〘493㌻〙
第1章
1 士師の世ををさむる時にあたりて國に饑饉ありければ一箇の人その妻と二人の男子をひきつれてベテレヘムユダを去りモアブの地にゆきて寄寓る
2 その人の名はエリメレクその妻の名はナオミその二人の男子の名はマロンおよびキリオンといふベテレヘムユダのエフラテ人なり 彼等モアブの地にいたりて其處にをりしが
3 ナオミの夫エリメレク死てナオミとその二人の男子のこさる
4 彼等おのおのモアブの婦󠄃人を妻にめとる その一人の名はオルパといひ一人の名はルツといふ 彼處にすむこと十年許にして
5 マロンとキリオンの二人もまた死り 斯ナオミは二人の男子と夫に後れしが
6 モアブの地にて彼ヱホバその民を眷みて食󠄃物を之にたまふと聞ければその媳とともに起󠄃ちてモアブの地より歸らんとし
7 その在ところを出たりその 二人の媳これとともにあり 彼等ユダの地にかへらんと途󠄃にすすむ
8 爰にナオミその二人の媳にいひけるは汝らはゆきておのおの母の家にかへれ 汝らがかの死たる者と我とを善く待ひしごとくにねがはくはヱホバまたなんぢらを善くあつかひたまへ
9 ねがはくはヱホバなんぢらをして各々その夫の家にて安身處をえせしめたまへと 乃ちかれらに接吻しければ彼等聲をあげて哭き
10 之にいひけるは我ら汝とともに汝の民にかへらんと
11 ナオミいひけるは女子よ返󠄄れ 汝らなんぞ我と共にゆくべけんや 汝らの夫となるべき子猶わが胎にあらんや
12 女子よかへりゆけ 我は老たれば夫をもつをえざるなり 假設われ指望󠄇ありといふとも今夜夫を有つとも而してまた子を生むとも
13 汝等これがために其子の生長までまちをるべけんや 之がために夫をもたずしてひきこもりをるべけんや 女子よ然すべきにあらず 我はヱホバの手ののぞみてわれを攻しことを汝らのために痛くうれふるなり
493㌻
14 彼等また聲をあげて哭く 而してオルパはその姑に接吻せしがルツは之を離れず
15 是によりてナオミまたいひけるは視よ汝の妯娌はその民とその神にかへり徃く 汝も妯娌にしたがひてかへるべし
16 ルツいひけるは汝を棄て汝をはなれて歸ることを我に催すなかれ我は汝のゆくところに徃き汝の宿るところにやどらん 汝の民はわが民汝の神はわが神なり〘377㌻〙
17 汝の死るところに我は死て其處に葬らるべし 若死別にあらずして我なんぢとわかれなばヱホバわれにかくなし又󠄂かさねてかくなしたまへ
18 彼 媳が固く心をさだめて己とともに來らんとするを見しかば之に言ふことを止たり
19 かくて彼等二人ゆきて終󠄃にベテレヘムにいたりしがベテレヘムにいたれる時 邑こぞりて之がためにさわぎたち婦󠄃女等是はナオミなるやといふ
20 ナオミかれらにいひけるは我をナオミ(樂し)と呼なかれ マラ(苦し)とよぶべし 全󠄃能者痛く我を苦め給ひたればなり
21 我盈足て出たるにヱホバ我をして空󠄃くなりて歸らしめたまふ ヱホバ我を攻め全󠄃能者われをなやましたまふに汝等なんぞ我をナオミと呼や
22 斯ナオミそのモアブの地より歸れる 媳モアブの女ルツとともに歸り來れり 即ち彼ら大麥刈の初にベテレヘムにいたる
第2章
1 ナオミにその夫の知己あり 即ちエリメレクの族にして大なる力の人なり その名をボアズといふ
2 茲にモアブの女ルツ、ナオミにいひけるは請󠄃ふわれをして田にゆかしめよ 我何人かの目のまへに恩をうることあらばその人の後にしたがひて穗を拾はんと ナオミ彼に女子よ徃べしといひければ
3 乃ち徃き遂󠄅に至りて刈者の後にしたがひ田にて穗を拾ふ 彼意󠄃はずもエリメレクの族なるボアズの田の中にいたれり
4 時にボアズ、ベテレヘムより來り その刈者等に言ふ ねがはくはヱホバ汝等とともに在せと 彼等すなはち答てねがはくはヱホバ汝を祝たまへといふ
494㌻
5 ボアズその刈者を督る僕にいひけるは此は誰の女なるや
6 刈者を督る人こたへて言ふ是はモアブの女にしてモアブの地よりナオミとともに還󠄃りし者なるが
