをふまたけ獅子しゝいまだこれを通󠄃とほらず 9 ひとかたいはくはへまたやまよりたふ〘729㌻〙 10 いはかは各種もろ〳〵たふとものとめ
 943㌻ 
11 水路みづみちふさぎてもらざらしめかくれたる寳物たからもの光明あかるみとりいだすなり 12 さりながら智慧󠄄ちゑ何處いづこよりかもと明哲さとり所󠄃ところ何處いづこぞや 13 ひとそのあたひしらひとのすめるべからず 14 ふちわれうちあらずと うみわれともならずと 15 精金せいきんこれかふるにたらぎんはかりてそのあたひとなすを 16 オフルのきんにてもそのあたひはかるべからず たふと靑玉あをだま碧玉みどりだまもまたしか 17 黄金こがね玻璃はりもこれにならあたはず 精金せいきん器皿うつはものこれかふるにたら 18 珊瑚さんご水晶すゐしやういふにたらず 智慧󠄄ちゑるは眞珠しんじゆるに勝󠄃まさ 19 エテオビアよりいづ黄玉きのたまもこれにならぶあたはず 純金じゆんきんをもてするともそのあたひはかるべからず 20 され智慧󠄄ちゑ何處いづこよりきたるや 明哲さとり所󠄃ところ何處いづこぞや 21 これ一切すべて生物いきものかく天空󠄃そらとりにもえず 22 滅亡ほろび我等われらはその風聲うはさみゝきゝ而已のみ

23 かみその道󠄃みちさとたまかれその所󠄃ところりたまふ 24 そはかれはてまでもそなはしあましたきはめたまへばなり 25 かぜにその重量おもさあたみづはかりてそのりやうさだめたまひしとき 26 あめのためにのり雷霆いかづちひかりのために途󠄃みちまうけたまひしとき 27 智慧󠄄ちゑこれあらはしこれこゝろみたまへり 28 またひといひたまはくしゆおそるるはこれ智慧󠄄ちゑなり あくはなるるは明哲さとりなり

第29章

1 ヨブまたことばをつぎていは 2 嗚呼あゝ過󠄃すぎにしとしつきのごとくならまほし かみわれまもりたまへるのごとくならまほし 3 かのときにはかれ燈火ともしびわがかしらうへかがやきかれ光明ひかりによりてわれ黑暗󠄃くらやみあゆめり 4 わがさかんなりしのごとくならまほし 彼時かのときにはかみ恩惠めぐみわが幕屋まくやうへにありき 5 かのときには全󠄃能者ぜんのうしやなほわれとともにいまし わが子女こどもわれの周󠄃圍まはりにありき 6 乳󠄃ちゝながれてわがあしあとあらかたはらなるいはあぶらそゝぎいだせり 7 かのときにはわれいでてまちもんのぼりゆき わが街衢ちまたまうけたり 8 わかものわれかくおいたるもの起󠄃おきあがりて
 944㌻ 
9 牧伯つかさたるもの言談ものいはずしてそのくち 10 たふとものこゑををさめてそのした上顎うはあごつけたりき 11 わがことみゝきけものわれ幸福さいはひなりとわれたるものはわがために證據あかしをなしぬ 12 われ助力たすけもとむる貧󠄃まづしきものすく孤子みなしごおよびたすくるひとなきものすくひたればなり 13 ほろびんとせしものわれをしゆくせり われまた寡婦󠄃やもめこゝろをしてよろこうたはしめたり 14 われ正義ただしきまた正義ただしき所󠄃ところとなれり 公義こうぎうはぎのごとく冠冕かんむりのごとし 15 われは盲目めしひとなり跛者あしなへあしとなり〘730㌻〙 16 貧󠄃まづしもの父󠄃ちゝとなりしらざるもの訴訟うつたへよしきは 17 あしものきばり そのあひだよりものとりいだせり 18 われすなはちいひけらく われはわがしなすなごとおほからん 19 わがみづほとりはびこつゆわがえだ終󠄃夜よもすがらおかん 20 わが榮光さかえはわがあらたなるべくわがゆみはわが何時いつつよからんと 21 人々ひと〴〵われにもくしてをしへ 22 わがいひのち彼等かれらことばいださず わがとくところは彼等かれら甘露つゆのごとく 23 かれらはわれ望󠄇のぞつことあめのごとく くちひらきてあふぐことはるあめのごとくなりき 24 われ彼等かれらにむかひてわらふとも彼等かれらあへ眞實まこととおもはずわがかほひかり彼等かれらのぞくことをせざりき 25 われは彼等かれらのために道󠄃みちえらび そのかしらとしてぐんちうわうのごとくしてり また哀哭者なげくものなぐさむるひとのごとくなりき