7 いふ請󠄃ふ我をして刈者の後にしたがひて禾束の間に穗をひろひあつめしめよと 而して來りて朝󠄃より今にいたるまで此にあり 其家にやすみし間は暫時のみ
8 ボアズ、ルツにいひけるは女子よ聽け 他の田に穗をひろひにゆくなかれ 又󠄂此よりいづるなかれわが婢等に離ずして此にをるべし
9 人々の刈ところの田に目をとめてその後にしたがひゆけ 我少者等に汝にさはるなかれと命ぜしにあらずや 汝渇く時は器の所󠄃にゆきて少者の汲るを飮めと
10 彼すなはち伏て地に拜し之にいひけるは我如何して汝の目の前󠄃に恩惠を得たるか なんぢ異邦人なる我を顧󠄃みると
11 ボアズこたへて彼にいひけるは汝が夫の死たるより巳來姑に盡したる事汝がその父󠄃母および生れたる國を離れて見ず識ずの民に來りし事皆われに聞えたり〘378㌻〙
12 ねがはくはヱホバ汝の行爲に報いたまへ ねがはくはイスラエルの神ヱホバ即ち汝がその翼の下に身を寄んとて來れる者汝に十分󠄃の報施をたまはんことを
13 彼いひけるは主よ我をして汝の目の前󠄃に恩をえせしめたまへ 我は汝の仕女の一人にも及ざるに汝かく我を慰め斯仕女に懇切に語りたまふ
14 ボアズかれにいひけるは食󠄃事の時は此にきたりてこのパンを食󠄃ひ且汝の食󠄃物をこの醋に濡せよと 彼すなはち刈者の傍に坐しければボアズ烘麥をかれに與ふ 彼くらひて飽󠄄き其餘を懷む
15 かくて彼また穗をひろはんとて起󠄃あがりければボアズその少者に命じていふ 彼をして禾束の間にても穗をひろはしめよ かれを羞しむるなかれ
495㌻
16 且手の穗を故に彼がために抽落しおきて彼に拾はしめよ 叱るなかれ
17 彼かく薄暮まで田に穗をひろひてその拾ひし者を撲しに大麥一斗許ありき
18 彼すなはち之を携へて邑にいり姑にその拾ひし者を看せ且その飽󠄄たる後に懷めおきたる者を取出して之にあたふ
19 姑かれにいひけるは汝今日何處にて穗をひろひしや 何の處にて工作しや 願くは汝を眷顧󠄃たる者に福祉あれ 彼すなはち姑にその誰の所󠄃に工作しかを吿ていふ 今日われに工作をなさしめたる人の名はボアズといふ
20 ナオミ媳にいひけるは願はヱホバの恩かれに至れ 彼は生る者と死る者とを棄ずして恩をほどこす ナオミまた彼にいひけるは其人は我等に緣ある者にして我等の贖業者の一人なり
21 モアブの女ルツいひけるは彼また我にかたりて汝わが穫刈の盡く終󠄃るまでわが少者の傍をはなるるなかれといへりと
22 ナオミその媳ルツにいひけるは女子よ汝かれの婢等とともに出るは善し 然れば他の田にて人に見らるることを免かれん
23 是によりて彼ボアズの婢等の傍を離れずして穗をひろひ大麥刈と小麥刈の終󠄃にまでおよぶ 彼その姑とともにをる
第3章
1 爰に姑ナオミ彼にいひけるは女子よ我汝の安身所󠄃を求めて汝を幸ならしむべきにあらずや
2 夫汝が偕にありし婢等を有る彼ボアズは我等の知己なるにあらずや 視よ彼は今夜 禾塲にて大麥を簸る
3 然ば汝の身を洗て膏をぬり衣服󠄃をまとひて禾塲に下り汝をその人にしらせずしてその食󠄃飮を終󠄃るを待て
4 而て彼が臥す時に汝その臥す所󠄃を見とめおき入てその脚を掀開りて其處に臥せよ 彼なんぢの爲べきことを汝につげんと〘379㌻〙
5 ルツ姑にいひけるは汝が我に言ところは我皆なすべしと
6 すなはち禾塲に下り凡てその姑の命ぜしごとくなせり
7 偖ボアズは食󠄃飮をなしてその心をたのしませ徃て麥を積る所󠄃の傍に臥す 是に於て彼潜にゆきその足を掀開て其處に臥す
496㌻
8 夜半󠄃におよびて其人畏懼をおこし起󠄃かへりて見るに一人の婦󠄃その足の方に臥ゐたれば
9 汝は誰なるやといふに婦󠄃こたへて我は汝の婢ルツなり 汝の裾をもて婢を覆ひたまへ 汝は贖業者なればなり
10 ボアズいひけるは女子よねがはくはヱホバの恩典なんぢにいたれ 汝の後の誠實は前󠄃のよりも勝󠄃る 其は汝貧󠄃きと富とを論ず少き人に從ふことをせざればなり
11 されば女子よ懼るなかれ 汝が言ふところの事は皆われ汝のためになすべし 其はわが邑の人皆なんぢの賢き女なるをしればなり