第30章

1 しかるにいまわれよりも年少としわか者等ものどもわれをわら彼等かれら父󠄃ちゝいやしめてむれいぬならくことをもせざりしものなり 2 またかれらのちからもわれになにようをかなさん かれらはその氣力きりよくすでにおとろへたるものなり 3 かれらは缺乏とぼしきうゑとによりてやせおとろへ あれかつすたれたる暗󠄃くらにてかわける 4 すなはち灌木しばなかにてあかざれだま食󠄃物くひものとなす 5 かれらはひとなかより逐󠄃おひいださる 盜賊ぬすびと追󠄃ふがごとくにひとかれらを追󠄃おふよばはる 6 彼等かれらおそろしきたに住󠄃土坑つちあなおよび磐穴󠄄いはあな 7 灌木しばなかいななき 荊棘いばらした 8 かれらは愚蠢おろかなるもの いやしむべきものにしてくによりうちいださる
 945㌻ 
9 しかるにいまわれかれらの歌謠うたかれらの嘲哢ひきごととなれり 10 かれらわれいとふて遠󠄄とほわれはなれ またわがかほつばきすることをいなまず 11 かみわがつなときわれをなやましたまへば彼等かれらもわが前󠄃まへにそのたづなはなせり 12 このともがらわがみぎ起󠄃たちあがり わがあしおしのけわれにむかひて滅亡ほろびみちきづ 13 かれらはみづか便たよりなきものなれどもなほわがみちこぼち わが滅亡ほろびうなが 14 かれらは石垣いしがきおほいなる崩󠄃口くづれくちよりいるがごとくに進󠄃すゝきた破壞くづれなかにてわがうへのりかかり 15 おそろしきことわがのぞかぜのごとくに尊󠄅榮ほまれふきはらふ わが福祿さいはひくものごとくに消󠄃失きえう 16 いまはわがこゝろわれのうちとけなが患難なやみかたくわれとら 17 にいればわがほねさゝれてはなる わがものつひにやすむこと 18 わが疾病やまひおほいなるちからによりてわが衣服󠄃ころもみにくさまかは裏衣したぎえりごとくにわれかた 19 かみわれをどろなかなげこみたまひてわれ塵灰󠄃ちりはひひとしくなれり〘731㌻〙 20 われなんぢにむかひてよばはるになんぢこたへたまはず われたちをるに なんぢたゞわれをながめたまふ 21 なんぢはわれにむかひて無情󠄃つれなくなりたまひ 御手みて能力ちからをもてわれ攻擊せめうちたまふ 22 なんぢわれかぜうへのり負󠄅去おひさらしめ 大風おほかぜ音󠄃おととともに消󠄃亡きえうせしめたまふ 23 われなんぢはわれをかへらしめ一切すべて生物いきもの終󠄃つひあつまいへかへらしめたまはん 24 かれはかなら荒垤あれつかにむかひてのべたまふことあら假令たとひひと滅亡ほろびおちいるとも是等これらことのために號呼さけぶことをせん 25 くるしみて送󠄃おくもののためにわれなかざりしや 貧󠄃まづしきもののためにわがこゝろうれへざりしや 26 われ吉事よきこと望󠄇のぞみしに凶事あしきこときたり 光明ひかりまちしに黑暗󠄃くらやみきたれり 27 わがはらわたわきかへりてやすからず 患難なやみわれ追󠄃及おひしき 28 われはひかりかうむらずしてかなしみつつある公會こうくわいなかたちたすけよびもとむ 29 われはやまいぬ兄弟きやうだいとなり 駝鳥だてうともとなれり 30 わがかはくろくなりてはげち わがほねあつさによりて 31 わがことかなしみ音󠄃となり わがふえなげきとなれり
 946㌻ 

第31章

1 われわがやくたてたり なん小艾をとめしたはんや 2 しかせばうへよりかみくだたま分󠄃ぶん如何いかなるべきぞ たかきところより全󠄃能者ぜんのうしやあたたまげふ如何いかなるべきぞ 3 あしひとには滅亡ほろびきたらざらんや よからぬことものにはつねならぬ災禍わざはひあらざらんや 4 かれわが道󠄃みちそなはし わが步履あゆみをことごとくかぞへたまはざらんや 5 われ虛誕うそとつれだちてあゆみしことありや わがあし虛僞いつはり奔從はせしたがひしことありや 6 請󠄃公平󠄃ただし權衡はかりをもてわれはかさらかみわれのたゞしきをしりたまはん 7 わが步履あゆみもし道󠄃みちはなれ わがこゝろもしわがしたがひてあゆみ わがにもしけがれのつきてあらば 8 まきたるをひと食󠄃くらふもし わが產物さんぶつよりぬかるるも 9 われもし婦󠄃人をんなのためにこゝろまよへることあるか 又󠄂またわれもしわがとなりかどにありてうかがひしことあらば 10 わがつまほかのひとのためにうすき ほかの人々ひと〴〵かれのうへいぬるも 11 これおもつみにして裁判󠄄人さばきびとばつせらるべき惡事あくじなればなり 12 これはすなはち滅亡ほろびにまでもやきいたるにしてわが一切すべてさんをことごとくたやさん 13 わがしもべあるひはしもめわれ辯爭いひあらそひしときわれもしこれ權理けんりかろんぜしことあらば 14 かみ起󠄃たちあがりたまふときには如何いかにせんや かみのぞみたまふときにはなんこたへまつらんや 15 われを胎內たいない造󠄃つくりしものまたかれをも造󠄃つくりたまひしならずや われらをはらうちかたち造󠄃づくりたまひしもの唯一ただひとつものならずや 16 われもし貧󠄃まづしものにそのねがふところをしめず 寡婦󠄃やもめをしてそのおとろへしめしことあるか〘732㌻〙 17 またはわれひとりみづから食󠄃物くひものくらひて孤子みなしごにこれをくらはしめざりしことるか 18かへつてかれらはわかときよりわれそだてられしこと父󠄃ちゝにおけるがごとわれ胎內たいないいでてより以來このかたやもめ導󠄃みちびくことをせり) 19 われ衣服󠄃ころもなくしてしなんとするものあるひはおほものなくしてひととき 20 そのこしもしわれしゆくせず またかれもしわがひつじにてあたたまらざりしことあるか 21 われをたすくるものもんにをるをわれみなしごにむかひてあげことあるか
 947㌻ 
22 しかありしならば肩骨かたぼねよりしてわがかたおちほねとはなれてわがうでをれ 23 かみよりいづ災禍わざはひわれこれをおそる その威光ゐくわう前󠄃まへにはわれ 能力ちからなし 24 われもしきんをわが望󠄇のぞみとなし 精金せいきんにむかひてなんぢわが所󠄃賴たのみなりといひしことある 25 われもしわがとみおほいなるとわがものおほたることをよろこびしことあるか 26 われかがやくをまたはつきてりわたりてあゆむをとき 27 こゝろひそかにまよひてくちつけしことあるか 28 これもまた裁判󠄄人さばきびとつみせらるべき惡事あくじなり われもしかくなせしことあらばうへなるかみそむきしなり 29 われもしわれにくもの滅亡ほろぶるをよろこ又󠄂またその災禍わざはひかゝるによりてみづかほこりしことあるか 30われこれ生命いのちのろもとめてわれくちつみをかさしめしごとことあらず) 31 わがてんまくひといはずやかれにく飽󠄄あかざるものいづこにかあらんと 32 旅人たびゞとそと宿やどらず わがかどわれ街衢ちまたにむけてひらけり 33 われもしアダムのごとくわがつみおほひ わが惡事あくじむねかくせしことあるか 34 すなはち大衆たいしうおそ宗族そうぞく輕蔑かろしめぢてくちかどいでざりしごときことあるか 35 嗚呼あゝわれのいふところをきゝわくるものあらまほし(花押かきはんここにねがはくは全󠄃能者ぜんのうしやわれにこたへたまへ)われうつたふるものみづから訴訟狀うつたへぶみ 36 われかならずこれかた負󠄅冠冕かんむりのごとくこれをかうべむすばん 37 われわが步履あゆみかずかれ述󠄃のべ君王きみたるもののごとくしてかれ近󠄃ちかづかん 38 わが田圃たはた號呼よばはりてわれめ その阡陌うね〳〵ことごとくなきさけぶあるか 39 もしわれかねいださずしてその產物さんぶつ食󠄃くらひ またはその所󠄃有主もちぬしをして生命いのちうしなはしめしことあらば 40 小麥こむぎかはり蒺藜あざみはえいで おほむぎのかはりに雜草はぐさおひいづるともし ヨブのことばをはりぬ

第32章

1 ヨブみづからおのれ正義ただしとするによりこのにんものこれこたふること 2 ときにラムのやからブジびとバラケルのエリフいかりおこせり ヨブかみよりもおのれたゞしとするによりかれヨブにむかひていかりおこせり〘733㌻〙 3 またヨブの三にんともこたふるにことばなくしてなほヨブをつみありとせしによりてかれらにむかひていかりおこせり
 948㌻ 
4 エリフはヨブにものいふことをひかへてまちをりぬ 自己おのれよりも彼等かれらとしおいたればなり 5 こゝにエリフこの三にんくちこたふることばあらざるをいかりおこせり 6 ブジびとバラケルのエリフすなはちこたへていはわれ年少としわか汝等なんぢらとしおいたりこゝをもてわれはばかりてわが意󠄃見おもひをなんぢらにのぶることをあへてせざりき 7 われ意󠄃おもへらくかさねたるものよろしくことばいだすべし としつみたるものよろしく智慧󠄄ちゑをしふべしと 8 たゞひとうちにはれいあり 全󠄃能者ぜんのうしや氣息いきひと聰明さとりあた 9 おほいなるひとすべて智慧󠄄ちゑあるにあらおいたるものすべて道󠄃理ことわり明白あきらかなるにあら 10 されわれわれわれもわが意󠄃見おもひのべ 11 われなんぢらの言語ことばち なんぢらの辯論あげつらひき なんぢらがふべき言語ことば尋󠄃たづつくすをまて 12 われこまかなんぢらにきゝしがなんぢらのうちにヨブを駁折いひふすもの一人ひとりく またかれ言詞ことばこたふるもの 13 おそらくは汝等なんぢらいはん われ智慧󠄄ちゑたり かれ勝󠄃ものたゞかみのみ ひとあたはずと 14 かれはその言語ことばわれむけおこさざりき われはまたなんぢらの所󠄃ところをもてかれこたへじ 15 かれらはおどろきてまたこたふる所󠄃ところなく 言語ことばかれらのうちうかばず 16 彼等かれらものいはずたちとゞまりてかさねてこたへざればとてわれあにまちをるべけんや 17 われみづからわが分󠄃ぶんこたへわが意󠄃見おもひ吐露あらはさん 18 われにはことば滿ち わがうちこゝろしきりに迫󠄃せま 19 わがはらくちひらかざるさけのごとし あたらしき皮嚢かはぶくろのごとくいまにもさけんとす 20 われときいだしてむねやすんぜんとす われくちひらきてこたへん 21 かならずわれひと偏󠄃かたよらず ひとへつらはじ 22 われへつらふことをしらず もしへつらはばわれ造󠄃化主つくりぬしただちにわれたちたまふべし

第33章

1 さらばヨブよ請󠄃ことけ わが一切すべて言語ことばみゝかたむけよ 2 われくちひらしたくちなかうごかす 3 わが所󠄃ところ正義ただしこゝろよりづ わがくちびるあきらかにその知識ちしきのべ 4 かみれいわれを造󠄃つく全󠄃能者ぜんのうしや氣息いきわれをいかしむ 5 なんぢもしよくせばわれこたへよ わが前󠄃まへことばをいひつらねて 6 われなんぢとおなじくかみものなり われもまたつちよりとりてつくられしなり
 949㌻ 
7 わが威嚴ゐげんはなんぢをおそれしめず わがいきほひはなんぢをあつせず 8 なんぢわがくところにて言談ものいへわれなんぢの言語ことばこゑけりいは 9 われは潔󠄄淨いさぎよくしてとがなし われつみなくあしことわがにあらず 10 かれわれをせむ釁隙ひま尋󠄃たづね われをおのれあたかぞ〘734㌻〙 11 わがあしかせめわが一切すべて擧動おこなひつけたまふと 12 われなんぢにこたへん なんぢ此事このことにおいて正義ただしからず かみひとよりもおほいなるものにいませり 13 かれそのすべおこなふところの理由ことわりしめしたまはずとてなんぢかれにむかひて辯爭いひあらそふはなんぞや 14 まことにかみ一度ひとたび二度ふたゝび吿示つげしめしたまふなれどひとこれをさとらざるなり 15 ひと熟睡うまいするときまたはとこねむときゆめあるひは異象まぼろしうちにて 16 かれひとみゝをひらき そのをしふるところをいんしてかたうし 17 かくしてひとにそのあしわざはなれしめ 傲慢たかぶりひとなかよりのぞ 18 ひと魂靈たましひまもりてはかいたらしめず ひと生命いのちまもりてつるぎにほろびざらしめたまふ 19 ひととこにありて疼痛いたみせめられ そのほねなかたえ戰鬪たたかひのあるあり 20 そのこころ食󠄃物くひものいとひ その魂靈たましひうまきものをも嫌󠄃きら 21 そのにくやせおちてえず そのほねえざりしものまでも顯露あらはになり 22 その魂靈たましひはか近󠄃ちかより その生命いのちほろぼすもの近󠄃ちかづく 23 しかるときにもしかれとともに一箇ひとり使者つかひあり せんうち一箇ひとりにして中保ちうほうとなり たゞしき道󠄃みちひとしめさば 24 かみかれをあはれみていひたまはんかれすくひてはかにくだることなからしめよ われすでに收贖あがなひものたりと 25 そのにく小兒こどもにくよりも瑞々みづ〳〵しくなり そのわかとき形狀ありさまかへらん 26 かれかみいのらばかみかれを顧󠄃かへりみ かれをしてその御面みかほよろこびることをせしめたまはん かみひと正義ただしきむくいをなしたまふべし 27 かれひと前󠄃まへうたひてわれつみをかたゞしきをまげたり されむくいかうむらず 28 かみわが魂靈たましひあがなひてはかくだらしめず わが生命いのち光明ひかり 29 そもそもかみ是等これらのもろもろのことをしばしばひとにおこなひ 30 その魂靈たましひはかよりひきかへし生命いのち光明ひかりをもてかれてらしたまふ
 950㌻ 
31 ヨブよみゝかたむけてわれ請󠄃もくせよ われかたらん 32 なんぢもしふべきことあらばわれにこたへよ 請󠄃かたわれなんぢをただしとせんとほつすればなり 33 もしなくわれ請󠄃もくせよ われなんぢに智慧󠄄ちゑをしへん