12 我はまことに贖業者なりと雖も我よりも近󠄃き贖業者あり
13 今夜は此に住󠄃宿れ 朝󠄃におよびて彼もし汝のために贖ふならば善し彼に贖はしめよ 然ど彼もし汝のために贖ふことを好まずばヱホバは活く我汝のために贖はん 朝󠄃まで此に臥せよと
14 ルツ朝󠄃までその足の方に臥て誰彼の辨がたき頃に起󠄃あがる ボアズ此女の禾塲に來りしことを人にしらしむべからずといへり
15 而していひけるは汝の著る袿衣を將きたりて其を開げよと 即ち開げければ大麥六升を量りて之に負󠄅せたり 斯して彼邑にいたりぬ
16 爰にルツその姑の許に至るに姑いふ 女子よ如何ありしやと 彼すなはち其人の己になしたる事をことごとく之につげて
17 而していひけるは彼空󠄃手にて汝の姑の許に徃くなかれといひて此六升の大麥を我にあたへたり
18 姑いひけるは女子よ坐して待ち事の如何になりゆくかを見よ 彼人今日その事を爲終󠄃ずば安んぜざるべければなり
第4章
1 爰にボアズ門の所󠄃にのぼり徃て其處に坐しけるに前󠄃にボアズの言たる贖業者過󠄃りければ之に言ふ 某よ來りて此に坐せよと 即ち來りて坐す
2 ボアズまた邑の長老十人を招き汝等此に坐せよといひければ則ち坐す
497㌻
3 時に彼その贖業人にいひけるはモアブの地より還󠄃りしナオミ我等の兄弟エリメレクの地を賣る
4 我汝につげしらせて此に坐する人々の前󠄃わが民の長老の前󠄃にて之を買へと言んと想へり 汝もし之を贖はんと思はば贖ふべし 然どもし之を贖はずば吾に吿てしらしめよ 汝の外に贖ふ者なければなり 我はなんぢの次なりと彼我これを贖はんといひけ〘380㌻〙
5 ボアズいふ 汝ナオミの手よりその地を買ふ日には死る者の妻なりし モアブの女ルツをも買て死る者の名をその產業に存すべきなり
6 贖業人いひけるは我はみづから贖ふあたはず 恐くはわが產業を壞はん 汝みづから我にかはりてあがなへ 我あがなふことあたはざればなりと
7 昔イスラエルにて物を贖ひ或は交易んとする事につきて萬事を定めたる慣例は斯のごとし 即ち此人鞋を脱て彼人にわたせり 是イスラエルの中の證なりき
8 是によりてその贖業人ボアズにむかひ汝みづから買ふべしといひて其鞋を脱たり
9 ボアズ長老および諸の民にいひけるは汝等今日見證をなす 我エリメレクの凡の所󠄃有およびキリオンとマロンの凡の所󠄃有をナオミの手より買たり
10 我またマロンの妻なりしモアブの女ルツを買て妻となし彼死る者の名をその產業に存すべし 是かの死る者の名を其兄弟の中とその處の門に絕ざらしめんためなり 汝等今日證をなす
11 門にをる人々および長老等いひけるはわれら證をなす 願くはヱホバ汝の家にいるところの婦󠄃人をして彼イスラエルの家を造󠄃りなしたるラケルとレアの二人のごとくならしめたまはんことを 願くは汝エフラタにて能を得ベテレヘムにて名をあげよ
12 ねがはくはヱホバが此若き婦󠄃よりして汝にたまはんところの子に由て汝の家かのタマルがユダに生たるペレズの家のごとくなるにいたれ
13 斯てボアズ、ルツを娶りて妻となし彼の所󠄃にいりければヱホバ彼を孕ましめたまひて彼男子を生り
498㌻
14 婦󠄃女等ナオミにいひけるはヱホバは讚べきかな 汝を遺󠄃ずして今日汝に贖業人あらしめたまふ その名イスラエルに揚れ
15 彼は汝の心をなぐさむる者 汝の老を養󠄄ふ者とならん 汝を愛する汝の媳即ち七人の子よりも汝に善もの之をうみたり
16 ナオミその子をとりて之を懷に置き之が養󠄄育者となる
17 その隣人なる婦󠄃女等これに名をつけて云ふ ナオミに男子うまれたりと その名をオベデと稱り 彼はダビデの父󠄃なるヱサイの父󠄃なり
18 偖ペレヅの系圖は左のごとし ペレヅ、ヘヅロンを生み
19 ヘヅロン、ラムを生み ラム、アミナダブを生み
20 アミナダブ、ナシヨンを生み ナシヨン、サルモンを生み
21 サルモン、ボアズを生み ボアズ、オベデを生み〘381㌻〙
22 オベデ、ヱサイを生み ヱサイ、ダビデを生り〘382㌻〙
499㌻