第34章

1 エリフまたこたへていは 2 なんぢら智慧󠄄ちゑあるものわがことば知識ちしきあるものわれみゝかたむけよ 3 くち食󠄃物くひものあじはふごとくみゝ言詞ことばわきまふ 4 われらみづか是非ぜひきはめ われらもろともに善惡ぜんあくあきらかにせん 5 それヨブはわれたゞかみわれにたゞしき審判󠄄さばきほどこしたまはず 6 われはたゞしかれどもいつはものとせらる われとがなけれどもわが矢創やきずいえがたしと 7 何人なにびとかヨブのごとくならんかれ罵言ののしりみづのごとくに 8 あしこと者等ものどもまじはり 惡人あくにんとともにあゆむなり 9 すなはちかれいへらく ひとかみしたしむともえきなしと〘735㌻〙 10 さればなんぢらこゝろある人々ひと〴〵われかみあくすことをきはめて全󠄃能者ぜんのうしや不義ふぎおこなふこときはめて 11 かへつてひと所󠄃爲しはざをそのむくひとをしてその行爲おこなひにしたがひてるところあらしめたまふ 12 かならずかみあしことをなしたまはず全󠄃能者ぜんのうしや審判󠄄さばきまげたまはざるなり 13 たれかこのかれゆだねしものあらん たれ全󠄃ぜん世界せかいさだめしものあらん 14 かみもしそのこゝろおのれにのみもちひ そのれい氣息いきとをおのれ收回ひきもどしたまはば 15 もろもろの血肉けつにくことごとくほろひとまたちりにかへるべし 16 なんぢもしさとることを請󠄃われけわが言詞ことばこゑみゝそばだてよ 17 公義ただしきにくものあにををさむるをんや なんぢあに至義いとただしものあししとすべけんや 18 わうたるものにむかひてなんぢ邪曲よこしまなりと牧伯つかさたるものにむかひてなんぢらはあししといふべけんや 19 まして君王きみたるものをも偏󠄃視かたよりみ貧󠄃まづしきものこえとめものをかへりみるごときことをせざるものにむかひてをや かくたまふは彼等かれらみなおなじくその御手みてつくるところなればなり
 951㌻ 
20 かれらはまたた時間ひまたみほろびて消󠄃失きえうちからあるものひとによらずしてのぞかる 21 それかみひと道󠄃みちうへにあり かみひと一切すべて步履あゆみそなはす 22 あくおこなふものかくすべき黑暗󠄃くらやみ死蔭しかげ 23 かみひとをして審判󠄄さばきうけしむるまでにながくそのひとうかがふにおよばず 24 權勢ちからあるものをもしらぶることをもちひずしてうちほろぼしほか人々ひと〴〵たてこれかへたまふ 25 かくのごとかれらの所󠄃爲わざかれらをくつがへしたまへばかれらはやがほろ 26 ひとるところにて彼等かれら惡人あくにんのごとくうちたまふ 27 かれそむきてこれしたがはずその道󠄃みち全󠄃まつたく顧󠄃かへりみざるに 28 かれらかくのごとくして遂󠄅つひ貧󠄃まづしきもの號呼さけびかれもといたらしめ患難者なやめるもの號呼さけびかれきかしむ 29 かれ平󠄃安へいあんたまときにはたれあししとふことをえんや かれかほをかくしたまふときにはたれかこれをるをんや 一國いつこくにおけるも一人いちにんにおけるもすべおな 30 かくのごとく邪曲よこしまなるものをしてをさむることなからしめ たみ機檻わなとなることなからしむ 31 ひとよろしくかみまうすべし われすでこらしめられたり再度ふたゝびあしこと 32 わがざる所󠄃ところ請󠄃われにをしへたまへ われもしあしことなしたるならばかさねてこれをなさじと 33 かれあになんぢのこのむごとくに應報むくいをなしたまはんや しかるになんぢはこれをとがさらばなんぢみづかこれ選󠄄えらぶべし われなんぢるところを 34 こゝろある人々ひと〴〵われいはわれきくところの智慧󠄄ちゑある人々ひと〴〵いは 35 ヨブの所󠄃ところ辨知わきまへなし その言詞ことば明哲さとからずと〘736㌻〙 36 ねがはくはヨブ終󠄃をはりまでこゝろみられんことをあしひとのごとくに應答こたへをなせばなり 37 まことにかれ自己おのれつみとがくはへわれらの中間なかにありてちかつ言詞ことばしげくしてかみ逆󠄃さからふ

第35章

1 エリフまたこたへていは 2 なんぢはたゞしきはかみまされりと なんぢこれたゞしとおもふや
 952㌻ 
3 すなはちなんぢいへらく これわれなにえきあらんや つみをかすにくらぶればなにまさるところかあらんと 4 われ言詞ことばをもてなんぢおよびなんぢにそへるなんぢ友等ともらこたへん 5 てんあふぎてなんぢうへなるたか空󠄃くう望󠄇のぞ 6 なんぢつみをかすともかみなに害󠄅さはりあらとがさかんにするともかみなになしえんや 7 なんぢ正義ただしかるともかみなにあたふるをんや かみなんぢのよりなにをかうけたまはん 8 なんぢのあくたゞなんぢにおなじきひとそんぜん而已のみ なんぢのぜんたゞひとえきせんのみ 9 暴虐󠄃しへたげはなはだしきによりさけ權勢いきほひあるものうでおされてよばはる人々ひと〴〵あり 10 しかれども一人ひとりとしてわれ造󠄃つくれるかみ何處いづくにいますやといふものなし かれひとをしてうちうたうたふにいたらしめ 11 獸畜けものよりもくわれらををし空󠄃そらとりよりもわれらをかしこからしめたまふものなり 12 あし者等ものども驕傲おごりたかぶるによりかくのごとく人々ひと〴〵さけべどもこたふるものあらず 13 むなしきことばかみかならずこれきゝたまはず 全󠄃能者ぜんのうしやこれを顧󠄃かへりみたまはじ 14 なんぢわれかれをたてまつらずといふといへども審判󠄄さばきかみ前󠄃まへにあり このゆゑなんぢかれまつべきなり 15 いまかれ震怒いかりをもてばつすることを罪愆つみとがふかこゝろとめたまはざる(がごとくなる)により 16 ヨブくちひらきてむなしきこと述󠄃無知むち言語ことばしげくす

第36章

1 エリフまた言詞ことばつぎいは 2 しばらくわれゆるわれなんぢにしめすことあらなほかみのためにふべきことあればなり 3 われひろくわが知識ちしきわれ造󠄃化主つくりぬし正義ただしきせんとす 4 わが言語ことば眞實まこと虛僞いつはりならず 知識ちしき完全󠄃まつたものなんぢの前󠄃まへにあり 5 かみ權能ちからあるものにましませどもなにをも藐視いやしめたまはず その了知さとり能力ちからおほいなり 6 しきものいかおか艱難者なやめるもののために審判󠄄さばきおこなひたまふ 7 たゞしきものはなさず くらゐにあるわうたちとともに永遠󠄄とこしへせしめてこれたふとくしたまふ 8 もしかれ鏈索くさりつながれ 艱難なやみなはにかかるとき
 953㌻ 
9 かれらの所󠄃行おこなひ愆尤とがとをしめしてそのおごれるをしら 10 かれらのみゝひらきてをしへいれれしめ かつあくはなれてかへれよとかれらにめいじたまふ 11 もしかれきゝしたがひてこれつかへなば繁昌さかえてその送󠄃おくたのしくそのとしわたらん 12 もしかれらきゝしたがはずば刀劍つるぎにてほろ知識ちしきずしてなん〘737㌻〙 13 しかれどもこゝろ邪曲よこしまなる者等ものども忿怒いかりたくはへ かみいましめらるるともいのることを 14 かれらはとしわかくして死亡しにう男娼なんしやうとその生命いのちをひとしうせん 15 かみ艱難者なやめるもの艱難なやみによりてすくこれみゝ虐󠄃遇󠄃しへたげによりてひらきたまふ 16 されかみまたなんぢせまきところよりいだしてせまからぬひろ所󠄃ところうつしたまふあらん しかしてなんぢせきつらぬるものすべこえたるものならん 17 いま惡人あくにん鞫罰さばきなんぢのみて審判󠄄さばき公義こうぎとなんぢをとら 18 なんぢ忿怒いかりいざなはれて嘲笑あざけりおちいらざるやうつゝしめよ 收贖あがなひおほいなるがためみづかあやまるなかれ 19 なんぢの號叫さけびなんぢを艱難なやみうちよりいださんや 如何いかちからつくすとも所󠄃益かひあらじ 20 ひとのそのところよりたゝそのしたふなかれ 21 つゝししみてあくかたむくなかれ なんぢ艱難なやみよりもむしこれとらんとせり 22 それかみはその權能ちからをもておほいなるわざしたまふ たれかれのごとくに敎晦をしへたれんや 23 たれかかれのためにその道󠄃みちさだめしものあらんや たれかなんぢはあしことをなせりとふことを 24 なんぢかみ御所󠄃爲みわざ讚歎ほめたたふることをわすれざれ これひとうたあがむる所󠄃ところなり 25 ひとみなこれあふ遠󠄄とほところよりひとこれをたてまつるなり 26 かみおほいなるものにいまして我儕われらかれをしりたてまつらず その御年みとしかずはかるべからず 27 かれみづこまかにしてひきあげたまへばきりなかしたたいであめとなるに 28 くもこれをふらせて人々ひと〴〵うへ沛然ゆたかそゝぐなり 29 たれかくも舒展ひろが所󠄃以ゆゑん またその幕屋まくやひび所󠄃以ゆゑん了知さとらんや 30 かれその光明ひかり自己おのれ周󠄃圍まはりめぐらし またうみそこをもおほひたまひ
 954㌻ 
31 これらをもてたみさばき また是等これらをもて食󠄃物くひもの豐饒ゆたかたま 32 電光いなびかりをもてその兩手もろてつゝみ その電光いなびかりめいじててきうたしめたまふ 33 その鳴聲なりおとかれをあらはし 家畜けものすらもかれますをらすなり

第37章

1 これがためにわがこゝろわななき そのところうごはな 2 かみこゑひびきおよびそのくちよりいづ轟聲とどろき 3 これをあめしたはなち またその電光いなびかりはてにまでいたらせたまふ 4 そののちこゑありてうちひびかれ威光ゐくわうこゑはなちてなりわたりたまふ その御聲みこゑきこえしむるにあたりては電光いなびかりおさへおきたまはず 5 かみくすしくも御聲みこゑはなちてなりわたり 我儕われらしらざるおほいなるわざおこなひたまふ 6 かれ雪󠄃ゆきにむかひてれとめいじたまふ あめすなはちその權能ちからおほあめにもまたしかり 7 かくかれ一切すべてひとふうじたまふ これすべてのひとにその御工作みわざしらしめんがためなり 8 またけもの穴󠄄あなにいりてそのほら 9 南方みなみ密室みつしつより暴風あらしきたり きたより寒氣さむさきたる〘738㌻〙 10 かみ氣吹いぶきによりてこほりいできたり みづはばせばくせらる 11 かれみづをもてくも搭載つみのせまた電光ひかりくも遠󠄄とほちらしたまふ 12 これかみ導󠄃引みちびきによりて週󠄃めぐかれめいずるところをこと〴〵世界せかい表面おもてなさんがためなり 13 そのこれきたらせたまふはあるひ懲罰こらしめのため あるひはそののため あるひ恩惠めぐみのためなり 14 ヨブよこれちてかみ奇妙くすし工作わざかんがへよ 15 かみいかに是等これらめいつたへそのくも光明ひかりをしてかがやかせたまふかなんぢこれをるや 16 なんぢくも平󠄃衡つりあひ知識ちしき全󠄃まつたきもの奇妙くすし工作わざるや 17 みなみかぜによりておだやかになるときなんぢの衣服󠄃ころもあつくなるなり 18 なんぢかれとともにかたくしてたるかがみのごとくなる蒼穹そらることをよくせんや 19 われらがかれふべきことわれらにをしへよ われらは暗󠄃昧くらくして言詞ことばつらぬることあたはざるなり 20 われかたることありとかれぐべけんや ひとあにほろぼさるることを望󠄇のぞまんや 21 ひといまは雲霄そらかがやく光明ひかりることあたはず れどかぜきたりてこれ吹淸ふききよ
 955㌻ 
22 きたより黄金こがねいできたる かみにはおそるべき威光ゐくわうあり 23 全󠄃能者ぜんのうしやはわれらはかりきはむることをかれちからおほいなるものにいまし審判󠄄さばきをも公義こうぎをもまげたまはざるなり 24 このゆゑ人々ひと〴〵かれをおそかれはみづからこゝろ有智かしこしとするものをかへりみたまはざるなり

第38章

1 こゝにヱホバ大風おほかぜなかよりヨブにこたへてのたまはく 2 無智むち言詞ことばをもて道󠄃みち暗󠄃くらからしむるこのものたれぞや 3 なんぢこしひきからげて丈夫をとこのごとくせよ われなんぢにとはなんぢわれにこたへよ 4 もとゐすゑたりしときなんぢは何處いづこにありしや なんぢもし頴悟さとりあらば 5 なんぢもししらんにはたれ度量どりやうさだめたりしや 準繩はかりなはうへりたりしや 6 そのもとゐなにうへおかれたりしや その隅石すみいしすゑたりしや 7 かのときには晨星あけのほしあひともにうたかみたちみなよろこびてよばはりぬ 8 うみみづながれ胎內たいないよりわきいでしときをもてこれとぢこめたりしや 9 かのときわれくもをもてこれ衣服󠄃ころもとなし 黑暗󠄃くらやみをもてこれ襁褓むつきとなし 10 これにわれ法度のりさだくわんおよびもんまうけて 11 いはこゝまではきたるべしこゝこゆべからず なんぢたかなみここにとゞまるべしと 12 なんぢうまれしより以來このかた朝󠄃あしたにむかひてめいくだせしことありや また黎明よあけにその所󠄃ところしらしめ 13 これをしてふちとらへてあしものをそのうへよりふりおとさしめたりしや 14 かはりてつちいんしたるごとくにもろ〳〵ものうるはしき衣服󠄃ころものごとくにあらは 15 また惡人あくにんはその光明ひかりうばはれ たかあげたるらる〘739㌻〙 16 なんぢうみ泉源みなもとにいたりしことありや ふちそこあゆみしことありや 17 かどなんぢのためにひらけたりしや なんぢ死蔭しかげかどたりしや 18 なんぢひろさきはめしや もしこれをこと〴〵しら 19 光明ひかり所󠄃ところみちいづれぞや 黑暗󠄃くらやみ所󠄃ところ何處いづこぞや 20 なんぢこれをそのさかひ導󠄃みちびきるや そのいへみちしりをるや 21 なんぢこれしるならんなんぢはかのときすでにうまれをり またなんぢたるかずおほければなり
 956㌻ 
22 なんぢ雪󠄃ゆきくらにいりしや へうくらしや 23 これ艱難なやみときにためにたくはへ 戰爭いくさおよび戰鬪たたかひのためにたくはへくものなり 24 光明ひかり發散ひろが道󠄃みち 東風ひがしかぜふきわたる所󠄃ところみち何處いづこぞや 25 おほあめそゝ水路みづみちひら雷電いかづちひかり過󠄃すぐ道󠄃みちひら 26 ひとなきにもひとなき荒野あれのにもあめふら 27 あれかつすたれたる處々ところどころうるほし かつ若菜蔬わかくさ生出はえいでしむるや 28 あめ父󠄃ちゝありや あらたまうめものなるや 29 こほりはらよりいづるや 空󠄃そらしもむところなるや 30 みづかたまりていしのごとくにふちおもてこほる 31 なんぢ昴宿ばうしゆく鏈索くさりむすびうるや 參宿しんしゆく繋繩つなぎときうるや 32 なんぢ十二きうをそのときにしたがひてひきいだしるや また北斗ほくととその子星こぼし導󠄃みちびきるや 33 なんぢてん常經のりるや てんをしてその權力ちからほどこさしむるや 34 なんぢこゑくも滂沛おほくみづをしてなんぢおほはしむるをるや 35 なんぢ閃電いなびかり遣󠄃つかはしてゆかしめ なんぢにこたへて我儕われらこゝにありといはしめるや 36 むねうち智慧󠄄ちゑあたへしものこゝろうち聰明さとりさづけしもの 37 たれか智慧󠄄ちゑをもてくもかぞへんや たれかてんかめかたむけ 38 ちりをして一塊ひとつながれあはしめ土塊つちくれをしてあひかたまらしめんや 39 なんぢ獅子じしのために食󠄃物くひものかるや また小獅子こじし食󠄃氣しよくき滿みたすや 40 その洞穴󠄄ほらあなし 森のなかかくうかがふときなんぢこのことなしうるや 41 またからす かみにむかひてよばはり 食󠄃物くひものなくして徘徊ゆきめぐとき からすあたふるものたれぞや

第39章

1 なんぢいは山羊やぎときをしるや また麀鹿めじかさんのぞむをしや 2 なんぢ是等これら在胎はらごもりつきかぞへうるや また是等これらときるや 3 これらはかがめてみその痛苦いたみいだ 4 またそのつよくなりてそだいでゆきてふたたびそのおやにかへらず 5 野驢馬のろばはなちて自由じいうにせしや 野驢馬のろば繋繩つなぎときしや
 957㌻ 
6 われをそのいへとなし 荒野あれのをその住󠄃所󠄃すみかとなせり 7 これまち喧閙さわがしさいやしめ 馭者ぎよしや號呼よばはりきゝいれず 8 やまはせまはりてくさ食󠄃くら各種もろ〳〵あをもの尋󠄃たづ 9 のうしあへなんぢつかへ なんぢの飼草槽かひばをけかたはらにとゞまらんや〘740㌻〙 10 なんぢのうしつなつけ阡陌うねをあるかせんや これあになんぢにしたがひてたに馬鈀まぐはひかんや 11 そのちからおほいなればとてなんぢこれにたのまんや またなんぢの工事わざをこれにまかせんや 12 なんぢこれにたよりておの穀物こくもつ運󠄃はこびかへらせこれ打禾塲うちばにあつめしめんや 13 駝鳥だてう歡然よろこばしげにそのつばさふるされどもそのはねとはあにつるにしかんや 14 これはそのたまごつちなかすておき これをすななかにてあたたまらしめ 15 あしにてそのつぶさるべきと けもののこれをむべきとをおもはず 16 これはその情󠄃なさけなくして宛然あたかもおのれのならざるがごとくし その劬勞くらう空󠄃むなしくなるも繋念きづかふところ 17 かみこれに智慧󠄄ちゑさづけず頴悟さとりあたへざるがゆゑなり 18 そのをおこしてはしるにおいてはむまをもその騎手のりてをもあざけるべし 19 なんぢむまちからあたへしや そのくびいさましきたてがみよそほひしや 20 なんぢこれ蝗蟲いなごのごとくとばしむるや そのいななくこゑひびきおそるべし 21 たに踋爬あがきちからほこみづか進󠄃すゝみて兵士つはものむか 22 おそるることをわらひておどろくところつるぎにむかふとも退󠄃しりぞかず 23 矢筒やづつそのうへやりほこあひきらめく 24 たけりつくるひつ一呑ひとのみにし 喇叭らつぱおとなりわたるもたちどまることなし 25 喇叭らつぱなるごとにハーハーと遠󠄄方とほくより戰鬪たたかひかぎつけ 將帥しやうすゐおほごゑおよび吶喊聲ときのこゑきゝしる 26 たかとびかけり その羽翼つばさのべみなみむかふはあになんぢの智慧󠄄ちゑによるならんや 27 わしまひのぼり たかところいとなむはあになんぢの命令いひつけよらんや 28 これはいはうへ住󠄃所󠄃すみかかまいは尖所󠄃とがりまたは峻險けはし所󠄃ところ 29 其處そこよりしてつかむべきものをうかがふ そののおよぶところ遠󠄄とほ 30 その子等こらもまたおほよころされしもののあるところにはこれそこに
 958㌻ 

第40章

1 ヱホバまたヨブにこたへていひたまはく 2 非難ひなんするものヱホバとあらそはんとするや かみろんずるものこれにこたふべし 3 ヨブこゝにおいてヱホバにこたへていは 4 嗚呼あゝわれはいやしきものなり なにとなんぢにこたへまつらんや たゞをわがくちあてんのみ 5 われすで一度ひとたびいひたり またいはじ すで再度ふたゝびせり かさねて述󠄃のべ

6 こゝおいてヱホバまた大風おほかぜうちよりヨブにこたへていひたまはく 7 なんぢこしひきからげて丈夫をとこのごとくせよ われなんぢにとはん なんぢわれにこたへよ 8 なんぢわが審判󠄄さばきすてんとするや われとして自身おのれとせんとするや 9 なんぢかみのごときうでありや かみのごときこゑをもてとどろきわたらんや 10 さればなんぢ威光いきほひ尊󠄅貴たふときとをもてみづか飾󠄃かざ榮光さかえ華美うるはしきとをもてまと 11 なんぢの溢󠄃あふるる震怒いかりもらたかぶるものとめてこれをことごとくひくくせよ〘741㌻〙 12 すなはちたかぶるものてこれをこと〴〵かがませ また惡人あくにん立所󠄃たちどころふみつけ 13 これをちりなかうづめ これがかほかくれたるところとぢこめよ 14 さらばわれもなんぢをほめてなんぢのみぎなんぢをすくると 15 いまなんぢがなんぢとともに造󠄃つくりたりし河馬かはむまこれうしのごとくくさ食󠄃くら 16 よそのちからこしにあり その勢力いきほひはらすぢにあり 17 そのうごさま香柏かうはくのごとく そのもゝすぢ彼此たがひ盤互からみあ 18 そのほねあかがねくだごとくその肋骨あばらぼねくろがねぼうのごとし 19 これはかみわざだい一なるものにしてこれ造󠄃つくりしものこれにつるぎさづけたり 20 やまもこれがために食󠄃物くひもの產出いだし もろもろの野獸やじうそこに遊󠄃あそ 21 これは蓮󠄄はちすもと葦蘆あしなかまたはぬまうちかくれをる 22 蓮󠄄はちすそのかげをもてこれをおほひ またかはやなぎこれをめぐりかこむ 23 たとひかはあらくなるともおどろかず ヨルダンそのくちそゝぎかかるもあはてず 24 その前󠄃まへにてたれこれとらふるをたれわなをそのはなつらぬくを

第41章

1 なんぢはりをもてわにつりいだすことをんや そのしたいとにひきかくることをんや 2 なんぢあしなはをそのはな通󠄃とほし またはりをそのあごつきとほしんや
 959㌻ 
3 これあにしきりになんぢにねがふことをせんや やはらかになんぢに言談ものいはんや 4 あになんぢ契󠄅約けいやくなさんや なんぢこれをとりながしもべしおくをんや 5 なんぢとりたはむるるごとくこれとたはむれ またなんぢ婦󠄃人をんなどものためにこれつなぎおくをんや 6 また漁夫すなどり社會なかまこれを商貨あきなひものして商賣人あきうど中間なか分󠄃わかたんや 7 なんぢ漁叉もりをもてそのかは滿みた魚矛うをほこをもてそのかしらつきとほしんや 8 をこれにくださらばその戰鬪たたかひをおぼえてふたゝびこれをなさざるべし 9 よその望󠄇のぞみむなこれてすらたふるるにあらずや 10 何人なにびとこれげきする勇氣ゆうきあるなし されたれかわが前󠄃まへたちうるものあらんや 11 たれさきわれあたへしところありてわれをしてこれむくいしめんとするものあらん 普天ふてんしたにあるものはことごとく我有わがものなり 12 われまた彼者かのもの肢體したいとそのいちじるしきちからとそのうるはしき構造󠄃つくりとをいはではおか 13 たれかその外甲うはよろひはがたれかその雙齶ふたあごあひだいら 14 たれかそのかほひらきえんや その周󠄃圍まはりおそるべし 15 その並列ならべ鱗甲うろここれほこるところ そのあひとぢたるさまかたふうじたるがごとく 16 これかれとあひつづきてかぜもその中間あひだにいるべからず 17 一々ひとつひとつあひ連󠄃つらなりかたつきはなすことを 18 くさめすればすなはちひかりはつす その曙光あけぼの眼瞼まぶた(をひらく)にたり〘742㌻〙 19 そのくちよりは炬火たいまついでばなはつ 20 そのはなあなよりはけぶりいできたりて宛然あたかもあしかまのごとし 21 その氣息いきすみおこ火燄ほのほそのくちより 22 力氣ちからそのくび宿やどおそるるものその前󠄃まへ彷徨をどりまよふ 23 そのにくひらみつあひ連󠄃つらなり かたつきうごかすべからず 24 そのしん堅硬かたきこといしのごとく その堅硬かたきこと下磨したうすのごとし 25 そのおことき勇士ゆうし戰慄をのの恐怖おそれによりて狼狽あはてまどふ 26 つるぎをもてこれうつともきかやり漁叉もりもちふるところ 27 これくろがねること稿わらのごとくしあかがねることくちのごとくす 28 弓箭ゆみやもこれを逃󠄄にげしむることあたはず 投石機いしなげいし稿屑わらくづ見做みなさ 29 ぼうこれには稿屑わらくづやりひらめくをこれわら
 960㌻ 
30 そのしたはらには瓦礫かはら碎片くだけ連󠄃つらどろうへ麥打車むぎうちぐるま 31 ふちをしてかなへのごとくわきかへらしめ うみをして香油にほひあぶらかまのごとくならしめ 32 おのあとひか道󠄃みち遺󠄃のこせばふち白髮しらがをいただけるかとうたがはる 33 うへにはこれならものなし これ恐怖おそれなき造󠄃つくられたり 34 これ一切すべて高大かうだいなるもの輕視かろんまこともろ〳〵ほこたかぶるものわうたるなり

第42章

1 ヨブこゝおいてヱホバにこたへていは 2 われなんぢ一切すべてことをなすをたまふ また如何いかなる意󠄃志おぼしめしにてもなすあたはざる 3 無知むちをもて道󠄃みちおほものたれぞや かくわれはみづか了解さとらざることみづかしらざるはかがたこと述󠄃のべたり 4 請󠄃きゝたまへ われふところあらん われなんぢにとひまつらん われこたへたまへ 5 われなんぢことみゝにてきゝゐたりしがいまをもてなんぢたてまつる 6 こゝをもてわれみづからうら塵灰󠄃ちりはひなかにて

7 ヱホバ是等これら言語ことばをヨブにかたりたまひてのちヱホバ、テマンびとエリパズにいひたまひけるはわれなんぢとなんぢ二人ふたりともいかはなんぢらがわれつきいひ述󠄃べたるところはわがしもべヨブのいひたることのごとく正當ただしからざればなり 8 されなんぢ牡牛をうし七頭ななつ 牡羊をひつじ七頭ななつとりてわがしもべヨブにいたなんぢらののために燔祭はんさいさゝげよ わがしもべヨブなんぢらのためにいのらん われかれを嘉納󠄃うけいるべければこれによりてなんぢらのばつせざらん なんぢらのわれについていひ述󠄃のべたるところはわがしもべヨブのいひたることのごとく正當ただしからざればなり 9 こゝにおいてテマンびとエリパズ、シユヒびとビルダデ、ナアマびとゾパルゆきてヱホバの自己おのれのたまひしごとくなしければヱホバすなはちヨブを嘉納󠄃うけいれたまへり
〘743㌻〙
10 ヨブそのとものためにいのれるとき ヱホバ、ヨブの艱難なやみをときてもとかへししかしてヱホバつひにヨブの所󠄃有物もちものを二ばいましたまへり 11 こゝにおいてかれすべて兄弟きやうだいすべて姉妹しまいおよびそのもとあひしれ者等ものどもことごとくきたりてかれとともにそのいへにて飮食󠄃のみくひしかつヱホバのかれくだしたまひし一切すべて災難わざはひにつきてかれをいたはりなぐさめ またおの〳〵きん一ケセタときん一箇ひとつこれおくれり
 961㌻ 
12 ヱホバかくのごとくヨブをめぐみてその終󠄃をはりはじめよりもよくしたまへり すなはかれ綿羊ひつじ一萬すべて四千びき 駱駝らくだ六千びき うし一千くびき 牝驢馬めろば一千びきもて 13 また男子なんしにん 女子によしにんありき 14 かれそのだい一のむすめをエミマとなづだい二をケジアとなづだい三をケレンハツプクとなづけたり 15 全󠄃國ぜんこくうちにてヨブの女子むすめほどうつくしき婦󠄃人をんなえざりき その父󠄃ちゝこれにその兄弟きやうだいたちとおなじく產業さんげふをあたへたり 16 こののちヨブはひやく四十ねんいきながらへてそのそのまご四代よだいまでをたり 17 かくヨブはとし滿みちしにたりき〘744㌻〙
 962㌻